症例は49歳男性.便潜血陽性のため上部消化管内視鏡検査を受けた際,十二指腸に15mm大の発赤調のドーム状隆起を伴うⅠs+Ⅱc様病変を認めた.EUSでは粘膜下層までに限局した病変で,内部に多数の無エコー域を伴っていた.しかし,鉗子触診で弾性軟を示し,NBI拡大観察で粘膜模様は保たれていた.当初SM深部浸潤癌を考えたが,粘膜癌・腺腫の可能性もあり,診断的治療目的にEMRを施行した.組織学的には,Brunner腺過形成を伴う高異型度腺腫であった.辺縁のinverted growthと中央腫瘍腺管の嚢胞状拡張により,Ⅰs+Ⅱc様を呈したと考えられた.十二指腸Ⅰs+Ⅱc様病変に遭遇した場合,NBIなど先進的modalityや鉗子触診を駆使しつつ,低侵襲治療を追求すべきと思われた.
近年,上部消化管内視鏡検査の普及とともに十二指腸までの観察がルーチン化されたため,表在性の十二指腸病変を発見する機会は稀ではなくなった.しかし十二指腸では悪性腫瘍の頻度が低いことから,その良悪性など鑑別診断に苦慮することも少なくない 1).特に,十二指腸の粘膜下層浸潤癌(以下SM癌)は稀であることから 2),その内視鏡的特徴像は明らかとなっておらず,その術前深達度診断の難易度は高い.さらにSM以深癌と術前診断された症例に対しては膵頭十二指腸切除術など大きな侵襲を伴う外科手術を行うことが一般的であり,EMRとの患者侵襲度の差異は大きい.よって,十二指腸の病変の良・悪性の鑑別はもとより,深達度など術前診断は重要である 3).
今回われわれは,初回内視鏡検査でSM深部浸潤癌が疑われ,外科的切除も考慮されたが,鉗子触診も含めて慎重に内視鏡診断を行った結果,内視鏡的に切除しえたBrunner腺腫の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.
患者:49歳男性.
主訴:特になし.
既往歴:ネフローゼ症候群,急性虫垂炎.
現病歴:ネフローゼ症候群のため当院に通院中,軽度の貧血(Hb 13.0g/dl)と便潜血陽性を指摘された.上部消化管内視鏡検査を受けた際,十二指腸に隆起性病変を認めた.
上部消化管内視鏡所見
[初回時内視鏡検査(EMR 8週前)]通常光観察において,十二指腸水平部に15mm大の隆起性病変を認める.平皿状の低い隆起の上に緊満感のあるドーム状隆起を伴う病変で,Ⅰs+Ⅱc様を呈する(Figure 1-a).

上部消化管内視鏡像.
a:初回時内視鏡検査(EMR 8週前):十二指腸水平部の15mm大,Ⅰs+Ⅱc様病変.
b:精査時色素撒布像(EMR 5週前):境界明瞭でドーム状隆起と辺縁の平皿状隆起からなる病変で,複数の浅い陥凹を伴っている.
c:精査時鉗子触診像(EMR 5週前):鉗子触診で弾性軟を示す.
d:精査時NBI拡大像(EMR 5週前):病変部の粘膜模様は全体的に保たれており,明らかな無構造領域はない.
e:超音波内視鏡像(EMR 5週前):病変部(▶)の第2~3層に等~低エコーが混在し,多数の無エコー域も認められる.
[精査時内視鏡検査(EMR 5週前)]色素撒布像にて病変の境界は明瞭で,隆起部に複数の浅い陥凹やドーム状隆起と平皿状隆起の移行部に溝状の陥凹がみられる(Figure 1-b).鉗子触診では隆起部・基部ともに弾性軟を示した(Figure 1-c).NBI拡大観察では,病変部の粘膜模様は全体的に保たれており,明らかな無構造領域は認められない(Figure 1-d).脱気水充満法による超音波内視鏡像検査(20MHz miniprobe)では,ミニプローベを病変基部に押しあてつつスキャンしたところ,5層構造を示す十二指腸壁において,病変の主座は粘膜固有層~粘膜下層に相当すると考えられる第2~3層にあり,等~低エコーが混在していた.また病変内に多数の無エコー域を認めた(Figure 1-e).
非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する生検による組織診断おける正診率は,術前内視鏡診断より低い傾向にあること(生検診断68% vs 内視鏡診断75%) 2),また十二指腸における生検はしばしば高度の線維化をきたし,ERの妨げとなることを考慮し,本病変に対して生検は行っていないが,通常光及び拡大NBI内視鏡像から上皮性腫瘍と考えられた.さらにⅠs+Ⅱc様を呈することから,当初SM深部浸潤癌が疑われた.しかし,鉗子触診で弾性軟,またNBI拡大で表面の粘膜模様は全体的に保たれており,隆起形成の要因が腺管の嚢胞状拡張と考えられるEUS所見などから,腺腫や粘膜癌の可能性も示唆された.患者本人と家族の同意を得て,診断と治療を兼ねた内視鏡的切除術を行った.濃グリセリン・果糖注射液(グリセレブ®;テルモ)を病変部の粘膜下層への局注にて,良好な膨隆が得られたため,スネアを用いて病変を一括切除し,切除後の粘膜欠損部はクリップで完全に縫縮した.術中術後ともに合併症なく,経過良好であった.
病理組織学的所見:切除標本のルーペ像(Figure 2)では辺縁にinverted growthを示しつつ密に増殖する腺組織(赤点線)と,隆起中央部には複数の拡張した腺管構造(黒矢印)がみられる.隆起部の立ち上がりの部分は非腫瘍性の健常な十二指腸絨毛で被覆されていた(緑矢頭).Inverted growth及び拡張した腺組織には,軽度の核腫大と構造異型を伴う低異型度腺腫の像が主にみられた.またBrunner腺の過形成も腺腫に隣接して認められ,その間には移行像がみられた(Figure 3-a:Figure 2の緑四角線).腺腫部位の粘液染色において,表層はMUC-5ACが陽性(Figure 3-b),表層以外ではMUC-6が主に陽性を示し(Figure 3-c),Brunner腺由来の腺腫として矛盾しない所見であった.ルーペ像において,表層主体に腺腫,深部から粘膜下層にかけてBrunner腺過形成と思われる組織が分布していた.腺腫部には高度の核腫大と著明な構造異型を示す高異型度腺腫が混在していた(Figure 3-d:Figure 2の黄四角線).高異型度腺腫部の免疫組織化学的所見として,p53蛋白過剰発現はみられなかったが,MIB-1 indexは23.8%と高値であった(Ki-67抗体染色:Figure 3-e).以上よりBrunner腺過形成を伴った高異型度Brunner腺腫と診断された.切除断端に腫瘍細胞の露出はなく,組織学的に完全切除であった.

H.E.染色×12.5:切除標本のルーペ像.辺縁にinverted growthを示しつつ密に増殖する腺組織(赤点線)と,隆起中央部には拡張した腺管構造(黒矢印)がみられる.隆起部の立ち上がりの部分は非腫瘍性の健常な十二指腸絨毛で被覆されている(緑矢頭).

a:H.E.染色×100:Inverted growth及び拡張した腺組織には,主に低異型度腺腫の像を認める.腺腫に隣接してBrunner腺の過形成もみられ,その間には移行像がみられる.点線上側:低異型度腺腫,下側:過形成.
b:免疫組織化学的染色(MUC-5AC)×200:腺腫部の表層はMUC-5ACが陽性.
c:免疫組織化学的染色(MUC-6)×200:腺腫部の表層以外では,主にMUC-6が陽性を示し,Brunner腺由来として矛盾しない.
d:H.E.染色(高異型度腺腫)×400:腺腫部には高度の核腫大と著明な構造異型を示す高異型度腺腫が混在している.
e:免疫組織化学的染色(MIB-1)×200:高異型度腺腫部のMIB-1 indexは23.8%.
本邦単一施設における連続615例の十二指腸病変の組織学的検討において,その多くが十二指腸炎や潰瘍などの良性病変であった.一方,Brunner腺腫は8例(1.4%)にすぎず,稀であった 4).
2004年から2013年までの9年間,当院にて内視鏡的・外科的切除された非乳頭部十二指腸腺腫・粘膜内癌90例92病変のうち,腺腫は52例54病変であり,Brunner腺由来と考えられた腺腫は本例を含め計2病変(3%)であった.よって非乳頭部腺腫・粘膜内癌のみを母集団とした場合においても,Brunner腺腫は極めて低頻度であり,本症例の希少性は高いと考えられた.また,90病変の内,21病変(23.3%)が水平部,上行部の深部十二指腸の病変であり,これまでの報告(0-8%)に比し明らかに高頻度であった 2),5),6).われわれの施設では,ルーチン検査でも水平部以深の観察を積極的に行っており,そのことが,本症例を含めた水平部以深の十二指腸腫瘍の見逃しリスク軽減に寄与していると思われた.
味岡らはBrunner腺腫を「正常なBrunner腺とは明らかに異なる組織異型を示すが,組織学的特徴および細胞内粘液の特性からBrunner腺由来と想定される腺組織からなる病変」,過形成を「正常なBrunner腺と明瞭な組織異型度の差異を認めない腺組織の増殖性病変」と組織学的に定義している 7).Brunner腺腫の定義を味岡らの報告に従うと,その頻度は極めて稀であり,検索期間を1982年から2014年,キーワードをʻBrunner腺ʼおよびʻ腺腫ʼと設定し,医学中央雑誌で検索しえた範囲において,本邦における十二指腸Brunner腺腫の論文報告は自験例も含め9例であった(Table 1) 8)~15).本症例においては,腺腫相当の異型腺管の増殖とともに,Brunner腺の粘液形質マーカーMUC-6が陽性であり,細胞増殖能を評価するKi-67抗体を用いたMIB-1 indexが23.8%(正常・過形成の陽性率は0.1%前後) 7)と高値で腫瘍として矛盾しないこと,さらに隣接するBrunner腺過形成組織との間に移行像を認めたことから,Brunner腺由来の腺腫と組織学的に診断した.

Brunner腺腫の本邦論文報告例(自験例を含む).
その臨床病理学的特徴は,中高年男性の十二指腸球部に多く,全例が内視鏡的に切除されていた(EMR 8例,ESD 1例).大きさ,肉眼型については一定の傾向は認められなかった.ESD症例において術中穿孔を認めたが,保存的加療にて軽快を認めた.EMR症例では後出血や穿孔等の偶発症は認めなかった.ESDにおいては,その危険性を十分踏まえたうえで,術者の熟練度,バックアップ体制を鑑み,適応を決定することが重要であるといえる.
非乳頭部十二指腸腺腫・腺癌の過去の文献報告例及び当院経験例(90例92病変)において,Ⅰs+Ⅱc様を呈したのは本病変のみであった.大腸の表在型癌においては,工藤らはⅠs+Ⅱc型病変の82%はSM深部浸潤癌であったため,SM深部浸潤の内視鏡的予測因子となりうると報告している 16).本病変は十二指腸にあるものの,その肉眼型からSM浸潤癌が疑われた.しかし,NBIで隆起部表面の粘膜模様は比較的保たれており,既報のBrunner腺腫の鉗子触診所見や,EUS像と本症例は類似していた 17),18).よって,肉眼型以外にSM深部浸潤癌を示唆する所見に乏しいため,診断と治療を兼ねたEMRを施行した.病変は合併症なく安全に一割切除され,組織学的に高異型度腺腫で癌成分はなく,切除断端は陰性,完全切除と考えられた.
Ⅰs+Ⅱc様を呈する十二指腸Brunner腺腫を内視鏡的に切除しえた1例を経験した.十二指腸腫瘍病変に遭遇した場合,内視鏡modalityを駆使し,低侵襲治療の可能性を追求すべきと考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし