日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
深在性嚢胞性大腸炎の1例
河井 裕介 石川 茂直稲葉 知己榊原 一郎泉川 孝一山本 久美子髙橋 索真田中 盛富和唐 正樹中村 聡子
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2017 年 59 巻 1 号 p. 48-55

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要旨

症例は57歳男性.下痢を主訴に来院.下部内視鏡検査にて,直腸(Rb)後壁に3cm大の結節状の隆起を呈する粘膜下腫瘍を認めた.画像上,病変は粘膜下の嚢胞性腫瘤であり,通常生検およびEUS-FNAを行ったが,確定診断は得られなかった.深在性嚢胞性大腸炎を第一に疑い,診断的治療目的に経肛門的切除術を施行し,病理組織検査にて深在性嚢胞性大腸炎と診断した.術前のEUSを含めた画像診断は病理所見に合致するものであった.本疾患は,直腸粘膜脱症候群の肉眼形態の一つとしても亜分類されているが,その頻度は稀である.わが国では2015年までに自験例を含め49例の報告があるのみであり,その臨床的特徴について考察した.

Ⅰ 緒  言

深在性嚢胞性大腸炎(colitis cystica profunda:CCP)は,直腸粘膜下に粘液嚢胞を形成し隆起性変化を来す非腫瘍性の良性疾患である.直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome:MPS)の肉眼形態の一つに亜分類されているが,その頻度は稀である 1),2.生検による確定診断は困難であるとされ 3,粘膜下腫瘍や粘液産生を伴う悪性腫瘍などとして,根治手術が行われることもある 3),4.ただし,本疾患は良性疾患で,直腸の粘膜下腫瘍で嚢胞形成を伴う場合は,本疾患を念頭におき精査をすすめる必要があり,過剰な侵襲を避け適切な治療法を選択することが重要である.

Ⅱ 症  例

患者:57歳.男性.

主訴:肛門部不快感,下痢.

既往歴:大腸ポリープ内視鏡切除.

現病歴:54歳頃より便秘,下痢を繰り返し,排便時にいきむ習慣があった.下痢症状の悪化と排便後の肛門部不快感を認め,57歳時,当院を受診した.肉眼的血便はなかった.

初診時身体所見:身長164cm,体重56kg,体温36.3度,血圧120/60mmHg,脈拍60/分,整.心肺,腹部:打聴診上異常なし.直腸診で下部直腸後壁に軟らかい腫瘤を触知した.

初診時血液検査所見:血算は正常であった.AST 80IU/l,ALT 54IU/lと,軽度肝機能障害を認めた.その他,腫瘍マーカーはCEA 14.1ng/mlと高値であったが,胸腹部造影CT検査,上部消化管内視鏡検査で原因になりうる悪性腫瘍の所見は認めなかった.

大腸内視鏡検査:下部直腸(Rb)に約3cmの結節状隆起を呈する粘膜下腫瘍様病変を認めた(Figure 1-a).病変は直腸第一Huston弁近傍後壁に存在し,表面に開口部様に見える陥凹部分を認めた(Figure 1-b).同部に透明な粘液の貯留を認めた.病変は軟らかく,圧迫で容易に変形した.

Figure 1 

大腸内視鏡検査.

a:直腸Rbに3cm大の結節状隆起を呈する粘膜下腫瘍様病変を認める.

b:反転観察.中央に開口部類似部分(矢印)を認める.

腹部造影CT検査:病変は粘膜下の多房性の造影効果のない腫瘤として描出された.

腹部造影MRI検査:T1WIで低信号,T2WIでは高信号で,嚢胞(粘液貯留)が主体の病変と考えられた(Figure 2).

Figure 2 

腹部造影MRI検査.

T2強調画像:水平断.

多房性腫瘤の内部はT2強調画像で高信号を呈した.

EUS:病変は第3層に複数の嚢胞性病変が連なる形で描出され,嚢胞壁は不整であった.嚢胞内部に高エコーの貯留物を認め,体位変換で変形した(Figure 3-a).第4層は保たれていた(Figure 3-b).

Figure 3 

超音波内視鏡検査.

a:病変は第3層を主座とした多房性の低エコーから無エコー領域として描出された.内部には一部高エコーの貯留物を認めた(矢印).

b:第4層(矢頭)は保たれていた.

臨床経過:開口部類似部分も含め,複数個の生検を行ったが,診断は得られなかった.

内視鏡所見では結節状の隆起を来す粘膜下腫瘍であり,表面にはびらんや潰瘍は伴っていなかった.隆起部分は生検鉗子での圧迫により,ゴム状で粘調性のある変形を認めた.すなわち腫瘤は粘調な液体貯留などを主体する病変であることが示唆され,これはCCPに特徴とされる所見に一致していた.表面にびらんや潰瘍等は認めなかったため,従来鑑別すべきとされる大腸ポリープ(腺腫や若年性ポリープ,Peutz-Jegherポリープなど)や限局性の悪性リンパ腫などとの鑑別は容易であった.また,CTやMRIの画像検査でも病変は,粘膜下の嚢胞主体の病変と確認し得た.以上から,術前にCCPを第一に疑った.ただし粘液産生を伴う深部浸潤悪性腫瘍,あるいはCCP自体にも悪性腫瘍合併の報告があり,これらを鑑別する必要があった.その除外および病理学的確定診断には,深部の組織検査が診断に有用であると思われ,EUS-FNAを施行した.穿刺部分は嚢胞部分および,嚢胞隔壁部分,嚢胞の深部直腸を狙い穿刺した.使用した穿刺針はCook社製22Gエコーチップウルトラ超音波内視鏡下吸引生検針®である.得られた検体は多くの粘液と高円柱状の粘液産生性の腺細胞であった.しかし,一部に軽度異型を伴う腺管を認め,悪性腫瘍合併の可能性は本検査でも否定できなかった.確定診断及び治療目的に経肛門的に局所切除術を施行した.

手術摘出標本および病理組織所見:38×17mmの粘膜下の嚢胞を主体とする病変で,嚢胞壁は一層の円柱上皮で覆われ,内部に粘液と血液貯留を認めた(Figure 4-a,b).粘膜固有層には線維筋症を認めた(Figure 4-d).開口部類似部分は憩室様に陥凹し,腺管には多くの円柱上皮細胞を伴っていた(Figure 5-a).陥凹部と嚢胞との交通はなかった.同部分の粘膜筋板は周辺に比較して,約1/5程度に薄くなっており,周辺に比較して脆弱になっていることが示唆された(Figure 5-b,c).悪性腫瘍の所見は認めず,最終病理診断はMPSの一亜型であるCCPであった.術後経過は良好で,自覚症状は消失した.

Figure 4 

病理組織所見1.

a,b:切除標本割面 ルーペ像.

38×17mmの粘膜下の嚢胞を主体とする病変で,嚢胞内部には出血を伴っていた.

c:b黒枠内の拡大(HE×20).

d:b黒枠内の拡大.粘膜固有層に線維筋症を認め(黒矢印),嚢胞壁は一層の円柱上皮で覆われていた(赤矢印)(HE×100).

Figure 5 

病理組織所見2.

a:開口部類似部分.

陥凹部分中心に円柱上皮細胞の増生を認めた(HE×12.5).

b,c:a黒枠内の拡大.

陥凹部分(c)の粘膜筋板(黒矢印間)は周辺(b)に比較して,約1/5程度に薄くなっていた(HE×100).

Ⅲ 考  察

CCPはMPSの一亜型で,直腸粘膜に対する圧迫や損傷により生じた潰瘍の修復過程で粘膜下層に上皮が迷入し,粘膜下に嚢胞を形成する病態と考えられている 1),3.渡辺ら 2は,MPSを肉眼的に平坦型,潰瘍型,隆起型,深在嚢胞性大腸炎(CCP)の4型に分類しているが,CCPは35例中2例に過ぎないと報告している 2.CCPに関して,医学中央雑誌で1977年から2015年まで「CCP」「深在性嚢胞性大腸炎」「直腸粘膜脱症候群」をKeywordに検索した結果,会議録を除き,詳細な記載があったものは48例のみであった.本例を加え49例で本疾患の特徴について検討した 3)~25Table 1).男性36例,女性13例と男性に多く,年齢は8歳から78歳,各年代にまんべんなく発生していた.症状は,血便が最多で34例,以下,腹痛,下痢,脱肛などであった.発生部位は,49例中37例が直腸で,大きさは,4mmから14cmで,本例と同じく3cmを超えるものは49例中17例認めた.内視鏡像は,粘膜下腫瘍の形態をとるものが49例中35例(71%)と多く,半球状なども含め,隆起型が大部分であった.表面の性状は発赤やびらん,潰瘍を伴うものが記載のある42例中26例と多かったが,本例のように開口部類似病変を伴うものは認めなかった.本例では,腫瘤の一部に開口部に類似した陥凹部分を認め,同部に粘液の貯留を観察し得た.同部は病理学的には粘液産生細胞である杯細胞が多く存在していた.同部分と深部嚢胞との交通はなく,粘膜筋板を伴い,憩室類似の構造であった.同部は物理的刺激による表面粘膜の損傷,脆弱などが加わり形成されたものと推察された.直腸の固い便塊による物理的刺激を受けやすい病変の口側にのみ認められていたこと,更に,同部分は粘膜筋板が周辺に比較して薄くなっており,これは周辺より同部分が脆弱となっていたことを示す結果であったことがその理由である.同部分は陥入した部分に粘液産生の杯細胞を有し,すでに形成されていた嚢胞と構造が類似していた.すなわち,同部分はそのまま炎症や再生を繰り返すことにより嚢胞化する可能性もあると思われた.もしくは,同部分は,CCP形成の原因の一つである炎症などによる深部への大腸粘膜の迷入の初期段階を示している可能性もある.EpsteinらはCCPの発生機序として,①粘膜筋板の脆弱による粘膜固有層の陥入,②炎症性刺激による粘膜筋板の破壊,脆弱化による粘膜固有層の陥入,③潰瘍の再生上皮化の過程における上皮の粘膜下層への迷入などを提唱しており 26,本例に認めた陥凹部分はこれらを病理学的に説明しうる.いずれにせよ本疾患形成過程に関連する興味深い所見であった.

Table 1 

深在性嚢胞性大腸炎本邦報告例.

また,CCPは肉眼的には,比較的大きな嚢胞形成を来す場合と,顕微鏡的嚢胞形成例とがある 2.本症例は比較的大きい嚢胞を形成していたが,過去報告例で,詳細な記載のある25例を検討したところ,本例のように,大きな肉眼的嚢胞を形成していた症例は14例(多房性10例,単房性4例)で,11例は顕微鏡的嚢胞であった.大きな嚢胞形成例と,顕微鏡的嚢胞形成例では年齢,性別,病変の肉眼形態や大きさに大きな差異はなかったが,発生部位に関しては,大きな嚢胞例は14例中12例(86%)と大部分が直腸に発生していたが,顕微鏡的嚢胞例は11例中6例(55%)のみが直腸発生であった.直腸では,便が固形となるため,本疾患が発生する要因であるいきみ等の排便習慣などにより,大腸の他の部位に比較して,加わる刺激や炎症がより強くなり易いことと,それに伴い,粘膜下層を中心とした組織の脆弱化も来しやすくなる.そのため,より大きな嚢胞ができやすいのかもしれない.

本疾患は病理学的にはMPSの一亜型であるため,確定診断には粘膜固有層に線維筋症を証明することが必要である.ただし線維筋症は粘膜深部の粘膜固有層に部分的に認めることが多いため,通常生検では診断が得られないことが多い.過去報告例で,自検例を含め生検を施行された症例は33例で,そのうちCCPと診断し得たのは9例のみであった.また,最終診断はCCPであったものの,術前生検で腺癌と診断され,根治術を施行された報告も3例あった 5.粘膜下層を含めた十分な検体を採取することが組織学的診断には重要と思われる.われわれは確定診断目的にEUS-FNAを施行したが,EUS-FNAを施行された症例は検索した範囲では認めなかった.今回EUS-FNAで得られた検体は少量の腺細胞と粘液のみで,確定診断は得られなかった.より深部の組織を得ることを目的とする本法よりも,粘膜固有層付近の検体を多く得られる粘膜切除術やボーリング生検などの方が優れているのかもしれない.術前の組織診断に関しては今後更なる検討が必要である.

本疾患は粘膜下の嚢胞を主体とする病変であるため,EUSが診断には極めて有用で,鑑別疾患となる大腸ポリープ(腺腫,若年性ポリープ,Peutz-Jegherポリープ)や粘膜下腫瘍(GIST,良性リンパ腫など),あるいはカルチノイドなどの除外が可能である.本疾患のEUS像に関する詳細な検討はこれまでに多くはないが,粘膜下層に病変の主体があり,嚢胞性変化を伴い 27,加えて深部浸潤がないことが特徴とされ,診断可能との報告がある 17.本症例も,病変は第3層に存在する嚢胞が病変の主体で,嚢胞壁は一部に不整を伴うも,第4層以下の層構造は保たれ,深部浸潤を疑う所見も認めず,CCPに合致していた.また,嚢胞内部に粘調で,体位により形態の変化する高エコーを認めたが,これは嚢胞内出血に相当するものと考えられた.これら画像所見は病理所見とも合致していた.

治療は,過去報告例では,術前にCCPと診断された10例のうち8例は保存的治療が行われ,2例は治療抵抗性のため局所切除が行われた.その他は,局所切除19例,部分切除14例,腹会陰直腸切断術が3例であった.われわれは,症状,病変の存在部位,EUS所見などから,CCPを強く疑った.しかし,EUS-FNAで得られた組織の一部に異型を伴う腺管を認め,悪性腫瘍合併の可能性を否定し得なかった.悪性腫瘍合併例 4),23やCCPを疑い経過観察していたが,深部浸潤型の癌であった症例 28もあることから,診断的治療目的に経肛門的局所切除術を行った.われわれが本術式を選択した理由は,低侵襲で,病変が下部直腸であったこと,粘膜下病変で,境界が不明瞭であったためである.しかし,本疾患は粘膜下層を主体とする病変で,筋層への浸潤がないため,理論的にはESDによる切除も可能である.最近,ESDにて治療を行った症例も報告された 25

本症例は,EUSを中心とする画像所見が,病理所見と合致するものであった.類似疾患に遭遇した際に,本疾患を念頭において画像診断を行うことにより,縮小手術や保存的治療など,適切な方針を選択可能になるという観点からも意義ある症例であった.

Ⅳ 結  論

稀なCCPの1例を経験した.画像診断と病理所見が合致し,臨床的に示唆に富む症例であった.

本論文の要旨は第100回日本消化器病学会四国支部例会(2013年11月24日高松)で報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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