日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
抗血栓薬服用者に対するEUS‒FNAの安全性の検討
井上 匡央 奥村 文浩佐野 仁小林 佑次石井 紀光鈴木 雄太福定 繁紀加地 謙太尾関 貴紀安部 快紀岩崎 弘靖水島 隆史伊藤 清顕米田 政志
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2017 年 59 巻 11 号 p. 2647-2653

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要旨

【背景】超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)の出血性偶発症はまれであるが,抗血栓薬服用者におけるEUS-FNAの出血リスクと安全性は明らかではない.本研究は,抗血栓薬服用者におけるEUS-FNAの出血性偶発症率を明らかにすることを目的とした.

【方法】2008年から2015年までの間に,充実性腫瘍に対してEUS-FNAを施行した連続742例を対象とし,後方視的に検討を行った.出血性偶発症率に関して,抗血栓薬を服用していない群(非内服群),休薬した群(休薬群),アスピリンあるいはシロスタゾールを継続した群(継続群),ヘパリン置換を行った群(ヘパリン置換群)の4群に分けて検討を行った.

【結果】742例中131例が抗血栓薬を服用していた(17.7%).出血性偶発症は742例中7例で認め,発症率は0.9%であった.いずれも術中出血であり,術後出血は認めなかった.各群の出血性偶発症率は,非内服群1%(6/611),休薬群0%(0/62),継続群1.6%(1/61),ヘパリン置換群0%(0/8)であった.止血術を要した重症例は1例のみであり,重症出血の頻度は0.1%(1/742)であった.また重症例は非内服群であり,抗血栓薬服用者で重症出血は認めなかった.

【結論】抗血栓薬服用者におけるEUS-FNAの出血性偶発症率は低く,アスピリンあるいはシロスタゾール継続下でも安全に施行できる可能性が示唆された.

Ⅰ 背  景

超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)は,膵腫瘍や消化管粘膜下腫瘍,リンパ節病変などの病理診断において確立された検査法である 1.その偶発症としては出血,穿孔,膵炎,感染などがあるが,いずれも発症率は低く安全な手技として認識されている.出血に関しては発症率約0~4%とされ 2)~5,出血を呈したとしても重篤化するものはまれと報告されている 6),7.しかしながら,抗血栓薬服用者において,同様の安全性が保たれるかは明らかではない.近年では,抗血栓薬服用者に対する内視鏡診療では,より血栓塞栓症の防止に重点が置かれている 8)~10.本邦における「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」ではEUS-FNAは出血高危険度手技に分類され,抗血栓薬休薬による血栓塞栓症の高発症群では,抗血小板薬はアスピリンあるいはシロスタゾールの継続,抗凝固薬に関してはヘパリン置換の上での手技が推奨されている 10

一方で,抗血栓薬服用者に対するEUS-FNAの出血リスクに関する検討は現在まで1報のみであり 11,エビデンスが不足している.そのため本研究では,抗血栓薬服用者におけるEUS-FNAの出血リスクを明らかにすることを目的に検討を行った.

Ⅱ 方  法

対象

2008年から2015年までの間に,充実性腫瘍に対してEUS-FNAを施行した連続742例を対象とし,後方視的に検討を行った.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,愛知医科大学病院倫理委員会の承認を得て施行した.全症例でEUS-FNA施行前に服薬歴が確認された.抗血栓薬服用中であった場合には,適宜処方医に確認を行い,血栓塞栓症の発症リスクに基づき休薬の可否を判断した.抗血栓薬の休薬が困難な場合には,抗血小板薬では,アスピリンあるいはシロスタゾールは継続とし,チエノピリジン誘導体に関してはアスピリンまたはシロスタゾールへの置換を行った.抗凝固薬ではヘパリンによる置換を行った.抗血栓薬の休薬が可能な場合には,アスピリンは3日以上,チエノピリジン誘導体は5日以上,その他の抗血小板薬は1日以上,ワルファリンは4日以上の休薬とした.ヘパリン置換に関しては,静注用未分画ヘパリンの持続静注とし,EUS-FNAの4~6時間前に中止し,処置後に出血がないことを確認した上で再開とした.しかしながら,ヘパリン再開の時期は各内視鏡医の判断に基づいており,EUS-FNA直後に再開した例から翌日に再開した例まで様々であった.

EUS-FNA

EUS-FNAは左側臥位でミダゾラムによる鎮静下で施行した.スコープはGF-UCT240あるいはGF-UCT260を使用し,観測装置にはEU-ME1またはEU-ME2を用いた(いずれもOlympus社製).超音波画像で対象病変を描出し,カラードプラで介在する血管がないことを確認した後に,19,22,25Gのいずれかの穿刺針を用いて穿刺を行った.穿刺した後はスタイレットを抜去してシリンジを装着し,10-20mlの陰圧をかけ,病変内で概ね15回ほどストロークを行った後に穿刺針を抜去した.EUS-FNA後は2時間のベッド上安静とした.

出血性偶発症

出血性偶発症は術中出血と術後出血に分類した.術中出血は出血を疑う超音波像や管腔内に持続する出血を認め,観察あるいは止血のために手技の中止を要したものとし,術後出血は術後の吐下血や,ヘモグロビン値2以上の低下,内視鏡検査やCTなどで直接出血が確認されたものとした 12.また何らかの止血術や輸血を要したものを重症例と定義した.

各穿刺毎に超音波像と内視鏡像にて出血の有無を確認した.またEUS-FNA前後に血液検査を施行して偶発症の有無を確認し,EUS-FNAから約1-2週間後には診察にて吐下血の有無などを確認した.症状や血液検査結果から出血が疑われる場合には,CTや内視鏡検査を施行した.

統計解析

主要評価項目は出血性偶発症率とし,抗血栓薬を服用していない群(非内服群),休薬した群(休薬群),アスピリンあるいはシロスタゾールを継続した群(継続群),ヘパリン置換を行った群(ヘパリン置換群)の4群に分けて比較検討を行った.また,出血性偶発症の危険因子として,対象病変(膵腫瘍,粘膜下腫瘍,リンパ節,その他),穿刺針径(19G,22G,25G),穿刺経路(経胃,経十二指腸,その他),病変径(<20mm,≧20mm),穿刺回数(≦2,≧3),抗血栓薬服用の有無(無し,抗血小板薬,抗凝固薬,抗血小板薬抗凝固薬併用),の各項目に関して検討を行った.解析にはthe chi-square test,あるいはFisher’s exact testを使用し,P<0.05を統計学的に有意とした.

Ⅲ 結  果

患者背景

期間内に742例でEUS-FNAが施行され,年齢中央値は71歳,男性357例,女性385例であった.対象の対象病変,穿刺針径,穿刺経路,病変径,穿刺回数の各項目に関してはTable 1に示した.742例中131例が何らかの抗血栓薬を服用していた(17.7%).57例がアスピリン単剤,9例がチエノピリジン誘導体単剤,10例がシロスタゾール単剤,22例がアスピリンとチエノピリジン誘導体の併用,13例がワルファリン,10例がワルファリンとアスピリンの併用,6例がその他の抗血小板薬,4例がその他の抗凝固薬を服用していた(Table 2).このうち62例が休薬,61例がアスピリンあるいはシロスタゾール継続,8例がヘパリン置換の上でEUS-FNAを施行された(Figure 1).

Table 1 

Baseline characteristics of the 742 patients who underwent endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration.

Table 2 

Types of agents used in 131 patients undergoing antithrombotic therapy.

Figure 1 

Flowchart of the 742 patients who underwent endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration according to the administration of antithrombotic agents.

ASA, aspirin. CLZ, cilostazol.

出血性偶発症

742例中7例で出血性偶発症を認め,発症率は0.9%であった.いずれも術中出血であり,術後出血は認めなかった.各群の出血性偶発症率は,非内服群1%(6/611),休薬群0%(0/62),継続群1.6%(1/61),ヘパリン置換群0%(0/8)であり,各群に有意差は認めなかった(P=0.843)(Table 3).重症例は1例のみであり,重症出血の頻度は0.1%(1/742)であった.この重症例は非内服群であり,抗血栓薬服用者で重症出血は認めなかった.

Table 3 

Subgroup analysis of the bleeding event rates according to the antithrombotic agent management.

出血例の詳細

出血例の詳細をTable 4に示す.重症出血例は直腸GISTの症例であり,穿刺後に持続する拍動性の出血を認めたため,内視鏡的止血術を要した.死亡例や,IVR,外科的手術,輸血を要した症例は認めなかった.重症例以外の6例に関しては,3例が穿刺後に管腔内に持続する出血を認め,残りの3例は超音波所見で出血を疑うエコー領域の拡大を認めたため,手技の中止を要した.出血性偶発症に関連する因子の検討では,対象病変(P=0.393),穿刺針径(P=0.183),穿刺経路(P=0.181),病変径(P=0.499),穿刺回数(P=0.618),抗血栓療法の有無(P=0.967),の各項目に関して検討を行ったが,有意な因子は認めなかった.また,消化管出血の危険因子である肝硬変や腎不全例においても出血は認めなかった.出血以外の偶発症としては,膵炎,局所感染,誤嚥性肺炎をそれぞれ1例ずつ認めた.血栓塞栓症は1例も認めなかった.

Table 4 

Details of cases with bleeding events.

Ⅳ 考  察

今回の充実性腫瘍に対するEUS-FNAの検討では,出血性偶発症率は低く,また重症例は1例のみであった.抗血栓薬服用者,アスピリンあるいはシロスタゾール継続下であっても,出血性偶発症率は同様に低値であった.

EUS-FNAの出血性偶発症率は約0~4%程と報告されており 2)~5,また出血を呈したとしても重症化する例は少ない.膵腫瘍3,090例に対するEUS-FNAの検討 6では重症出血率は0.23%,消化管粘膜下腫瘍1,135例の検討7)では0.44%と報告されており,治療を要する出血を呈することはまれである.しかしながら,EUS-FNAがその他の内視鏡手技と異なるのは,対象が粘膜下腫瘍の場合を除いて,消化管壁外という点である.このため,止血術が必要なほどの出血を呈した場合,内視鏡的止血術は困難であり安易には止血できず,IVRや外科的処置が必要となり,致死的な出血に至った症例も報告されている 13),14.抗血栓薬服用者において出血した場合にはより重篤化する可能性があるため,慎重に対処することが求められ,またそのリスクを明確にしておく必要がある.

抗血栓薬は虚血性脳血管障害や虚血性心疾患などの予防に広く使用され 15),16,中止した場合にはこれらの疾患の発症リスクに加え血栓塞栓症のリスクが増加することが示されている 17)~20.抗血栓薬服用者に対する内視鏡処置に関しては,米国,欧州,日本などにおいてガイドラインが示されている 8)~10.日本におけるガイドラインでは,EUS-FNAは出血高危険度手技に分類され,抗血栓薬中止による血栓塞栓症のリスクが高い場合には,抗血小板薬ではアスピリンあるいはシロスタゾール継続,抗凝固薬ではヘパリン置換の上での処置が推奨されている 10

しかしながら,抗血栓薬服用者におけるEUS-FNAの出血リスクを検討した報告は現在まで1件のみであり 11,エビデンスが不足している.この検討では,26例のアスピリンあるいはNSAIDs服用者と非服用者190例を比較した結果,出血率はそれぞれ0%と3.7%であり,有意差は認めなかったと報告している.本研究においても,アスピリンあるいはシロスタゾール継続群の出血率は1.6%と同様に低く,また止血術や輸血を要する重症例は認めなかった.カラードプラで周囲の血管を確認し,避けて穿刺できることが,低い出血率に寄与していると推察される.

ヘパリン置換は抗血栓薬服用者に対して内視鏡処置を行う際,休薬に伴う血栓塞栓症に関して予防効果が示されている 21.しかしながら,内視鏡的粘膜切除術や内視鏡的粘膜下層剥離術におけるいくつかの報告では,ヘパリン置換は術後出血のリスクを上昇させることが示唆されている 22),23.EUS-FNAに関しても,上述の報告 11では,低分子ヘパリン使用中の症例では,出血率が33%と有意に上昇したことが示されている.本研究においては,ヘパリン置換群の出血率は0%であったが,ヘパリン再開時期が様々であり,内視鏡処置後出血がないことを確認した時点でのヘパリン再開を推奨しているガイドライン 10に準じていない症例が含まれている.内視鏡的粘膜切除術や内視鏡的粘膜下層剥離術ではガイドラインの順守が出血リスクの上昇に関連することが示唆されており 22,EUS-FNAにおいても処置後直ちにヘパリンを再開した場合は,術後出血のリスクが上昇するかもしれない.

他方,穿刺針径に関しては,理論的にはより細い25G穿刺針の方が出血リスクは低いと思われるが,過去のRCTでは穿刺針径は偶発症率に関連しないことが示されている 24)~26.しかしながら,出血性偶発症はまれであることから,検出力が不足している可能性も指摘されている 4.本研究において25G針では1例も出血を認めておらず,エビデンスが不足している現状においては,抗血栓薬服用者ではより細い穿刺針で施行した方が良いかもしれない.

本研究の限界は,症例数の少ない,非ランダム化,後方視的研究であることであり,各群の出血性偶発症率に有意差がないことはβエラーの可能性がある.加えてヘパリン置換におけるヘパリン再開のタイミングが統一されておらず評価が難しい.このため,多施設共同前向き研究で,結果を確認する必要がある.

結論として,本研究ではEUS-FNAの出血性偶発症率は低く,出血した場合でも重症例はまれであった.抗血栓薬服用者においても同様に出血率は低く,アスピリンあるいはシロスタゾール継続下でもEUS-FNAは安全に施行できる可能性が示唆された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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