日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
彎曲型喉頭鏡が安全な摘除に有用であった下咽頭魚骨異物の1例
亀髙 大介石山 修平 塩出 純二吉岡 正雄那須 淳一郎藤原 明子伊藤 守藤井 雅邦齊藤 俊介金藤 光博
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電子付録

2017 年 59 巻 12 号 p. 2707-2711

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要旨

異物誤飲は臨床的によく経験される緊急性の高い疾患である.中下咽頭領域であれば耳鼻科的処置での対応が可能であるが,下咽頭から頸部食道の異物は耳鼻科や外科,消化器内視鏡医の連携が必要な領域である.今回,下咽頭輪状後部に刺入した魚骨異物を経験した.78歳女性.夕食時にブリを食べた後から咽頭痛が出現,輪状軟骨近傍に4cm長の魚骨が頸部CTで確認された.彎曲型喉頭鏡を使用し咽頭展開したところ,刺入部が確認でき安全に内視鏡的摘除が可能であった.治療法選択にCT検査は有用であった.彎曲型喉頭鏡を使用しての処置は下咽頭から頸部食道の異物処置時に視野確保が困難な場合,外科的処置移行前に一度考慮すべき手技と考えられた.

Ⅰ 緒  言

異物誤飲は緊急内視鏡治療の対象疾患で,日常臨床でしばしば遭遇する.通常は内視鏡的に異物を確認後,愛護的に摘出可能である.

輪状軟骨下縁レベルの食道入口部に刺入した場合は管腔の広がりが送気だけでは不十分な場合が多く,視野確保が困難で内視鏡先端フードを装着しても処置に難渋する場合がある.

近年,下咽頭腫瘍内視鏡的粘膜下層剥離術治療の際に彎曲型喉頭鏡を使用した治療報告がある 1),2.彎曲型喉頭鏡を使用することで下咽頭だけでなく食道入口部の視野展開がよくなり,治療を安全かつ容易に行うことができる.今回,下咽頭輪状後部に刺入した魚骨に対して彎曲型喉頭鏡を使用することで内視鏡的に摘出できた症例を経験した.

Ⅱ 症  例

患者:78歳.女性.

主訴:咽頭痛.

現病歴:夕食時にブリを食べた直後より咽頭痛が出現した.その後も痛みが増悪するために同日当院救急センターを受診した.

既往歴:卵巣腫瘍手術,RamsayHunt症候群.

家族歴:特記事項なし.

入院時現症:血圧92/46mmHg,脈拍90回/分・整.体温37℃.意識清明.左顎下部から前頸部に軽度圧痛あり,皮下気腫なし.その他特記所見なし.

来院時臨床検査所見:CRP 0.02mg/dl,WBC 3,540/μlと炎症反応上昇は認めなかった.

臨床経過:頸部CT検査で甲状軟骨,輪状軟骨近くの下咽頭から食道入口部にかけて約4cm長の魚骨様陰影が確認された(Figure 1).先端部は左頸動脈近傍にまで到達していた.刺入部周囲の炎症波及像は明らかではなかった.来院同日に緊急内視鏡検査を施行し,下咽頭輪状後部に魚骨が刺入していることが確認できた(Figure 2).夜間の緊急処置であり,十分な視野確保が困難であったため,無理に摘除することはやめて入院加療とした.入院翌日に全身麻酔下での再摘出治療を行った.魚骨先端が頸動脈近くまで達しており,内視鏡的摘除ができなかった場合には,引き続き外切開による外科的治療へ移行できるよう体制を整えて治療を開始した.経口気管内挿管を行った後に,彎曲型喉頭鏡(開口器付口腔咽喉頭直達鏡 佐藤式彎曲型type-S2,長島医科器械株式会社,東京)を使用した.彎曲型喉頭鏡により下咽頭が十分に展開された.咽頭観察はGIF-Q260(オリンパス株式会社,東京)を使用した.観察当初は魚骨刺入部が不明瞭であったが,V字鰐口鉗子(FG-42L,オリンパス株式会社,東京)を使用して輪状後部に魚骨先端を確認し慎重に抜去することができた(電子動画1)(Figure 3).摘除後に後出血や縦隔炎などの発症はなく,摘除後4日目より食事摂取を開始し7日後に退院された.

Figure 1 

頸部CT(a:冠状断,b:矢状断).

下咽頭に4cm長の直線状の魚骨様陰影(黄色矢頭)を認める.

Figure 2 

緊急内視鏡.

下咽頭輪状後部に魚骨が刺入している.管腔が狭く視野確保が不十分である.

電子動画1

Figure 3 

術中内視鏡.

a,b:佐藤式喉頭鏡にて展開された下咽頭.

c,d:輪状後部に刺入していた魚骨を把持鉗子で抜去した.

e:刺入部からの出血は認めなかった.

 f:抜去された4cmの直線状の魚骨.

Ⅲ 考  察

下咽頭輪状後部に刺入した魚骨異物を抜去する際に彎曲型喉頭鏡を使用することで安全に除去することが可能であった.また処置法を選択する上でCT検査による異物の形態評価は有用であった.

下咽頭から頸部食道異物には魚骨,食物塊,PTP,義歯などがあり,魚骨はその中でも頻度の多い異物である.異物を摂取後に喉の違和感や異物感を自覚して受診される.特に下咽頭から頸部食道にかけての生理的狭窄部には魚骨やPTPなどの先端が鋭利なものが刺入しやすいと報告されている.異物が粘膜より深く刺入した場合には縦隔炎などの重篤な偶発症を発症する恐れもあり,また発症24時間以降では出血や炎症の発生頻度が増加するとの報告もあり,緊急内視鏡での異物摘出の対象である 3)~6

内視鏡的異物除去の方法としては,異物が食物塊などの場合は胃内へ押し込むことで治療が可能である.一方魚骨や義歯など先端が鋭利な異物の場合は摘除が必要である.V字型や三脚型鉗子で把持し,慎重に摘除する.摘除の際に食道入口部などの生理的狭窄部で粘膜損傷を避けるため内視鏡先端にアタッチメントやソフトフードを装着し,異物が粘膜に触れないように工夫することで,摘除後の縦隔炎などの発症を予防することが可能である 3

彎曲型喉頭鏡は耳鼻科領域で使用され,主に下咽頭領域の視野確保目的に開発された 2.彎曲型喉頭鏡を使用することで下咽頭から頸部食道の視野は良くなる.彎曲型喉頭鏡は,近年,下咽頭腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術の際の術野展開に使用されている 1),2),7.彎曲型喉頭鏡を使用することで通常の直達喉頭鏡とくらべて強力に喉頭を持ち上げ,下咽頭を展開することが可能である.輪状後部だけでなく両側の梨状陥凹から頸部食道までが一つの空間として見渡せるようになる.食道異物の場合でも彎曲型喉頭鏡を使用することで下咽頭から頸部食道に接触することなく視野を展開することができ,異物刺入を増悪させるような有害事象は生じにくい 7)~10.安全に内視鏡処置を行う上での良好な視野確保は治療上重要である.

異物の状態を評価するためのCT検査は低侵襲であり,異物の状態や刺入部位,周囲の炎症の程度などの把握ができ有用である 11)~13.特に先端が鋭利な異物の場合には水平断だけでなく矢状断,冠状断などの画像を作成することで立体的な評価が容易になるため,摘出に適した処置具の準備や摘出時のシミュレーションを行うことができる.

食道異物刺入症例のほとんどは通常の内視鏡的処置で対応が可能である.難易度の高い下咽頭・頸部食道異物の治療には,耳鼻科や頭頸科,消化器外科と連携して方針を立てる必要がある2),7.頸部食道異物症例において,視野確保困難が原因で内視鏡治療が不成功となり,外科的治療が必要となった報告がある 5),6),14),15.このような症例も彎曲型喉頭鏡を使用することで視野が確保されていれば内視鏡的摘除だけで治療できた可能性がある.異物が大きく治療困難が予想される場合には侵襲の高い外科的処置を行う前に一度試みる意義のある処置である.

Ⅳ 結  語

今回,下咽頭輪状後部の異物症例を彎曲型喉頭鏡を使用することで,安全に除去をすることができた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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