症例は41歳女性.健診でALP高値を指摘され,当院整形外科で骨軟化症と診断された.自覚症状はなかったがCTで膵・胆管合流異常を指摘され,当科を紹介受診した.神経線維腫症Ⅰ型(von Recklinghausen病,以下VRD)の家族歴があり,体幹・四肢にカフェオレ斑が多発,皮膚生検でVRDと診断された.ERCP時主乳頭に3mm大の黄白色隆起がみられ,生検で神経内分泌腫瘍(以下NET)が疑われた.手術を施行されNET(G1)と診断された.VRDに合併する消化管腫瘍は,腹痛や黄疸などの自覚症状を契機に発見されることが多く,本症例のように無症候で発見されることは稀である.VRD患者は無症状であっても積極的な内視鏡精査が望まれる.
神経線維腫症Ⅰ型(von Recklinghausen病,以下VRD)は全身皮膚の神経線維腫,カフェオレ斑など多彩な症状を伴う遺伝性疾患であり,神経系の腫瘍や消化管腫瘍を含めた多発新生物と関連していることが報告されている 1),2).VRD患者の15~25%が上下部消化管に何らかの腫瘍がみられ 2),90%以上は疼痛や体重減少,黄疸など何らかの症状を契機に発見されるが 3),無症状で発見される症例は比較的稀である.今回われわれは膵・胆管合流異常の精査目的で施行したERCPで偶然発見した無症候性十二指腸乳頭部神経内分泌腫瘍(以下NET)の1例を経験したので報告する.
症例:41歳,女性.
主訴:特になし.
既往歴:特記すべきことなし.
家族歴:母・兄・祖母;VRD.父;胃癌.
現病歴:健康診断でALP高値を指摘され当院を受診し,整形外科で骨軟化症と診断された.自覚症状はなかったが,精査の際に施行したCTで総胆管下部の限局性拡張,膵・胆管合流異常を指摘されたため,精査加療目的で当科を紹介受診した.
入院時現症:体温36.1℃,血圧112/58mmHg,脈拍69回/分,腹部は平坦かつ軟であり圧痛や筋性防御はなかった.体幹・四肢に楕円形褐色斑(カフェオレ斑)が多発しており,皮膚生検で,組織学的に神経線維腫と診断された.
入院時血液検査所見:ALP 466U/Lと軽度高値であり,骨軟化症の影響と考えられた.CEA 4.6ng/ml,CA19-9 8.1U/mlと腫瘍マーカーの上昇はみられなかった.
腹部ダイナミックCT検査:総胆管下部に嚢状拡張を認めたが,膵管の合流形態は明確には描出されなかった.主乳頭部を含め,明らかな腫瘤性病変は指摘できなかった.
DIC-CT検査:総胆管下部は嚢状に拡張し,同部位に主膵管が合流しており,共通管の拡張が疑われた(Figure 1).

DIC-CT.
総胆管下部は嚢状に拡張し,同部位に主膵管が合流しており,共通管の拡張が疑われた.
EUS:主膵管と総胆管の合流部は主乳頭部より肝門部側で観察され,膵・胆管合流異常が疑われた.共通管は嚢状に拡張していた.十二指腸乳頭部には明らかな腫瘤は指摘できなかった.また,胆嚢も含め胆道系には腫瘤や壁肥厚を疑う所見はみられなかった.
ERCP:主乳頭部に径3mm大の黄白色調隆起性病変を認めた.副乳頭観察も試みたがスコープが安定せず,詳細な観察は困難であった.造影所見では,主膵管は嚢状に拡張した共通管の肝側に合流し,共通管の周囲を蛇行しながら尾側に走行していた.他画像所見もあわせて新古味分類Ⅱb型の膵・胆管合流異常と診断した(Figure 2).総胆管内には明らかな隆起性病変や壁不整は指摘されず,胆汁細胞診でも悪性所見は得られなかった.

ERCP.
a:肉眼所見.主乳頭部に径3mm大の黄白色調隆起性病変を認めた(丸印).
b:造影所見.胆管の嚢状拡張部位の肝門部側で主膵管が合流しており(矢印),共通管は嚢状に拡張していた.膵管は嚢状部を回るように蛇行しながら尾側へ向かっていた.
主乳頭病変部生検所見:Hematoxylin-eosin(HE)染色では,粘膜固有層深部側に好酸性の胞体に類円形の核を有した細胞群がみられた.免疫染色では,Synaptophysin・Chromogranin Aが共に陽性でありNETが疑われた(Figure 3).

主乳頭病変部生検.
a:HE染色(×400).粘膜固有層深部側に好酸性の胞体に類円形の核を有した細胞群がみられた.
b:Ki67染色(×400).Ki67指数は0.5%であった.
c:Synaptophysin染色(×400).
d:Chromogranin A(×400).
以上の結果より,VRDに合併したNET,膵・胆管合流異常と診断し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)および胆嚢摘出術を施行した.
術後病理組織所見:切除標本では,膵・胆管合流異常がみられ,総胆管の拡張は目立たないものの,共通管は嚢状に拡張していた.十二指腸主乳頭には10×6×5mm,副乳頭には7×5×5mmの黄白色隆起性病変がみられた.いずれの病変も十二指腸固有筋層以深への浸潤はなく,主乳頭,副乳頭以外の部位に病変は認めなかった.病変はいずれも類円形の核と好酸性の胞体を有する腫瘍細胞が胞巣状あるいは管状に増殖しており,NETとして矛盾しない所見であった(Figure 4).いずれも核分裂像は1個/10HPFで,Ki67指数は0.5%であり,NET(G1)と診断された.リンパ節転移はみられず,胆嚢や胆管にも悪性所見は指摘できなかった.以上より,T1,N0,M0,Stage Ⅰ(ENETS),ⅠA(UICC/AJCC)と診断された.

術後病理所見,HE染色(×400).
粘膜内に類円形の核をもつ,好酸性の胞体を有した腫瘍細胞が胞巣状や管状ßに増殖しており,神経内分泌腫瘍(NET)と診断された.核異型は軽度で分裂像は1個/10HPFであり,NET(G1)と考えられた.
消化管NETは,本邦では直腸,胃,十二指腸の順で多くみられ,十二指腸では球部に好発することが知られている 4).本症例のように十二指腸乳頭部に発生するものは十二指腸NETのうち25.2%と報告されているが 5),VRDに合併するものはほとんどが乳頭部近傍に発見されることが知られている 6),7).そのため,VRD患者に合併した十二指腸NETは,一般的な十二指腸NETにみられる腹痛・出血・十二指腸狭窄症状以外に,乳頭部の狭窄・圧排による閉塞性黄疸や胆管炎・膵炎などを来たすことがあり,有症状で発見されるケースが多い.実際,Rellesら 3)は,76例のVRD患者における検討において合併腫瘍の発見契機の92%が有症状であり,本症例のように無症状で発見されたものは8%に過ぎないことを報告している.また,この報告において発見された腫瘍の平均腫瘍径は8割近くが5cmを越えており,無症候で発見されていない期間が長かったことが推測される.NET(G1)は緩徐に進行する低悪性度の腫瘍であると認識されているが,無症候で長期に経過し進行した状態で発見されることも十分考慮したうえで,VRD患者においては無症状であっても積極的な乳頭観察も含めた内視鏡精査が望まれる.
本症例は,膵・胆管合流異常を契機に後方斜視鏡を用いた精査が行われはじめて腫瘍が発見された.VRDに合併するNETの特徴を明らかにするため,PubMedサーチおよび医学中央雑誌において,“von Recklinghausen disease(von Recklinghausen病)”,“neuroendocrine tumor(神経内分泌腫瘍)”をキーワードとして本邦からの報告例を検索したところ,1987年3月から2016年5月までの期間で22例の報告を認めた.自験例を含め,それぞれの症例の要約をTable 1にまとめた.

von Recklinghausen病に合併した神経内分泌腫瘍,本邦からの報告例.
これらの報告によると無症状で発見されている症例は自験例も含め23例中10例(43.5%)に認められ,既報の欧米からの報告に比して高率であった 3).また,欧米からの報告例と本邦からの報告例で発見時年齢には大きな差がなかったものの(本邦52.5歳,欧米47.9歳),発見時の腫瘍径に関しては欧米からの報告例の8割近くが5cmを超えていたのに比して,本邦からの報告例は全例が5cm未満で発見されていた.次に,無症状例10例におけるNETの発見契機について検討してみたところ,自験例を含む6例(60%)が他疾患のフォローもしくは精査中に偶発的に発見されており,残り4例(40%)は健診を契機に発見されていた 8)~16).内視鏡精査によって発見された症例は自験例を含め3例のみであり,VRD患者において多発新生物の合併が多いことが知られているにもかかわらず 1),2),VRDを基礎疾患にもっていることを理由としたスクリーニング目的の検査で発見された症例は1例も存在しなかった.NETの存在部位としては十二指腸,とくに主乳頭や副乳頭が圧倒的に多く,そのほとんどが粘膜下腫瘍(以下SMT)様の隆起性病変として描出されていた.特徴としては表面平滑で平坦な隆起性病変であること,中心陥凹やびらん・潰瘍を伴うことがあげられていた.自験例においては黄白色調の隆起性病変として認識されたが,同様に鳥越ら 11)も黄白色調のSMTとして報告しており,びらんや陥凹を伴わない表面平滑な小病変においては,内視鏡所見上やや黄白色調に観察される可能性が示唆された.以上のことから,VRD患者においては乳頭を含めた積極的な消化管精査を行うべきであり,そのためにも通常の直視鏡観察だけでなく,後方斜視鏡も併用した詳細な観察を行い,前述のような内視鏡所見を参考に慎重に評価することが望ましいと考えられた.
VRDにNETが合併しやすい理由としては,NF1遺伝子異常によるneurofibrominの機能異常が原因のrasタンパクの異常やNF1遺伝子異常でc-kitが強く発現するという報告がある 17)~19).また,VRDに十二指腸乳頭部の病変が多く発生する理由としては,通常の消化管上皮と異なり複雑な神経支配をうけた内分泌腺としての性格を有していることが指摘されている 17).
十二指腸NETの治療方針については,本邦の膵消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2015において詳細に示されている 20).本症例は小病変であり進行度が初期であったことより,より低侵襲で根治度を得ることのできる治療法が望まれた.実際,十二指腸NETの内視鏡治療に関してはエビデンスが少なくまだコンセンサスが得られていないものの,内視鏡的切除(内視鏡的粘膜切除術)を行った報告も散見される 21),22).一方で,乳頭部は解剖学的に複雑なため手技がやや高度になり,球部NETに比較してリンパ節転移が病変の大きさから予想困難であることも指摘されており 23),NETに対する内視鏡的乳頭切除は今後検討すべき課題であると考えられる.本症例では,膵・胆管合流異常を合併していたこと,内視鏡引抜き走査での乳頭正面視が難しく内視鏡的切除の難易度が高くなることが予想されたことなどから,患者本人に十分なインフォームドコンセントを得たうえで,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)および胆嚢摘出術を施行する方針とした.
NETの予後は病期(stage)および細胞増殖活性(G1~3)に相関し,各群で有意差がみられることが報告されている 24).本症例はStage ⅠA,NET(G1)であり,この報告によると5年および10年生存率ともに100%となる.ただし,前述の通りNET(G1)は小病変であってもリンパ節転移を有している可能性があり 4),23),予後良好であることの背景には,多くの症例でリンパ節郭清を含めた手術がなされていることが功を奏している可能性を十分に考慮しなければならない.本症例もリンパ節郭清を含めた手術を施行されており,現在まで無再発で5年以上経過している.今後も注意深い経過観察を行っていく方針である.
無症候で発見されたVRD合併十二指腸乳頭部NETの1例を経験した.VRD患者では高頻度に消化管,特に十二指腸乳頭近傍に腫瘍を合併することが知られているが,実際には内視鏡スクリーニングを行っている例が少ない.無症状であっても積極的な乳頭観察を含めた上部消化管内視鏡精査が望まれる.
なお,本主旨は第112回日本消化器内視鏡学会四国支部例会で発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし