症例は41歳男性.上部消化管内視鏡検査にて胃体下部大彎後壁に径2.5cmで中心に深い発赤陥凹を伴う粘膜下腫瘍様隆起を認めた.NBI拡大内視鏡では辺縁隆起部の拡張血管と陥凹部に粗大な絨毛様構造を認め,内部には口径不同を伴わない細血管が観察された.同部位の生検にてNeuroendocrine tumor(NET)の診断を得た.術前の内視鏡観察にて,血管拡張など他腫瘍との鑑別に有用な内視鏡所見が得られ,CTでは腫瘤近傍に径6.9cmのリンパ節腫大が認められた.背景疾患を伴わないことからRindi 分類Type 3胃NETと病理組織学的に診断した.幽門側胃切除術を施行し,NET(G2),pT3N1M0,pStageⅢb(ENETS)であった.手術後24カ月現在,再発を認めていない.
2010年のWorld Health Organization(WHO)分類の改定 1)により,神経内分泌への分化を示す腫瘍を神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)とし,細胞分裂像および細胞増殖関連抗原であるKi-67標識率によってNENはneuroendocrine tumor(NET)(G1,G2)とneuroendocrine carcinoma(NEC)に分類されることとなった.胃NETでは,治療方針決定に有用な指標として背景疾患から解析したRindi分類 2)があり,このうちType 3は欧米では直径>2cmの症例が多いとされているが 3),本邦ではそのような症例の報告は少なく,あわせてNarrow Band Imaging(NBI)も含めた詳細な内視鏡観察に関する報告も乏しい.本症例は,腫瘍径2.5cmのType 3胃NETに対する根治的外科手術施行症例であり,術前にNBI拡大内視鏡など詳細な内視鏡観察を行った極めて稀な症例であるため,文献的考察を加えて報告する.
症例:41歳男性.
主訴:特になし.
既往歴:高血圧,脂質異常症にて前医加療中である.
家族歴:特記事項なし.
生活歴:機会飲酒程度.喫煙なし.
現病歴:来院2カ月前の検診胃透視にて異常を指摘されたため前医を受診した.前医にて上部消化管内視鏡検査を実施したところ,胃体下部大彎後壁に隆起性病変を認め,生検にてNETの診断となったため,精査加療目的に当院を紹介受診した.
入院時現症:身長190cm,体重128.9kg,体温36.2度,脈拍114回/分,血圧126/80mmHg,意識清明.眼瞼結膜:貧血なし.
眼球結膜:黄染なし.胸部に心雑音,ラ音なし.腹部は平坦軟,圧痛なし.
血液生化学検査:RBC 565×104/μl,Hb 16.4g/dlと貧血を認めなかった.腫瘍マーカーCEA 2.3ng/ml,CA19-9 30.5U/mlと正常範囲内であり,血中ガストリン値も190pg/ml(基準値40~200pg/ml)と正常範囲内であった.抗壁細胞抗体,抗内因子抗体はともに陰性,血中Helicobacter. pylori(H. pylori)IgG抗体≦3U/ml(陰性)(栄研化学社)であり,ペプシノーゲン(PG)I 98.9ng/ml,PG Ⅱ 19.8ng/ml,PG I/Ⅱ比 5.0であった(PG判定陰性).
上部消化管内視鏡:胃粘膜萎縮なし.通常白色光観察では,胃体下部大彎後壁に約3cmの中心陥凹を伴う粘膜下腫瘍様病変を認め,周囲粘膜下隆起部には血管拡張を伴い,中心陥凹部は発赤調であった(Figure 1-a,b).NBI拡大内視鏡観察では,隆起部は背景粘膜とほぼ同様の規則正しい配列をした腺管構造,不整な血管構造を認めず,非腫瘍粘膜と思われた.また,シアン調の拡張血管を認めた.陥凹部は,周囲の粘膜構造に比し粗大な絨毛様構造で,その内部には口径不同を伴わない細血管が密生し,拡張血管も認めた(Figure 2-a,b).

上部消化管内視鏡所見(白色光).
a:胃体下部大彎後壁に径3cmの中心陥凹を伴う粘膜下腫瘍様病変を認め,周囲粘膜下隆起部には血管拡張を伴う(黄色矢頭).
b:中心陥凹部は発赤調であった.

上部消化管内視鏡所見(NBI拡大).
a:隆起部は背景粘膜とほぼ同様の規則正しい配列をした腺管構造で,シアン調の拡張血管を認め(黄色矢頭),陥凹部では周囲の粘膜構造に比し粗大な絨毛様構造を認めた.
b:絨毛用構造の内部には口径不同を伴わない細血管が密生し,拡張血管も認めた(水色矢頭はa,bで同じ拡張血管).
下部消化管内視鏡検査:回盲部までに特記すべき所見を認めず.
EUS:腫瘍はやや不均一な低エコー性腫瘤であり,これにより胃壁の層構造は不明瞭化しており,腫瘍の胃壁外への突出を認めた(Figure 3).胃壁外にリンパ節と思われる径7.4×4.6cmの均一な低エコー性腫瘤を認めた.

EUS.
やや不均一な低エコー性腫瘤であり,これにより胃壁の層構造は不明瞭化しており,腫瘍の胃壁外への突出を認めた.
胸腹部造影CT:胃体下部大彎に造影効果を伴う不整な胃壁肥厚を認め,胃前庭部前壁の壁外に長径6.9cmの石灰化を伴う腫瘤を認め,リンパ節腫脹と考えられた.遠隔転移を示唆する所見は認められなかった.
PET:胃腫瘍および前述のリンパ節が一体化してFDGが集積し,SUVmax9.8の集積亢進を認めた.遠隔転移の可能性を疑う異常集積は認められなかった.以上から巨大リンパ節転移を伴うType 3胃NETと診断した.ヨーロッパ神経内分泌腫瘍学会(European Neuroendocrine Tumor Society: ENETS)ガイドライン 3),本邦における膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)ガイドライン 4)に基づき,患者および家族の同意のもとに幽門側胃切除術+D2郭清を選択し,BillrothⅠ法にて再建した(Figure 4).

外科切除標本(幽門側胃切除術)(矢印:病変).
手術切除標本病理組織所見:病変中央の深い陥凹の深部では漿膜下層まで浸潤を認めたが,辺縁部では粘膜下層を主体に浸潤し隆起性病変を形成していた(Figure 5-a).病理組織学的には類円形核と細顆粒状細胞質を有する腫瘍細胞が小充実胞巣を形成して増殖していた(Figure 5-b).中心陥凹部では腫瘍の表面に肉芽組織が形成され,表面に一層の再生性腺上皮の被覆を認めた(Figure 5-c).腫瘍細胞の免疫組織化学的所見としてはAE1/AE3(+),Chromogranin A(+),Synaptophysin(+),CD56(+),NSE(+)であり,Ki 67標識率7.5%,核分裂像が1/10HPFであることからNET G2と診断した.最終病理診断はML,2.5cm,NET G2,pT3(SS),int,INFb,ly2,v2,pN2,cM0,pPM0,pDM0,Stage ⅢA(胃癌取り扱い規約),pT2,pN1,cM0,StageⅢb(ENETS)であった.術後経過は良好であり,第8病日に退院となった.手術後定期的にCT検査およびPETを実施しているが,手術後24カ月現在,再発を認めていない.

病理組織像.
a:腫瘍中心に粘膜固有層まで達する陥凹を認め,その深部では漿膜下層まで腫瘍細胞の浸潤が認められた.辺縁部では粘膜下層を主体に腫瘍浸潤が認められ隆起性病変を形成していた.
b:類円形核と細顆粒状細胞質を有する腫瘍細胞が小充実胞巣を形成し増殖していた.
c:陥凹部では腫瘍の表面に厚い肉芽組織が形成され,表面に再生性の腺上皮の被覆が観察された.
本邦では欧米と異なり腫瘍径>2cmのType 3胃NETは非常に稀であり,また胃NETに対してNBI拡大内視鏡観察を行った報告も少ない.本症例は詳細な術前内視鏡観察が可能であった腫瘍径2.5cmのType 3胃NETであり,通常白色光では血管拡張を伴う粘膜下隆起が特徴的な所見であり,NBI拡大内視鏡では粗大絨毛様構造と,その内部に口径不同を伴わない細血管密生を認めた.
胃NETの治療方針決定には,Rindiらの病型分類 2)が極めて有用であり,従来はA型胃炎に伴うとされていたType 1,多発性内分泌腫瘍1型/Zollinger-Ellison症候群を基礎疾患とするType 2では経過観察や内視鏡切除が推奨されることが多いのに対して,孤発性で背景疾患を伴わないType 3は,その生物学的悪性度の高さより外科手術が推奨されている 3).近年,欧州を中心にType 1の定義が修正され,2012年ENETSガイドラインでは従来のA型胃炎に加えてH. pylori感染などによるchronic atrophic gastritisもType 1に含まれることとなった 3).本症例は,PG判定陰性,血中H. pylori IgG抗体陰性,抗壁細胞抗体陰性,抗内因子抗体陰性,血中ガストリン値正常であることからType 1は否定的であり,また,多発性内分泌腫瘍1型/Zollinger-Ellison症候群のような背景疾患を認めなかったため,Type 3胃NETと診断した.胃NETは,粘膜深層に存在するECL細胞などの内分泌細胞より膨張性に発育するため,初期には白色光観察では半球状の粘膜下腫瘍として認められ,腫瘍の増大に伴い頂部の被覆粘膜が菲薄化,中心陥凹(delle)が出現し,さらに増大すると潰瘍形成を伴う,とされている 5).しかし,これまでに腫瘍径の大きいType 3胃NETの内視鏡所見の報告は少なく,通常白色光観察では,隆起型(半年後には潰瘍形成)を呈した,との報告のみである 6).本症例も腫瘍径が大きく,中心に深い陥凹を伴う粘膜下腫瘍様の形態を呈し,陥凹部のみで腫瘍露出あるいは一層の非腫瘍細胞による被覆を認めた.しかし,胃癌や他の粘膜下腫瘍とは異なり周囲隆起に血管拡張を伴っており,鑑別のポイントとなった.一方,NBI拡大内視鏡観察に関しては,拡張血管の存在,微小血管の口径不同/形状不均一を認めない,不整腺管構造を認めない,などが報告されているが 7)~9),これまでに報告が少なく,一定の見解はない.さらに,直径2cmを超えるような腫瘍径の大きいType 3胃NETでのNBI拡大内視鏡所見はこれまでに報告されていなかった.本症例でのNBI拡大内視鏡所見としては,拡張血管の他に,陥凹部にて周囲の粘膜構造に比し粗大な絨毛様構造を認め,その内部には口径不同を伴わない細血管が密生していた.病理組織標本では,辺縁では病変の表面で既存の粘膜が保持されていたが,中心陥凹部では粘膜が消失し,腫瘍の表面に肉芽組織とそれを覆う一層の再生性上皮が観察された.この所見が胃NETに特徴的な所見か否かは今後の検証が必要であるが,胃癌の特徴とされる不整腺管および血管の口径不同は認めず,胃癌との鑑別に有用であった.
欧米では,Type 3胃NETは発見時に腫瘍径が大きく,ENETSガイドラインではType 3胃NETは腫瘍径>2cmが特徴の一つとされている 3).一方,本邦におけるType 3胃NET(あるいは高ガストリン血症を伴わない)は医中誌,PubMedにて1994年1月から2016年1月までに総計87例(医中誌83例,PubMed4例)が報告されている(医中誌でキーワードを「胃」「神経内分泌腫瘍/NET/カルチノイド」「type 3/typeⅢ/sporadic/3型/Ⅲ型」に設定(会議録除く),PubMedではキーワードを「neuroendocrine tumor/carcinoid」「type 3/type Ⅲ/sporadic」「gastric/stomach」「Japan」に設定)が 6)~21),腫瘍径>2cmのType 3胃NETの報告は検索した限りではわずかに3例のみであり 6),19),本症例は本邦4例目となる非常に稀な症例である.欧米と本邦のType 3胃NETでの腫瘍径の差異の理由ははっきりしないが,人種間の違い,検診システムの違いなどの可能性が考えられる.
本症例はpT3N1M0,pStageⅢb(ENETS)であったが,術後は患者本人の希望もあり抗腫瘍療法は施行せずに厳重な経過観察を行う方針となった.胃NETに対する術後抗腫瘍療法については,これまでにその有用性を支持する明確なエビデンスはなく 22),臨床現場で症例ごとに検討されているのが実状である.一方,転移を有する消化管NETに対する抗腫瘍療法に関しては,ソマトスタチンアナログ療法が腫瘍無増悪期間延長に寄与することが報告されているが 23),ストレプトゾシンなどによる全身化学療法は奏効率が低く,消化管NETでは「増悪を示し,かつ,他の治療選択肢がない場合」に選択肢の一つとして検討することが推奨されている 4).したがって,術後抗腫瘍療法としてはソマトスタチンアナログ療法が有用である可能性もあるが,今後多数例での検討から明らかにしていくことが望まれる.
本症例は本邦で非常に稀である腫瘍径2.5cmのType 3胃NETであり,術前に詳細な内視鏡観察,病理組織所見との対比が可能であった.胃NETは稀な疾患であることから術後抗腫瘍療法の有用性など確立していない部分もあり,多施設共同で症例蓄積を行い,このような問題を解決するために多数例での検討を行うことが望まれる.
本症例検討に際し,東北大学消化器外科学の海野倫明先生,内藤剛先生,武者宏昭先生,工藤克昌先生,東北大学病理診断科の藤島史喜先生に多大なるご指導を頂きました.この場を借りて厚く御礼申し上げます.本報告の主旨は第200回日本消化器病学会東北支部例会にて発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし