日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
長径20mm以上の大腸腫瘍切除後に異時性多発病変の高頻度発生
吉田 直久 内藤 裕二Kewin Tien Ho Siah村上 貴彬小木曽 聖廣瀬 亮平稲田 裕井上 健小西 英幸久貝 宗弘森本 泰隆長谷川 大祐金政 和之若林 直樹八木 信明柳澤 昭夫伊藤 義人
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2017 年 59 巻 3 号 p. 326-336

詳細
要旨

[背景および目的]大きな大腸腫瘍に対する内視鏡治療後の異時性多発病変については報告が少ない.本研究では長径20mm以上の大腸腫瘍に対する内視鏡治療後の長期経過観察における異時性多発病変の特徴を検討した.

[対象と方法]対象は2006年11月から2013年11月までに2つの施設において大腸腫瘍に対して大腸内視鏡治療を施行した連続的な患者を解析した.すべての患者は経過観察に入る前に2回以上の全大腸内視鏡検査にてその他の病変の検索を行い,毎年経過観察の内視鏡検査を行った.切除を行ったポリープを20mm以上と未満に分け最終的に20mm以上群239例と20mm未満群330例の解析を行った.検討項目は両群におけるadvanced adenoma (AA:10mm以上の腺腫および絨毛性病変)および癌の累積発生頻度とその臨床病理学的特徴とした.

[結果]AAおよび癌の累積発生頻度に関して,20mm以上群は20mm未満群に比して有意に高値であり(3年累積発生率22.9% vs 9.5%, P<0.001),また5-9mmの腺腫の発生率も有意に高値であった(45.2% vs 28.8%, P<0.001).異時性病変の特徴については,部位に関して右側大腸の率が両群間に有意差を認めた(78.8% vs 50.0%, P=0.015).

[結語]長径20mm以上の大腸腫瘍切除後の異時性多発病変は高頻度であった.

Ⅰ 背  景

内視鏡治療の進歩に伴い,従来外科治療されていたような大きな大腸ポリープが内視鏡治療で切除されるようになってきた.以前はEMR(endoscopic mucosal resection)はその一括切除の低さから長径20mm以上の病変の治療には薦められていなかった 1),2.しかしながら,新しい手技や機器の登場によりEMRの一括切除率は昨今向上してきている.その例として種々の局注液が挙げられ,より長時間の高い膨隆を維持し完全な切除のために工夫した局注液が使用されるようになってきている.そして,グリセオール,デキストロース,ヒアルロン酸ナトリウムにおいては生理食塩水に比して一括切除率が高いことが報告されている 3)~6.また,種々のEMRの改良法も報告されている.周囲を切開するprecutting EMRは,大きなポリープに対する一括切除率が向上することが報告されている 7.またわれわれは,デュアループ(メディコスヒラタ,東京)という二段階型の硬いスネアが15mm以上のポリープに対する一括切除率の向上に有用であることを報告している 8.さらに水浸下のEMRが大きな平坦型のポリープの一括切除に有用であることもされている 9.また,大きな腫瘍を切除する画期的な方法としてendoscopic submucosal dissection (ESD)が世界的に施行されるようになってきており,その一括切除率は80.0-98.9%と非常に良好であると多数報告されている 1),10)~14.しかしながら穿孔率がEMRに比して高いことに関しては注意が必要である(1.5-10.4%).

外科切除に代わりEMRやESDによって大きなポリープの内視鏡切除が取って代わることにより異時性多発病変の発生リスクが懸念される.なぜなら内視鏡治療においては腸管が温存されるためである.胃癌のESD後も胃が完全に温存されるが,その異時性多発病変の頻度は8.2-14%と非常に高いことが報告されている 15),16.欧米のガイドラインでは10mm以上の大腸ポリープを切除した際には3年後の経過観察が推奨されている 17.しかし,20mm以上のポリープ切除においてはより高い異時性多発病変の可能性が考えられるものの詳細な報告はない.本研究では20mm以上のポリープに対する内視鏡切除後の異時性多発病変の頻度を検証する.

Ⅱ 対象と方法

対象は,京都府立医科大学消化器内科および市立奈良病院で長径20mm以上の大腸腫瘍に対してESDを施行した有茎性病変を除いた535病変とした.当院でのESDの原則的な適応は1)腫瘍径20mm以上,2)拡大内視鏡検査などにてTisもしくはT1aと診断した病変,3)20mm未満でも繊維化や浸潤のためEMRで切除不能な病変とした 12),18.検討項目としては,対象例における経過観察中の異時性多発病変としてAdvanced adenoma(AA)と癌病変を検索することとしたが,AAの定義は10mm以上の腺腫性病変もしくは大きさにかかわらずvillous成分を含む腺腫とした 19.またESDにて切除した病変においてリンパ節転移リスクを伴わない病変のみを本研究の対象とした.なお,リンパ節転移リスクとは脈管侵襲陽性,grade 2,3のbuddingもしくは低分化腺癌,SM浸潤距離1,000um以上とした 20),21.ESD後は,最初の内視鏡を3カ月後に施行し,その後は1年毎に内視鏡検査を施行し,経過観察期間が12カ月以上で毎年の経過観察を施行しえた症例のみを対象とした.12カ月未満の経過観察例,大腸腺腫や癌で過去に大腸切除術を施行した症例,最初の病変のESD時に複数のESD病変を指摘された症例は除外とした(Figure 1).さらにESDの際に同時に外科切除が必要なT1-T3癌を有した症例も除外とした.最終的に,239例239病変を20mm以上群としAAおよび癌の累積発生率の検討を行った.一方,比較対象として京都府立医科大学にて2008年より2011年に長径5-19mmのポリープに対してEMRを施行した連続的な550症例について治療後毎年の内視鏡検査を行った症例を20mm未満群とした.なお毎年の経過観察を施行していない症例,以前に大腸癌や腺腫で外科切除を施行した症例は除外した(Figure 1).また複数のポリープをEMRで切除した際には最も大きなポリープをその症例の代表するポリープとして検討を行った.最終的には330例330病変を20mm未満群として解析した.

Figure 1 

本研究のflow diagram.

20mm以上群および20mm未満群において種々の臨床病理学的因子(年齢,性別,平均経過観察期間)を検討し,また最初に内視鏡切除した病変の特徴について腫瘍径,部位,肉眼径,病理診断などの解析も行った.ポリープサイズについては局注針やスネアを用いて最大径の計測を施行した.発見された異時多発性のAAおよび癌に関しては発見時期,腫瘍径,部位,肉眼径,病理診断および累積発生率を両群で検討した.最初の内視鏡切除に伴う再発病変は本検討に入れないこととした.また長径5-9mmの腺腫性病変に対する内視鏡治療の有無も両群で検討を行った.さらにサブグループ解析として20mm以上群において異時多発性病変の発生の有無で2群に分け年齢,性別,平均経過観察期間,最初に内視鏡切除した病変の特徴などを解析し異時多発性病変発生のリスクファクターを検討した.また初回治療時における10個以上の腺腫の有無についても検討した.

すべての患者は内視鏡治療を受けるにあたっての書面での同意を取得した.また本研究は京都府立医科大学倫理委員会の承認を得て施行し,ヘルシンキ宣言に沿い,UMIN登録を行った(UMIN000013772).

Ⅲ 内視鏡切除および経過観察法

ESDおよびEMRの手技は過去の報告の通り施行した 6),8),11.前処置については低残渣食と10mlのピコスルファートナトリウムを検査前日に摂取し,当日は2LのPEG(ニフレック,味の素製薬,東京,日本)もしくは1Lの高濃度PEG(モビプレップ,味の素製薬,東京,日本)とした.

NBIにはEVIS LUCERA ELITEもしくはEVIS LUCERA SPECTRUM(オリンパス,東京,日本)を用いた.また,レーザー内視鏡(富士フイルム,東京,日本)によるBLIも適宜用いられた 22.20mm以上群では3回の全大腸内視鏡検査をESD前,ESD時,ESD3カ月後の3回施行し他病変の確認を行った.その後12カ月毎の経過観察の内視鏡検査を施行したが予定された内視鏡時期の4カ月前後の時期のずれは可とした.20mm未満群では2回の全大腸内視鏡検査を治療前,治療中に実施し,その後12カ月毎の経過観察の内視鏡を施行した.両群において長径5mm未満の良性ポリープは本邦の大腸癌治療ガイドラインに従い場所などを記録したが切除は行わず経過観察とした 23.一方で長径5mm以上の腫瘍性病変はすべて切除を行った.また異時多発性のAAもしくは癌が発生した症例においては発生時点で解析終了とした.すべての経過観察の内視鏡は経験数1,000例以上の内視鏡医が施行した.

Ⅳ 定  義

腫瘍部位については3つに分け,右側大腸(盲腸から横行結腸まで),左側大腸(下行結腸よりS状結腸まで),および直腸とした.なお,肉眼型はパリ分類にもとづいてpolypoidもしくはnon-polypoidとした 24.病理診断は病理(A.Y.)によってWHO分類および大腸癌取り扱い規約に基づいて施行された 25.すべての腫瘍はadenoma,Tis,T1,もしくはT2-3に分類した.またsessile serrated adenoma and polypは腫瘍性として扱った.

Ⅴ 統  計

統計は適宜the Mann-Whitney U testもしくはthe chi-square test(SPSS version 22.0 for windows, IBM Japan, Ltd., Tokyo, Japan)を使用した.また累積発生率の検定はKaplan-Meier analysisを使用した.

Ⅵ 結  果

20mm以上群および20mm未満群の症例背景は,平均観察期間は30.9±37.5カ月および31.4±26.9カ月であり,最初に切除した病変の癌の頻度は20mm以上群で有意に高値であった(52.7%(126/239) vs. 11.3%(37/330),P<0.001)(Table 1).

Table 1 

20mm以上群および20mm未満群の最初に切除を行った腫瘍の特徴.

全体の異時性のAAおよび癌の累積発生率は20mm以上群で21.8%(52/239)であり,20mm未満群の6.8%(20/330)に比して有意に高値であった(P<0.001)(Table 2).なお異時多発性病変は20mm以上群で20mm未満群と比較し,有意に右側に発生しており(78.8%(38/52) vs. 50.0%(10/20),P=0.015),肉眼径は平坦型の頻度が高値であった(78.8%(38/52) vs. 70.0%(14/20)).

Table 2 

20mm以上群および20mm未満群の異時性のadvanced adenomaおよび癌の特徴.

異時多発性病変の累積発生率は20mm以上群,20mm未満群で有意差を認め,12 months : 4.7% vs 1.8%,36 months : 22.9% vs 9.5%,60 months : 39.6% vs 17.5%(P<0.001)であった(Figure 2).

Figure 2 

内視鏡治療後の異時性のadvanced adenomaおよび癌の累積発生率.

20mm以上群における異時多発性の癌および20mm以上の腺腫病変をすべて示す(Table 3Figure 3).全病変が右側大腸に発生し,平坦型の頻度が高かった(11/12).

Table 3 

20mm以上群の異時性の癌および20mm以上のadenoma.

Figure 3 

内視鏡治療後の異時性のadvanced adenomaおよび癌の特徴.

a:ひだ上のT3病変,18mm(No. 1 in Table 3).

b:平坦で発赤調のTis,5mm(No. 6 in Table 3).

NBI観察にて不整なvesselおよびsurface patternを示す(No. 6 in Table 3).

c:平坦な腺腫,25mm(No. 8 in Table 3).色調は周囲と同色調.

d:ひだ上の平坦な腺腫,20mm(No. 11 in Table 3).

20mm以上群において異時多発性のAAもしくは癌が発生した群と発生しない群の比較を行ったが,最初に切除した腫瘍の特徴については腫瘍径,部位,肉眼径および病理において有意差を認めなかった.また最初の時点での10個以上のポリープの併存率も有意差を認めなかった(15.4%(8/52) vs 8.0%(15/187)).

Ⅶ 考  察

本研究では大腸腫瘍に対する内視鏡切除後の異時性多発病変について検討を行った.3年後のAAおよび癌の累積異時性多発病変の頻度は長径20mm以上の病変をESDで切除した群で22.9%であり長径20mm未満の病変をEMRで切除した群に比して有意に高値であった.

本邦から報告されたAAおよび癌異時多発性病変の研究については,長径6mm以上のポリープを切除した群と早期癌を切除したグループでその累積発生率は1年後,3年後で2.5%,5.4%および2.9%,5.7%と報告されている 26.またアメリカで行われたNational Polyp Studyにおいては異時性多発病変の発生は治療後3年後の経過観察群で3.3%とされている 27.それらに比べ,本研究における20mm以上群の累積発生率は1年後で4.7%,3年後で22.9%であり著明に高値を示した.一方で20mm未満群ではややこれまでの研究に比べ頻度は高いもののその頻度は各々1.8%,9.5%であり,20mm以上群に比して有意に低値であった.このような高値を示した一つの理由として5mm未満のポリープを切除していないことや大学病院を主体とした研究でありhigh risk症例に症例が偏っていた可能性は否定しえないが,長径20mm以上の大腸腫瘍切除後は高い異時多発性病変の発生と関連があることが考えられた.

20mm以上群において異時多発性のAAもしくは癌の発生についてはリスクファクターを解析したが,あきらかな因子は認められなかった.また癌であるか否かにおいてもその頻度に差異はなかった.以上より20mm以上の腫瘍を切除したことのみが異時多発のリスクファクターと考えられた.

以前であれば外科切除が行われたような大きな腫瘍に対しても内視鏡治療で治療することができるようになってきており,われわれは適切な経過観察期間を考える必要がある.American Society of Gastrointestinal Endoscopy (ASGE)のガイドラインでは長径10mm以上のポリープやvillousやhigh grade dysplasiaな病理像を示す腺腫病変を切除した際には3年後の経過観察の内視鏡を推奨している 17.また10個以上のポリープを認める症例においては3年以内の経過観察を推奨しているが,われわれの研究ではAAおよび癌の異時多発性病変が発生した症例のうちのわずか15.4%にしか認めなかった(Table 4).一方でEuropean Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE)のガイドラインでもvillousもしくはhigh grade dysplasiaの病理像を示す腺腫,10mm以上の腺腫,3つ以上の腺腫および10mm以上もしくはdysplasiaを示す鋸歯状腺腫に対して3年後の経過観察を推奨している 28.しかしながら両ガイドラインにおいて20mm以上の病変に対する取り扱いは記載されていない.欧米からの唯一の報告でも長径20mm以上の腫瘍の切除後がハザード比1.5(95% CI,1.1-2.1)で長径20mm未満より異時性多発病変の頻度が高いことを報告してはいるがガイドラインには反映されていない 29.われわれは本研究の結果から長径20mm以上の腫瘍を内視鏡切除した際にはより綿密な経過観察が行われるべきと考える.しかしながら本研究結果は単施設でえられたものであり今後多施設共同研究などによるさらなるエビデンスの蓄積が望まれる.

Table 4 

20mm以上群における異時性のAAおよび癌のリスクファクター.

異時性のAAおよび癌病変の発生には内視鏡の見逃しが関与していると考える.あるメタアナリシスでは通常光観察による見逃しは22%に上ると報告されている 30.われわれの研究で異時性のAAおよび癌の特徴として右側結腸および平坦型の頻度が高いことを示したがこれらの病変は通常光観察では発見しにくい.Eliteシステムを用いたNarrow band imaging (NBI, Olympus Medical Co., Tokyo, Japan)やBlue laser imaging (BLI, FUJIFILM, Tokyo, Japan)による高画質の狭帯域光観察はこれらのポリープの見逃しを減らす可能性があることが考えられる 31)~33.そして実際にわれわれは以前にBLIはポリープの視認性を向上させることを報告している 34.また透明フードの使用もひだ裏に存在するポリープの発見に有用であるとされる 35.以上より長径20mm以上の腫瘍を内視鏡切除後の経過観察の内視鏡においてはより異時多発性病変を発見しやすくするようにこのようなツールの使用も考慮されるべきである.

Ⅷ Limitations

本研究はretrospective studyである.また長径5m未満の腺腫の切除は行っていない.また,当施設では長径20mm以上のポリープの多くはESDで切除されているが一部EMRで切除されているものもありそのような症例は含まれていない.なお,経過観察前に2-3回の全大腸内視鏡検査を行い見逃し病変の除外を行っているが,一部の病変については見逃しが関与していると考える.また日本人のみを対象とした研究である.

Ⅸ 結  語

長径20mm以上の大腸腫瘍切除後の異時性多発病変は非常に高頻度であった.異時性病変の特徴は右側大腸および平坦型の頻度が高かった.以上より長径20mm以上の大腸腫瘍の内視鏡切除後はより短い検査間隔での慎重な経過観察の内視鏡検査が望まれた.

謝 辞

本研究への協力にあたり京都府立医科大学消化器内科の医局員に深謝します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:伊藤義人(アストラゼネカ,大塚製薬,MSD K.K.,大日本住友製薬,中外製薬,富士フイルム,メルクセローノによる寄付講座(J082003006).),内藤裕二(大塚製薬,武田製薬(J132003379 and J132003384)より奨学寄付金.))

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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