日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
径5mm以下でリンパ節転移を伴った胃神経内分泌腫瘍の1例
豊澤 惇希和唐 正樹 田中 盛富榊原 一郎山本 久美子泉川 孝一高橋 索真石川 茂直稲葉 知己中村 聡子
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2017 年 59 巻 4 号 p. 424-430

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要旨

症例は55歳女性.慢性腎不全にて維持透析中であった.上部消化管内視鏡で胃角部小彎に約8mm大の中心が陥凹した粘膜下腫瘍様の隆起を認めた.生検では診断しえず,診断目的にESDを行った.病理結果は径4mmの胃神経内分泌腫瘍でRindi分類のTypeⅢと診断した.ESD後7カ月の腹部CT検査で胃小彎リンパ節の増大を認めた.PET/CTを撮像したが,フルオロデオキシグルコース(FDG)の集積は軽度であったため,診断目的にEUS-guided fine needle aspiration(EUS-FNA)を行った.その結果,神経内分泌腫瘍の転移と診断し,追加外科手術を行った.径4mmの微小な胃神経内分泌腫瘍からのリンパ節転移は稀であり,貴重な症例のため報告する.

Ⅰ 緒  言

胃の神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)は胃癌取り扱い規約14版では胃カルチノイド腫瘍と胃内分泌細胞癌に分けられる.そのうち胃カルチノイド腫瘍はWHO分類2010ではNET G1(grade 1)とNET G2に分類される.胃NETの治療方針決定にはRindi分類 1が広く用いられ,Type ⅢはType ⅠやType Ⅱと比較して転移頻度が高く,予後が悪いとされている.われわれは径4mmの微小な病変にもかかわらずリンパ節転移を認めたRindi分類Type Ⅲの胃NET G1症例を経験した.稀な症例であり文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:55歳,女性.

主訴:特になし.

既往歴:慢性腎不全,労作性狭心症.

家族歴:特記事項なし.

生活歴:喫煙なし.飲酒なし.

現病歴:慢性腎不全のため当院腎臓内科にて維持透析中であった.2009年4月の上部消化管内視鏡(以下EGD)では軽度の萎縮性胃炎を認めるのみであった.2010年6月のEGDで胃角部小彎にびらんを伴う隆起性病変を認めたが,生検結果はGroup1であり経過観察とした.2014年9月のEGDで同病変は粘膜下腫瘍様に形態が変化し,中心に陥凹面を認めたため,精査目的に当科紹介となった.

入院時現症:身長161.7cm,体重66kg,体温36.5℃,血圧129/92mmHg,脈拍79回/min,腹部は平坦軟で圧痛なし,下腿浮腫なし.

入院時検査所見:Hb11.0g/dlと軽度貧血,腎機能低下を認めた.CEAやCA19-9など腫瘍マーカーの上昇は認めなかった.ガストリン値は560pg/mlと高値を示した.血清ヘリコバクター・ピロリ抗体は4U/mlと陰性であった.他の血液検査に異常は認めなかった.

EGD所見:2010年時に木村・竹本分類でC-Ⅰの萎縮性胃炎と,胃角部小彎にびらんを伴う約6mm大の隆起性病変認めた(Figure 1-a).2014年時には形態が変化し,明瞭な中心陥凹を伴う約8mm大の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた(Figure 1-b,c).中心陥凹の辺縁よりの生検では,採取した組織内の一部に異型の乏しい均一な小型細胞を認めたが,非常に少数であり診断には至らなかった.

Figure 1 

EGD.

a:2010年通常観察.胃角部小彎にびらんを伴う隆起性病変認める.

b:2014年通常観察.

c:同色素内視鏡(インジゴカルミン).中心陥凹を伴う粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認める.

腹部単純CT検査:胃角部の病変は指摘できず,胃小彎リンパ節が9mm大と腫大していた(Figure 2).

Figure 2 

腹部単純CT検査.

胃小彎リンパ節が9mm大と腫大を認める(矢印).

EUS所見:第2層に径4mm大の内部均一な低エコー腫瘤を認めた.第3層以下は保たれていた.

以上より,粘膜下層に主座を置き,増大する腫瘍として2014年12月に診断的治療目的にESDを施行した.

病理組織所見:弱拡大で腫瘍は粘膜下から粘膜筋板を越えて粘膜下層に広がり,黒矢印で示す範囲に認め,内視鏡で認めた陥凹部には白矢印で示す部位にびらんと,矢頭で示す範囲に生検後に再生したと思われる再生粘膜を認めた(Figure 3-a).強拡大では索状からリボン状の配列を示す小型で異型の乏しい均一な細胞が増殖していた(Figure 3-b).免疫組織学的検査ではシナプトフィジンとクロモグラニンAが陽性であった(Figure 3-c,d).Ki-67陽性細胞は1%未満であり,核分裂像数は2未満/10HPFであった.D2-40染色でリンパ管侵襲を認めず,Elastica van Gieson染色で静脈侵襲も認めなかった.

Figure 3 

ESD病理組織検査.

a:弱拡大.HE染色.

b:強拡大.HE染色.黒矢印の範囲に索状からリボン状の配列した小型で異型の乏しい均一な細胞を認める.

c:弱拡大.シナプトフィジン染色陽性.

d:弱拡大.クロモグラニンA染色陽性.

以上の所見から2010年のWHO分類で胃NET G1と診断した.ガストリン値は560pg/mlと高値であったが,萎縮が木村・竹本分類でC-Ⅰと軽度であったこと,追加した検査より抗胃壁細胞抗体10倍で陰性,抗内因子抗体陰性であったことからA型胃炎が否定的であったことと,画像上,多発性内分泌腺腫症(multiple endocrine neoplasia;MEN)1型の所見を認めないことからRindi分類のType Ⅲと診断した.

2015年の膵・消化管NET診療ガイドライン 2では,Rindi分類Type Ⅲで遠隔転移を伴わなければ広範囲リンパ節郭清を伴う胃切除術を考慮するとされている.本症例において,術前より胃小彎リンパ節の腫大を認めたことから,組織学的評価も含め,同術式による追加治療を検討した.しかし,慢性腎不全に伴い維持透析中の状態であり,ご本人およびご家族に術式を含め十分な説明を行ったが,手術の同意は得られず,経過観察を希望された.

ESD後7カ月の腹部単純CT検査で胃小彎リンパ節は径13mmと増大傾向を認めたため,PET/CTを施行したが,SUVmax=2.10とフルオロデオキシグルコース(以下FDG)の集積はわずかであった.

しかし,経過中に増大傾向を認めたことから,リンパ節転移が強く疑われたため,再度追加外科切除をお勧めした.手術の決断にNETの転移であることが確定することを希望されたため,同リンパ節に対して,同月EUS-FNAを施行した.22Gで穿刺し,病理組織所見上,HE染色では検体の一部に小型で異型の乏しい均一な細胞を認め,免疫組織学的検査ではシナプトフィジン(Figure 4)とクロモグラニンAが陽性であり,胃NETの転移と診断した.

Figure 4 

EUS-FNA病理組織検査.

強拡大:シナプトフィジン染色で陽性の小型で異型の乏しい均一な細胞を認める.

EUS-FNAの結果を踏まえ,ご本人およびご家族も追加外科手術に同意され,2015年9月に腹腔鏡下幽門側胃切除術,D2郭清を施行した.

病理組織所見:切除した胃に明らかな腫瘍の残存や再発は認めなかった.リンパ節は,腫大を認めていた胃小彎リンパ節を含め3個に転移を認めた.

術後経過:術後順調に経過し,第66病日に退院となった.2016年3月の現在まで再発を認めていない.

Ⅲ 考  察

NETは内分泌細胞や神経細胞から発症する腫瘍の総称で,以前はカルチノイドと呼ばれていた.2010年のWHO分類でNETの範疇に入れられ,カルチノイドという用語はカルチノイド徴候のみに用いられるようになった 3

NETは比較的稀な腫瘍であるが,その罹患率は年々増加傾向にある.発生頻度は10万人に5.25人の割合で発症し,全悪性腫瘍の1~2%を占めると言われている.そのうち消化管NETは58%を占め,胃は6%の割合で発生するとされている 4

NETは2010年のWHO分類で核分裂数やKi-67 indexにより高分化型のNET G1/G2と低分化型のNEC(neuroendocrine carcinoma)G3に分けられている.本症例はNET G1であった.

胃NETの分類にはRindi分類1が広く用いられている.Type ⅠはA型胃炎などに伴う高ガストリン血症例に生じ,Type ⅡはMEN 1型やZollinger-Ellison症候群に伴って発症する.Type Ⅲは高ガストリン血症を伴わない散発例である.本症例は基準値が200pg/ml以下であるガストリン値が560pg/mlと高値であった.ガストリンは胃幽門前庭部および十二指腸粘膜に存在するG細胞で産生される消化管ホルモンであり,高ガストリン血症を来す原因としてプロトンポンプ阻害剤(PPI)の長期内服や,慢性腎不全,A型胃炎,ガストリノーマ等が上げられる.PPI内服で2~4倍に上昇する報告 5や慢性腎不全で約2倍に上昇する報告 6を認め,本症例は慢性腎不全があり,PPIを内服していることから,そのための上昇と考え,内視鏡所見でA型胃炎の所見を認めないことやA型胃炎の多くの症例ではガストリン値は1,000pg/ml以上の異常高値を示す 7ことからType Ⅰを除外し,画像上,下垂体や副甲状腺,膵に病変を認めないことからType Ⅱを除外しType Ⅲと診断した.

胃NETの治療は膵・消化管NET診療ガイドライン 2によるとRindi分類のType別により決まる.Type ⅢはType Ⅰ,Ⅱと比較して転移頻度が高く,Ki-67 indexも高いことが多いため,予後が悪いとされている 8.そのためType Ⅲの症例では原則リンパ節郭清を伴う胃切除術が推奨されている.

本症例は内視鏡切除前の生検では診断に至らなかった.そのために,診断と治療を兼ねてESDを行った.その結果,胃NETでRindi分類Type Ⅲと診断することができた.切除前の生検で診断に至らなかった理由をESDで得られた病理組織像より検討したところ,本症例の腫瘍径は4mmであったが,Figure 3-aのように粘膜下層の腫瘍により周囲粘膜が挙上され,隆起を形成したため内視鏡時には腫瘍径を8mm大と大きく見誤り,術者が本来生検すべき中心部分でなく,陥凹辺縁より生険を行ったため,中心陥凹部分に存在した腫瘍部より組織が十分に採取できなかったためではと考えた.

本来はESDで診断が得られた時点でリンパ郭清を伴う胃切除術を追加すべき症例であったが,ご本人およびご家族が希望されず,経過観察とした.しかし,経過観察中に指摘されていたリンパ節の増大を認め,EUS-FNAを施行した結果,転移の診断に至り,最終的には外科切除に至った反省すべき症例であった.

腫瘍径とリンパ節転移に関して,赤松ら 9は本邦におけるType Ⅲの症例を多施設で検討し,腫瘍径が5mm以下の病変ではリンパ節転移は8例中0例(0.0%)であり,6~10mmでは11例中1例(8.3%)と報告し,Type ⅢでもNET G1ないしNET G2でかつ10mm以下の病変に限りESDを含めた内視鏡治療の適応になり得ると述べている.しかし,少数例での検討であり,本症例は径4mmと5mm以下にもかかわらずリンパ節転移を認めた.

本症例の様に径5mm以下でリンパ節転移を伴う胃NET症例を検討するため医学中央雑誌(1985~2015年)とPubMed(1949~2015年)で「胃カルチノイド,リンパ節転移」,「胃NET,リンパ節転移」,「gastric carcinoid,lymph node metastasis」,「gastric NET,lymph node metastasis」で検索し,5mm以下の症例をまとめたところ,自験例も含めTable 1のごとく7例を認めた 10)~15.7例の平均年齢は44.1±12.6歳.男性3例,女性4例であった.Rindi分類はType Ⅲが4例,不明が3例と判明しているのはすべてType Ⅲであった.部位は胃体部4例,前庭部2例,胃角部1例であり,形態は粘膜下腫瘍様が4例で,4例中3例では本症例と同様に頂部に陥凹を伴っていた.他はⅡaが1例,Ⅱcが1例であり,1例は前医で治療後のため詳細が不明であった.治療は3例が当初よりリンパ節郭清を伴う外科手術を選択し,2例が局所切除後に追加切除を施行.本症例を含め2例が内視鏡切除後に外科切除を追加しており,全例で最終的に外科切除が行われていた.

Table 1 

径5mm以下でリンパ節転移を伴った胃NET症例.

本症例では,当初よりリンパ節の腫大を認め,胃NETの転移かどうかが問題となった.転移診断の方法の一つとして画像診断のFDG-PETがある.消化管NETのPETでの陽性率は11C-5 Hydroxytryptophanを核種として用いた検査では95%の検出率を示したとの報告 16を認めるが,FDGでは転移を伴う症例で陽性率が72% 17,原発巣で30~40% 18とされ,陽性率は決して高くない.本症例においてもEUS-FNA施行前にPET/CTを施行したが転移巣に強いFDGの集積は認めなかった.

組織診断を行う方法の一つとしてEUS-FNAがある.EUS-FNAでの腫大リンパ節に対する検体採取率は96~100%.正診率が82~96%,感度は85~95%,特異度は93~100%と良好な成績が報告 19され,日常臨床において行われている.本症例においては,ご本人及びご家族が外科手術を決断するために腫大リンパ節がNETの転移と確定することを希望されたため,組織学的診断としてEUS-FNAを行った.その結果NETの転移と診断が確定し,同意を得て外科手術を行った.治療方針の決定に全例で腫大リンパ節の組織学的診断が必要な訳ではなく,EUS-FNAですべての診断が確定するものではないが,EUS-FNAは腫大リンパ節の診断に有用な方法の一つと考える.

本症例の経験より,Rindi分類Type Ⅲの胃NETは腫瘍径が5mm以下と微小であっても転移を来すことがあるため,腫瘍径のみで安易に内視鏡切除を検討せず,治療方針を検討する必要があると考える.

Ⅳ 結  語

径4mmと微小にもかかわらずリンパ節転移を伴った胃NETの1例を経験した.Rindi分類Type Ⅲの胃NETは微小であっても,リンパ節転移の可能性を考慮した治療方針の決定が重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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