2017 年 59 巻 4 号 p. 444-449
症例は77歳,男性.便潜血陽性で行った下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に6mm大のⅠs型腺腫性ポリープを認め,cold polypectomyを施行した.その6時間後に急に右側腹部痛が出現し,当院救急搬送となった.身体所見上は同部に筋性防御・反跳痛を認め,腸管穿孔による腹膜炎の可能性が疑われたが,画像上はpolypectomy後の部位に一致して限局的な炎症所見のみで明らかな穿孔所見は認めず,post-polypectomy syndromeが疑われた.保存的加療にて軽快し,第8病日に退院した.
Post-polypectomy syndromeは本邦ではあまり知られていないが,大腸内視鏡的ポリープ切除後約6~24時間後に発熱・白血球増加とともに腹部にpolypectomy部に一致して筋性防御を伴う局所の圧痛を認める病態で大腸内視鏡的ポリープ切除後の重大な合併症の1つである.頻度としては1%程度で 1),2),入院を必要としたのは0.07% 3)との報告がある.
Post-polypectomy syndromeの機序としては同義語にpost-polypectomy coagulation syndromeやtransmural burn syndromeがあるように,polypectomyの際の高周波電流刺激により引き起こされた組織の熱性障害が原因となって,障害が全層及び漿膜まで達すると局所性に腹膜が刺激され,腹膜刺激症状である筋性防御や反跳痛,そして発熱や白血球増加を示すものといわれている 1).
この機序からpost-polypectomy syndromeはcold polypectomyでは起こらないと考えられ,これまで報告はない.今回cold polypectomy後にpost-polypectomy syndromeの発症が疑われた症例を経験した.
患者:77歳,男性.
主訴:腹痛.
既往歴:高血圧症,脂質異常症,前立腺癌(5年前手術).
内服歴:ニフェジピン,ピタバスタチンカルシウム,ブロチゾラム.
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:生来健康で特に感染を起こしやすいといったことはなかった.検診にて便潜血陽性を指摘され,下部消化管内視鏡検査を行ったところ,上行結腸に6mm大のⅠs型腺腫性ポリープを認め,cold snare polypectomy(Exacto cold snare 9mm,US endoscopy/富士フイルム)を施行し,一部残存が疑われた部位に対してcold forceps polypectomy(Radial Jaw 4 3.2mm,Boston scietific)を追加した.切除後に湧出性の出血があり,切除部に注水しながら1分ほど観察したが出血が持続するためクリッピング(EZクリップ,Olympus)を切除部位に対して垂直に当てて横一線にクリップが並ぶよう計6回行った(Figure 1).その際の下部消化管内視鏡でCO2は使用していなかった.帰宅して夕食をとり,検査して約6時間の経過後,急に右側腹部痛が出現し,当院へ救急搬送となった.

a:入院前に施行された下部消化管内視鏡検査で上行結腸に6mm大のⅠs型腺腫性ポリープを認めた.
b:Cold snare polypectomy施行.
c:Cold forceps polypectomy追加.
d:Cold polypectomy後,湧出性の出血が持続.
e:クリップにて止血.
身体所見:身長160cm,体重62kg,体温37.6℃,脈拍62/min,血圧164/73mmHg.眼球結膜黄疸なし,眼瞼結膜貧血なし.呼吸音正常.心音正常.腹部は平坦,軟,右側腹部に圧痛・筋性防御・反跳痛あり.明らかな皮疹なし.
臨床検査成績:特に異常は認めず(Table 1).

臨床検査成績.
腹部造影CT:上行結腸のcold polypectomy後のクリップ部位を中心に限局性壁肥厚および周囲の脂肪織濃度の上昇を認めた.クリップ周囲の壁内にガスを認めるが,明らかな腹腔内遊離ガスは認めなかった(Figure 2).

来院時の腹部造影CT(冠状断).上行結腸のcold polypectomy後のクリップ部位を中心に限局性壁肥厚および周囲の脂肪織濃度の上昇を認める.クリップ周囲の壁内にガスを認めるが,明らかな腹腔内遊離ガスは認めない.
病理:病変はlow grade adenomaであり,cold snare polypectomyの検体(Figure 3-a),cold forceps polypectomyの検体(Figure 3-b)ともに筋層はおろか粘膜下層も巻き込んでおらず,粘膜筋板までであった.特に血管が多いなど特徴的な所見も認めなかった.

a:-cold snare polypectomyの検体.
b:-cold forceps polypectomyの検体.
いずれも切除部位は粘膜筋板までであった.
臨床経過:身体所見上は限局性の腹膜炎が疑われたが,画像上は明らかな腸管穿孔所見は認めなかったため,post-polypectomy syndromeを疑い,絶食,補液,抗生剤(Cefmetazole 2.0g/day)の保存的加療で経過をみることとした.第3病日の採血にてCRPの上昇を認めたが,反跳痛は消失し,状態は軽快傾向であった.第5病日では腹部の圧痛も消失し,同日より経口摂取を開始した.第6病日に抗生剤を中止し,その後も状態は悪化することなく,第7病日の採血ではCRPの低下を認め,第8病日に退院となった(Figure 4).

入院後経過.
Post-polypectomy syndromeの診断基準として定まったものはなく,大腸内視鏡的ポリープ切除後に腹痛,発熱,白血球上昇のいずれかがあり,穿孔を伴わない腹膜炎と診断した場合と定義されている3).本症例においても大腸内視鏡的ポリープ切除後に腹痛・発熱を認め,採血では白血球上昇は認めなかったが,画像上はポリープ切除部位を中心に明らかな腸管穿孔は伴わない大腸壁の肥厚および周囲の脂肪織濃度の上昇を認め,身体所見上も反跳痛といった腹膜炎を疑わせる所見も認められ,post-polypectomy syndromeと診断した.一過性の虚血性変化に伴う腸管粘膜の浮腫や腸管過伸展によるbacterial translocationなどの可能性も考えられたが,好発部位が異なること,腸管壁肥厚が切除部位に限局していたことから否定的と考えた.
Post-polypectomy syndromeの独立した危険因子としてCha JMらは高血圧,病変の大きさ,非隆起型の形態を挙げている 3).また,Yamashina Tらは結腸直腸癌に対する内視鏡的粘膜下層切除後における検討であるが,post-polypectomy syndromeの独立した危険因子として女性,右半結腸,40mm以上の大きな病変を挙げている 4).
Cold polypectomyは高周波切開凝固装置を使用せずにスネアを用いて大腸ポリープを除去するcold snare polypectomyとスネアを使用せずに鉗子で除去するcold forceps polypectomyの2種類の方法があり,10mm未満のポリープの切除において非常に安全であるといわれ 5),6),当院でも2015年4月より導入した.
Post-polypectomy syndromeはpolypectomyの際の高周波電流刺激により引き起こされた組織の熱性障害が原因となって引き起こすため1),cold polypectomyでは起こらないと考えられたが,本症例においてpost-polypectomy syndromeが認められたのは,それ以外の機序によるものと考えられる.
大腸内視鏡的ポリープ切除後のpost-polypectomy syndromeに類似した合併症で腹部所見が乏しいが発熱のみ起こるpost-polypectomy feverという病態がある.Post-polypectomy feverは腹部所見以外の病態,2cm以上の大型のポリープや高血圧といった危険因子がpost-polypectomy syndromeと酷似しており 7),post-polypectomy syndromeの軽症型ではないかといわれている 8).Post-polypectomy feverの機序としては,①Post-polypectomy syndromeと同様のポリぺクトミーの際の高周波電流刺激による機序,②大腸粘膜切除による腸内細菌の血中への移行,③高水準の炎症性サイトカインを含むといわれる大型のポリープを切除したことによるサイトカイン血症,が考えられている 8).
以上より本症例におけるpost-polypectomy syndrome発症の機序について考察すると,cold polypectomyであるため①は否定的,小型のポリープであり③も積極的に考えにくく,②が最も疑われる.腹部所見から局所の炎症が起こっていると考えられ,画像所見における限局性の大腸壁肥厚や周囲の脂肪織濃度上昇,腸管壁内のガス像から限局のガス産生菌感染による炎症,それに伴う腸内細菌の血中への移行が起こったと考えられた.
本症例ではcold polypectomy後にクリップ縫縮を行っている.Cold polypectomyの病理所見からは粘膜下層は十分に残っておりクリップによる筋層の損傷などは考えにくく,やはり病理所見からも穿孔は否定的と考えられた.クリップ縫縮とpost-polypectomy syndromeの関連に関する論文は調べた限りでは認めていないが,本症例では限局性の細菌感染が病態の中心と考えられ,クリップ縫縮による閉鎖腔の形成に伴い細菌増殖をきたした可能性が考えられる.これについては今後さらなる検討が望まれる.
Cold polypectomy後にpost-polypectomy syndromeを発症した一例を経験した.これまでcold polypectomyでpost-polypectomy syndromeを発症したという報告はなく,これまで考察されてきたpost-polypectomy syndromeの病態についても,今後さらなる検討が必要と考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし