日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
原著
大腸ポリープに対する内視鏡的切除の後出血予防のためのクリップ縫縮は必ずしも必要ではない
伊藤 錬磨 佐藤 広隆藤澤 信隆髙井 佑輔百々 秀彰松井 宣昭遠藤 智広中田 智大真田 治人
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2017 年 59 巻 5 号 p. 1302-1309

詳細
要旨

【背景・目的】大腸ポリープの内視鏡的切除後にクリップ縫縮を慣習的に行うことが多いが,その有無による後出血率,処置時間,コストについて検討した.【方法】2013年2月~2014年1月の内視鏡的切除後にクリップ縫縮を行った群174例332病変(Clip群),2014年2月~2015年1月のクリップ縫縮を行わなかった群210例434病変(Non-clip群)に対して患者背景(年齢/性別/基礎疾患/抗血栓薬内服の有無)や切除したポリープの背景(1人当たりの数/サイズ/部位/肉眼型/組織),後出血率,ポリープ1個の切除時間,Clip群で縫縮に必要としたクリップ数について検討した.【結果】背景に差はなく,後出血率はClip群1.7%,Non-clip群1.4%と差は認めず,切除時間はClip群257(91-1,789)秒,Non-clip群145(46-2,443)秒とNon-clip群で有意に短かった(p<0.01).縫縮に必要としたクリップ数は2(1-6)個で,コストは1,950円であった.【結論】切除後のクリップ縫縮は必ずしも必要ではなく,それに伴い処置時間の短縮化・コスト削減を図ることができる.

Ⅰ 緒  言

ポリペクトミー・内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)は大腸ポリープに対する主流の治療方法である.代表的な偶発症として後出血があり,予防として慣習的にクリップ縫縮を行っている施設は多い.

しかし,最近は大腸ポリープに対する内視鏡的切除後のクリップ縫縮の有無で後出血率に差はないとの報告が散見される 1)~3.大腸ESD/EMRガイドライン 4においては大型病変や抗血栓療法中の例に対してクリップ縫縮を勧めているのみで(エビデンスレベルⅣb,推奨度B),それ以外については記載がなく,各施設の判断に任せられている.

当施設では2014年1月まではポリペクトミー・EMR後,ほぼ全例にクリップ縫縮を行っていたが,2014年2月以降はクリップ縫縮は必要時のみ行うこととした.今回われわれはクリップ縫縮の有無による後出血率の差について基礎疾患や抗血栓薬の有無,切除したポリープの部位・大きさ・組織などを含めて後ろ向きに検討した.また,クリップ縫縮の有無による切除時間やコストの差についても検討した.

Ⅱ 方  法

対象は2013年2月~2014年1月に大腸ポリープに対して内視鏡的切除後にクリップ縫縮を行った群(Clip群)と2014年2月~2015年1月に大腸ポリープに対して内視鏡的切除後にクリップ縫縮を行わなかった群(Non-clip群)とし,除外基準は①血小板減少や凝固障害など易出血性の患者,②内視鏡処置中に噴出性出血をきたしてクリップ・高周波鉗子などの処置具で止血を必要とした例,③切除前に留置スネアやクリップを使用した例,④抗血栓薬内服患者で抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインに準拠せず施行した例とした.また,Non-clip群においては上記以外で術者の判断でクリップ縫縮を施行した例も除外した.その結果,対象はClip群174例332病変,Non-clip群210例434病変となった(Figure 1).後出血は治療後に顕性の血便がみられ,輸血または何らかの止血処置を要したものとした.

Figure 1 

対象と方法.

内視鏡的切除後に肉眼的に血便を認めたものと定義した.Non-clip群においては切除後に湧出性出血や露出血管を認めた場合はスネアの先端にて凝固処置を追加した(Figure 2).検討項目として年齢/性別/基礎疾患(過去の報告にならって虚血性心疾患,脳血管障害,高血圧症,糖尿病,肝硬変,慢性腎不全を挙げた)/抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬で分けて検討)内服の有無といった患者背景,1人当たりのポリープ数/ポリープの最大径/部位/肉眼型/組織といった切除したポリープの背景,後出血率やポリープ1個に要した切除時間について比較検討した.Clip群で切除したポリープ1個につき必要としたクリップ数やそれに伴うコスト,後出血との関連因子についても検討した.ポリープの肉眼型について,Ⅱa+Ⅱc等の複合型については優位な病型で記載した.切除時間については,切除前の画像と切除後の画像の間の時間とした.内視鏡医は5年以上の内視鏡経験のある医師4名で固定し,局注液は生理食塩水,高周波装置はICC200(Endocut effect 3,Forced 60W)とVAIO 200Sおよび300D(EndocutQ effect 3,Forced coag 40W)を使用した.クリップについてはOlympus社のEZクリップ(1個975円)を使用した.

Figure 2 

スネアによる凝固処置.

今回の検討にあたって当施設の倫理委員会での承認を得た.

解析にはエクセル統計2012を使用し,各群の比較にはχ 2 test,Mann-Whitney U testを行い,後出血の関連因子についてはLogistic回帰分析を行った.

Ⅲ 結  果

患者の年齢や性別,基礎疾患,抗血栓薬内服等の患者背景について,いずれの項目についても両群間に有意差は認めなかった(Table 1).1人当たりのポリープ数/ポリープの最大径/部位/肉眼型/組織といったポリープの背景についても両群間で差はなかった(Table 2).後出血率はClip群1.7%,Non-clip群1.4%で差は認めず(p=0.82),ポリープ1個当たりの切除時間はClip群257(91-1,789)秒,Non-clip群145(46-2,443)秒とNon-clip群にて有意に短かった(p<0.01).Clip群において,切除したポリープ1個当たりに必要としたクリップ数は2(1-6)個で,コストについてはNon-clip群と1,950円の差を認めた.

Table 1 

患者背景.

Table 2 

内視鏡切除の結果.

後出血を発症したClip群3症例,Non-clip群3症例の患者背景と切除したポリープについて検討した(Table 34).Non-Clip群におけるNo.3の後出血例は,S状結腸と直腸の2カ所に対してEMRを施行しており,そのいずれが出血源か不明であったため,Table 4には両方を載せている.患者背景では抗凝固薬内服が6例中4例(66.7%)と多く,2例がワーファリン内服,2例がNOAC内服であり,抗凝固薬を数日前より(ワーファリンは最低3日前から,NOACは最低1日前から)中止してヘパリン化(ヘパリンナトリウム1万~1万5千単位/日)を行った.ヘパリンは内視鏡治療後2時間たってから再開し,NOACは翌日から内服を再開してヘパリンの投与は翌日まで行い,ワーファリンは翌日から内服再開し,ワーファリンの効果が認められるまでヘパリンの投与を行った.

Table 3 

後出血症例における患者背景.

Table 4 

後出血症例における内視鏡切除の結果.

ポリープの部位は直腸が7病変中4病変(57.1%)と多く,後出血をきたしたものはすべて腺腫であった.

後出血の関連因子について単変量解析(Table 5)後にLogistic回帰分析による多変量解析(Table 6)を用いて検討した.単変量解析では慢性腎不全の合併,抗凝固薬の服用,直腸病変において後出血のリスクが有意に高かった(p=0.02,p<0.01,p<0.01).虚血性心疾患は有意差を検出するには至らなかったが,後出血のリスクが高い傾向を認めた(p=0.07).上記の4項目に対して多変量解析を行ったところ,抗凝固薬の服用と直腸病変が有意差をもって後出血との関連を認めるとの結果であった(p<0.01,p<0.01).

Table 5 

後出血症関連因子の単変量解析結果.

Table 6 

後出血症関連因子の多変量解析結果.

Ⅳ 考  察

ポリペクトミー・EMRは2cm未満の大腸ポリープに対する代表的な治療法であり,大腸ポリープの増加とともに今後さらに増加する手技と考えられる.主な合併症としては出血や穿孔,post-polypectomy electrocoagulation syndromeなどが挙げられ 5)~7,その中でも後出血は頻度が0.96~2.2%と高いとされている 1)~3),5),7),8.20mm以上の側方発育型腫瘍におけるEMRの後出血率は7.0%であったとの報告もある 9

20mm以上もしくはポリープ頭が10mm以上の有茎性ポリープの切除において,予防的に留置スネアもしくは止血クリップの後出血予防効果についてはいくつか報告があり 10)~13,有用性について異論はなく,当院でもほぼ全例に行っている.

内視鏡的切除後のクリップ縫縮の後出血予防効果については,2cm以上の大腸ポリープについては有用であったとの報告 14),15や,さらに完全縫縮が部分縫縮や縫縮しない場合に比べて後出血が少なかったとの報告 16もあり,2cm以上の大腸ポリープに対する内視鏡的切除ではクリップによる完全縫縮を行う方がよいのかもしれない.しかし,ポリープ径が平均7mm程度の大腸ポリープに対する内視鏡的切除についての無作為化比較試験ではクリップ縫縮の有無で後出血率に差はないとの報告 1),2がある.今回のわれわれの検討でも予防的に留置スネアやクリップを必要としないポリープの平均サイズは7mm程度となり,その内視鏡的切除において後出血予防を目的としたクリップ縫縮は必要でないことが示された.

また,われわれは内視鏡的切除後の湧出性出血や血管断端に対してスネア先端による凝固処置を追加したが,10-20mm大の大腸ポリープに対するEMR後潰瘍にクリップ縫縮を行う場合とスネアによる凝固処置で後出血に差はなかったとの報告や 17,大腸EMR/ESDガイドラインにおいては静脈からの湧出性出血や小動脈からの出血はナイフ先端で軽く凝固処置を行うとの記載もあり 4,われわれのスネア先端による凝固処置は妥当だったと考えられた.

内視鏡的切除後の後出血の危険因子について過去の報告では抗凝固薬内服,ポリープのサイズや肉眼型Ⅰp型,局在(右側結腸または左側結腸),基礎疾患(糖尿病)などの関連が高いと言われている 2),6),8),16.これらの報告を踏まえて,今回単変量解析後に多変量解析で検討したところ,局在が直腸であることと抗凝固薬の服用が有意な関連を認めた.今回の検討でポリープのサイズおよび肉眼型Ⅰp型と後出血率に相関がみられなかったのは,当院では20mmを越えるⅠp型ポリープについてはほぼ全例予防的に留置スネアもしくはクリッピングが施行されており,検討から除外されたのが関係していると考えられた.後出血と関連の高いポリープの部位については報告によって,右側結腸や左側結腸,今回のわれわれの検討では直腸と報告ごとに異なっている.今回の検討では後出血を肉眼的に血便を認めたものと定義したため,直腸との関連が強かったものと考えられた.抗凝固薬内服と後出血については,今回の検討でも他の報告 2),8同様に関連を認め,抗凝固薬内服患者における内視鏡的切除は注意を要すると考えられる.抗凝固薬内服例における後出血予防に,クリップによる完全縫縮を行うことが有用かどうかについては今後さらなる検討が必要である.

今回の検討にて制限をいくつか認める.1つ目は単施設の後ろ向き検討であること.2つ目は当科でも以前から日常診療における大腸ポリープ内視鏡切除後のクリップ縫縮の有用性は懐疑的で,2014年2月以降はクリップ縫縮をほとんど行わないようにしたが,やはり術者の判断でクリップ縫縮を行っている症例は散見されており,それらの症例は除外されており,選択バイアスの存在は否定できない.3つ目は後ろ向き解析でバイアスがあるため,両群の背景に差があることである.しかし,両群における患者背景や内視鏡切除の結果に大きな差を認める項目はなかったため,全く異なる背景で比較されたわけではないと考えている.

今回の検討にて後出血予防のクリップ縫縮は必ずしも必要ではないことが示された.クリップ縫縮を省略することにより,1個のポリープ切除当たりの処置時間を平均113.3秒短縮,平均1,950円のコスト削減が可能となり,非常に有益であると考えられた.

Ⅴ 結  語

大腸ポリープに対する内視鏡的切除後の後出血予防を目的としたクリップ縫縮は必ずしも必要ではなく,クリップ縫縮を省くことにより,処置時間の短縮化・コスト削減を図ることができる可能性が示された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top