日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
直視鏡を使用した膵管ステント留置により胆管挿管に成功した憩室内乳頭の1例
鈴木 雅人関野 雄典 永嶌 裕樹野上 麻子佐藤 晋二梅村 隆輔金沢 憲由川名 憲一永瀬 肇
著者情報
キーワード: ERCP, 憩室内乳頭, 胆管炎, 直視鏡
ジャーナル フリー HTML

2017 年 59 巻 5 号 p. 1329-1334

詳細
要旨

症例は82歳,女性.右季肋部痛で当院に受診され,軽症急性胆管炎の診断で内視鏡的胆管ドレナージ目的にERCPを施行した.十二指腸主乳頭(以下乳頭)は傍乳頭憩室内に位置しており,十二指腸鏡を用いた通常の方法では乳頭近接や胆管挿管は不可能であった.そこで,透明フードを装着した直視鏡に内視鏡を変更することで乳頭正面視が容易となり,膵管ステント留置に成功した.膵管ステントにより乳頭が憩室外に位置調整され,ERCPを完遂することが可能となった.本法は高侵襲な処置や難易度の高い処置を行わずに胆管挿管可能であり有用な方法と考えられる.本症例のような憩室内開口症例に対しては一つの有効な選択肢として優先されるべきであると考えられた.

Ⅰ 緒  言

十二指腸乳頭部近傍は十二指腸内で最も憩室が生じやすい部位であり,ERCP施行時に傍乳頭憩室に遭遇することは少なくない.傍乳頭憩室はERCP施行の際に胆管挿管が困難となる要素の一つとされているが,その理由として乳頭の正面視が困難であることが挙げられる.内視鏡の操作のみで乳頭正面視が困難である場合は,経皮的あるいはEUSガイド下胆道ドレナージを併用したランデヴー法やクリップ法,粘膜下局注法の併用などによって胆管挿管が可能となる場合がある.われわれは傍乳頭憩室を有する胆管挿管困難例に対して直視鏡を使用し膵管ステントを留置したことにより,乳頭位置の調整と胆管挿管が可能となった症例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

症例:82歳,女性.

主訴:腹痛.

既往歴:アルツハイマー型認知症,糖尿病,脂質異常症.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:平成27年5月上旬に健康診断で施行した腹部超音波検査で,総胆管拡張を指摘されていた.同年6月上旬,右季肋部痛が出現したため,当科を受診した.

入院時現症:身長150cm,体重60kg,血圧133/70mmHg,脈拍83回/分,体温36.5℃.腹部は平坦,軟.心窩部・右季肋部に圧痛を認める.反跳痛なし.

臨床検査成績:WBC 8,600/μl,T-Bil 2.66mg/dl,D-Bil 1.66mg/dl,AST 191U/l,ALT 253U/l,ALP 515U/l,γ-GTP 175U/l,CRP 4.79mg/dlと炎症反応上昇と肝胆道系酵素上昇を認めた.CRE 1.42mg/dlと腎機能障害を認めるが,脱水が原因と考えられ入院経過中に改善が認められている(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

腹部単純CT検査:傍乳頭憩室を認める.総胆管径は10mmと軽度拡張を認めるが総胆管内に明らかな結石は同定できない.胆嚢内に結石は認めない.

入院後の臨床経過:軽症急性胆管炎 1の診断で内視鏡的胆管ドレナージの方針とした.入院同日にERCPを施行した.CTで指摘されていた通り,傍乳頭憩室を認めた(Figure 1).十二指腸乳頭は憩室内右側辺縁に開口していた.JF260V(OLYMPUS社),5Fr RX ERCP Cannula(BOSTON SCIENTIFIC社),0.035inch Jag wire Straight Tip(BOSTON SCIENTIFIC社)を用いて胆管挿管を試みた.スコープのアングル操作やpush操作での乳頭正面視は不可能であり,カテーテルでの乳頭位置の牽引・矯正も行ったがやはり乳頭正面視や近接,胆管挿管は不可能であった(Figure 2).そこで,透明フード(ディスポーサブル先端アタッチメント11.35mm,OLYMPUS社)を装着したGIF-H290(OLYMPUS社)にスコープを変更し,フードで憩室縁をめくるようにスコープを進めると,乳頭正面視が可能となり(Figure 3),膵管へのGW挿入は容易であった.鉗子起上装置を持たない汎用上部内視鏡では,膵胆管への軸合わせや膵管ガイド法は困難であったが,5 Fr 30mm膵管ステント(COOK社)を留置すると,乳頭位置がステントにより憩室外向きに偏位した(Figure 4).再度JF260Vに変更することで,比較的容易に胆管挿管が可能となり,6 Fr ENBDカテーテル(ガデリウスメディカル社)を留置することに成功した(Figure 5).術後は合併症を認めなかった.胆管炎の原因としては結石や腫瘍性病変は指摘できず,傍乳頭憩室を要因としたレンメル症候群が疑われた.術後経過としては,せん妄が非常に強く安全な入院加療の継続が困難であったため,第2病日に7 Fr×7cm胆管ステント(FleximaTM Boston Scientific社)を留置し,第4病日に退院となった.

Figure 1 

内視鏡所見.十二指腸憩室内の乳頭は十二指腸鏡での通常観察では目視不可能であった.

Figure 2 

内視鏡所見.乳頭(○)は傍乳頭憩室内に開口しており,カテーテルによる乳頭の牽引を行うも,胆管挿管は不可能であった.

Figure 3 

内視鏡所見.透明フードを装着した直視鏡を用いることによって乳頭正面視が可能となった.

Figure 4 

内視鏡所見.膵管ステントの留置後,乳頭が遠景視野で正面視可能な方向に偏位した.

Figure 5 

X線透視所見.ENBD造影では,総胆管結石や閉塞起点となる病変を認めなかった.

Ⅲ 考  察

傍乳頭憩室はERCP例の10~20%に認められるとされ,ERCP施行の際,①乳頭を正面視できない,②乳頭周囲支持組織が脆弱であり挿管の際に乳頭が後退してしまう,などの理由から胆管挿管を困難にする要因の一つとされている 2.本症例は十二指腸鏡で乳頭の正面視が困難であり,内視鏡の操作・カテーテルを用いての乳頭位置の矯正や送脱気などを行っても正面視や近接,胆管挿管は不可能であった.透明フードを装着した直視鏡に内視鏡を変更すると乳頭の正面視が可能となった.直接の胆管挿管を試みたが鉗子起上装置を備えていないため困難であり,膵管ステントの留置のみに留まった.しかし,膵管ステントの留置によって乳頭位置が憩室外に矯正され,十二指腸鏡に変更した際に乳頭正面視が可能となり,胆管挿管に成功した.

日常診療で遭遇する頻度の高い傍乳頭憩室に対する胆管挿管には,系統だった戦略を用いてアプローチすることが重要であり,これまでもいくつかの方法が報告されている.挿管困難例の内,乳頭正面視が可能であればまずWire-guided Cannulation(以下WGC) 3や膵管ガイドワイヤー法(以下PGM) 4など一般的に汎用される方法でアプローチを行い,それでも挿管困難であればプレカット法を用いるべきであろう.乳頭正面視が困難な場合はWGCやPGMでは対応困難であるので,まずスフィンクテロトーム法 5でアプローチし,不可能であった場合はTwo-devices in one channel method 6や経皮経肝ルートあるいはEUSガイド下胆道ドレナージを併用したランデヴー法 7といった手技的難易度の高い手技が選択されるだろう.しかし,Two-devices in one channel methodは大口径スコープが必要であり,EUSガイド下胆道ドレナージを併用したランデヴー法では透視室でのEUSが可能な環境が必要という問題がある.また,経皮経肝ルートを併用したランデヴー法ではある程度の胆管拡張が必要であり,場合により外瘻状態となる欠点がある.これらの手段での処置が不可能である場合はクリップ法 8や粘膜下局注法 9を用いる可能性があるが,前者は再処置困難であり,後者はそれに加えて侵襲性が高いという欠点がある.

われわれの施設では乳頭正面視が困難であった場合には,直視鏡への内視鏡変更を第一選択としている.直視鏡併用の利点としては,①透明フードを装着することで,乳頭の正面視と近接が比較的容易になることが多いこと,②特別な処置具が不要であり,一般的な施設であれば必ず備えていると思われること,③低侵襲な処置であること,が挙げられる.欠点としては,鉗子起上装置を備えていないためカテーテルの操作性が悪く本症例の様に直接の胆管挿管が比較的困難である点が挙げられるが,膵管ステントを留置することによって乳頭位置が憩室外向きに矯正され,段階的に胆管挿管を行うことが可能である.また,複数回の内視鏡挿入に伴う侵襲があるものの,クリップ法,粘膜局注法と比較して乳頭及び乳頭周囲組織へ与える侵襲度は低く,処置が成功しなかった場合にも再処置が困難となるリスクが低い.当科では直視鏡でのアプローチが不可能である場合には,経皮経肝ルートやEUSガイド下胆道ドレナージを併用したランデヴー法を想定しているが,いずれも穿刺に伴う出血リスクが懸念され,特に後者はEUS下ドレナージとそのトラブルシューティングに対応可能なhigh volume centerでしか施行できず,現状では頻用されるべきではない手段であろう.

当院では,十二指腸鏡で処置困難な憩室内乳頭症例に対する本法でのERCPを,本症例を加えて4例施行しているが,全例で膵管ステント留置後に十二指腸鏡で胆管挿管に成功している.また,医学中央雑誌で「傍乳頭憩室」「直視鏡」「胆管挿管(カニュレーション)」で検索したところ2例 10),11が該当し,そのうち1例のみが胆管挿管に成功していた.PubMedで「intradiverticular papilla」「cannulation」「forward-viewing endoscope」で検索したところ1例 12が該当し,胆管挿管に成功していた.当院での症例及び文献的考察も含めると7例中6例が直視鏡を用いて段階的に胆管挿管に成功している(Table 2).当院の4症例おいては憩室内の乳頭の位置や乳頭の形態に関わらず直視鏡での膵管ステント留置が可能であり,十二指腸鏡で乳頭位置の憩室外向きへの矯正がなされ,胆管処置に成功している.当院で最も難渋した症例が症例4であったが,本例は乳頭が平坦型であり開口部自体が不明瞭であったこと,近接法では乳頭直上の膵管の屈曲を伸ばすことが難しく,深部膵管へのガイドワイヤーや膵管ステント挿入が困難であった.いずれも透明フードを装着したGIF-H290,PCF-H290I(OLYMPUS社)での処置が困難であったため,最終的にGIF-XP290N(OLYMPUS社)を用いて膵管ステント留置に成功した.直視鏡を用いた際にも乳頭の形状が胆管膵管挿管の難易度に影響を及ぼすと考えられるが,症例数が少なく内視鏡の選択に関しては今後更なる検討が必要だと考えられる.

Table 2 

当院における憩室内乳頭に対する直視鏡使用例の胆管挿管成績.

直視鏡の使用は手技的難易度の高い手技や侵襲性の高い手技を行わず胆管挿管可能となる可能性があり,憩室内開口となっているような症例に関しては一つの有効な選択肢と考えられた.

Ⅳ 結  語

今回,私達は十二指腸鏡での通常手技で胆管挿管困難な憩室内乳頭の一例に対して,透明フードを装着した直視鏡を使用して膵管ステントを留置することで段階的に胆管挿管を可能とした.一般的な施設であれば安全に施行可能な手技であり乳頭正面視が困難な憩室内乳頭症例に対する胆管挿管の第一選択肢となり得ると考えられた.

本論文の要旨は第101回日本消化器内視鏡学会関東地方会において発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top