筆者らの食道胃静脈瘤治療コンセプトは排血路血流を制御して,静脈瘤を逆行性に血栓で閉塞するところにある.逆行性の閉塞により静脈瘤に直接供血する静脈路の閉塞を期待でき,静脈瘤に直接関与しない血液の逃げ道となる静脈路は温存することができる.筆者らは食道静脈瘤に対しては内視鏡的硬化療法(EIS)を基本に,内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を補助的に使用している.内視鏡的硬化療法結紮術併用療法(EISL)は両者の長所を兼ね備えた治療手技である.
現在,食道胃静脈瘤の代表的内視鏡的治療法は内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS) 1)と静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL) 2)である.本稿では,食道胃静脈瘤の基本的治療手技であるEISとその応用である内視鏡的硬化療法結紮術併用療法(endoscopic injection sclerotherapy with ligation:EISL) 3),4)のコンセプトと手技について解説する.
1978年高瀬ら 1)によって逆行性に硬化剤を供血路まで注入するEIS(高瀬法)の報告がなされた.以後高瀬法は手技の手軽さや低侵襲性および止血効果にすぐれていることから本邦において爆発的に普及した.今日でも高瀬法は食道静脈瘤治療の中心的位置を占める.一方,単に内視鏡下で食道静脈瘤のみを治療対象とする手技もある.両者共にEISという言葉で一括されるが,基本的に高瀬法と後者とは立場を異にする.高瀬法においては外科的血行廓清+食道離断に近い治療効果を期待しているのに対し,後者では単純食道離断に近い効果しか期待できない.
高瀬法はendoscopic IVR surgeryであり,治療効果は当初より満足すべきものがあったが,造影剤添加硬化剤―5%ethanolamine oleate with iopamidol(5%EOI)―の注入範囲と実際の静脈瘤や供血路の閉塞範囲との関係,門脈血行動態におよぼす影響については不確定の要素も持っていた.筆者は,高瀬法施行前後に経皮経肝門脈造影(percutaneous trsanshepatic portography:PTP)やドプラ検査を施行し5%EOIの注入範囲と実際の閉塞範囲の関係および門脈血行動態変化について検討した 5),6).その結果,血流の停滞がえられ,5%EOIで造影が十分できた領域は確実に閉塞のえられること,固有供血路の閉塞においては門脈圧や門脈血行には変化をおよぼさないことが判明した.PTPによる検討では,食道静脈瘤は固有供血路を含めて閉塞した方が,再発率が低いという結果もえている 7).単に食道静脈瘤のみを治療対象とするEISの手技や,近年施行されているEVLでは固有供血路の閉塞は期待できず,再発率が高率となることは容易に理解できる.
EIS(高瀬法)施行に際しては,内視鏡的静脈瘤造影(endoscopic varicealography during injection sclerotherapy:EVIS)と門脈血行マップの認識が必要となる(Figure 1).門脈圧亢進症に伴って発達する門脈側副血行路は,食道・胃静脈瘤に着目すると大きく二つの体系に分類される 8).いずれの体系も本来生体に存在する静脈ルートが拡張したものである.一つは門脈一奇静脈系であり,主に食道静脈瘤,噴門部胃静脈瘤形成に関与する.左胃静脈は食道・胃静脈瘤の形成に最も関与するが,末梢で噴門枝,小穹枝,食道吻合枝,傍食道静脈に分かれる.典型例では左胃静脈,噴門枝,噴門静脈叢から,すだれ様静脈を介して食道静脈瘤は供血される.噴門枝は後胃静脈や短胃静脈と合わさって噴門静脈叢を形成する.小穹枝は胃小穹に沿って走行するが,右胃静脈と連絡して冠状静脈を形成する.噴門静脈叢が胃内に突出すれば噴門部静脈瘤として認識される.もう一つは門脈一横隔静脈系であり,主に胃腎静脈シャント(gastrorenal shunt:GRS)や下横隔静脈シャントを排血路として穹窿部もしくは穹隆部〜噴門部の孤立性胃静脈瘤形成に関与する.
食道静脈瘤の血行マップ.
EISLは,EIS(高瀬法)による硬化剤の血管内注入後に穿刺孔を含めてEVLを施行するもので,西川ら 3)により報告された.本法は,現在最も効果的で安全と考えられる方法であり,穿刺孔出血の危険を極めて低率に抑えることができる.EISLはEIS(高瀬法)とEVLの長所を兼ね備えた治療手技であり,特に巨木型食道静脈瘤や食道静脈瘤と連続する噴門部胃静脈瘤はよい適応となる.
2.EISLの手技の解説現在,筆者らは食道胃静脈瘤に対してはEISLを第一選択の手技として施行しており,その実際を紹介する.
1)使用する器具と薬剤
ニューモアクティベイトEVLデバイス
21Gまたは23G食道静脈瘤穿刺針
オルダミン(10%ethanolamine oleate)1バイアル(10g)とIopamidol 10mlを混合し5%EOIとして注射器に準備し,穿刺針先端まで満たしておく.
穿刺針が21Gの時は20ml注射器,23Gの時は10ml注射器を使用する.
2)前処置
30分前にPentazocine 15mg,hydroxyzine hydrochloride 25mgを,15分前にscopolamine butylbromide 20mgを筋注する.
3)体位
以前は透視台の管球の回転ができなかったので背臥位でEISを施行していた.背臥位はEVISの読影には有効であったが,背臥位でのスコープ操作・穿刺操作に熟練を要した.現在はCアームにより多方向透視が可能となったことから,患者の背中にバスタオルや枕を敷き左下半側臥位として,Cアームを回転させることで正面像のEVISをとらえるようにしている(Figure 2).
EISL施行風景.
患者を左下半側臥位として,Cアームを回転させることで正面像のEVISをとらえるようにする.
4)内視鏡およびデバイス操作
あらかじめ,スコープ先端に口側バルーンを装着しておく.その状態でオーバーチューブを通したスコープを胃内に進め,食道胃静脈瘤を観察する(Figure 3-a,b).次に,潤滑剤をつけたオーバーチューブ先端を愛護的に食道内にスライドさせて挿入する.スコープを一旦抜去し,EVLデバイスをスコープ先端に装着する.Oリングを装着しスコープを穿刺目標とする静脈瘤に進める.口側バルーンに20mlの空気を注入し,この時点で透視モニター下にスコープやCアームの位置関係を確認する.Oリングで静脈瘤をとらえ,穿刺針を刺入し,硬化剤の入ったシリンジに陰圧をかけ血液の逆流を確認する(Figure 4-a).この時点で血液の逆流がない場合は針先を微調整して静脈瘤内への穿刺を再度確認する.その後透視下に5%EOIを左胃静脈噴門枝や噴門静脈叢に十分注入するが,EVISを瞬時に判断し注入量を厳密にコントロールする.門脈本幹,奇静脈系や横隔静脈系への5%EOIの流出が確認されれば直ちに注入を中止する(Figure 5).その状態で可能な限り穿刺針を維持し5分後に透視で確認し造影像が淡くなっていれば再度明瞭化するまで硬化剤を間歇的に注入追加する.
治療前の内視鏡所見.
a:食道離断術後瘢痕と食道静脈瘤を認める.
b:噴門部から穹窿部にかけて胃静脈瘤を認める.
EISL施行中の内視鏡所見.
a:穿刺針を刺入し,血液の逆流を確認する.
b:穿刺針を抜去すると同時に吸引する.
c:EVLで穿刺孔を含めて静脈瘤を結紮する.
EISL施行中のEVIS.
5%EOIは噴門静脈叢まで十分に注入されている.
巨木型食道静脈瘤や噴門部胃静脈瘤症例では15分程度は硬化剤を貯留させるよう心掛けている.1セッションにおける5%EOI総使用量は20ml以内とする.その後穿刺針を抜去すると同時に穿刺部位を含めて吸引し(Figure 4-b),Oリングで結紮する(Figure 4-c).原法ではOリングによる結紮は穿刺部のみであるが,筆者らはEVLによる血流遮断効果を期待して,穿刺部以外の隆起する静脈瘤にもOリングによる結紮を複数追加している.
もし,初回穿刺に続く硬化剤注入が血管外となった場合は,Oリングで穿刺部を結紮し,他の静脈瘤から再度同様の手技を試みる.2週間後に内視鏡検査を施行し,静脈瘤の消退効果やびらんの程度を確認する(Figure 6-a,b).
EISLより2週間後の内視鏡所見.
a:EVL後びらんと共に食道静脈瘤の血栓化縮小を確認できる.
b:胃静脈瘤に血栓化による粘膜強調像が観察できる.
EISLは,現在最も効果的で安全と考えられる食道胃静脈瘤治療手技で,抜針後の穿刺孔出血の危険を極めて低率に抑えることができる.本手技には若干熟練を要するが,臨床の現場ではかなり普及してきている.カテーテル的逆行性胃静脈瘤塞栓術において1回の治療で胃静脈瘤を完全に塞栓できるのはバルーンカテーテルにより排血路の確実な血流遮断が得られているからである.EISにおいても排血路の確実な血流遮断が得られれば1回穿刺の5%EOI注入で食道静脈瘤は治療できるはずであり,これが理想的なEISの姿ともいえる.EVLは,この排血路すなわち食道静脈瘤の確実な血流遮断に応用可能と考えられる.松井ら 9)は噴門部静脈瘤合併巨木型食道静脈瘤12例に対してEISLを施行しており,全例で食道胃静脈瘤の完全消失を得ている.
特殊な食道胃静脈瘤に対して,interventional radiology(IVR)を施行した後に,内視鏡的治療としてEISLを施行し,効果的に治療できた症例を提示する.
症例は,57歳女性.主訴は貧血.既往歴は,10歳時脾臓摘出術,16歳時単純食道離断術.現病歴は,近医にて貧血を指摘され紹介来院.原疾患は肝外門脈閉塞症.治療前の内視鏡にて胃静脈瘤を伴うLm,F2,Cb,RC2の食道静脈瘤を認めた(Figure 3-a,b).本症例は残存左胃動脈を塞栓および経回結腸静脈的に海綿状血管増生部位からの供血路を塞栓した後にEISLを施行した.
EISLに際しては,穿刺針を食道静脈瘤に刺入し,血液の逆流を確認後(Figure 4-a)に5%EOIを注入した.透視モニターにて噴門静脈叢まで描出されることを確認したが,造影像は時間の経過とともに淡くなったので,造影像を維持できるよう間歇的に5%EOIを追加注入した(Figure 5).スタートから15分の時点で,5%EOI総量は20mlとなり,穿刺針を抜去する(Figure 4-b)と同時にEVLで穿刺孔を結紮した(Figure 4-c).さらに他の食道静脈瘤も含めてEVLを12箇所に施行した.
EISL5日後の造影CTでは,胃静脈瘤の血栓化が確認できた.2週間後の内視鏡検査では,EVL後びらんと共に食道静脈瘤の血栓化縮小を確認した(Figure 6-a).胃静脈瘤は血栓化による粘膜強調像を呈していた(Figure 6-b).8週間後の内視鏡検査では食道胃静脈瘤の消退が確認できた(Figure 7-a,b).1回のEISL手技で極めて効率的に治療できた症例と考えられた.
EISLより8週間後の内視鏡所見.
a:食道静脈瘤の消退が確認できる.
b:胃静脈瘤の消退が確認できる.
EISLのコンセプトは,開胸開腹することなくSugiura procedure 10)を目指すところにある.本邦オリジナルともいうべき透視下EIS(高瀬法)を基本に,EVLをEISLとして組み合わせることで,食道胃静脈瘤を安全かつ効果的に治療することができる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし