日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
大腸癌死亡率減少のために―日本における内視鏡検診導入の可能性とその是非,費用対効果分析も含めて―
関口 正宇 斎藤 豊松田 尚久
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2017 年 59 巻 6 号 p. 1393-1402

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要旨

日本の大腸がん検診のさらなる改善に向け,検診における大腸内視鏡のさらなる有効活用は重要な検討課題である.検討に際し,まずは,大腸内視鏡の検診における有効性・安全性の十分な評価が必要である.有効性評価に関しては,S状結腸内視鏡についてはランダム化比較試験(RCT)で死亡抑制効果が証明されている一方,全大腸内視鏡検査については現在複数のRCTが進行中でその結果が待たれる.有効性・安全性以外には,費用対効果や内視鏡検査のキャパシティ等の評価も必要で,その評価にはモデル分析という手法が有用である.海外では既にモデル分析を用いた研究が多数報告され,その結果を検診政策に反映している国も存在する.日本の大腸がん検診についても同様の検討を行うと,内視鏡検診に代表される大腸内視鏡をより積極的に用いる検診法が日本ではより費用対効果に優れる可能性が示唆され,今後,大腸内視鏡のキャパシティ把握とともに,内視鏡検診導入についてさらなる議論が必要と考えられる.

Ⅰ はじめに

日本では,大腸がんの年齢調整死亡率が減少傾向に転じてきてはいるものの,いまだ年間5万人以上が大腸がんにより死亡していると推定され,その状況には改善の余地がある 1.状況改善にあたっては,一次予防,二次予防のいずれも重要であるが,その中でも特に二次予防,いわゆる「大腸がん検診」が大腸癌罹患・死亡を抑制していくうえでの対策の柱となる.わが国には現在,便潜血検査(免疫法:FIT)を用いた対策型大腸がん検診の制度があるものの 2,大腸がん罹患・死亡のデータからはまだその効果を十分に発揮しているとは言い難い.大腸がん検診の効果をより高めていくうえで,現在の検診法の精度を上げていくのは急を要する重要課題である.それに加え,新たな検診法も検討すべきであろう.新たな検診法の検討においては,新しい検診モダリティーに関する研究も大事であるが,その前に,有効性に関してある程度エビデンスが揃っている既存の検診モダリティーを現在よりも有効に活用する方法を検討する必要があるだろう.大腸がん検診で言えば,大腸内視鏡をどのようにしたら現状以上に活用できるかを考えるのが最重要課題の一つであることは疑う余地のないところである.現在,日本の対策型大腸がん検診における大腸内視鏡の位置づけは,FIT陽性者に対する精検モダリティーであり,FITのような第一の検診モダリティーではない.しかし,今後,さらなる大腸内視鏡の有効活用を目指す中で,大腸内視鏡を第一の検診モダリティーとして用いる,いわゆる「内視鏡検診」に関しても十分に検討する必要がある.本稿では,「内視鏡検診」の導入の可能性について,有効性や費用対効果などに注目して考えていく.

Ⅱ 内視鏡検診導入の検討に際して考慮すべき事項

まずは,大腸内視鏡が検診において有効かどうか,その有効性を評価する必要がある.では,有効性の適切な評価法とはどのようなものであろうか.現在世の中には,がん検診の有効性評価という名のもと,様々な研究やデータが報告されているが,必ずしも適切とは言えないものも少なくない.研究のエンドポイント,対象,デザインを適切に設定の上,有効性評価を行う必要がある.研究対象について例を挙げれば,近年われわれのグループでは,フルオロデオキシグルコース-陽電子放射断層撮影(FDG-PET)の「検診受診者」における大腸advanced neoplasiaに対する感度を検討したが,その感度は16.9%と,大腸癌腫瘍を有する「患者」を対象にした複数の既報における報告よりもずっと低い結果となった 3.この例からも,検診評価の少なくとも最終段階では,「患者」ではなく「検診受診者」を対象にした研究が必要であることが理解できる.研究のエンドポイント,デザインについては,検診の死亡抑制効果こそが最終的に評価すべき項目であり,それをエビデンスレベルの高い手法で評価する,具体的には,死亡をエンドポイントとしたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)で評価することが望まれる.後述のように,S状結腸内視鏡については既に複数のRCTでその死亡抑制効果が証明され,また全大腸内視鏡についても現在複数のRCTが進行中である.

では次に,有効性以外には何を評価すべきであろうか.大腸内視鏡の検診における有効性がRCTにより示されていれば,それだけで対策型検診として導入できるであろうか.答えは否である.有効性評価に加え,検診によりもたらされる不利益を評価のうえ,利益が不利益を上回ることを保証しなければならない.検診の不利益についてクリアカットに評価することは難しく,その評価手法に関しては今後さらなる発展が望まれるが,少なくとも内視鏡医の立場からは,大腸内視鏡の安全性について適切に評価のうえデータを提示する必要がある.

上記に加え,日本ではこれまであまり表だって議論されてこなかったが,費用対効果といった医療経済学的側面や,国・地域レベルでの内視鏡をこなすキャパシティ(内視鏡医の数や施設数を含む)といった点についても十分に議論する必要がある.さらに,検診は,いくら安全かつ有効な良いものであっても,受診者が受けないことにはその有効性が発揮されることはなく,受診者における検診の受容性,さらには受診率に応じた検診の有効性の変化についても評価しなければならない.それでは,これらの項目の評価はどのように行うべきであろうか.これらの項目の評価においては多くの場合RCTでの評価が適しておらず,別の研究手法が必要である.そこで登場するのが,シミュレーションモデルを用いた分析である.費用対効果や検診キャパシティを考慮した検診法の探索,受診率や受診年齢による検診有効性の変化といった評価には,このモデル分析の有用性が確立されており,モデル分析の結果をもとに大腸がん検診政策を決定している国も存在するくらいである.

それでは次のⅢにて大腸内視鏡の検診における有効性評価のエビデンスについて簡単にレビューする.その後,Ⅳにて費用対効果や検査キャパシティなどの観点から大腸がん検診・大腸内視鏡について検証し,最後のⅤで日本における内視鏡検診導入の可能性について考えていきたい.

Ⅲ 大腸がん検診における大腸内視鏡の有効性と安全性に関するエビデンス

大腸内視鏡検診導入の考慮にあたり,大腸がん検診における大腸内視鏡((1)S状結腸内視鏡,(2)全大腸内視鏡)の有効性評価に関するエビデンスが現時点でどの程度明らかになっているか,ここで簡単にレビューする.同時に安全性の評価についても見ていく.

(1)S状結腸内視鏡

大腸がん検診の領域において,現段階でRCTによる有効性(死亡率減少効果)が示されているのは,便潜血化学法(FOBT) 4)~12とS状結腸内視鏡検査 13)~16のみである.S状結腸内視鏡の有効性を評価した代表的なRCT(最終結果まで報告されているもの)をTable 1にまとめる.

Table 1 

S状結腸内視鏡の有効性評価に関するRCT.

Table 1の4研究のうち,3研究で,intention-to-screen解析における統計学的に有意な大腸がん死亡率減少が示されており(ちなみに残り1研究でもper-protocol解析では有意な大腸がん死亡減少効果が示されている),S状結腸内視鏡の大腸がん検診における有効性が科学的に証明されていると言える.但し,遠位大腸と近位大腸に分けた死亡リスク比の解析に注目すると,S状結腸内視鏡による死亡抑制効果は,その観察範囲から予測されるように主に遠位大腸がん死亡の抑制によるものであり,近位大腸がん死亡の抑制には別の検診法が望まれることが分かる.

S状結腸内視鏡の安全性については,上記RCTで穿孔率のデータをみてみると,0~0.01%という結果であった.さらに日本からは,10万件を超えるS状結腸鏡検査のうちで穿孔を1例も認めていない報告もあり 17,S状結腸内視鏡検査は十分に安全な検査と考えられる.

(2)全大腸内視鏡

上記,S状結腸内視鏡の有効性評価において,近位大腸がん死亡に対する抑制についての課題が浮上したが,全大腸内視鏡では,近位大腸も内視鏡の到達範囲に含まれ,より大きな有効性が発揮されることが期待される.全大腸内視鏡の大腸がん検診における有効性評価に関しては,近年,症例対象研究やコホート研究により,全大腸内視鏡による死亡抑制効果が報告されている 18)~24.しかし,近位大腸がんの死亡抑制効果については,全大腸内視鏡でも遠位大腸がんに対する効果よりも低いという報告や,効果そのものが証明されていない報告もあり,さらなる検証を要する状況である.そのような状況下,現在,大腸がん検診における全大腸内視鏡検査の有効性(死亡抑制効果)を評価するRCTが,日本からのAkita studyを含めて複数進行中であり(Table 2),その結果が待たれるところである 25)~29

Table 2 

現在進行中の全大腸内視鏡の有効性評価に関する代表的なRCT.

全大腸内視鏡の安全性については,内視鏡手技による穿孔などの偶発症に加えて,下剤や前投薬による副作用などにも注意を要する.海外からは,大腸内視鏡後1カ月以内に入院を要する重篤な偶発症が1,000例中3-4例に見られ,高齢や合併症を有する場合などは,その頻度がより高くなると報告されている 30)~33.日本では,日本消化器内視鏡学会が偶発症に関する全国集計を行っているが,その集計によると380万件を超える大腸内視鏡検査のうち438例(0.011%)に偶発症が見られ,死亡例が16例(0.0004%)あったとのことである 34.このように報告されている偶発症の割合は非常に低く,大腸内視鏡検査の安全性が十分に期待されるものの,このデータ集計の対象施設は,1施設あたりの平均内視鏡検査数(大腸内視鏡検査以外も含む)が5,715件と専門性の高い施設が中心であると考えられ,今後,さらに多くの種類の施設を含めた質の高い日本全国規模のデータが把握できることが望まれる.その点では,日本消化器内視鏡学会の事業として発足した多施設内視鏡データベースの構築プロジェクトであるJapan Endoscopy Database(JED)Projectがそれらデータの把握に非常に有用であると考えられ,大いに期待される 35

Ⅳ モデル分析を用いた大腸がん検診,大腸内視鏡に関する検討

大腸がん検診の中でも,特にpopulation-based 検診(日本では「対策型検診」)の検討に際しては,有効性,安全性に加え,費用対効果などの医療経済学的な視点や検査キャパシティの考慮なども必須である.その際に有用になるのがモデル分析を用いた検討である.日本ではこのような分析が,まだ大腸がん検診や内視鏡の領域では乏しく,馴染みがない読者も少なくないと思われる.そこで,まず,モデルを用いた費用対効果分析の基本を説明させていただき,その上で,海外での大腸がん検診領域における費用対効果分析の活用について見ていきたい.日本の大腸がん検診に関するモデル分析については,次のⅤで見ていくこととする.

(1)モデルを用いた費用対効果分析の基本

任意型の大腸がん検診と異なり,population-basedの大腸がん検診に関しては,限られた医療費の中でいかに検診による効果を高めていくかを十分に検討しなければならない.そこで有用なのが,モデル分析という手法を用いた費用対効果分析である.ここで,モデル分析による費用対効果分析の基本について,大腸がん検診を例にとって,簡単に説明する.

まずは,これまで蓄積されている臨床データから,大腸がんの自然史について疾患モデルを作成する.現在,大腸がんの疾患モデルには,Microsimulation Screening Analysis(MISCAN) 36,Simulation Model of CRC(SimCRC) 37,Simulated Population Model for incidence and Natural History(CRC-SPIN) 38といった代表的なものがあり,いずれもadenoma-carcinoma sequenceに則って作成されている.それらのモデル内には,病変なしの状態,adenomaの状態(サイズなどによってさらに細かく分類),大腸がんの状態(ステージや症状によってさらに細かく分類)などが設定されており,シミュレーションモデル分析においては検診対象者がそれらの状態間を時間の経過とともに様々な臨床データに基づいて定められた移行確率に準じて移動していく.そこに,費用のデータを組み込むことで,費用対効果を検証することが可能となる.ここでいう「効果」とは,研究目的・内容により変わってくるが,検診や薬剤などの費用対効果分析においては,生存年数(Life year:LY)もしくはそれをQOLで重み付けした質調整生存年数(Quality-adjusted life year:QALY)を用いることが一般的である.また「費用」にどの費用を含めるかは,どの立場で分析をするかで変わってくるが,特に医療政策への反映を念頭に置く場合は,医療費支払者の立場から,関連する医療費を100%組み込んで解析することが多い.では,このような「費用」「効果」を用いた費用対効果分析における費用対効果の優劣は,具体的にどのように評価すれば良いのだろうか.例えば検診方法AとBを比較する場合,Aの効果がBより高く,かかる費用も安く済むのであれば,Aの方がBよりも費用対効果に優れることは容易に理解できる.では,Aの方が効果が高いが費用もよりかかるような場合はどのように判断したら良いだろうか.この場合は,増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio:ICER)という指標が費用対効果の評価に有用である.ICERとは,AのBに対する「費用の増分」を「効果の増分」で割ることで算出される値である.ICERの算出に際し,効果にQALYを用いている場合は,1 QALYあたりのICERの値が算出されるが,その1 QALYあたりのICERに対しては,費用対効果の優劣を判断する「閾値」というものが報告されており,算出されたICERとその「閾値」を比べることで費用対効果の優劣を判断することが可能とされている 39),40.ICERの値が閾値の金額以下ならば「費用対効果に優れる」,閾値の金額を越えるのであれば「費用対効果に劣る」と判定するのである.この1 QALYあたりのICERの閾値は社会・経済状況の違いを反映して国によって異なる値が提示されており,米国では50,000-100,000ドル,英国では20,000-30,000ポンド,日本では500万-600万円と報告されている.

以上,限られた紙面内で少しでも理解しやすくなるよう,かなり簡略化してモデルを用いた費用対効果分析の基本を解説した.本来さらに説明すべき項目も多く,より詳細な説明が必要なところであり,さらに詳しく知りたい方は,“Methods for the Economic Evaluation of Health Care Programmes”(MF Drummondら,第4版2015年,Oxford社)といった成書にあたってみることをお勧めする.

(2)海外の大腸がん検診に関するモデルを用いた費用対効果分析

上記のような基本的な考え方に基づいて,海外では,すでに多数,大腸がん検診に関するモデルを用いた費用対効果分析の報告がある 41)~54.その中には,以前から存在する,便潜血検査(化学法,FIT)やS状結腸内視鏡,全大腸内視鏡といったモダリティーを用いた検診法を対象とした解析から,CTコロノグラフィーや便中DNA検査といった比較的新しいモダリティーに関するものまで含まれる.その分析結果の解釈においては,モデルや用いている費用・効果等に関するパラメータの違いにより,結果が変わってきうるため注意を要するが,いずれの報告においても,何らかの大腸がん検診を行うことは検診未施行の場合に比べて費用対効果に優れることを明瞭に示しており,注目に値する.これは一見当たり前のことに見えるものの,この点をモデル分析により理論立てて証明しているのは非常に有意義なことと言える.大腸癌,特に化学療法の医療費が世界的に高騰し続けている現在,費用対効果の観点からも大腸がん検診の重要性はさらに増していくと言えるだろう.

では,次に,どのような検診方法が最も費用対効果に優れているか,という点についてはどうだろうか.海外の既報をレビューすると,全大腸内視鏡検査(10年毎)による検診法が最も費用対効果に優れるという報告,便潜血検査とS状結腸内視鏡を組み合わせた検診法が良いという報告,便潜血検査のうちではFITを用いるのが良いという報告など,様々な結果が報告されている.費用データなどの様々な因子によって結果が変わってきうる状況下で,どれかひとつの検診法を費用対効果の観点から最も優れた方法として世界的に統一した形で結論付けるのは不可能であり,各々の国・地域で,費用対効果も考慮のうえ,最も適した検診法を探索することが大事であると言えるだろう.日本に関しては,これまでのところは残念ながら,大腸がん検診についての費用対効果分析は非常に少なく,より良い検診法を考えていくうえで新たな検討が必要な状況であった.そこで,近年われわれのグループでは,日本の大腸がん検診に関して費用対効果分析を行い,大腸内視鏡をいかに有効活用すべきかについて検証したので,その内容は後述のⅤで見ていくこととする 55

さて,上記のように海外の一部の国々では大腸がん検診に関しても幅広く用いているモデル分析であるが,改善すべき課題も少なくない.その中のひとつに,大腸がん疾患モデルの作成において,adenoma-carcinoma sequence以外の経路の考慮が必要な点が挙げられる.近年,オランダなどではSerrated pathway 56をモデルに組み込む試みも行われているようだが,より質の高いモデル作成には,基礎・臨床の両方におけるさらなる研究やデータの蓄積が必要であろう.さらには,Serrated pathway以外にもde novo pathway 57など他にも考慮すべき経路があると考えられ,内視鏡診断・技術の進んでいる日本からも意見やデータを出していくべき点が少なくないと思われる.

(3)海外におけるモデル分析の大腸がん検診政策への反映

上記のように,モデル分析を用いることで,大腸がん検診に関する費用対効果を検討することが可能となるが,それに加えて,大腸がん検診に必要となる内視鏡検査数,受診率の変動や受診年齢による効果・費用・費用対効果への影響などを推定することも可能となり,population-basedの大腸がん検診を政策として実施していくにあたり重要な情報をモデル分析により得ることできる.ここで,モデル分析の結果を大腸がん検診の政策に反映させている例として,オランダの大腸がん検診を見てみる.オランダでは,近年,population-basedの大腸がん検診が開始されているが,検診の計画・実施の重要局面においてモデル分析を活用している.その中で,モデル分析の政策への反映という点で分かりやすい例としては,2014年のFITカットオフ値変更の事例が挙げられる.それは,検診により必要とされる大腸内視鏡検査数がオランダ国内のキャパシティを越えてしまうという解析結果から,その状況を改善すべく,モデル分析の結果に基づいて,FIT陽性のカットオフ値を一時的に変更したのである 58.モデル分析を上手に活用している例と言え,日本も今後大いに参考にすべき点が含まれている.

オランダ以外にもモデル分析の結果を,大腸がん検診の政策やガイドラインに反映している国がいくつかある.米国では,US Preventive Screening Task Forceからの大腸がん検診に関するrecommendation statementにおいて,検診の受診年齢に関して,モデル分析の結果を考慮して,大腸がんに対して平均的リスクを有する場合の検診開始年齢は50歳と推奨している 59),60.また,検診受診年齢の上限についても,平均的なリスクの人の場合は75歳を超えると検診により得られる効果が乏しいというモデル分析の結果に基づき,通常の検診の推奨は75歳までとし,75~85歳については過去の検診歴や健康状態に基づいて個々に決定,86歳以上については通常の検診は推奨しないとしている.その他には,カナダ,アイルランド,オーストラリアでもモデル分析の結果を国の大腸がん検診プログラムに反映している 61)~63

Ⅴ 日本の大腸がん検診に関する費用対効果分析~内視鏡検診導入の可能性~

最後に,日本の大腸がん検診に関する費用対効果分析について紹介したい.日本において大腸内視鏡をいかに有効活用すべきか,内視鏡検診導入の可能性とその是非を含めて検証する.

(1)日本の大腸がん検診に関する費用対効果分析

これまで日本では大腸がん検診の費用対効果に関する報告が乏しい状況であったが,われわれのグループでは,近年,日本の臨床データや費用データを用いて,大腸がん疾患モデルを作成のうえ,日本の大腸がん検診に関する費用対効果分析を行ったので,その内容を紹介する.

具体的には,大腸がんに対して平均的リスクを有する40歳の日本人を対象に,以下①~③のいずれかの大腸がん検診[①FITを最初に行い,陽性者に対して全大腸内視鏡を施行する検診法(現行の対策型検診に準じる方法),②最初から全大腸内視鏡を施行する検診法(いわゆる「内視鏡検診」),③現行の対策型検診に準じつつある年齢(50歳)で内視鏡受診歴のない人は皆全大腸内視鏡検査を一度受ける検診法(現行の対策型検診と「内視鏡検診」を組み合わせた中間的な方法)]を介入する場合と,いずれの検診法も介入しない場合について,その費用と効果(QALY)を医療費支払者の立場から解析の上,1.大腸がん検診施行は未施行に比べて費用対効果に優れるか,2.FITと全大腸内視鏡をどのように用いる大腸がん検診法が費用対効果の観点から最も優れるか,について検証した.モデル分析における関連パラメータは日本の費用や臨床データに基づいて設定し解析した.そのうえで,検診の受診率や受診年齢が変わる場合や検診法③における内視鏡介入年齢が変わる場合についての解析,さらにはそれらを含めた各種関連パラメータについて確率論的感度分析も行った(モデルや解析における細かい設定および結果の詳細な数値等については文献55をご参照いただきたい).

解析の結果,いずれの大腸がん検診も未施行の場合に比べ,効果や費用対効果の面で優れていることが示された.但し,検診受診率が下がると検診の効果や費用対効果における優越性の程度は小さくなることも本研究により示され,大腸がん検診の効果や費用対効果を保つには検診受診率が重要な因子であることをあらためて認識させられる.次に,検診方法の費用対効果に関する比較であるが,日本では,最初から全大腸内視鏡を行う検診法(上記②)が最も費用対効果に優れ,その次に検診法③が続き,現在の対策型検診の方法に準じた検診法①は最後,という結果となった.ここで注意したいのが,この結果が現行の対策型検診を否定するものではないことである.検診法①も検診未施行に比べ効果・費用対効果の面で優れていることが本研究で示されており,本研究ではその有用性をモデル分析から明瞭に示していると言える.しかし,その有用な現行の検診法と比較しても,もっと積極的に全大腸内視鏡検査を行う検診法②や③の方が費用対効果の観点からより優れている可能性が示されており,日本におけるより良い検診方法の探索において,大腸内視鏡検査のより積極的な活用というのを今後真剣に検討すべきではないかと言える.検診法②,③の中でも,全大腸内視鏡を最初から施行する「内視鏡検診」の②が日本では費用対効果の観点からより最も優れている可能性が高いという結果が得られたが,ここで問題となるのが,必要となる大腸内視鏡検査数である.この研究では,必要となる内視鏡検査数も検討しているが,検診法②は①や③よりも2倍以上の内視鏡検査数を要し,日本の内視鏡キャパシティを超えてしまう可能性がある.そこで,その場合には,現行の対策型検診と「内視鏡検診」を組み合わせた中間的な方法である検診法③が現実的で良い改善策になりうる可能性がある.その際の,全大腸内視鏡検査を行う時期であるが,年齢を色々と変えて検討をしたところ,45~55歳のときに行うのが費用対効果の観点から良いという結果が得られた.

(2)日本における内視鏡検診導入の可能性と課題

今後,全大腸内視鏡の有効性や安全性に関しさらなるエビデンスの蓄積が必要であるが,有効性や安全性の点で問題がないとなると,上記の研究結果が示すように,日本において「内視鏡検診」を導入するのは医療経済学的な視点からも理に適った良い選択肢になる可能性がある.但し,「内視鏡検診」では特に,大腸内視鏡検査キャパシティの問題が生じうることを考慮すると,まずは前述のJEDシステムを今後活用して,日本における大腸内視鏡検査のキャパシティを把握しつつ,そのキャパシティの範囲内で対応できる最良の検診法を模索すべきと言える.その際には,上記研究の中で検討された,FITを用いた現行の対策型検診法をベースにしつつ,45-55歳で内視鏡検査歴のない人は一度全大腸内視鏡検査を行うという方法は,日本における至適大腸がん検診法の有力候補となりうる.その他には,FITを用いた検診法と全大腸内視鏡検査を最初から行う「内視鏡検診」を選択性にする,そこにS状結腸内視鏡や新規モダリティーを上手く組み合わせるということも考慮されうるだろう.

上記に加え,「内視鏡検診」導入に際しては,大腸内視鏡検査の質の担保も最重要課題の一つであり,大いに注意を払う必要がある.現在の日本においては,大腸内視鏡の質に関する評価がまだ十分とは言えないが,この点においてもJEDシステムが内視鏡検査の質に関する実態の把握や各施設へのフィードバックといったことを通して将来的に有用となることが期待される.

Ⅵ 最後に

本稿では,大腸がん検診や大腸内視鏡の有効性評価,費用対効果分析についてレビューを行い,最後には日本の大腸がん検診の費用対効果分析に関する研究から日本における内視鏡検診導入の可能性について検証した.医療経済学的な視点からも大腸がん検診が今後ますます重要になってくると考えられるが,その中で,特に日本では,大腸内視鏡を現在以上に積極的に有効活用する必要があると考えられ,日本の内視鏡医に求められる役割はより大きなものになってくると思われる.本稿でのレビューでも明らかなように,今回扱った領域に関しては,現段階では,海外からの研究が主要な研究のほとんどを占めているが,今後,世界一内視鏡技術の進んでいる日本からも,世界に向けて重要な情報が発信されることが期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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