日本消化器内視鏡学会雑誌
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59 巻, 6 号
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総説
  • 関口 正宇, 斎藤 豊, 松田 尚久
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1393-1402
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    日本の大腸がん検診のさらなる改善に向け,検診における大腸内視鏡のさらなる有効活用は重要な検討課題である.検討に際し,まずは,大腸内視鏡の検診における有効性・安全性の十分な評価が必要である.有効性評価に関しては,S状結腸内視鏡についてはランダム化比較試験(RCT)で死亡抑制効果が証明されている一方,全大腸内視鏡検査については現在複数のRCTが進行中でその結果が待たれる.有効性・安全性以外には,費用対効果や内視鏡検査のキャパシティ等の評価も必要で,その評価にはモデル分析という手法が有用である.海外では既にモデル分析を用いた研究が多数報告され,その結果を検診政策に反映している国も存在する.日本の大腸がん検診についても同様の検討を行うと,内視鏡検診に代表される大腸内視鏡をより積極的に用いる検診法が日本ではより費用対効果に優れる可能性が示唆され,今後,大腸内視鏡のキャパシティ把握とともに,内視鏡検診導入についてさらなる議論が必要と考えられる.

症例
  • 田渕 悟, 小柳 和夫, 西村 誠, 永田 耕治, 小澤 壯治
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1403-1408
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    患者は70歳代の女性.20年以上前より食道アカラシアと診断されていたが嚥下障害の増悪と誤嚥性肺炎を認めた.食道アカラシアは進行シグモイド型(aSg型),Ⅱ度と診断した.また,上部消化管内視鏡検査で胸部上部食道に発赤を伴う0-Ⅱc病変を認め生検にて扁平上皮癌と診断された.NBI(Narrow band imaging)併用拡大内視鏡検査ではbrownish area内にループ様の異常血管を認め深達度T1a(LPM)と診断した.食道表在癌に対するESDを先行施行した.病理検査結果では深達度T1a(LPM),ly0,v0であり内視鏡的治癒切除と判断した.4カ月後に食道アカラシアに対して腹腔鏡下手術を施行した.経過良好で,術後8年の現在において食道癌,食道アカラシアともに再発所見は認めていない.

  • 根塚 秀昭, 芳炭 哲也, 伊井 徹, 中嶋 隆彦
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1409-1415
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    症例は81歳女性.数カ月前から持続する前胸部痛にて受診した.3年前より胃の2カ所に10mm大の過形成性ポリープを認めていたが,増大傾向を認めなかった.今回の精査では同病変は30mm大に増大し生検ではadenocarcinomaと診断された.胸腹部CTでは全胃が縦隔内に逸脱したUpside down stomachの所見を認めた.Upside down stomachを伴った早期胃癌と診断し手術を行った.ヘルニア門は8cm大に開大,縦隔内に逸脱した全胃を引き出し,ヘルニア門を縫縮,幽門側胃部分切除(D1郭清)を行った.本例は,Upside down stomachという稀で特殊な胃の状態に加え,重ねて稀な胃過形成性ポリープの癌化が示唆された極めて稀有な症例であり,文献的考察を加えて報告した.

  • 坂東 正, 清水 哲朗, 塚田 健一郎, 岩本 真也, 菓子井 良郎, 渋谷 和人, 北條 荘三, 松能 久雄
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1416-1421
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    症例は56歳,男性.健診で施行した上部消化管内視鏡検査および生検にてファーター乳頭近傍の十二指腸神経内分泌腫瘍を認めた.大きさやファーター乳頭に隣接していることから,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本の病理検査所見では,術前に内視鏡診断していた十二指腸下行部のファーター乳頭部近傍の病変は,神経内分泌腫瘍の診断であった.さらにそれに加え,ファーター乳頭Abと下部胆管Biの境界領域にも別の神経内分泌腫瘍を認めた.最終診断は多発十二指腸神経内分泌腫瘍であった.術後経過良好で退院となり,現在まで6年7カ月無再発生存で外来通院中である.

  • 佐々木 善浩, 木谷 幸博, 上條 孟, 島田 祐輔, 林 昌武, 大野 志乃, 上市 英雄, 平野 和彦, 川村 紀夫, 冨田 さくら
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1422-1427
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    症例は73歳女性で,2015年2月に倦怠感と心窩部痛を認め,上部・下部内視鏡検査を施行した.胃,十二指腸に不整形潰瘍が散在し,造影CT検査で胃,回腸中心に壁肥厚を認めた.胃,十二指腸の各々生検から腸管症関連T細胞リンパ腫(Ⅱ型)と診断した.肺血栓塞栓症で入院となり,その後に回腸穿孔による腹膜炎を認めた.全身状態から外科的加療は困難で,入院14日後(初回受診から36日後)に死亡となった.腸管症関連T細胞リンパ腫は予後不良のT細胞リンパ腫で,通常は回腸・空腸主体の病変を呈する.本症例のように上部消化管内視鏡検査で胃と十二指腸の両方に病変が観察・診断されることは,極めて稀であり,報告する.

経験
  • 岩室 雅也, 神崎 洋光, 川野 誠司, 河原 祥朗, 田中 健大, 岡田 裕之
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1428-1434
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    当院で胃・十二指腸へのランタン沈着症と診断した10症例について,内視鏡所見および臨床背景を後ろ向きに検討した.10例(男性9例,女性1例)の平均年齢は64.3歳(42歳~77歳)であり,全例が慢性腎不全のため血液透析中であった.炭酸ランタンの服用期間は12~86カ月.全例で胃にランタン沈着があり,通常観察にて白色病変として観察された.拡大観察を行った6例では微細顆粒状の白色沈着物がみられた.3例では十二指腸にもランタン沈着があり,いずれも白色の粘膜を呈した.これらの所見がみられた場合には,ランタン沈着症として経過を追跡する必要があると考えられた.

注目の画像
手技の解説
  • 西澤 俊宏, 飽本 哲兵, 後藤 修, 落合 康利, 矢作 直久
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1437-1443
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    内視鏡治療後出血のハイリスク症例には予防策として粘膜欠損部に対するクリップ縫縮が望まれる.Quick Clip Pro®(OLYMPUS),ZEOCLIP®(ZEON MEDICAL),Resolution®(Boston Scientific Japan)は,回転機能を装備しながら掴み直しが可能なクリップで,ターゲットの確実な把持に対応できるよう開発されている.少し大きめの粘膜欠損の場合は,端からファスナーを上げるようにクリップを順にかけていくことにより縫縮可能である.大きな粘膜欠損の場合には通常のクリップのみで縫縮することは困難である.Hold-and-drag閉鎖術,留置スネアを用いた巾着縫合,引き解け結びクリップ縫縮法,糸付きクリップ縫縮法,ループクリップ縫縮法,Mucosal Incision法などの工夫が報告されている.内視鏡治療医は,穿孔をはじめとする偶発症に備えてクリップ縫縮術について熟知しておく必要がある.

資料
  • 竹山 廣志, 木谷 光太郎, 若狭 朋子, 辻江 正徳, 藤原 由規, 水野 成人, 湯川 真生, 太田 善夫, 井上 雅智
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1444-1453
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    【背景と目的】閉塞性大腸癌症例における術前減圧法としての大腸ステント(self-expanding metallic stent:SEMS)の有用性を経肛門イレウス管(transanal drainage tube:TDT)および減圧不成功により緊急手術となった症例(emergency surgery after failure of decompression:ESFD)と,病理組織学的変化を含めて比較検討した.

    【対象と方法】2010年1月から2015年6月までの術前減圧処置を試みた閉塞性大腸癌患者39例のデータを解析した.留置成功率,臨床的減圧成功率,切除標本の病理組織学所見について解析した.浮腫の程度については病理組織学的に評価を行った.

    【結果】留置成功率はSEMS群で100%,TDT群で78.9%であった.臨床的な減圧成功率はSEMS群で100%,TDT群で80.0%であった.術後腸閉塞はSEMS群でTDT群より有意に少なかった(P=0.014).病理組織学的な浮腫の程度はSEMS群でTDT群より有意に改善していた(P<0.0001).TDT群において,浮腫の程度は減圧期間と相関を認めなかった(P=0.629),一方SEMS群はすべての症例で浮腫は軽度であった(浮腫grade 0-2).人工肛門造設率は浮腫の程度が強い群(浮腫grade 3)において低浮腫群(浮腫grade 0-2)よりも高かった(P=0.003).病理組織学的に穿孔を認めた症例は認めなかった.

    【結論】SEMSはTDTと比較して病理組織学的に有意に浮腫を改善させていた.この結果はSEMSがTDTと比較して,臨床的に良好な成績を得ている一因を示唆していると考えられる.

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 小熊 潤也, 小澤 壯治
    2017 年 59 巻 6 号 p. 1463
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/20
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    【背景と目的】難治性の良性食道狭窄(RBESs)に対する治療については現在様々な試みがなされている.ステント留置は1つの治療方法としてこれまでも報告されてきた.われわれは,本治療の長期的な嚥下障害の改善効果を評価する目的で,システマティックレビューおよびメタ解析を行った.

    【方法】2015年1月までの期間で,成人RBESsに対するステント治療の報告を,PubMed,SCOPUS,Google Scholarで検索した.95%信頼区間を伴ったオッズ比を得るために,ランダム効果モデルを用いて,成功率,有害事象発症率および逸脱率を解析した.

    【結果】最終的に18論文(444症例)が解析の対象となった.臨床的な成功率は40.5%(95%CI 31.5%-49.5%)でオッズ比は0.68(95%CI 0.46-0.98)であったが,高い異質性を占めした(I2=65.0%).メタ回帰分析によると,狭窄の病因がこの異質性において唯一影響を及ぼす因子であった.金属ステントやプラスチックステントの成功率は生分解性ステントに比べて有意に高くはなかった(それぞれ,46.2%,40.1%,32.9%).逸脱率は28.6%(95%CI 21.9%-37.1%),オッズ比0.40(95%CI 0.28-0.59)で,ステントの種類により有意差はなかった(それぞれ,33.3%,31.5%,15.3%).有害事象の発症率は20.6%(95%CI 15.3%-28.1%),オッズ比0.26(95%CI 0.18-0.39)で,これもステントの種類により有意差はなかった(それぞれ,19.4%,21.9%,21.9%).

    【結論】RBESsに対するステント治療は,約40%の症例で効果を認めた.今後は狭窄の病因による治療効果の解析を行う必要がある.

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