日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
健診の上部消化管内視鏡検査にて発見したファーター乳頭近傍多発十二指腸神経内分泌腫瘍の1例
坂東 正 清水 哲朗塚田 健一郎岩本 真也菓子井 良郎渋谷 和人北條 荘三松能 久雄
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2017 年 59 巻 6 号 p. 1416-1421

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要旨

症例は56歳,男性.健診で施行した上部消化管内視鏡検査および生検にてファーター乳頭近傍の十二指腸神経内分泌腫瘍を認めた.大きさやファーター乳頭に隣接していることから,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本の病理検査所見では,術前に内視鏡診断していた十二指腸下行部のファーター乳頭部近傍の病変は,神経内分泌腫瘍の診断であった.さらにそれに加え,ファーター乳頭Abと下部胆管Biの境界領域にも別の神経内分泌腫瘍を認めた.最終診断は多発十二指腸神経内分泌腫瘍であった.術後経過良好で退院となり,現在まで6年7カ月無再発生存で外来通院中である.

Ⅰ 緒  言

神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm,NEN)はneuroendocrine tumor(NET)とneuroendocrine carcinoma(NEC)に分類され,NETはさらにGrade1(G1)とGrade2(G2)に分類される 1.従来カルチノイドとされてきた病変はNETに相当し,大部分はG1に分類される比較的稀な腫瘍で,消化管では直腸に多い.十二指腸では球部に比較的多くファーター乳頭やその近傍に見られることは少ない 2.十二指腸のNETは転移の可能性が少ない小さな腫瘍の場合は内視鏡治療も可能であるが,局在によっては治療法選択に迷う症例もある 3),4.今回われわれは,健診で発見した稀な十二指腸ファーター乳頭近傍NETの多発例に関して報告する.

Ⅱ 症  例

症例:56歳,男性.

主訴:特になく健康診断の検査.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:胃潰瘍にて入院投薬治療.

現病歴:食欲不振と体重減少があった.2009年11月,健康診断目的で施行した上部消化管内視鏡検査にて,ファーター乳頭近傍の十二指腸下行部に結節性病変を認め,生検でNET(当時はカルチノイド腫瘍)と診断された.ファーター乳頭に近接していることから外科切除の適応となり当科紹介入院となった.

入院時現症:眼瞼結膜に黄疸や貧血は認めなかった.表在リンパ節は触知せず,腹部は平坦かつ軟で圧痛も認めなかった.

臨床検査成績(Table 1):肝胆道系酵素の γGTPが80IU/Lと上昇していた他,異常値は認めなかった.

Table 1 

臨床検査成績.

胆道系酵素のγGTPの軽度上昇を認める.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸下行部のファーター乳頭肛門側に隣接し,径約1cmで,やや黄色調の,中央に不整陥凹を伴う立ち上がり明瞭な隆起性病変を認める(Figure 1).生検病理検査では粘膜深層から粘膜下層にかけて小円形細胞よりなる胞巣状腫瘍の増殖を認めNET(Carcinoid tumor)に相当する所見であった.免疫組織学検索でc-kit陽性所見を認めたが,GISTではなくNETにおける出現意義に関しては報告もなく不明である.

Figure 1 

上部消化管内視鏡所見.

十二指腸ファーター乳頭近傍肛門側に径1cm弱の黄色調で頂部陥凹を伴う隆起性病変を認める.

腹部CT所見:十二指腸下行部に径約5mmの,造影にて濃染される病変を認める.肝転移やリンパ節転移の所見は認めなかった(Figure 2).

Figure 2 

腹部造影CT所見.

十二指腸下行部に径約5mmの造影にて比較的濃く染まる病変を認める.

以上より,十二指腸ファーター乳頭近傍のカルチノイド腫瘍と術前診断した.比較的小さな腫瘍であったため内視鏡治療も検討したが,ファーター乳頭に極めて近いことを考慮し,外科的切除の方針として2010年1月に手術を施行した.

手術所見:十二指腸の腫瘍は触知せず周囲への浸潤所見も認めなかった.肝転移や腹膜播種を認めず,リンパ節転移を疑う所見も認めなかった.幽門輪温存膵頭十二指腸切除術R0手術を施行した.

切除標本肉眼所見:腫瘍はファーター乳頭近傍に6×5mmの隆起性病変として存在し,胆道癌取扱い規約第6版の区分ではD-Adで,乳頭部癌に準じて記載すると,露出腫瘤型,T2,6×5mm,N0,M0のstage Ⅰbであった(Figure 3 5

Figure 3 

切除標本肉眼所見.

ファーター乳頭に隣接して径約5mmの隆起性病変を認める.

病理組織学的所見:ファーター乳頭近傍十二指腸下行部に径4×3mmの胞巣状配列を主体としたカルチノイド腫瘍を認めた.sm,ly0,v1であった.核分裂数2/10HPF未満でKi-67index2%以下でありG1NETの診断であった(Figure 4-a,b).これとは別に,やはりファーター乳頭近傍のAb下部胆管Bi境界領域に,径3×2mmの腫瘍を認めた.この腫瘍も同様にカルチノイド腫瘍と診断され,sm,ly0,v0,G1NETであった(Figure 4-a,c).

Figure 4 

病理組織所見.

a:弱拡大.HE染色G1NETに相当する腫瘍を2カ所認める.

b:強拡大.HE染色aの右□枠の拡大像.

c:強拡大.HE染色aの左□枠の拡大像.

術後経過は良好で退院となり,6年7カ月以上経過したが再発を認めず健在で外来通院中である.

Ⅲ 考  察

NENは神経内分泌への分化を示す腫瘍で,2010年にWorld Health Organization(WHO)分類が改定され,核分裂像と細胞増殖能からNETとNECに分類され,さらにNETはG1とG2に細分された 1.従来カルチノイドとされてきた病変はNETに相当し,大部分はG1に分類される比較的稀な腫瘍である.消化管では直腸が55.7%と最も多く,十二指腸は16.7%と次いで多いが,欧米では十二指腸は稀とされている 6.人種間の発生頻度の違いもあると思われるが,本邦における健診システム,特に十二指腸観察による所もあると考えられる.本例においても健診での発見であり,健診例においての十二指腸下行部ファーター乳頭の観察の重要性が再認識された.十二指腸NETは球部に多くファーター乳頭やその近傍に見られることは少ない 2.このことは内視鏡観察が下行部より球部で充分になされている可能性も考えられる.

十二指腸NET多発例の報告は極めて少なく,医中誌Webによる十二指腸神経内分泌腫瘍と多発をキーワードとした,1983年から2016年までの検索では27件の報告があり,その内会議録を除く論文は7件であった(Table 2 7)~13.ほとんどが球部であり下行部は1例のみであった.自験例を含む8例での検討では,性別は男性5例女性3例で平均年齢は65歳であった.2例は経過観察され死亡されていた.2例に内視鏡治療が施行されたが内1例は断端陽性と診断されたため外科切除が追加された.したがって治療が行われた6例中1例のみが内視鏡治療でほとんどが外科的治療であった.比較的長期生存が得られている2症例は膵頭十二指腸切除術が施行されており,良好な予後因子である可能性はあるが,症例の蓄積が必要と考えられる.本例を(European neuroendocrine tumor society:ENETS)ガイドラインに当てはめてみると,腫瘍径は1cm未満で乳頭部であるため,外科切除が推奨される治療法となる 3),4.予後に関しては,死亡4例の平均の生存期間は14.8カ月であった.本例は約80カ月以上の予後を得ており報告例中最長であるが,術前には単発と診断しており,術後の詳細な病理検査により多発診断となったため多発症例の中では特殊なケースかもしれない.術前に多発と診断することは腫瘍の大きさから考えるとかなり困難であったと予想されるが,最も可能性のあった検査法としては解像度の点から超音波内視鏡によるできるだけ詳細な検査ではないかと思われる 4.しかしながら十二指腸下行部は体位の関係で空気がたまりやすく,また,十二指腸全体の広い範囲を観察することは容易ではない.網羅的な検出と言う点ではPET-CTも候補に挙がるが,空間分解能の点が懸念された.したがって前述のごとく十二指腸乳頭部NETの頻度が極めて低いこともありルーチンに術前多発の有無を全十二指腸に対して詳細に検査する意義は少ないと考えられるが,特に最近報告されている内視鏡的切除等の局所治療を乳頭部NETに対して行う場合には,少なくとも近傍の膵頭部領域の精査は施行した方が良いと思われた 12.小さな単発腫瘍であっても,既報では腫瘍径が1cm未満でリンパ節転移が10%前後とあり,1cm以上となればさらにその確率も高まり膵頭十二指腸切除術が必要と考えられる 14),15.本例のごとく内視鏡所見で1cm以上と診断した場合の最大限の拡大切除術式としては,リンパ節転移と多発の可能性を考慮したリンパ節廓清を伴う膵頭十二指腸切除術になるのではないかと思われる.

Table 2 

多発十二指腸神経内分泌腫瘍の本邦報告例.

Ⅳ 結  語

稀なファーター乳頭部近傍の多発十二指腸NETの1切除例に関して文献的考察を加えて報告した.

本論文の要旨の一部は,第46回日本胆道学会総会(広島)にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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