2017 年 59 巻 6 号 p. 1437-1443
内視鏡治療後出血のハイリスク症例には予防策として粘膜欠損部に対するクリップ縫縮が望まれる.Quick Clip Pro®(OLYMPUS),ZEOCLIP®(ZEON MEDICAL),Resolution®(Boston Scientific Japan)は,回転機能を装備しながら掴み直しが可能なクリップで,ターゲットの確実な把持に対応できるよう開発されている.少し大きめの粘膜欠損の場合は,端からファスナーを上げるようにクリップを順にかけていくことにより縫縮可能である.大きな粘膜欠損の場合には通常のクリップのみで縫縮することは困難である.Hold-and-drag閉鎖術,留置スネアを用いた巾着縫合,引き解け結びクリップ縫縮法,糸付きクリップ縫縮法,ループクリップ縫縮法,Mucosal Incision法などの工夫が報告されている.内視鏡治療医は,穿孔をはじめとする偶発症に備えてクリップ縫縮術について熟知しておく必要がある.
内視鏡治療後出血に対する予防対策として粘膜欠損部に対するクリップ縫縮が多くの施設で行われている.最近われわれは,大腸粘膜切除術後のクリッピングの有効性を検討した7本のランダム化比較試験からメタ解析を実施し,クリッピングは後出血率を減少させないことを報告した 1).費用対効果や治療時間の延長を考慮すると,全例に予防的クリッピングを行うのは効率的ではない.出血傾向を有する症例や粘膜欠損部の大きい症例など,高リスク症例に限ってクリップ縫縮を行っていくべきと考えられる.
また,内視鏡治療で穿孔した場合,完全縫縮が可能であれば抗生剤投与と絶飲食により手術を回避できる可能性が高い 2).内視鏡治療医は,穿孔をはじめとする偶発症に備えてクリップ縫縮術について熟知しておく必要がある.本稿では,内視鏡治療後のクリップ縫縮のコツについて解説する.
各種クリップの比較.
OLYMPUS社製のEZ clip®ではクリップの爪の角度は90度と135度の2種類があり,腕の長さはロング,ノーマル,ショート,スーパーショートの4種類がある.爪角度90度のクリップは粘膜の引っかかりがよく爪が粘膜筋板までしっかり食い込むようになっている.粘膜欠損部に対して健常粘膜も含めてクリップ縫縮を行う場合によいとされる.大きな粘膜欠損部に対して両端を引き寄せる場合は,長い腕のクリップがよい.しかしながら,腕が長いほど,把持力が低下する.
Quick Clip Pro®(OLYMPUS),ZEOCLIP®(ZEON MEDICAL),Resolution®(Boston Scientific Japan)は,いずれも回転機能を装備しながら,掴み直しが可能で,ターゲットの確実な把持に対応できるよう開発されている.また,Quick Clip Pro®はコバルトクロム合金を使用しMRI対応となっている.
2 縫縮の実際少し大きめの粘膜欠損の場合は,端からファスナーを上げるようにクリップを順にかけていくことにより縫縮可能である.まず,吸引などにより腸管壁の緊張をなるべく緩める.クリップの両方の爪が両側の健常粘膜に掛かっていることを確認したら,クリップを軽く押しあてて空気を抜きながら,ゆっくりクリップを閉じる.急な操作ではクリップが滑ってしまいやすい.
クリップを端から中心に向かって順にかけていくと,次第に粘膜欠損部が小さくなっていくため,クリップがかけやすくなっていく.後半は,より腕の短い標準あるいはショートクリップへ適宜変更する.
最近,われわれは掴み直し機能のあるQuick Clip Pro®を用いたHold-and-drag閉鎖術を報告した(Figure 1) 3).まずQuick Clip Pro®で粘膜欠損の健常粘膜を軽く把持する.把持したまま対側まで引き寄せた後に,引き寄せた粘膜をクリップ片側のアームにかけたままクリップをわずかに開いて,対側粘膜も含めて再度把持する.引き寄せた粘膜が外れてしまっても,掴み直し機能のため繰り返しトライが可能である.粘膜欠損の両側が引き寄せられたことを確認した後にQuick Clip Pro®をリリースする.次にQuick Clip Pro®の近傍または粘膜欠損の端の部分から順次,通常のクリップを追加し,完全縫縮する.
Hold-and-drag閉鎖術 3).
a:盲腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後潰瘍.
b:Quick Clip Pro®で粘膜欠損の健常粘膜を軽く把持する.
c:把持したまま対側まで引き寄せる.
d:対側粘膜も含めて再度把持し,しっかり把持していることを確認してリリースする.
e:Quick Clip Pro®の近傍または粘膜欠損の端の部分から順次クリップを追加し,完全縫縮する.
留置スネア,クリップ,2チャンネル内視鏡を使用した縫縮法である(Figure 2) 4).留置スネアをスコープ先端の鉗子孔より少し出して,もう一方の鉗子孔から留置スネアを挟むように粘膜欠損部の遠位側の健常粘膜にクリップする.同様の操作を対側の健常粘膜に対しても行う.2点のクリップで固定された留置スネアを絞扼することで,粘膜欠損の端と端を引き寄せる.その後,引き寄せられた粘膜欠損の隙間をクリップで追加縫縮する.
留置スネアを用いた巾着縫合 4).
a:筋層損傷を伴う胃ESD後潰瘍.
b:留置スネアを粘膜欠損の遠位側健常粘膜にクリップ固定.
c:近位側の健常粘膜もクリップ固定.
d:留置スネアを絞扼して両側を引き寄せ,粘膜欠損の隙間をクリップで追加縫縮する.
最近,内視鏡を一度抜去することでシングルチャンネル内視鏡でもこの留置スネアによる巾着縫合が可能であることが報告された 5).内視鏡を一度抜去し,把持鉗子をスコープ先端の鉗子孔より少し出す.把持鉗子で留置スネア先端を把持し,留置スネア装置を内視鏡外側に沿わせた状態で,病変まで移動する.その後,把持鉗子を抜去し,クリップを挿入することで同様の処置が可能となる.
3 糸つきクリップ縫縮法最近われわれは留置スネアの替わりに引き解け結びループの糸を使用して,シングルチャンネル内視鏡で内視鏡を抜去することもなく,内視鏡治療後に連続して縫縮実施可能な新しい方法を報告した 6).これは,引き解け結びのループが糸を引っ張ることで引き締まる性質と,糸とクリップ装置が鉗子孔を同時に通過可能なことを利用している 7),8).さらにわれわれは,この手法を単純化して「糸付きクリップ縫縮法」を考案した(Figure 3) 9).まず,クリップに2mのポリエステル糸(T/Cエルシレン縫合糸(3-0),夏目製作所)を結びつける.糸付きクリップを内視鏡の鉗子孔に通し,粘膜欠損の遠位側健常粘膜に糸付きクリップを留置する.2本目のクリップを装填し,糸を把持・牽引しつつ粘膜欠損の近位側健常粘膜にクリップを留置する.内視鏡鉗子孔の外にでた糸を引っ張ることで,潰瘍の近位と遠位が引き寄せられる.両脇にクリップを追加していくことで,完全縫縮が可能となる.クリップを追加の際には,糸の適度なテンションにより視野を側面視から正面視方向に調節することも可能である.なお,糸は内視鏡用鋏鉗子(FS-3L-1,OLYMPUS)で容易に切断可能である 10).ループカッター(FS-5L-1,OLYMPUS)では切断不能なだけでなく,ループカッターで糸をかみ込んだまま外れなくなる.
糸付きクリップ縫縮法 9).
a:十二指腸ESD後潰瘍.
b:糸付きクリップを粘膜欠損の遠位側健常粘膜に留置.
c:2個目のクリップを糸に引っかける.
d:2個目のクリップを粘膜欠損の近位側健常粘膜に留置.
e:糸を引く.
f:3個目のクリップをあてがい,糸を引くと1個目と2個目のクリップが引き寄せられる.
g:3個目のクリップを留置.
h:クリップを追加.糸を引っ張り,視野を側面視から正面視にすることで,クリップがかけやすくなる.
i:鋏鉗子(FS-3L-1,OLYMPUS)で糸を切断し,完成.
ループクリップはクリップの先の部分にナイロンループをつけたものである(Figure 4) 11).粘膜欠損の辺縁・近位側の中心部分にループクリップを留置する.次に通常のクリップを挿入し,ループクリップのループ部分を引っかける.ループ部分を引っかけたまま,対側の正常粘膜にクリップを留置する.これにより粘膜欠損の近位側と遠位側を引き寄せることができる.次にループクリップの近傍または粘膜欠損の端の部分から順次クリップで縫縮し,完全縫縮する.
ループクリップ縫縮法 11).
a:クリップの先の部分にナイロンループをつけ粘膜欠損の辺縁・近位側の中心部分に留置する.
b:通常のクリップを挿入し,ループクリップのループ部分を引っかける.
c:ループ部分を引っかけたまま,対側の正常粘膜にクリップを留置する.
d:ループクリップの近傍または粘膜欠損の端の部分から順次クリップを追加し,完全縫縮する.
内視鏡治療用ナイフあるいはスネアの先端を用いて,粘膜欠損周囲の粘膜に小さな切開孔を複数作成する(Figure 5) 12).この際,周囲粘膜の追加局注は必ずしも必要ではない.EZ Clipの片脚を切開孔の一つに引っかけて対側まで引き寄せてクリッピングを行う.これを繰り返すことで,完全縫縮が可能となる.
Mucosal Incision法 12).
a:内視鏡治療用ナイフあるいはスネアの先端を用いて,粘膜欠損周囲の粘膜に小さな切開孔を複数作成する.
b:クリップの片脚を切開孔の一つに引っかける.
c:クリップを切開孔に引っかけたまま,対側まで引き寄せてクリッピング.
d:同様の操作を繰り返し完全縫縮する.
内視鏡治療後の縫縮術を各種紹介した.近年,内視鏡治療の症例数増加とともに穿孔をはじめとする偶発症も増加傾向にある.内視鏡治療医は,治療手技のさらなる向上に努めるとともに,クリップ縫縮術などの対処法についても十分に理解・習得する必要がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし