【背景と目的】難治性の良性食道狭窄(RBESs)に対する治療については現在様々な試みがなされている.ステント留置は1つの治療方法としてこれまでも報告されてきた.われわれは,本治療の長期的な嚥下障害の改善効果を評価する目的で,システマティックレビューおよびメタ解析を行った.
【方法】2015年1月までの期間で,成人RBESsに対するステント治療の報告を,PubMed,SCOPUS,Google Scholarで検索した.95%信頼区間を伴ったオッズ比を得るために,ランダム効果モデルを用いて,成功率,有害事象発症率および逸脱率を解析した.
【結果】最終的に18論文(444症例)が解析の対象となった.臨床的な成功率は40.5%(95%CI 31.5%-49.5%)でオッズ比は0.68(95%CI 0.46-0.98)であったが,高い異質性を占めした(I2=65.0%).メタ回帰分析によると,狭窄の病因がこの異質性において唯一影響を及ぼす因子であった.金属ステントやプラスチックステントの成功率は生分解性ステントに比べて有意に高くはなかった(それぞれ,46.2%,40.1%,32.9%).逸脱率は28.6%(95%CI 21.9%-37.1%),オッズ比0.40(95%CI 0.28-0.59)で,ステントの種類により有意差はなかった(それぞれ,33.3%,31.5%,15.3%).有害事象の発症率は20.6%(95%CI 15.3%-28.1%),オッズ比0.26(95%CI 0.18-0.39)で,これもステントの種類により有意差はなかった(それぞれ,19.4%,21.9%,21.9%).
【結論】RBESsに対するステント治療は,約40%の症例で効果を認めた.今後は狭窄の病因による治療効果の解析を行う必要がある.
食道表在癌に対するESDの進歩に伴い,近年は広範囲切除例での瘢痕狭窄に対する対応が議論となっている.予防的なステロイド投与の有効性が示唆されているものの,難治性狭窄(RBESs)に対する治療法はいまだ確立されていない.われわれ外科の領域においても難治性の術後吻合部狭窄に対する対応には依然悩まされているのが現状である.ステント治療はRBESsに対して有望な治療法で,本邦でも学会レベルでの報告は散見されるが,本邦において承認されている食道ステントは悪性狭窄に対する金属ステントのみであることから,臨床適応が進んでいない.
本論文は,金属ステント(SEMSs)に加え,本邦ではまだ承認されていないプラスチックステント(SEPSs) 2)や生分解性ステント(BDSs) 3)を対象とし,RBESsに対する食道ステントの長期的治療効果を評価した大規模なメタ解析である.上記の通り,全体の結果では食道ステントの成功率は40%程度で,成功率,危険性ともステントの種類による差はなかった.しかし,良性食道狭窄の病因として,酸逆流後の瘢痕,腐食性食道炎後の瘢痕,術後吻合部狭窄,放射線性狭窄,などがあげられるが,解析対象論文ごとにこれらの割合が不均一であることが本文中にも指摘されており,今後は病因ごとの検討が必要であると述べられている.
狭窄の各病因における,適切なステントの種類や留置期間の検討は,今後の保険承認さらには臨床適応へ向けて有益な情報となってくるので,これらに関する海外の報告を注視しつつ,本邦でも適応を十分考慮しながら,RBESsに対して各種食道ステントを試用していく必要があると思われる.