日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
回収ネット,把持鉗子を併用し除去しえた,腕時計の1例
尾上 公浩 緒方 創造東 哲生渡名喜 銀河岩崎 肇原田 孝弘
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2017 年 59 巻 7 号 p. 1487-1491

詳細
要旨

症例は74歳 女性.認知症で入院中,腕時計を誤飲し当科外来受診.腹部単純レントゲンにて胃内に異物を認め,上部消化管内視鏡を使用し摘出を試みた.時計は直径5cm大の硬い金属のバンドが伸縮するタイプで,重量もあり当院に常備されているデバイスでは摘出困難であった.そのため,内視鏡の鉗子孔から出した,把持鉗子で回収ネットをつかみ腕時計のバンド内を通過させた後,一端回収ネットを離し,バント外から回収ネットを掴み直すことで回収ネット,把持鉗子,内視鏡でリングを作り,腕時計を牽引することに成功し体外へ除去しえた.本方法は,重量のあるリング状消化管異物を低侵襲に体外へ摘出するうえで有用な方法と思われた.

Ⅰ 緒  言

消化管異物は,食物塊,義歯,内服薬のpress through pack(PTP),魚骨,硬貨,ボタン電池など 1が代表的であり,食道や胃に停滞している異物は上部消化管内視鏡を使用し摘出する.通常,把持鉗子,回収ネット,スネア,五脚などのデバイスを使用し異物を把持し体外に摘出する.その成功率は97.7-98.8% 2),3と報告されており,高率に上部消化管異物は内視鏡的に除去可能である.しかし近年高齢化社会を迎え,認知症患者の増加などにより時に回収困難な異物に遭遇する.今回われわれは通常のデバイスでは摘出困難であった直径5cm大の腕時計に対し回収ネット,把持鉗子を併用し摘出しえた症例を経験したためここに報告する.

Ⅱ 症  例

74歳,女性,認知症にて近医入院中で過去にも硬貨などの誤飲で当院受診歴がある患者であった.腕時計を誤飲したとのことで当科受診となった.レントゲンで胃内に異物を確認,その大きさから自然排泄は期待できないと考えられた.異物摘出術ガイドライン 4による「消化管を閉塞する可能性があるもの」に該当すると思われ,ご家族同意のもと,上部消化管内視鏡(オリンパス社GIF-Q260J)にて摘出を試みた.時計は直径5cm大の硬い金属のバンドが伸縮するタイプ(Figure 1)で,重量もあり当院に常備されている回収ネット(Boston Scientific社製ネット幅26mm),把持鉗子,スネアでは把持,牽引できず摘出困難であった.

Figure 1 

胃内に直径5cm大の硬い金属のバンドが伸縮するタイプの腕時計を認める.

そのため,オーバーチューブを留置後,内視鏡を一旦抜去し,回収ネット,把持鉗子を組み合わせることで摘出を試みた.内視鏡の鉗子孔に把持鉗子を通し,内視鏡の先端から把持鉗子を出した.その後展開させた回収ネットの先端を把持し,回収ネットを収納した.内視鏡のシャフトと回収ネットのシースを合わせて掴み内視鏡を挿入(Figure 2)することで回収ネットを異物まで誘導した.時計のバンド内に内視鏡と共に回収ネットを通した後,回収ネットを離し内視鏡をバンド外に抜去した.回収ネットを展開し,その先端を把持鉗子で掴み直した.回収ネットを半分ほど収納し内視鏡と回収ネットを合わせて抜去することで異物を牽引可能となった(Figure 3).オーバーチューブ内に腕時計のバンドを引き込みオーバーチューブごと異物を体外に摘出した(Figure 4).摘出後内視鏡を再挿入し確認したが食道,胃内に軽度の発赤を認める程度で大きな損傷は認めなかった.

Figure 2

a:内視鏡の先端から把持鉗子を出し,展開させた回収ネットの先端を把持しているところ.

b:回収ネットを収納し,内視鏡のシャフトと回収ネットのシースを合わせて掴み内視鏡を挿入しているところ.

Figure 3

a:時計のバンド内に内視鏡と共に回収ネットを通したところ.

b:回収ネットを離し内視鏡をバンド外に抜去し,その後回収ネットを展開し,その先端を把持鉗子で掴み直しているところ.

c:回収ネットを半分ほど収納し異物を牽引しているところ.

Figure 4

a:食道胃接合部を通過しているところ.

b:オーバーチューブ内に腕時計のバンドを引き込んでいるところ.

c:摘出された腕時計.

Ⅲ 考  察

消化管異物は消化器内科医が比較的高頻度に遭遇する疾患の一つであるが1,医中誌で消化管異物,内視鏡治療,腕時計をkey wordに検索したが,腕時計を内視鏡で摘除を行った症例は確認できなかった.消化管異物として腕時計を誤飲する頻度が稀である点は否定できないと思われるが,自見ら 5は開腹手術にて胃内の腕時計を含む消化管異物を摘除した症例を報告している.報告では患者は統合失調症,異食症の既往を有しており,今後も精神疾患を有する患者や高齢者で身近にある腕時計の誤飲は起こる可能性があり,本方法を用いれば低侵襲に異物を除去できる可能性が示唆された.

本方法の特徴は,回収ネットと把持鉗子でリングを作り,引っ張ることで時計のバンドを直線化できる点である.本方法を行うには回収ネットを通すためのリングが必要であり身近な物としてはさみや,折りたたまれたメガネなどに応用可能と考えられた.はさみは,柄の部分に,めがねは丁番の内側に回収ネットを通すことで牽引可能になると思われる.ただリング状構造のない異物,例えば巨大な食物塊や義歯などには応用困難と思われた.

回収ネットの代わりに使用可能なデバイスとしては,ポリペクトミースネアが挙げられる.しかし,金属のスネア部分を把持するよりも化学繊維であるネットの部分を把持することで把持力を高めることが可能で重量のある異物を牽引できる点で回収ネットの使用が適していると推察される.

また,2チャンネルスコープを使用することでもリングを作ることも可能であると考えられる.しかし本方法では,腕時計のバンド内に回収ネットを通した後,バンド外へ内視鏡を抜去し,ネット部分を把持しなおす必要があるため,2チャンネルスコープではスコープ操作と連動して回収ネットが干渉を受けるため,煩雑な操作となり,回収ネットがスコープの干渉を受けにくい点で,通常のスコープを使用した本方法が有用と思われた.

なお,保険適応に関しては,使用している材料,機器ともに,通常の上部消化管内視鏡と異物除去に使用されている既存のデバイスを組み合わせて使用しており,「内視鏡的食道及び胃内異物摘出術」の適応は倫理的にも問題ないと思われた.

Ⅳ 結  語

回収ネット,把持鉗子を併用し除去しえた,腕時計の1例を経験した.本方法は,重量のある消化管異物特に腕時計のようなリング状構造を持つ異物を低侵襲に体外へ摘出するうえで有用な方法と思われた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top