日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
手技の解説
大腸ESDにおける新たなトラクション法- けん引クリップ®(S-O clip)を用いたESD -
坂本 直人 長田 太郎立之 英明村上 敬澁谷 智義冨木 裕一渡辺 純夫
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2017 年 59 巻 7 号 p. 1514-1523

詳細
要旨

大腸ESDは依然として難易度の高い手技であり,接線方向からのアプローチが難しい症例では粘膜下層が十分視認できず,剥離操作に難渋し,穿孔などを生じる危険性が高くなる.しかし,トラクションにより良好な視野が得られればESDの手技は数段容易となり安全に行うことができる.有効なトラクションを得るには牽引する方向と安定した強さが重要であり,これを目標に多くのトラクション専用のデバイスが考案されてきたが大腸ESDで実際に使用される機会は少なかったと思われる.近年,市販化された「けん引クリップ®(S-O clip)」は通常のクリップと同様に鉗子口を通過可能なデバイスであり,深部大腸においても簡便に使用できる.ESDの主な適応である20mm~50mm程度の平坦型腫瘍においては終始安定したトラクション効果が得られており,大腸ESDを効率よく安全に行う上で有用なデバイスとなるであろう.

Ⅰ はじめに

Endoscopic Submucosal Dissection(ESD)は病変の大きさや形態にかかわらず一括切除が可能な優れた手技であるが,メスを持った片手のみで手術をするような方法であり,開発された当初は極一部のスペシャリストのみが施行可能な特殊な手技と考えられていた 1)~3.その後,スペシャリストによる啓蒙活動や内視鏡医の技術の向上,内視鏡機器の進歩と様々なデバイスの開発などによりESDの手技は確立され,現在では早期胃癌や早期食道癌に対する標準的治療となっている.大腸病変に対しても2012年に保険収載され,徐々に多くの施設で施行されるようになってきているが,大腸は屈曲が多く内視鏡操作が難しい上に壁が薄いため,わずかな操作ミスで穿孔する危険性がある.また,腸管内には細菌が多いため穿孔すると腹膜炎を生じ,緊急手術を要する可能性もあり,いまだ標準化した手技には至っていない.

ESDの手技は大きく周囲切開と粘膜下層の剥離に分けられるが,その難易度は粘膜下層の剥離の難しさに左右される.特に病変が対峙して接線方向からのアプローチが難しい症例では周囲切開直後の粘膜下層への潜り込みがスムースにできずに苦労する.また,粘膜下層が十分に観察できない状況下では出血や穿孔などの偶発症を生じる危険性も高く,偶発症を生じた際の対処も困難となる.安全で確実な剥離を行うためには良好な視野を確保することが重要であり,われわれは粘膜下層を直視可能とするトラクション法に注目してきた.トラクションは手術時の介助者的な役割を担っており,有効なトラクションを行えばESDの手技は数段容易になる.

体位変換は重力を利用した基本的なトラクション法であり,大腸ESDにおいてはほとんどの内視鏡医が利用しているものの効果が得られないこともある.また,ESDを行う上で必須となっている先端透明フードはある程度粘膜下層を剥離し,潜り込んだ状態では有効なトラクションとなるが,接線方向からのアプローチが困難な状況では粘膜下層への潜り込みが難しく十分な効果が得られない.また,難易度の高い病変に対してHook系のknifeを使用する時には引きながら切除するためフードによるトラクション効果は失われてしまう.

そのため,これまでにさまざまな方法やトラクション専用のデバイスも考案されており,2010年にオリンパスメディカルシステムズ(株)から胃ESD専用のデバイスとして「エンドリフター®」(Figure 1-a)が,主に食道や胃のESDを対象に使用されてきた糸付きクリップが2015年にカネカメディックス(株)から「カネカ牽引用クリップ®Figure 1-b)として発売された.さらに,われわれが主に大腸のESDを対象に使用してきたS-O clipが2016年にゼオンメディカル(株)から「けん引クリップ®」として発売された.ここでは大腸ESDにおける「けん引クリップ®(S-O clip)」の使用法などを中心に記載する.

Figure 1

a:エンドリフター®

b:カネカ牽引用クリップ®(糸付きクリップ).

Ⅱ ESDにおける理想的なトラクション

有効なトラクションを得る上で最も重要なことは,牽引する方向であり,理想的な方向は病変の真対側および対側やや手前側(スコープ側)である(Figure 2-a3-f).ボリュームのある病変をこの方向に重力がかかるよう体位変換すると,病変が固有筋層から離れる方向に牽引され,粘膜下層が直視できるだけでなく,適度で安定したテンションが得られるため,わずかなナイフ操作で効果的に剥離をすることができる.病変が対峙して潜り込みが困難な場合でもこの方向にトラクションがかかると粘膜下層が接線方向に近い状況となり剥離が容易となる.病変の対側奥側(スコープ遠位側)(Figure 2-b)も有効ではあるが,角度がきつくなると病変がそり返り剥離しにくくなる.一方,手前側では角度がきつくなっても,粘膜下層へ潜り込んだ状態を維持できれば,透明フードにより対側手前に牽引した状態に近い状況となるため一定の効果が得られる(Figure 1-b).

Figure 2

a:病変真対側.

b:病変対側やや奥側(スコープ遠位側).

Figure 3

a:けん引クリップ®(S-O clipTM).

b:けん引クリップ®を鉗子口から挿入.

c:けん引クリップ®の装着.

①病変周囲を切開し,粘膜端の挙上したい部位(病変中心部)にS-O clipTMを装着する.スプリングは壁側へ.

d:マーキング.

②病変周囲を切開し,粘膜端の挙上したい部位(病変中心部)にマーキングする.

e:③通常のクリップを挿入しループ部に掛ける.

f:④S-O clipTMを牽引して,病変反対やや手前の壁に装着する.

g:⑤切除後にループ部をナイフでカットして病変を回収する.

あるいはリムーバーでクリップごとはずす.

次に,牽引する力の強さが重要となる.牽引が弱ければ効果が得られないし,強すぎても病変が過度につり上がり,固有筋層の形状も変わって剥離しにくくなることもある.また,牽引の強さが常時変わってしまうようでは剥離すべき粘膜下層が動いてしまい穿孔のリスクも高くなる.よって,牽引する力が適度かつ安定していることが重要であり,特に,大腸のように壁が薄く蠕動の強い部位においては安定した牽引が重要である.

Ⅲ カウンタートラクションの種類

現在,考案されているカウンタートラクションの方法は大きく分けて3種類ある.

1)重力や先端透明フードなど既存の効果を高める方法.

2)内視鏡の脇から鉗子などで病変の一部を把持して挙上する方法.

3)内視鏡とは独立した処置具を用いて病変を把持して挙上する方法.

いずれも有効な方法であるがそれぞれに特徴があり,状況や使用法により十分な効果が得られないこともある.そのため,個々の特徴を理解することが大切である.

1)既存の効果を高める方法

大腸ESDを行う前に病変の位置と重力のかかる方向を確認しておくことは重要である.先に記したとおり,病変が上にあれば重力で自然に牽引され粘膜下層の剥離が容易となるだけでなく,重力によるテンションで剥離スピードも高くなる.一方,下にくると粘膜下層が視認しにくくなり,水がたまって剥離操作が困難となることもある.そのため,病変が上にくるように体位変換して行うことが多い.しかし,病変が軽いとその効果が得られなくなる.Sinkerシステム法 4は重りを装着することで,大腸ESDの主な適応であるLST-NGなどのような平坦型の薄くて軽い病変でも重力による牽引効果が得られるようにする優れた方法である.この方法では牽引の強さは重力に依存しているため過度なテンションがかかる心配はなく,体位により牽引方向も変えることができる.しかし,内視鏡時にとれる体位や管腔のスペースを考慮するとその適応は限定されてしまう面もある.

クリップフラップ法 5は周囲切開後に通常のクリップを病変側粘膜に装着してmucosal flapのようにし,先端透明フードの粘膜下層への潜り込みを手助けする方法である.特別な準備をする必要がなく,すぐに行える手軽な方法であるがトラクションとしての効果は乏しく,対峙した状態ではクリップが思わぬ方向に展開されて逆に剥離が難しくなることもあるので注意を要する.

2)内視鏡の脇から鉗子などで挙上する方法

内視鏡の脇から把持鉗子で病変を挙上する方法 6は適宜つかみ直して牽引する場所や方向を変更できるメリットがある.一方でスコープとトラクションデバイスが一体化しており,ナイフと連動してしまうため病変を把持した部分を軸にスコープ操作しなければならないが,牽引の強さは調整しにくく安定した牽引を維持することは難しい.エンドリフター®はナイフとの距離を長くとることで,連動を最小限に抑え,有効なトラクションを可能としている 7が,管腔の狭いところでは対側の壁を傷つけてしまう可能性もあるので注意を要する.現状では早期胃癌に対するESDのみが適応となって市販されている.

3)内視鏡とは独立した処置具で挙上する方法

内視鏡と独立した処置具を用いる方法は自由なスコープ操作ができるメリットがある.代表的なものとしては糸付きクリップ法 8があり,Magneticアンカー法 9,ダブルスコープ法 10)~12,S-O clipを用いるけん引法 13),14などがある.小山らが考案した糸付きクリップは早期食道癌や早期胃癌に対するESDとして広く試みられている有効な方法であり,2015年にカネカメディックス(株)から「カネカ牽引用クリップ®」として市販化された.糸付きクリップは病変を平行かつ手前側(スコープ側)に牽引する方法であり,周囲切開後に装着する.スコープを一度抜去して牽引する必要があるものの,咽頭ESDなどにおいても有効である.スコープに細いチューブを装着してそこから糸付きクリップで病変を牽引するクロスカウンター法であれば深部大腸でも使用可能である.クロスカウンター法を用いた検討ではスコープ外側に装着した細いチューブで腸管を傷つけないようシングルバルーンオーバーチューブを使用し,安全に短時間でESDが完遂可能であったと報告されている 15

Magneticアンカー法は磁力により自由な方向に牽引できる理想的なカウンタートラクション法と考えられるが多大な費用がかかり,実際に使用設備を整えることは困難と思われる.

ダブルスコープ法,細経内視鏡補助下ESD(thin endoscope assisted ESD:TEA-ESD)は病変を把持して自由な方向に展開可能な手技である.二人の熟練した術者が上手にスコープコントロールすることができれば理想的な牽引が得られるが,実際にはスコープが干渉しあって牽引の力や方向を調整するのに苦労することも少なくない.また,内視鏡光源2台,スコープ2本の準備が必要な上,スコープ挿入の問題から大腸では直腸~S状結腸に限られた手技である.

われわれが考案したS-O clipは通常のクリップと同様に短時間で装着でき,どの方向にも安定した牽引を可能にするため,多くの症例において有効である.しかし,装着する方向や距離を誤ると効果が半減するだけでなく,逆にやりにくくなることもあるため注意を要する.

Ⅳ けん引クリップ®(S-O clip)を用いたESDの手技

1.けん引クリップ®(S-O clip)

S-O clipはクリップ,弾性素材(ゴムやスプリングなど),ループから構成されるシンプルな処置具であり,ゼオンメディカル(株)から「けん引クリップ®(S-O clip)」として販売された(Figure 1).今回,販売されたけん引クリップ®は主に大腸ESDを対象として作成されたものであり,弾性素材は長さ5mmであり,1g重では伸びず,20g重で約10倍の長さに進展するスプリングを使用している.クリップはZeoclip,ループはナイフによって切除可能な直径約5mmのナイロンが使用されている(Figure 3-a).けん引クリップ®は内視鏡の鉗子口をスムースに通過可能な処置具であり,通常のクリップと同様に取り扱うことができる(Figure 3-b).

2.けん引クリップ®(S-O clip)の使用法

1.病変周囲を切開

通常のESDの手技と同様に周囲切開を行う.大腸などでは全周切開を行わずに剥離を開始することが多いが,本手技では通常,全周切開を行ってから剥離している.特にけん引クリップ®を装着する前に遠位側の周囲切開を確実に行っておくことが重要である.けん引クリップ®装着後の反転操作はスプリングを伸ばしてしまう危険性があるので,原則禁忌と考えている.本デバイスで使用されているスプリングは15~20倍以上の長さに伸ばしてしまうと伸びきって戻らなくなる.腸管そのものの弾力もあるため順方向から適切な使用をしていれば,通常このようなことは起きないが反転操作やマーキングを置かずに過度に伸展させればスプリングが伸びきってしまう可能性がある.

2.けん引クリップ®の装着

周囲切開後に病変粘膜端の挙上したい部位にけん引クリップ®を装着する.大腸ESDでは,通常,肛門側の中心部分に装着する.病変対側のやや手前側(スコープ側)に牽引することを想定し,スプリングのついている部分を腸管壁側にくるようにして装着する(Figure 3-b,c).逆にスプリングのついている部分を管腔側に装着して手前側(スコープ側)に牽引するとクリップが邪魔になるので注意する(Figure 4-a,b).また,装着する時に固有筋層をかまないように十分注意する.装着する直前に局注を行うとけん引クリップ®の装着は容易となる.周囲切開後に少し剥離をしてから装着してもよいが,剥離しなくても局注すれば十分なスペースが生まれクリップを安全に装着できる.対峙した病変だと切開直後の剥離操作そのものが危険であり,剥離を進めることで逆に粘膜下層に局注液が入りにくくなることもあるため剥離操作を行わずに装着した方がよい.

Figure 4

a:管腔側に装着した場合.

病変対側やや奥側にけん引する場合は問題ない.

b:管腔側に装着して手前側にけん引した場合.

病変対側やや手前側にけん引しようとするとその後の剥離操作時にクリップが邪魔になる.

3.マーキング

病変対側のやや手前側(スコープ側)の壁に高周波ナイフの先端でマーキングを行う(Figure 3-d).病変から5~7cm程度の距離をとれる位置がよい.イメージ通りにマーキングできたと思っても,適切な位置につけられていないこともあるので,再度少し離れた位置から,けん引クリップ®の装着部とマーキングの位置を確認し,マーキングを目安に牽引する位置を決定する.例えばマーキングよりやや右側が適切な位置であればそこにループ部分を通常クリップで装着するイメージを作る.必要があれば再度マーキングをする.

4.ループ部分を対側の壁へ装着

次に通常のクリップを挿入し,けん引クリップ®のナイロンループの部分に掛けて(Figure 3-e),半回転くらいを目安に回転させてループを保持し,マーキングの位置を確認しながら,イメージした対側の壁の部位に装着する(Figure 3-f).このデバイスは牽引する位置が最も重要であり,適切な位置に装着すれば,対峙する病変でも病変がきれいに牽引され,粘膜下層が十分視認できるようになり,安全に剥離操作ができるようになる.

5.病変の回収

病変を完全に切除した後,ナイロンのループ部分を高周波ナイフでカット,あるいはクリップを外して病変を回収する.ループ部分をカットする際には糸のところだけにナイフをかけて切るようにする(Figure 3-g).

症例1:S状結腸,26mm LST-NG,SM100μm(Figure 5).

Figure 5 

症例1:S状結腸,26mm LST-NG,SM 100μm.

症例2:横行結腸,20mm LST-NG,SM400μm(生検瘢痕による高度線維化病変)(Figure 6).

Figure 6 

症例2:横行結腸,20mm LST-NG,SM400μm.

症例3:盲腸(虫垂入口部),28mm SSA/P(Figure 7).

Figure 7 

症例3:盲腸(虫垂入口部),28mm SSA/P.

Ⅴ けん引クリップ®(S-O clip)のメリット

1.どの部位でも簡便に使用可能

本手技では大掛かりな設備や手間のかかる準備をする必要がなく,深部大腸など病変の部位に関係なくどこでも使用可能である.通常のクリップと同様に内視鏡を抜去せずに鉗子口を通して装着することができるため,病変の部位にかかわらず所要時間も2~3分ですむ.

2.独立したトラクションによる自由なナイフ操作

同じトラクション法でも2チャンネルスコープやスコープの脇から把持鉗子などで病変を挙上する方法ではナイフと鉗子が連動してしまい自由な操作ができず剥離しにくくなることがある.また,蠕動などの予期せぬ動きにより把持していた部分がちぎれてしまう危険性もある.

本手技ではトラクションデバイスであるけん引クリップ®と高周波ナイフが完全に独立しており,離れた位置からでも十分な視野を確保しながら自由にナイフを操作することができる.現在主に使用されているボールチップ型のナイフやフック系のナイフでは引っ掛かりもよく,適度な牽引も加わることで一度に剥離できる面積も増す.

3.オートマチックなトラクション

本手技では希望の方向に持続的な牽引を行うことが可能である.本デバイスのスプリングは伸展,収縮ともに良好かつ一定の強さであり,過度なテンションがかかって,筋層がつり上がったりすることなく,蠕動の影響も受けにくい.終始安定したトラクションがかかり,病変が自動的に牽引されていく.ナイフが筋層と対峙してしまい,粘膜下層への潜り込みが困難なケースでも周囲切開直後にトラクションをかければ,粘膜下層が視認できるようになる.さらに,ナイフで粘膜下層の表面を滑らせていくだけで容易に剥離が進んで,直ちに良好な視野が得られるようになる.

4.切除後の処置

病変切除後も病変はナイロンループを介して腸管粘膜とクリップでつながれているため,蠕動などにより病変が他の部位に移動してしまうことがない.そのため,ESD後に露出血管の焼灼や潰瘍面の縫縮などを行った後にゆっくりと病変を回収することができる.

Ⅵ おわりに

当初,われわれはけん引クリップ®をESD困難症例に対するオプショナルツールとして考案したが,周囲切開直後から使用した方が効果的であり,剥離困難な状況を作らないためにも周囲切開直後から使用している.これにより,粘膜下層の線維化の強い症例や垂直に対峙した状況下でもより安全に剥離することが可能となった.また,虫垂内病変や憩室を伴う病変のように従来では内視鏡的切除が不可能と思われる病変でも本手技を用いて切除することが可能となった 16),17Figure 4).しかし,剥離困難な状況に陥ってから使用する場合や高度線維化病変に対して使用する際は牽引する方向や強さをより正確に行うことが要求される.前述のごとく本デバイスでトラクションの効果を得るためには適切な位置に装着することが重要であり,牽引力の強さなどを含め,デバイスの特性を理解する必要がある.

すべてに共通することではあるが慣れることは重要であり,はじめは線維化のない20~30mm程度の比較的小さな病変から開始し,症例数を積んでから高度線維化症例に使用して頂きたいと考えている.また,管腔の状況,病変の位置,大きさ,形態などは症例ごとにすべて異なっており,牽引すべき方向も異なる.装着する方向や距離が少しずれるだけで効果が半減し,軸がずれると逆に剥離しにくくなることもある.装着後はトラクションの方向は一定であり,方向を変えるには一度クリップを外す必要がある.そのため,マーキングを怠らず正確な位置にクリップを装着することが重要である.また,良好な視野が得られた後も対峙する病変,襞をまたぐような病変ではその先にある固有筋層などをイメージして,深く切り込まないよう注意するようにする.良好なトラクションが得られればテンションにより表面をなでるように剥離をしても比較的早いペースで進むのであせらず丁寧に剥離操作を進めていくことが重要である.また,Hook系のナイフを使用すればより安全に剥離を行うことができる.S-O clipとHook系のナイフ(Hook knife,Mantis hookなど)との相性はよく,良好なカウンタートラクションが得られることで安全にスピーディーに剥離操作を行うことができる.ある程度このデバイスに慣れれば,本手技によりほとんどの症例において剥離が容易となる.当院で20mm~50mmの大腸側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor:LST)を対象にランダム化比較試験を行ったところ,S-O clipにより優位に切除時間が短縮された 18.本デバイスにより粘膜下層が十分視認できれば剥離操作が容易となるため,ESDのトレーニングやESDを安全に導入するために有効であると思われる.施行時間の短縮,ナイフの使用本数や局注液の量の抑制につながり,ESDのコストの削減にも寄与するものと考えている.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top