日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
大腸ポリープ切除後のクリップ止血予防に対する多施設共同無作為化比較試験
松本 美桜 加藤 元嗣大庭 幸治安孫子 怜司津田 桃子宮本 秀一水島 健大野 正芳大森 沙織高橋 正和小野 尚子間部 克裕中川 学中川 宗一工藤 俊彦清水 勇一坂本 直哉
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2017 年 59 巻 7 号 p. 1537-1545

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要旨

【背景】現在大腸ポリープの切除に際し,切除後の出血予防にクリップをかけることが一般的である.しかし,クリップの有無については術者の裁量に委ねられており,かつ,クリップの出血予防効果についても明らかとはなっていない.

今回,クリップの効果を明らかにすべく,われわれは2cm以下のポリープを対象に多施設共同の無作為化比較試験を行った.

【方法】検討期間は2004年4月から2013年7月の間,内視鏡的にポリープ切除を行う2cm以下のポリープを持つ20歳以上の患者を対象とし,ポリープ切除後の出血の有無を調査した.肝硬変や透析症例,ヘパリン置換例など重篤な合併症を持つものは除外とした.クリップ施行群ではポリープ切除後に全例でクリップをかけ,非施行群ではクリップを施行せずに処置終了とした.切除時に露出血管または静脈性出血が見られた場合には,スネアの先端で凝固焼灼を追加した上でそれぞれの群に応じた処置を行い終了としたが,動脈性出血が見られた場合には適切な止血処置を行い検討からは除外した.

切除後は慎重な経過観察を行い,顕性出血やHb2以上の低下があった場合には緊急内視鏡を行い出血部位を同定した.

【結果】北海道の7施設が研究に参加し,1,499人3,365ポリープが解析対象となった.そのうちクリップ群は752人1,636ポリープ,非クリップ群は747人1,729ポリープであった.後出血率はクリップ群で1.10%(18/1,636),非クリップ群で0.88%(15/1,729)であった.その差は-0.22%(95%CI:-0.96,0.53)で,95%信頼区間上限が非劣性マージン1.5%を下回り,非クリップ群のクリップ群に対する非劣性が証明された.次いで,クリップ群,非クリップ群それぞれに出血に関わる因子を検討したところ,両群でサイズが有意な因子となった.さらに非クリップ群ではさらに切除後の凝固焼灼の追加も有意なリスク因子であった.

【結語】大腸ポリープにおける後出血予防としてのクリップ施行は必ずしも必要ではないことが明らかになった.さらに,後出血の危険因子として凝固焼灼の追加が挙げられ,高周波を使用しないコールドポリペクトミーの有用性も示唆された.

Ⅰ Background

後出血は内視鏡的ポリープ切除において最も重要な合併症のひとつである.後出血予防にはしばしばクリップが使用されるが,クリップは全例に使用されているわけではなく,その有用性や使用指針も明らかではない.

クリップの有用性についてはいくつかの報告があるが,ランダム化比較試験は1例のみ 1,ケースコントロールが1例 2で,他は後ろ向き試験 3),4である.ランダム化比較試験は500例以下のサンプルサイズの小さなものであり,後ろ向き試験ではクリップは後出血を減少させないという結果であった.もうひとつの後ろ向き試験は2cm以上のポリープを対象としており,こちらではクリップの有用性が示されている.

The American Society for Gastrointestinal Endoscopy(ASGE)でもクリップ施行については明確な指針を出していない 5.一方,施行したクリップの脱落時に出血を来たす可能性も指摘されている.また,クリップの施行には時間とコストがかかるため,不要な処置であれば行わない方が患者負担・医療経済の両面から望ましいと考えている.

今回の研究の目的は,クリップの後出血予防効果を評価することである.

Ⅱ 方  法

Study design

2004年4月から2013年7月までの期間,介入試験として多施設共同のランダム化非盲検検証的非劣性試験を行った(UMIN000007165).われわれは単施設でのクリップの有無による後出血の後ろ向きデータを用いてプロトコールおよびサンプルサイズを決定した.プロトコールはすべての参加施設の倫理委員会で承認され,すべての患者は試験参加に関して十分なインフォームドコンセントを得た.参加施設は,北海道大野病院,北海道社会保険病院,釧路ろうさい病院,森内科・胃腸科医院,苫小牧市立病院,北海道大学病院,NTT東日本札幌病院の7施設である.

Subjects

同意取得時において年齢が20歳以上であり,2cm以下のポリープを切除するものを対象とした.全例事前にCSを受け,切除適応のポリープがあることは確認した.出血傾向のあるもの(出血時間5分以上,血小板5万以下),肝硬変,透析患者など重篤な合併症を持つ者,その他,試験責任医師が被験者として不適当と判断した者は除外とした.

抗血栓薬症例に関しては,2012年7月以前の症例では,1999年版の“抗血栓薬に関わる内視鏡学会のガイドライン” 6に従い,ワーファリンは5-7日間,チクロピジンとアスピリンは7-10日間,シロスタゾールは3日間,他の抗血栓薬は1日の休薬とした.それ以降では2012年版のガイドライン 7に準じてアスピリンは3-5日,チエノピリジンは5-7日,それ以外の抗血小板薬は1日の休薬とし,ガイドラインから外れているものは除外とした.また,ワーファリンやダビガトラン使用例はヘパリン置換とし,これらの症例は検討から除外した.

ランダム化

2cm以下のポリープを持つ患者を北海道大学病院の登録センターに登録し,クラスタランダム化によりクリップ群,非クリップ群に振り分けた.ポリープ切除はEMRかConventional Polypectomyで行われ,どちらの方法を選択するかは術者判断とした.EMRでは十分な生理食塩水(アドレナリンの有無は問わない)を局注針で粘膜下に局注した後にスネアで周囲のマージンを取って把持し,高周波凝固装置で通電し切除した.Conventional Polypectomyでは生理食塩水の局注を行わずにスネアと高周波凝固装置のみで切除した.高周波凝固装置としてICC-200(ERBE),VIO-200D(ERBE),ESG-100(Olympus) and PSD-60 (Olympus)を使用した.

ポリープ切除後,クリップ群では,切除範囲のサイズに関わらず,切除したすべてのポリープにクリップを施行した.クリップの数は,術者が予防止血効果が得られると判断するまで,本数は問わないものとした.一方非クリップ群ではクリップをかけずに終了した.

ポリープ切除直後に動脈性出血が見られたものはクリップによる止血を行い,解析対象からは除外した.ポリープ切除直後の静脈性出血もしくは露出血管を認めた場合には,スネア先端で高周波凝固を追加して止血が確認できた後,クリップ群はクリップを施行,非クリップ群ではクリップをかけずに終了とし,検討からは除外しなかった.

出血イベント

後出血は明らかな血便もしくはヘモグロビン2mg/dl以上の低下があった場合とした.出血例は全例緊急内視鏡を行い,切除後潰瘍からの出血かどうかの確認を行った.複数のポリープの切除が行われていた場合は,可能な限りどのポリープ切除部位からの出血かを同定した.およそ2週間後の外来にても顕出血のエピソードの有無を確認し,エピソードがあった場合には採血を行いヘモグロビンの値を確認した.

調査項目は患者およびポリープの背景,追加凝固の有無,クリップ群においては施行したクリップの本数,術者の経験年数(10年以上,10年未満),使用した高周波凝固装置である.

Sample size

目標症例数は1群500例,合計1,000例とした.サンプルサイズの設定に当たっては,福田ら 8の報告がわれわれの事前の研究デザインと結果に近く,これを後出血率の参考とした.まず,本研究では,1人に対し複数個ポリープが存在している場合が多いため,クラスタランダム化を行うこととした.当科の検討では,1人あたり平均で約3個のポリープ切除が行われていたため,被験者1人あたりのポリープ数を3個と設定すると,クラスタランダム化を行う際のInflation Factorは1+(3-1)ρとなる 9.ここで級内相関係数にあたるρ=0.05とすると,Inflation Factorは1.1となる.本研究での,非劣性のマージンを1.5%とすると,後出血率2.5%,片側有意水準5%,検出力80%の下で2群の割合の非劣性を検討するためには,1群1,340個必要となる(nQuery Advisore R7).したがって,Inflation Factorを考慮した1,474個が1群に必要なポリープ数となる.ポリープ数が平均3個であるため,1群492名が必要症例数となり,多少の脱落・評価不能例を考慮し,1群500例を目標症例数として設定した.

Endpoints

primary endpointは後出血の頻度とした.Secondary endpointとして,各群の出血に関わる因子を検討した.

Statistical analysis

統計法としては,chi-square test,t-test,ロジスティック回帰分析を用いた.p値は0.05以下を統計学的に有意とした.上記の統計計算はJMP® 11(SAS Institute Inc. Cary,NC,USA)を用いた.

主要な解析では,同じ被験者内で複数箇所ポリープが存在すること,また,複数回のエントリーが想定されることから,被験者内相関を考慮した一般化推定方程式に基づいたロジスティック回帰モデルを用い,クリップ群と非クリップ群の出血割合の差を算出した.

その際の相関構造にはCompound Symmetry型の相関構造を用いた.リスク差の95%信頼区間の上限が1.5%を含むかどうかを検討し,1.5%を下回った場合,非クリップ施行群のクリップ施行群に対する非劣性が証明されたと判断する.

95%信頼区間の算出にはロバスト分散を用いた.

Ⅲ Results

同意が得られ割り付けが行われたのは1,553人,3,568ポリープであった(Figure 1).

Figure 1 

Flow of Study.

最終的には1,499人,3,364ポリープが検討対象となった.クリップ群は752人,1,636ポリープ,非クリップ群は747人,1,728ポリープであった.平均では1人あたり2.24個のポリープが切除されていた.

各群の男女比はクリップ群で534:218,非クリップ群で513:234(p=0.32),年齢中央値はクリップ群で65(25-87)歳,非クリップ群で66(25-88)歳であり,両群に差はなかった(p=0.32,0.09).

クリップ群では5mm未満のポリープは388個,5mm以上のポリープは1,248個であった.非クリップ群では5mm未満のポリープは447個,5mm以上のポリープは1,281個であり,差はなかった(p=0.15).

両群間でポリープの部位,形態,抗血栓薬の使用,使用した高周波凝固装置に差はなかった.

EMRはクリップ群で1,113個,非クリップ群で1,187個,Conventioal Polypectomyはクリップ群で523個,非クリップ群で541個であり,両群間に差はなかった(Table 1).

Table 1 

Background characteristics of patients and polyps.

後出血

後出血はクリップ群で18例,非クリップ群では15例であった.出血点は全例で同定可能であった.後出血率はクリップ群で1.10%(18/1,636),非クリップ群で0.88%(15/1,729)だった.非クリップ群に対するクリップ群の出血率の差は-0.22%(95%CI:-0.96,0.53)であり,95%信頼区間上限が非劣性マージン1.5%を下回ったため,クリップ群に対する非クリップ群の非劣勢が証明された(Figure 2).

Figure 2 

後出血率の差.

95%信頼区間上限が非劣性マージン1.5%を下回っている.

出血例

Table 2に両群の出血例の比較を示す.

Table 2 

Bleeding cases in each group.

出血したポリープの平均径に両群に差はなく(p=0.05),部位,形態にも有意差はなかった(p=0.11,0.43).

抗血栓薬使用下であったポリープはクリップ群で6個,非クリップ群で4個であり,こちらも差はなかった(p=0.67).

後出血日も両群間でp=0.48と差はなかった.

出血に関わる因子の検討

すべてのポリープを出血群・非出血群に分けて検討を行った(Table 3).

Table 3 

Risk factors of post-bleeding in both group.

単変量解析では出血群にてポリープ平均径が有意に大きかった(p<0.001).ポリープの部位,抗血栓薬の有無に関しては差がなかったが,出血群で追加凝固の割合,経験年数10年未満の若手の手技が多い傾向にあった(p=0.01,0.02).

さらに単変量解析で有意差がついたサイズ,部位,経験年数について多変量解析を行った.サイズについてはROC曲線を作成し,カットオフ値を10mmと設定して10mm以上,10mm未満の2群に分けて検討を行った.

その結果,サイズ(p<0.01)と切除後の追加凝固(p=0.02)が後出血に関わる因子として抽出された.

次にポリープのサイズを4グループ(1-5mm,6-10mm,11-15mm and 16-20mm)に分け,それぞれのグループ内でクリップ群と非クリップ群の後出血率を比較したが(Table 4),いずれのグループにおいても有意差は見られなかった(p=0.59,0.31,0.95,0.61).それぞれのサイズ別グループの後出血率は0.48%,0.95%,2.81%,5.56%であり,クリップの有無に関わらずサイズが大きくなるほど出血リスクが高くなる傾向が示唆された.

Table 4 

Bleeding rate for four size group.

Ⅳ Discussion

大腸ポリープ切除後のクリップについては,切除直後の出血に対する止血効果については明らかである 10.しかし,後出血に対するクリップの予防効果に関しては,これまでに後出血予防効果においてはクリップ施行・非施行の間で有意差がないことを証明したデータはあっても 1),2,非劣性を証明した研究はなかった.今回われわれは3,365個のポリープを集積し,非劣性を証明することができた.この結果より,2cm以下の大腸ポリープにおいては後出血予防としてのポリープ切除後のクリップ施行は必要な処置ではないことが明らかになった.

医療経済の面からみると,クリップは1個あたりおよそ787.5円のコスト(2014年1月現在)がかかる.今回の検討では,クリップ群では1ポリープにつき平均1.56(±0.97)個のクリップが施行されており,クリップを施行しないことで1個のポリープにつき,1,228円の医療費を削減できることになる.当院では20mm以下のポリープは年間で500個程度切除されているため,1年で614,000円の医療費削減につながる.

Katsinelosら 11やParikhら 12は,抗血栓薬服用者のポリープ切除では後出血が多くその後の処置を要するため,クリップを施行した方が結果として医療経済効果が高いと報告しており,Borodyanskyらは通常では2cm以上,抗血栓薬内服者においては1cm以上のポリープを切除する場合にクリップを考慮すべきと提案している 13.今回のわれわれの検討では抗血栓薬服用による出血の影響は見られなかったが,今回対象からはヘパリン置換例は除いているため,今後ヘパリン置換例,抗血栓薬継続例などでは引き続き検討が必要である.

今回の検討では,患者1人あたりのポリープの個数と出血率が予想とは異なっていた.そこで実際の条件をもとにサンプルサイズを再計算した.後出血率を共通で0.98%として,片側有意水準5%,検出力80%,マージンは1.5%のままとすると,必要症例数が両群で1,068個となり,結果,非劣性を検討する上では十分なポリープ数であったと思われる.

追加凝固は非クリップ群で多く施行されており,これはオープンラベルタイプのバイアスであるといえる.しかし今回の検討ではすべてのポリープにおいて追加凝固が出血のリスクファクターであった.つまり追加凝固を行わなければ非クリップ群の後出血率はもっと低かった可能性があり,これは今回の結果には影響しない.

また,これまではポリープ切除の際には高周波装置を用いることが一般的であり,切除時の出血や露出血管に対しても慣例的な予防的凝固焼灼が行われていた.しかし近年,小ポリープに対しては熱を加えないcold polypectomyの後出血率が低いことが報告され 14,見直されつつある.後出血が少ない理由としては高周波装置による熱の関与が考えられている 15.今回の検討では非クリップ群において凝固焼灼の追加が後出血のリスク因子として抽出されていることから,高周波による組織傷害が出血に及ぼす影響を裏付けられると思われる.

Limitationのひとつはポリープのサイズである.今回の検討では2cmより大きいポリープへのクリップの効果は明らかではない.しかし,大きいポリープほど出血リスクが高いことが今回示されており,サイズの大きいポリープは慎重な処置が必要と考えられる.もうひとつのLimitationはクリップの数である.クリップ群において,出血例での平均クリップ数は1.56個であり,非出血例の1.83個に比べ少なかった.しかしポリープの形態によって,ポリープのサイズと切除面積は異なり,かつ,クリップは術者が止血予防に十分と判断するまで施行されている.よって今回のクリップの個数はいずれの症例においても十分であったとわれわれは考えている.更に,今回合併症を持つ患者は検討から除外したが,ヘパリン置換を要するような合併症を持つ症例に対しての検討が必要だろう.また,今回Cold Polypectomyにおけるクリップの有用性は評価できていない.

しかし少なくとも合併症を持たず,2cm以下のポリープを持つ患者に対しての高周波を用いたポリペクトミーはもっとも広く行われていると考えられ,こういった症例のクリップ非施行の非劣性を証明できたことは非常に重要であると考える.

Ⅴ 結  語

2cm以下のポリープに対しては,クリップは後出血を予防しない.

謝 辞

今回データ集積にご協力いただきました,宮城島拓人先生(釧路ろうさい病院),森康明先生(森内科・胃腸科医院),江藤和範先生(苫小牧市立病院),統計の監修をいただきました大庭幸治先生(東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 生物統計学分野)に厚く御礼申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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