日本消化器内視鏡学会雑誌
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大型non-Ip腫瘍の切除に対するEMR vs. ESD (MATILDA-trial):多施設ランダム化試験の理論的根拠とデザイン
斎藤 豊関口 正宇
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2017 年 59 巻 7 号 p. 1570

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【背景】内視鏡的粘膜切除術(EMR)は現在大型大腸ポリープの切除に最も用いられている方法である.しかしながら,大型病変のEMRではしばしば分割切除となり,低いR0切除率と高い再発率を引き起こす.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は新しい技術であるが,より難しく長時間を要するが,高い一括切除率ときわめて低い再発率のため有望な治療であることは確かである.

今回の検討は,ESDのEMRに対する対費用効果を短期(6カ月)と長期(36カ月)で比較することを目的とした.ESDは短期的には時間がかかり高い医療費が必要となるが,低い患者負担,高い一括切除率と低い再発率から,繰り返しの検査が必要なく,長期的には医療費の面で効率的であると仮定した.

【方法】直腸,S状,下行結腸の2cm以上のnon-Ip病変で内視鏡的に腺腫と診断される病変を対象とする多施設ランダム化比較試験(RCT).

主エンドポイントは6カ月後の内視鏡経過観察における再発率.セカンダリエンドポイントはR0切除率,患者負担とQOL,医療費と外科紹介率,合併症率と36カ月後の再発率とした.質調整生存年数(QALY)はAUCとEQ-5D indexesで評価する.医療費の算定は部門のコストを複数算定する.

ESDのEMRに対する費用対効果は,「費用の増分」を「効果の増分」で割ることで算出されるICER(増分費用効果比)を用いて評価するが,その「効果」としては「無再発」「QALY」を用いる.

【考察】本検討でESDが長期的に効果的であれば,余分な大腸内視鏡や,繰り返しの検査の患者負担が将来的に不要となる.

《解説》

大腸ESDとEMRのランダム化比較試験は,大腸ESDが保険収載され標準化しつつある日本ではもはや,倫理的に施行が不可能であると思われているところにヨーロッパのオランダでこのようなRCTがスタートしている.

新規抗がん剤などの評価には,RCTが最も信頼のおける評価方法であることに疑いはないが,新規の内視鏡手技や外科手術の評価にはRCTが必ずしも適切でない.特にESDの成績は術者の技術(Art)の部分に大きく依存する.

今回オランダの17の病院が参加し,内3つのアカデミックセンターが含まれている.本研究における大腸ESDは過去3年間に25例以上の大腸ESDを経験している内視鏡医が施行を許可されているが,25例では大変心許ないのが本音である.

サンプルサイズも統計的に算出され,計212名がエントリー予定となっているが,中々エントリーが進んでいないという噂も最近耳にした.

本RCTはESDが安全かつ適切に施行されれば必ずPositive studyになるデザインであり,大腸ESD発祥の地である日本からは本試験がうまく行くことを祈ることしかできないのが,何とも歯がゆい.

また対象病変であるが,欧米では大腸のM癌がhigh grade dysplasiaとして良性の扱いであることから今回も内視鏡診断の腺腫が対象となっている.除外基準として,suspicion of malignancy, as determined by endoscopic findings (invasive Kudo pit pattern, Hiroshima type C) or proven malignancy at biopsyとなっているが,おそらくT1b(SM癌)も多く含まれてくるのではないか?その結果,3年後の経過観察時に,分割EMR例で,数%の浸潤癌再発がおそらく確認され,それらのEMR時の病理診断が腺腫であった時に,始めて粘膜内癌の診断の重要性に気づくのではないだろうか?

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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