2017 年 59 巻 9 号 p. 2428-2442
超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ(EUS-GBD)は,経皮的ドレナージ同様高い成功率を持ち,経乳頭的ドレナージ同様内瘻化が可能であるという長所を持った,新しい胆嚢ドレナージ法である.Interventional EUSの中でも歴史が浅いためevidenceは少なく,方法論が論じられる機会もほとんどない.炎症で腫大した胆嚢は穿刺は容易だが,膵炎後のwalled-off necrosisと異なり,消化管壁に癒着しておらず,また肝内胆管や膵管の様に実質臓器内で固定されているわけでもない.そのため他のInterventional EUSと比較しても手技中の胆汁漏出が起こりやすく,デバイスの挿入が難しいという特徴がある.また胆嚢の位置にはバリエーションが多く,安全かつ効果的なドレナージを行うためには多くのコツを必要とする.本稿では,EUS-GBDの普及の一助とするため,われわれの施設で実際に行っている方法を詳述する.
急性胆嚢炎に対する第一選択の治療は,早期または緊急の外科的胆嚢摘出術である 1).併存疾患や胆嚢炎の重症度により早期または緊急の胆嚢摘出術が困難あるいは危険と考えられる場合には,胆嚢ドレナージが行われる.胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013では経皮経肝胆嚢ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage:PTGBD)が推奨されている 2)が,PTGBDには留置後の疼痛や外瘻になる等の欠点がある.また腹水がある症例やChilaiditi症候群など解剖学的に経皮的アプローチが困難な症例では施行できず,その場合は内視鏡的ドレナージが試みられる.内視鏡的ドレナージは,これまで内視鏡的逆行性膵胆管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)の手法を用いて,十二指腸乳頭から胆嚢管を逆行性に突破して胆嚢内にアプローチする方法(endoscopic transpapillary gallbladder drainage:ETGBD) 3)が主流であった.ETGBDは内瘻化が可能であり疼痛もないが,ERCP後膵炎のリスクがあり,また何よりも成功率がPTGBDに比べ低いことが最大の問題であった.近年,超音波内視鏡(endoscopic ultrasound:EUS)を用いて経消化管的にドレナージを行うEUS-guided gallbladder drainage(EUS-GBD)が報告されるようになってきた.EUS-GBDは成功率が高く,内瘻化が可能であり,疼痛も少なく膵炎のリスクもないという非常に高い可能性を秘めた方法であり,PTGBDに代わる治療法となりつつある 4)~8).しかしEUS-GBDは技術的難易度が高く,消化管穿孔や胆汁性腹膜炎などの重篤になりうる偶発症のリスクもあることから,多くの胆膵内視鏡医にとっては手を出しづらい領域だと思われる.本稿では,われわれの施設で行っているEUS-GBDの手技のコツをお伝えすることで本手技が一般に広く普及することを期待したい.
EUSは1980年に登場して以来,体外式超音波,CT,MRIなどと比較して局所の観察における空間分解能に優れていることから,胆膵疾患の診断に欠かせないものとなった.EUSは光学系モニターと超音波モニターの両者を搭載しており,超音波探触子の種類,光学系の視野方向などにより様々な種類がある.探触子の種類にはラジアル型とコンベックス型がある.前者は内視鏡軸に垂直の断面を超音波で360度観察できるものであり,観察のみに用いられる.コンベックス型は,内視鏡と同軸面を超音波画面で観察可能なため,超音波画面で対象を観察しながら穿刺が可能である.光学系については,コンベックス型は前方斜視であり,光学レンズより先端側に超音波探触子が装着されている.この場合穿刺針は光学レンズの横から斜め前に出る(Figure 1-a,c).最近では前方視(直視)タイプのものも発売されており,光学レンズがスコープの先端についており,針が先端からまっすぐ前に出るのが特徴である(Figure 1-b).近年開発されているコンベックス型EUSは鉗子チャンネル径が3.7~3.8mmと大口径であるため,様々なデバイスが使用可能であり,病理診断目的の超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-guided fine needle aspiration:EUS-FNA)だけでなく処置・治療まで行うことが可能になった.これをわれわれはInterventional EUSと呼称している.
コンベックス型EUSスコープ.
a:前方斜視型コンベックスGF-UCT260(写真提供 オリンパス株式会社).光学レンズ,鉗子出口の先に超音波探触子が搭載されている.
b:直視型コンベックスTGF-UC260J(写真提供 オリンパス株式会社).光学レンズ,鉗子出口,超音波探触子がすべて前面に並んでいる.
c:前方斜視型コンベックスEG-580UT(写真提供 富士フイルム株式会社).光学レンズ,鉗子出口の先に超音波探触子が搭載されている.
注)→ 光学レンズ,▷ 鉗子出口,➡ 超音波探触子.
EUSシステムは内視鏡メーカー各社から発売されているが,われわれは主に富士フイルム社製のEUSシステム(スコープ:EG-580UT(Figure 1-c),プロセッサ:SU-1)とオリンパス社製のEUSシステム(スコープ:GF-UCT260(Figure 1-a),プロセッサ:EU-ME2)を用いている.両者のスペックを示す(Table 1).
EUSスペック比較.
胆嚢ドレナージの適応は,大きく分けて手術を前提とした術前の一時的ドレナージ(bridge to surgery:BTS)と,手術が困難な場合の姑息的かつ恒久的ドレナージ(palliation)に分けられる.EUS-GBDは,悪性胆管狭窄に対する経乳頭的メタルステント留置後に生じた胆嚢炎に対してpalliationとして行われたのが最初である 9).その後,通常の胆石胆嚢炎に対するBTSとして,PTGBDとのRCTが行われ,成功率・有害事象・開腹手術への移行率においてすべて同等であったと報告されている 10).すべての胆嚢炎がEUS-GBDの適応といえる 11)~14)が,とは言えPTGBDの簡便さゆえにBTSとして行っている施設は少なく,既報のほとんどがpalliationである 15)~18).内瘻のメリットも考慮に入れると,生命予後の限られた症例や,全身状態不良で耐術不能の症例に対するpalliationが主な適応と考えてよい.特にメタルステント留置後の胆嚢炎では,胆嚢管開口部はステントでふさがれておりETGBDは不可能であるため,EUS-GBDの最も良い適応である.
EUS-GBDの禁忌は,明確な指針はないが,出血傾向のある症例,中等量以上の腹水を有する症例,胆嚢穿孔を来している症例と思われる.血小板数3.8万/mm3の末期の肝硬変患者に対するEUS-GBDの報告 19)があるが,メタルステントを用いた1例報告であり普遍化はできない.抗血栓薬に関しては,evidenceはないものの,われわれは日本消化器内視鏡学会の「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 20)における出血高危険度手技に相当すると考え,アスピリン単剤以外の抗血栓薬使用例では禁忌としている.
EUS-GBDはまた,PTGBDからのconversionとしても有用な方法である 21).メタルステント留置後の胆嚢炎や胆嚢管癌浸潤による胆嚢炎では,胆嚢管の閉塞が解除されないため,PTGBDをクランプすると高率に胆嚢炎の再燃を来す.このような場合に,EUS-GBDによる内瘻化を行うことでPTGBDが抜去可能となる.
胆嚢は消化管壁に癒着していないため,手技中および手技後に胆汁の腹腔内への漏出が必ず起こる.胆汁漏出を最小限にするため,最近では自己拡張型カバードメタルステントを用いた報告が多くなされている 22)~35).特に,膵仮性嚢胞やwalled-off necrosis用に開発された,両端に大きなflangeがついた短い大口径のカバードメタルステント(bi-flanged metal stent:BFMS)(Figure 2-a)や,さらにその中でも対象物と消化管を強固に密着させる力をもつステント(lumen-apposing metal stent:LAMS)(Figure 2-b,c)が主流である.これらは確かに胆汁漏出のリスクを減らし,ドレナージ効果も高いが,本邦ではいずれも薬事未承認であるため,臨床試験以外では使用できない.また,胆嚢は肝内胆管や膵管の様に実質臓器内で固定されてはいないため,デバイスの挿入が難しい.さらに,胆嚢の位置にはバリエーションが多く,安全かつ効果的なドレナージを行うためには多くのコツが必要とされる.当科では,BTS・palliation共に両端ピッグテール型のプラスチックステントによる内瘻と,先端ピッグテール型の経鼻チューブによる外瘻を併用した内外瘻留置を基本としている.全体の流れをまとめると,下記のごとくとなる.
大口径bi-flanged metal stent(BFMS).
a:NAGI stent(Taewoong Medical社製:写真提供 センチュリーメディカル株式会社).
b:SPAXUS stent(Taewoong Medical社製:写真提供 センチュリーメディカル株式会社).
c:AXIOS stent(写真提供 ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社).
注1)すべて薬事未承認である.
注2)b,cはlumen-apposing metal stent(LAMS)とも呼ばれる.
1)患者を腹臥位とし,コンベックス型EUSを挿入する.
2)EUSを十二指腸球部に挿入し,胆嚢を描出し,EUS画面・透視画面で穿刺前の位置決めをする.
3)19GのFNA針で胆嚢を穿刺し,胆汁を吸引し培養へ提出する.
4)生理食塩水で半分に希釈した造影剤を少量注入し,透視下に胆嚢を描出する.
5)ガイドワイヤーを挿入し,穿刺針を抜去する.
6)瘻孔拡張を行う.
7)ダブルルーメンカテーテルを挿入し,ダブルガイドワイヤーにする.
8)プラスチックステントを挿入する.
9)経鼻チューブを挿入し,スコープを抜去する.
以下,ステップごとに解説する.
1)処置の準備,スコープの挿入患者を腹臥位とし,心電図・血圧・酸素飽和度のモニターを装着する.バイタルサインを確認したうえで,sedationを行う.当科ではミダゾラム2mg+塩酸ペチジン35mgで開始し,適宜ミダゾラム1mgずつ,または塩酸ペチジンを1アンプル(35mg)ずつ追加している.鎮静が得られたら,前方斜視型コンベックススコープを挿入する.EUS-GBDに関して直視型コンベックスの使用報告はなく,われわれの施設でも経験はない.前方斜視型コンベックススコープの挿入にはコツがある.内視鏡画面で見えている画像よりも実際には内視鏡の先端は下方にある(後方斜視であるERCP用の内視鏡と通常の前方視鏡との中間のイメージ)こと,光学レンズの前方に超音波の探触子があることを意識して行う.GF-UCT260(前方斜視角55度)に比べ,EG-580UTは前方斜視角が40度とより直視鏡に近くなっており,また探触子が内視鏡上見えるので扱いやすく,特に食道入口部や幽門輪の通過に非常に有用である.
通常,観察EUSやEUS-FNAは左側臥位で行うが,Interventional EUSは透視も併用するため腹臥位で行う.左側臥位と腹臥位ではEUSの描出法にさほど違いはなく,左側臥位で習熟しておけば問題ない.
2)十二指腸球部への挿入,胆嚢の描出,穿刺前の位置決め胃や十二指腸に,潰瘍や癌など粗大病変がないかどうか,可及的に確認しながらスコープを十二指腸球部まで挿入する.挿入後,まず門脈を探す.アップアングルを軽くかけ,スコープをゆっくり前後に出し入れすると門脈が長軸に描出される.左側が頭(肝臓)側,右側が足側である.門脈の上に総胆管が描出されるので,総胆管結石の有無を確認する.EUS-GBD施行直後のERCPは困難であるため,胆管結石を認めた場合,胆管炎がなくてもわれわれは経乳頭的ドレナージに切り替えている.
EUSの観察には,肩を軸に左腕を回転させるshoulder turnが基本である.スコープをゆっくり引きながら左腕をshoulder turnで反時計回転して総胆管を上流に追いかけていくと,胆嚢管~胆嚢が描出される.この場合,左側が胆嚢頸部であり,右側が底部である.胆嚢頸部~胆嚢管~総胆管までを連続して描出し,純粋な胆石胆嚢炎なのか,胆嚢管癌など胆嚢炎の原因が他にないかチェックする.この状態では左腕が大きく左下に倒れており,処置はできない(Figure 3-a).処置をするためには左手を胸の前にもってくる必要があるが,そのままshoulder turnで時計回転したのではスコープ先端も回転し,胆嚢が見えなくなる(Figure 3-b).胆嚢を描出し続けるには,左手首を外側に開きながら操作部の向きを変えないようにしつつ,スコープにねじりを加えながら脇を締める(Figure 3-c).こうすればスコープ先端の向きはほとんど変わらない.左手首を極端に外側に曲げた格好になるため,かなり苦しいが,こうすることで患者に相対した状態で左腕が体の正面に来るため正確な処置が可能になり,またスコープにトルクがかかっているため,スコープの剛性が増し,デバイスの挿入などに有利になる.
EUS-GBDのための胆嚢描出法.
a:球部に挿入後,スコープを引きながら胆管を追いつつ左腕を半時計回転すると胆嚢が描出される.この状態では処置はできない.
b:左腕を時計回転した場合.胆嚢が見えなくなってしまう.
c:左手首を外側に開きながら脇を締めると胆嚢を描出し続けることができる.この状態で処置を行う.スコープにねじりが加わっているのがわかる.
この状態にすると,透視上,探触子は患者の右側を向く.さらに穿刺針が患者の右側に向けて出るようにするために,スコープのアップアングルを用いてスコープの先端軸が患者の右側を向くようにする.また,スコープを極力胃内に押し込み,ループが大彎の胃壁で固定されるように強めのlong positionとする.この“蛇が鎌首をもたげたような形”が理想である(Figure 4-a).押し込みが弱く浅めのポジションだと,デバイスを挿入する際に力がループに逃げてしまい,先端に伝わりにくい(Figure 4-b).右向きに穿刺針を出し,胆嚢頸部~体部を穿刺し(Figure 5-a),ガイドワイヤーを底部に送り(Figure 5-b),瘻孔拡張を行い(Figure 5-c),ダブルガイドワイヤーとし,底部にチューブを留置する(Figure 5-d~f)のが最も良い形である.こうすることで胆嚢内に長くガイドワイヤーが入るため,手技が安定して行える.以上は胆嚢の底部が足側に下がっている通常の場合であるが(Figure 6-a),中には胆嚢底部が頭側にあり,胆嚢が“立っている”場合もある(Figure 6-b).この場合,スコープ先端を真っすぐにして,穿刺針も患者の右側ではなく真上に刺すようにする(Figure 6-c).底部側へのガイドワイヤーの誘導は容易である.底部にチューブを留置するのは,胆嚢を確実にドレナージするためでもある.内腔の大きい底部までチューブを入れなければ,胆汁が粘稠な場合,ドレナージ不良となることがある(Figure 7-a~c).
穿刺時のスコープの形.
a:強めのlong positionで針が右側に出るように軽くアップをかけた,“蛇が鎌首をもたげたような”理想の形.
b:浅めのposition.押す力が先端に伝わらず,2本目の経鼻チューブの挿入に難渋した.
EUS-GBD中の透視画像.
a:患者の右側に向けて穿刺針を出し,頸部~体部を穿刺.
b:ガイドワイヤーを底部に送る.
c:バルーンカテーテルで瘻孔拡張.
d:ダブルガイドワイヤーとし,底部に両端ピッグテール型プラスチックステント留置.
e:底部に経鼻チューブを留置.
f:2本留置後の内視鏡像.
寝ている胆嚢と立っている胆嚢.
a:急性胆嚢炎症例の造影CT(冠状断).底部が足側に下がっている.通常はこの形.
b:別症例の造影CT像(冠状断).胆嚢底部が頭側にあり,“立っている”状態.
c:bと同一症例の穿刺画像.穿刺針は真上に向かっている.
頸部留置となりドレナージ不良をきたした症例.
a:患者の左側方向に向けて穿刺.ガイドワイヤーは頸部でループを描いてから底部に向かう形となった.
b:ステントも経鼻チューブも頸部までしか入らなかった.
c:翌日の単純CT(冠状断).底部の造影剤は抜けておらず,ドレナージは不良であった.後日底部にチューブを入れなおした.
以上の条件を満たすように超音波画面・透視画面でスコープの位置を調節して初めて穿刺に移ることができる.術前のCT,特にcoronal planeで胆嚢の形を認識しイメージすることが重要である.しかし,胆嚢の位置は様々であり,すべての症例でこのような形にできるわけではない.本手技で一番難しいのは内外瘻の2本留置という点なので,慣れないうちは,ドレナージ効果は落ちるかもしれないが,内瘻あるいは外瘻1本にするほうが無難かもしれない.また,一見通常の位置であっても,胆嚢床に固定されていない遊走胆嚢の場合は非常に難しい(Figure 8).
遊走胆嚢の1例.
a:ドレナージ前の造影CT(水平断).胆嚢の位置は正常であった.
b:通常と左右逆向きでしか胆嚢を描出できず,やむなくそのまま穿刺.やはり通常と逆の向きからの穿刺となった(→:通常の穿刺方向).
c:経鼻チューブを留置した.
d:翌日の単純CT(水平断).胆嚢は大きく左側に偏位している.遊走胆嚢であった(→:経鼻チューブの先端).
スコープの位置が決定したら,鉗子栓を外し,19GのFNA用穿刺針を鉗子チャンネル内に挿入して固定する.必ず内視鏡または超音波画面でシースが先端から出ていることを確認する.穿刺針のスタイレットを抜去し,コックを閉めて陰圧をかけたシリンジを針に装着する(Figure 9).穿刺針は各社から発売されているが,われわれは主にオリンパス社製のEZ Shot 3 Plusを用いている(Figure 10).コイルシースとナイチノール針を採用しているため非常に柔軟であり,またシースを曲げた状態でも針の出し入れがスムーズに行える.スコープの先端が大きく湾曲し,鉗子起上台を強く上げた場合でも抵抗なく穿刺可能である.
陰圧シリンジの事前装着.
穿刺前に,スタイレットを抜去し,コック(→)を閉めて陰圧をかけたシリンジを針に装着しておく.
EZ Shot 3 Plus(写真提供 オリンパス株式会社).
穿刺部位は頸部~体部である.頸部から穿刺した方が胆嚢内にガイドワイヤーが十分入るので続く処置が安定して行えるが,BTSの場合は,頸部穿刺による胆嚢管や胆嚢動脈周囲の癒着を避けるために体部から穿刺する方が良いかもしれない.また2)で述べたように,良好なドレナージのためにはガイドワイヤーを底部に送る方が良い.そのためには超音波画面上,穿刺針と対側の胆嚢壁の作る角度ができるだけ鈍角になるようにスコープの細かい出し入れやアングル,そして鉗子起上装置を用いて穿刺角度を調整する(Figure 11).EG-580UTは鉗子起上装置の起上角度が大きく,穿刺針をかなり下向きに曲げて出すことができる.またドップラーモードで血管が介在しない穿刺ルートであることを確認する.
穿刺針と対側の胆嚢壁の角度.
a:穿刺針と対側の胆嚢壁の角度が鈍角.ガイドワイヤーを底部側(画面右側)に送りやすい.
b:穿刺針と対側の胆嚢壁の角度が鋭角.ガイドワイヤーを底部側に送りにくい.
c:bと同一症例.ガイドワイヤーは頸部でループを描いてから底部に向かっている.これでは底部にチューブを送りにくい.
スコープを球部内で引いてきて胆嚢を描出するため,穿刺の際に探触子が球部内にあっても,鉗子出口が前庭部に抜けていることがあるが,手技中には分かりにくい.前庭部からの穿刺であっても施行可能だが,前庭部と球部を縫い合わせるように穿刺してしまうリスクがあり,注意を要する(double puncture,Figure 12).超音波の走査角度がGF-UCT260では180°だが,EG-580UTでは150°であり超音波で見えない部分が大きいので,より注意が必要である.
double punctureの症例(Figure 8と同一症例).通常は後壁から穿刺するが,遊走胆嚢のため前壁からの穿刺となっている.前庭部と球部の二重穿刺となってしまっている.
スコープの位置・鉗子起上の角度が決まったら,ドップラーモードとBモードの二画面表示にして穿刺経路に血管が入らないよう注意しながら,一気に穿刺する.穿刺後,シリンジのコックを開け,胆汁を5mlほど吸引し,培養に提出する.
4)造影剤の注入ウログラフィン(バイエル薬品株式会社)は,生理食塩水で半分に希釈して使用する.原液のままでは濃すぎて透視画面で見えにくく,ガイドワイヤーの滑りも悪くなる.胆嚢のおおまかな位置が分かればよいので,吸引した胆汁量を超えないように,少量の注入に留める.
5)ガイドワイヤーの挿入19G針の場合,0.035インチ,0.025インチどちらのガイドワイヤーも入るが,0.035インチでは滑りが悪く内視鏡のアングルなどによっては針の中でstuckしてしまうこともあり,通常は0.025インチを用いる.われわれは,トルク伝達性が高く先端部のseeking能力に優れ,剛性も高い0.025インチのVisiGlide2(オリンパス株式会社)をInterventional EUS全般に用いている.
穿刺針の中にVisiGlide2を挿入する.超音波画面で胆嚢内に入るのが見えるまでは透視は必要ない.対側の胆嚢壁にガイドワイヤーが当たったらそのまま真っすぐに押すのではなく,押す力は最小限にしてガイドワイヤーを回転させて透視画面,超音波画面で確認しながら底部方向に誘導する.ガイドワイヤーを回転させるには,手首を回すのではなく,指の間に挟んで転がすことが重要である.ガイドワイヤーの末端が収納ケースに入ったままだとトルクが先端に伝わらないので,ケースから出して介助者が軽く持っておく(決して握らない).底部までガイドワイヤーを誘導したら,胆嚢内で2-3周ほどcoilingさせて,穿刺針を抜去する.
6)瘻孔拡張瘻孔拡張用のデバイスには非通電のものと通電のものがある.前者にはバルーンカテーテル(Figure 13-a,b),ブジーカテーテルがあり,後者には通電ダイレーター(Figure 13-c)がある.拡張デバイスを挿入する際には,助手のガイドワイヤーの引きが重要である.術者の動きに合わせて,ガイドワイヤーが抜けない程度に,しっかりした引きの操作を行うことでガイドワイヤーの剛性が増し,突破性が増す.硬い穿刺針を抜いてガイドワイヤーだけになると,スコープの位置がずれ,超音波画面上ガイドワイヤーを見失うことがある.常に穿刺した位置を保ち,ガイドワイヤーが超音波画面で一直線に見えるように軸を保たなければならない.
瘻孔拡張デバイス.
a:Hurricane(写真提供 ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社).
b:REN(写真提供 株式会社カネカメディックス).
c:Cysto-Gastro-Set(ENDO-FLEX社製:写真提供 センチュリーメディカル株式会社).
通電ダイレーターは突破性が非常に強いため,われわれは以前は通電ダイレーターで初回拡張後にバルーンで追加拡張を行っていた.しかし最近は先端が非常に細く,固く,0.025インチのガイドワイヤーとの段差が非常に少なく貫通性の高いバルーンカテーテル(REN:株式会社カネカメディックス,Figure 13-b)があるため,最初からバルーンで拡張している.デバイスの挿入回数が減るため,手技時間の短縮と胆汁の漏出を抑えることができる.しかし通電後にバルーン拡張した場合はバルーン径分の穴がしっかり開くが,バルーン単独では拡張後も穴がすぼまってしまうため,2本目のチューブの挿入に難渋することもある.なお,3)で外した鉗子栓をバルーンカテーテルの先端に通しておくとスムーズである(Figure 14).
バルーンカテーテルの準備.
先端に鉗子栓を通しておくと手技の流れがスムーズである.
バルーンカテーテルを抜去し,Uneven double lumen cannula(株式会社パイオラックス メディカル デバイス,Figure 15)を挿入する.これは0.025インチ,0.035インチの2本のガイドワイヤーが入るカテーテルであり,先端から0.025インチのガイドワイヤー,手前から0.035インチのガイドワイヤーが出る.先端と0.035インチのガイドワイヤーが出る場所との距離によりlong typeとshort typeの2種類があるが,われわれはshort typeを主に用いている.0.035インチのルーメンに2本目のGW(0.035インチのハードタイプのもの)をあらかじめ先端がぎりぎり出るところまで挿入しておくと,カテーテルが胆嚢内に入った後の流れがスムーズである.
Uneven double lumen cannula(写真提供 株式会社パイオラックス メディカル デバイス).
上段:long type,下段:short type.主にshort typeを用いる.
2本目のガイドワイヤーを十分胆嚢内でcoilingさせた後,double lumen cannulaを抜去する.0.025inch VisiGlide2に沿わせて両端ピッグテール型のプラスチックステントを挿入する(Figure 16).われわれは主にThrough Pass DP(ガデリウス・メディカル株式会社)の7Fr径,ループ間長7cmまたは10cmのものを用いている(Figure 16-b).両端ピッグテールにもかかわらずデリバリーシステムがガイディングカテーテルとプッシャーの二層構造になっているためガイドワイヤーを通した時の充填率が高く挿入性が良いこと,またプッシャーとステントが糸で結ばれており引き戻すことができるという特徴がある.EUS-GBDの場合,十二指腸球部という狭い空間で操作するため,内視鏡画面でステントを確認することが難しい場合があり,ステントの胆嚢内への迷入が起こりやすい.引き戻し機能があることで万が一の迷入を回避できる.
両端ピッグテール型プラスチックステント.
a:Zimmon Biliary Stent(写真提供 COOK JAPAN株式会社).
b:Through Pass DP(写真提供 ガデリウス・メディカル株式会社).
ステントを底部まで挿入したら,ガイディングカテーテルとガイドワイヤーをステントの中まで引き,先端のピッグテールを形成させ,逸脱を予防する.プッシャーを押しながら,スコープを引いてリリースするが,スコープは胃内に強く押し込まれた状態なので,単純に引いても胃内のたわみがとれるだけで先端はあまり動かない.この時にプッシャーを押しすぎるとステントが胆嚢内に迷入してしまうので常に透視でステントの位置が動かないように注意して行う.リリースするためには,スコープの引きだけでなく,ダウンアングルを用いてスコープ先端を刺入部から遠ざけるのがポイントである(Figure 17).内視鏡画面でステント末端とpusherの境目が見えたら,ガイドワイヤーとガイディングカテーテルを抜去して完全にリリースする.Through Pass DPにはステントの末端のピッグテールが始まるところにマーキングがされているが,ない場合は挿入前にマジックでマーキングして内視鏡画面で確認するようにすると,迷入予防に役立つ.
両端ピッグテール型プラスチックステントのリリース.
スコープのダウンアングルを強くかけ,刺入部から距離をとってリリースしている.
ステントをリリースした状態では,スコープは胃内まで抜けている.残ったガイドワイヤーが抜けないように注意しつつ,透視下で確認しながらスコープを球部まで再挿入する.経鼻チューブは,先端ピッグテール型のストレートタイプのものを用いる.5~7Fr径まで各社から発売されているが,5Frのものは柔らかすぎるため抵抗が強い場合に押していくと手元でチューブがキンクしてしまうため,われわれは主に7FrのENBDチューブ(COOK JAPAN株式会社,Figure 18)を用いている.2本目の挿入なので容易には入らず,穿刺時の透視写真を参考にしてスコープを可能な限り最初の位置に戻すこと,助手のガイドワイヤーの引き操作が重要である.それでも難しい場合は,手でチューブを押すのではなく,アップアングルをかけながらスコープ自体を押し込むようにしたり,一旦造影チューブを挿入してガイドワイヤーをさらに固いもの(0.035 インチのRevoWave Ultrahard:株式会社パイオラックス メディカル デバイス)に変更する.底部までチューブを挿入したら,ガイドワイヤーを抜去して先端のピッグテールを形成し,チューブを押し出しながらスコープを抜去する.
先端ピッグテール型ENBD(写真提供 COOK JAPAN株式会社).
ドレナージの翌日に全例で血液検査,単純CTを行う.free airや胆汁性腹膜炎を示唆する所見がなければ,翌々日から食事を再開する.外瘻チューブは,ある程度瘻孔形成を待った方が安全という考えのもと,1週間程度待ってから抜去している.palliationの場合は内瘻のステントは入れたまま経過観察としている.腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う場合は,炎症の改善と瘻孔形成を待つために一旦退院して,後日外科に再入院して手術を行っている.EUS-GBD後の腹腔鏡下胆嚢摘出術に関してはRCTでの報告 10)があるが,全例外瘻であり,単に引っぱれば抜ける.われわれの方法では内瘻のステント留置後の状態であるため,手術中に経口的に内視鏡を挿入し,ステントを抜去してから瘻孔を離断して胆嚢を摘出している.
これまで述べてきた方法と同じだが,PTGBD後は胆嚢が萎縮しているため,生理食塩水を胆嚢内に注入し,胆嚢を緊満させてから穿刺を行う.ドレナージ後であり胆汁漏出に伴う胆汁性腹膜炎や細菌性腹膜炎の危険性が少なく,また手技不成功に伴う不利益も少ないというメリットがある.しかしPTGBD後には胆嚢壁が肥厚し固くなるため,穿刺やデバイスの挿入が困難になり,また生理食塩水を注入しても胆嚢があまり大きくならないため,ガイドワイヤーを十分coilingさせることが難しいなどの理由から,通常のEUS-GBDよりも難しい場合が多い.
われわれの施設におけるEUS-GBDの方法を解説した.プラスチックステントと経鼻チューブによる内外瘻法であり,BTSでもpalliationでも使える方法である.胆嚢炎に対しては,基本的方針は早期あるいは緊急の腹腔鏡下胆嚢摘出術ではあるが,高齢者の増加により緊急手術のできない症例は今後ますます増えてくると思われ,BTSであっても手術待機期間中の疼痛が少なく内瘻化ができる本方法は重要なoptionである.palliationに関しては,メタルステントの良い成績が多数報告されており,プラスチックステントとの比較はないものの,胆汁性腹膜炎や出血のリスクの低減,手技時間の短縮などが期待される.しかし現在は薬事未承認であるため,日常臨床では使用できず,今後の展開に期待したい.本稿が,多くの胆膵内視鏡医にとってEUS-GBDが身近なものとなる一助となれば幸いである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:伊佐山浩通(富士フイルム(株))