【目的】胃壁固定において,様々な一本穿刺式固定が市販化されているが,これらをIntroducer法で使用した際の緩み,耐久性,安全性などは検討されていない.今回,その特性について二本穿刺式固定と比較し検討した.【方法】各種一本穿刺式固定(イージータイ,スマートアンカー,ガストロペクシー,ツーショットアンカー)について,検討1では金属板/棒に固定し,牽引後の緩みを測定,検討2ではブタ胃壁モデルを使用し,耐久性や胃壁損傷について,検討3-4ではイージータイを臨床的に用い,手技時間や安全性について評価した.【結果】(検討1)両群共に2-4%の緩みがみられたが,24時間以降の緩みはなかった.(検討2)一本穿刺式固定群の耐久性は,それぞれ24.9,15.7,17.4,21.0(N)で,二本穿刺式固定は23.4(N)であり,いずれも臨床的には十分な耐久性であった.(検討3,4)一本穿刺式固定の手技時間は短く,Introducer法でのPEGでも偶発症は認めなかった.【結論】一本穿刺式固定は,安全にIntroducer法でのPEGが可能である.
背景:内視鏡的胃瘻造設術(PEG)において,カテーテルの事故抜去や出血時の危険回避,交換の際の偶発症を減少させる安全面の点から胃壁固定の併用が推奨されている 1)~3).胃壁固定具には,鮒田式胃壁固定具 4)を代表とする二本の針を穿刺して胃壁と腹壁を固定する二本穿刺式固定と,一本の穿刺針から金属のT字アンカーが展開され,胃内でストッパーとなるTファスナー式固定具と呼ばれる一本穿刺式固定に大別される.
現在,増加傾向にある 5)Introducer法では,胃壁固定が必須であるが,その際には造設キット付属の二本穿刺式固定が多く用いられた.Tファスナー式は旧ダイナボット社のPush法キットに梱包されていたが,製造中止後は,2009年イージータイ(Boston-Scientific社)が販売されるまで市場から途絶えていた.Tファスナー式固定具の付属されたキットが発売されてきたのは,2012年以降となったため,一般的には一本穿刺式固定の使用経験は一般的には少ないと考えられる.これまでわれわれは,胃切除術後など穿刺部位が狭い症例において,一本穿刺式固定が有用と考え用いてきたが 6),Introducer法で施行する通常のPEGにおいて,一本穿刺式固定の牽引時の張力など,二本穿刺式固定と比較した特性を確認する必要がある.
現在,本邦で市販されている一本穿刺式固定には,イージータイ(Boston-Scientific社),スマートアンカー(TOP社),ガストロペクシー(HALYARD社),ツーショットアンカー(OLYMPUS社)があり,これらの固定具の間で,手技の違いはわずかであるが,使用する固定糸が,それぞれ0号ナイロン糸,3-0ナイロン糸,3-0ポリグリコマー(吸収糸),2-0ナイロン糸と異なっている.一方,二本穿刺式固定では主に2-0ナイロン糸を使用することが一般的である.
目的:検討1では固定具に荷重を負荷した時の経時的な緩みについて,検討2では固定具の耐久性について基礎的実験で検討することとした.
検討3では,一本穿刺式固定(イージータイ)を用いた胃壁固定の簡便性,術中・術後の偶発症に関して,検討4では一本穿刺式固定(イージータイ)を用いてIntroducer法で施行するPEGにおいて,一本穿刺式固定の安全性を臨床的に検討した.
Ⅱ-1検討1(固定糸の緩みの実験)
方法:一本穿刺式固定は先述のイージータイ(Boston-Scientific社),スマートアンカー(TOP社),ガストロペクシー(HALYARD社),ツーショットアンカー(OLYMPUS社)を使用した(以上を一本穿刺式固定群とする).前三者は,小さな糸の通る穴の空いた金属板に表面が滑らないようビニールテープでコーティングしたものにT字アンカー部を取り付け,各付属のストッパーで固定した.ツーショットアンカーと二本穿刺式固定(2-0ナイロン外科結紮)は金属棒に滑り止めのビニールテープを巻いたものに結紮し,ストッパーや結紮部にいずれも1kgの錘を接続し,1N(kg・m/s2)で牽引し経時的に糸の長さを測定した(Figure 1-a,b).それぞれ,再現性の確認のため3回実験を行った.

a:胃壁固定具の緩みを測定する実験モデル.
b:実際の実験の様子(大阪高分子試験評価センター).
金属棒(左)または金属板(右)に固定具での固定.
イージータイ,スマートアンカー,ガストロペクシーは金属板に,ツーショットアンカーと2-0ナイロン(二本穿刺式固定)は金属棒に固定し,1N(kg・m/s2)で牽引.金属棒/板から錘までの距離を経時的に測定した.
Ⅱ-2検討2(ブタ胃壁モデルを使用した耐久性の実験)
方法:まず,二枚のリング状金具にブタ胃を挟み金具で周囲を固定し,ブタ胃壁モデルを作成した.検討1で使用した一本穿刺式固定群と二本穿刺式固定(COVIDIEN社)を使用し,ブタ胃壁モデルに胃壁固定し,検討1と同様に固定糸に荷重がかかる様に接続し,負荷を増大させ,構造物の耐久性と胃壁の損傷の程度を評価した(Figure 2).固定具の構造物の破綻や糸の断裂が生じるまでの張力とし,それぞれ3回の測定を行った.検討1および2はいずれも大阪高分子試験評価センター(大阪)で施行した.

ブタ胃壁モデルを使用し,胃壁固定具の耐久性の実験.
ブタ胃壁を二枚の金属板で挟み作成した胃壁モデルに固定施行し,固定具の構造物が破断するまで固定糸を牽引し,張力を測定した.
Ⅱ-3検討3(一固定の比較)
対象:当院において,2011年6月より8月の期間に,経口的な食物摂取が不能と判断してIntroducer法でPEGを施行した13症例の胃壁固定52回を対象とした.症例の内訳は男性9例,女性4例で平均年齢69.6歳である.
方法:PEG施行前に胃壁固定を,二点を一本穿刺式固定(イージータイ),残りの二点は二本穿刺式固定(COVIDIEN社)の四点固定した後,Introducer法で20Frバンパーボタン(COVIDIEN社)を留置した.両固定具で行ったそれぞれ26固定において,一カ所の固定所要時間と術中術後の偶発症について検討した.
Ⅱ-4検討4(固定法の比較)
対象:2011年9月から2012年5月の間に,経口摂取不能に対するPEG症例24例を対象とした.症例の内訳は,男性15例,女性9例で平均年齢67.8歳である.
方法:一本穿刺式固定(イージータイ)で三点固定した12症例と二本穿刺式固定(COVIDIEN社)で施行した12症例をいずれも3点固定を施行後,前記と同様にIntroducer法で造設した.いずれも局所麻酔からカテーテル留置までの造設時間と偶発症について比較・検討した.臨床検討1および2の症例は入院時に臨床研究の同意を患者本人あるいは家族から文書による承諾を得ており,かつ後方的研究を行うことについては当院倫理委員会で承認を受けた上で行っている.PEGの術者は,PEGならびに両固定具を10例以上経験のある二人の医師で行った.
Ⅱ-5統計
有意差検定はスチューデントのt検定を用い,P<0.05を有意と判定した.
Ⅲ-1検討1(固定糸の緩みの検討)
一本穿刺式固定群では,8時間以内に2-4%程度の糸のわずかな緩みがみられたが,24時間以後の緩みはない傾向であった.一方,二本穿刺式固定では,緩除ながら経時的に緩みが増大した(Figure 3).

持続牽引した胃壁固定の経時的な緩みの変化率.
縦軸は最初の距離を基準にした固定糸の変化率を,横軸は牽引後0,24,48,144,168時間と経時的に測定した.
Ⅲ-2検討2(ブタ胃壁モデルを使用した耐久性の検討)
一本穿刺式固定群の耐久性はスマートアンカーが平均15.7(13.0-17.3)N,イージータイが平均24.9(21.4-28.0)N.ガストロペクシーが平均17.4(15.7-19.7)N,ツーショットアンカーが平均21.0(15.3-26.5)Nであった.二本穿刺式固定は平均23.4(20.4-28.0)Nであり,一本穿刺式固定群ではイージータイ以外は耐久性が弱い傾向にあり,15N以上の牽引で固定具や糸の断裂が,20N以上の牽引でブタ胃の損傷が生じた(Table 1).

ブタ胃壁モデルを使用した胃壁固定の耐久性実験の結果.
Ⅲ-3検討3(一固定の比較)
一本穿刺式固定と二本穿刺式の一固定に要する時間の平均値は,それぞれ53±8秒と78±10秒と,一本穿刺式固定の方が有意に短時間であった(P=0.0097)(Figure 4).両群とも短期観察において,特に偶発症はなかった.

一固定に有する時間の比較.
同一症例,同一術者が,一本穿刺式固定(イージータイ)と二本穿刺式固定(COVIDIEN社)を施行し,それぞれの一固定に要した時間(秒)を比較した.
Ⅲ-4検討4(固定法の比較)
PEG手技時間の比較では,一本穿刺式固定の方が短い傾向があったが,統計学的に有意差はみられなかった(P=0.0605).また,両群共に術中・術後の観察期間においては,臨床上の偶発症等の問題はみられなかった(Figure 5).

PEG造設手技時間の比較.
一本穿刺式固定(イージータイ)または二本穿刺式固定(COVIDIEN社)を使用し,いずれも三点固定を施行し,Introducer法でPEG造設した際の手技時間(秒)を比較した.
現在,PEGの際の胃壁固定は安全対策としても重要とされているが,1986年にわれわれが最初にTファスナー式固定具の臨床使用の報告1)をした当時は,Pull/Push法が中心で胃壁固定自体の必要性が周知されていなかった.胃壁固定の中でTファスナー式は,鮒田式胃壁固定具が報告されたほぼ同時期の第42回日本消化器内視鏡学会総会ビデオシンポジウム(1991年)でも,その有用性について報告 5)したが,当時のTファスナー式固定具は,T字アンカーが外付けのため穿刺の際にT字アンカーが逸脱しやすく,またアンカー部が抜糸後の皮下や胃内に残存する可能性や牽引による胃粘膜損傷,術後に固定糸が緩みやすいなどの問題点が指摘され普及に至らなかった.
最近では内視鏡のクリップと同様,胃内異物の問題があまりないことが知られ,胃壁腹壁の血流を遮断する可能性が低い長所や,デバイスの改良に伴い,手技の簡便化な一本穿刺式固定具が次々と発表され再度注目されつつある 7).
術式においてもPull法では瘻孔感染の問題やその予防として使用されるオーバーチューブによる偶発症の問題,二回スコープを挿入しなければいけないこと,咽頭・食道狭窄症例に対しては難しい点から,直接バンパータイプを留置するIntroducer法が選択されることが多くなり,胃壁固定の必要性が高まってきた.このIntroducer法において一本穿刺式固定具の胃壁固定の安全性を評価するために,基礎的および臨床的な検討が求められていた.
固定糸の緩みについての基礎的検討では,一本穿刺式固定群の牽引実験で,経時的な緩みは軽微で二本穿刺式固定と比べあまり差はみられなかった.さらに,ブタ胃モデルを用いた固定糸の耐久力の検討では,臨床の胃壁固定で想定される10倍以上の牽引で,T字アンカーの破損や糸の断裂を生じ,20倍以上の牽引で,ブタ胃粘膜に損傷を認めることがわかった.2-0ナイロンの耐久力が7-10Nであることを考慮すると,一本穿刺式固定具群はいずれも適切な使用により,造設の際,牽引でアンカーの破損や糸の断裂の問題がないことが示唆された.固定糸の耐久力は,用いられている糸の太さや材質に影響することが推察され,各社キットの差もあるため,その特性も理解して使用することが望ましい.
臨床的検討では,Introducer法によるPEGにおいて,イージータイを用いた一本穿刺式固定とCOVIDIEN社の二本穿刺式を比較したが,いずれの固定具でも造設の際の臨床的な問題はなく.短期的な偶発症も認めなかった.
手技時間は一本穿刺式の方が,一固定あたりに有する時間は有意に短かったことは,一本穿刺式固定の手技が簡便なためと考えられた.しかし,PEGの手技時間全体では有意差はなく,この理由としては,安全な穿刺部位の選定にも十分な時間を要するためと考えられた.
今回の検討から,Introducer法において.イージータイを使用した一本穿刺式固定は安全で有効に行える可能性が示唆された.他の一本穿刺式固定具は,今回検討していないため,今後検討する必要があると考えられた.Introducer法でPEGをする際,穿刺部位が狭いなど,二本穿刺式固定が困難な症例でも,今回の検討から,一本穿刺式固定が安全かつ確実であることを念頭におけば,今後の手技の選択肢になると考えられた.
一本穿刺式固定は適切な使用により,二本穿刺式固定と同様に安全にIntroducer法に使用できる固定具であることが示された.
本論文の要旨の一部は,第83回日本消化器内視鏡学会総会(2012年5月13日,東京)および第85回日本消化器内視鏡学会総会(2013年5月11日,京都),第91回日本消化器内視鏡学会総会(2016年5月14日,東京),第93回日本消化器内視鏡学会総会(2016年5月14日,東京)で発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし