2018 年 60 巻 1 号 p. 21-26
症例は88歳女性.当院皮膚科で水疱性類天疱瘡に対しプレドニゾロン(以下PSLとする)投与中であった.PSL減量中に皮膚症状が悪化したため,内臓腫瘍の合併が疑われ当科へ紹介となった.消化管精査を行ったところ,胃前庭部小彎前壁よりに隆起性病変を認めた.生検による病理組織の結果は腺腫であったが,内視鏡所見にて早期胃癌が強く疑われたためESDを施行した.病理組織の結果は,治癒切除であった.ESD後,水疱の新生はみられずPSLは順調に減量されており,ESDによる早期胃癌の治療が有効であったと考えられる.
水疱性類天疱瘡は最も頻度の高い自己免疫性水疱症で,本邦では近年高齢化に伴い患者数が増加している.通常,治療への反応性は良くコントロールも容易であるが,ときに治療抵抗性を示すことがある 1).その中で内臓腫瘍を合併している症例では,腫瘍切除後ステロイドによるコントロールが容易になった症例や治癒した症例も報告されている.今回われわれは,早期胃癌を合併した治療抵抗性水疱性類天疱瘡に対しESDを施行し,ステロイドの減量が可能となった一例を経験したので報告する.
患者:88歳 女性.
主訴:消化管精査.
既往歴:急性虫垂炎,左膝蓋骨骨折,脂漏性角化症.
生活歴:飲酒,喫煙歴なし.
現病歴:2014年7月上旬頃より四肢・腰背部に皮疹が出現.近医皮膚科にて水疱性類天疱瘡疑いとなり,H1受容体拮抗薬(ベポタスチンベシル酸塩)・副腎皮質ステロイド外用剤(ベタメタゾン吉草酸エステル)で治療を開始するも皮疹の増悪が認められたため,精査・加療目的に当院皮膚科に紹介となった.体幹・四肢に緊満性の紅班を伴う水疱が認められ,皮膚生検にて表皮下水疱の形成と好酸球の浸潤が認められたため水疱性類天疱瘡の診断となった.PSL 30mg/日で治療を開始した.治療開始後皮疹は軽快したため,PSLの減量を開始した.しかしPSL 10mg/日まで減量したところ,皮疹の増悪が認められたため内臓腫瘍の合併を疑い頭部~骨盤CTを行った.CT上は明らかな内臓腫瘍を疑わせる所見は認められず,消化管精査目的に当科へ紹介となった.
上部消化管内視鏡検査:胃前庭部小彎前壁よりに頂部に退色調の浅い陥凹を伴う約20mmの隆起性病変を認めた(Figure 1-a,b).インジゴカルミン散布にて退色調領域部分の腺管構造は比較的均一で密になっていた(Figure 1-c).酢酸散布後約15秒後に隆起部の白濁がとれ,発赤調への変化が認められ癌が疑われた(Figure 1-d) 2).陥凹中心部から2カ所生検を施行した.

胃前庭部小彎前壁よりに頂部に浅い陥凹を伴った隆起性病変を認めた.
a:白色光観察.
b:非拡大Narrow Band Imaging観察.
c:インジゴカルミン散布.
d:酢酸散布.
下部消化管内視鏡検査:小ポリープを3個認めるのみであった.
胃病変の生検の結果は腺腫であったが,腫瘍切除による水疱性類天疱瘡の治療コントロールの改善を目的にESDを行うこととし,2015年1月ESD目的に入院となった.
入院時現症:身長140.5cm,体重40kg,血圧138/65mmHg,脈拍97回/分,呼吸音・心音異常なし.腹部は平坦・軟,圧痛なし.表在リンパ節は触知しない.体幹,四肢に紅班を伴う緊満性の水疱が多発.
入院時検査所見:Hb 13.5g/dlと貧血はなく,腫瘍マーカーもCEA 1.9ng/ml,CA19-9 10.0U/mlと正常範囲内であった.Helicobacter pyloriの除菌の既往歴はなく,Helicobacter pylori便中抗原も陰性であった.
ESD時所見:Dual knifeにて腫瘍周辺にマーキングを行った後,Dual knifeにてプレカットを行い,IT-2にて切開・剥離を行った.病変は一括切除で,切除病変の大きさは32×23mm.後出血や穿孔など重篤な偶発症は認めなかった.
病理組織学的所見:病理組織では,粘膜表層に腫瘍腺管が認められ,深層には拡張した非腫瘍腺管が認められた(Figure 2).一部の腺管が不正な形態を示しており,腺細胞の核も類円形を呈しており癌との診断となった(Figure 3).Tubular adenocarcinoma(tub1),pT1a,UL(-),INFa,med,ly(-),v(-),pHM0,pVM0で治癒切除であった.

病理組織学的所見(HE×1.25).
粘膜表層に腫瘍腺管が認められ,深層には拡張した非腫瘍腺管が認められた.

病理組織学的所見(HE×10).
一部の腺管が不正な形態を示しており,腺細胞の核も類円形を呈していた.
術後経過:腫瘍切除後,PSLの減量を開始したが水疱の新生はみられず消退傾向となった.26カ月経過したがPSL 5mg/日で水疱は完全に消退している.
本症例ではPSL減量中に皮疹が増悪したため,内臓腫瘍の合併も疑われ当科で精査を行ったところ胃に腫瘍を認めた.治療コントロール不良の原因として腫瘍の合併があることも否定できずESDによる腫瘍切除を行ったところ,水疱性類天疱瘡の治療コントロールが良好になった.内臓腫瘍を合併した水疱性類天疱瘡患者に対し腫瘍切除後,皮疹が消退・軽快した症例はいくつか報告されている.医学中央雑誌にて1989年~2015年10月の期間で「水疱性類天疱瘡」,「癌」,「切除」と「天疱瘡」,「ESD」のキーワードで検索(会議録を除く)した20例のうち癌の部位,治療後の経過が確認しえた13例 4)~15),17)と自験例を合わせた14例を表にまとめた(Table 1).PubMedにて「precancerous lesion」や「early cancer」と「Bullous pemphigoid」のキーワードで海外の文献を検索したが前癌病変あるいは早期癌を合併した水疱性類天疱瘡の報告は見られなかった.Ogawaらの報告では天疱瘡では肺癌,水疱性類天疱瘡では胃癌の合併率が高いとも報告されているが 3),胃癌は14例中4例であり最も多かったのが結腸癌・直腸癌の5例であった.10例で腫瘍切除後に皮疹が消退・軽快しており,多くの症例で本症例と同様の経過が見られており,腫瘍切除が治療改善に寄与した可能性が高いと考えられた.また12例は外科的切除が行われており,ESDによる切除例は自験例以外では吉田らの報告例の1例のみであった.これは早期胃癌に対しESDが保険適応となったのが2006年4月であることが影響しているものと考えられる.吉田らの報告例では,ESD後1年6カ月後に再発が認められ再度ESDがなされている.その後胃癌の再発は認められていないが,腫瘍切除後もしばしば皮疹の新生が認められており,ステロイドも十分には減量できていないようである.本症例は,早期胃癌を合併した水疱性類天疱瘡に対しESDを行い,腫瘍切除後に皮疹が消退し,ステロイド減量が可能となった数少ない報告例であったと考えられるが,ESDが普及した現在では,これから報告例が増えてくるものと思われる.

本邦における水疱性類天疱瘡に合併した腫瘍の報告例(1989年~2015年10月).
現時点では水疱性類天疱瘡と腫瘍の関連性について詳細は不明である.水疱性類天疱瘡は,表皮基底膜部における表皮-真皮間接着装置であるヘミデスモソームに局在しているBP180に対する抗表皮基底膜部IgG自己抗体(以下抗BP180抗体とする)により表皮下水疱を形成する 1).Yanagiらによると腫瘍自体がBP180を発現し,自己抗体の産生を引き起こす可能性について述べている 16).腫瘍自体に発現したBP180に対して免疫染色法などでの確認する方法は現時点ではないようであるが,本症例では腫瘍切除後,皮疹の消退と共に抗BP180抗体が低下しており(Figure 4),これはYanagiらの仮説を支持するものと考えられる.

ESD後,抗180抗体は減少傾向となっている.
Table 1にて示した14例を早期癌と進行癌で比較検討した.腫瘍切除後に皮疹が発症した2例を除くと12例中6例が早期癌で6例が進行癌であった.早期癌では6例中4例で腫瘍切除後に皮疹が消退・軽快している.一方進行癌では6例中6例が腫瘍切除後に消退・軽快しており,12例での検討では早期癌に比べて進行癌で腫瘍切除の効果が強い可能性が示唆された.今回検索しえた症例で抗BP180抗体の経過について記載されていたのは自験例を含めて3例のみであった 4),10).今後早期癌と進行癌の抗BP180抗体との関連性を検討する必要性があると考えられた.
しかし14例中4例では,腫瘍切除後皮疹が不変・再燃あるいは腫瘍切除後に皮疹が発症した例もあり,すべてにこの仮説が当てはまるとは言えない.今後の症例集積による検討が待たれる.
早期胃癌を合併した治療抵抗性水疱性類天疱瘡に対しESDを施行しステロイド減量可能となった一例を経験した.水疱性類天疱瘡患者に対しESDを行った貴重な症例であると思われるため報告する.
本症例の要旨は第23回JDDWにて発表した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし