日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
表在型食道癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術後の狭窄予防法の現状と今後の展望
引地 拓人 渡辺 晃中村 純菊地 眸橋本 陽大平 弘正小原 勝敏
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2018 年 60 巻 10 号 p. 2259-2274

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要旨

内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)の普及により,広範な食道癌でも内視鏡的切除が可能になった.一方,切除後の粘膜欠損周在性が3/4周を超えた場合には食道ESD後狭窄のリスクが高いことが明らかになってきた.食道ESD後狭窄予防法として,予防的バルーン拡張術やステロイド治療が行われている中で,現在はステロイド局注療法とステロイド経口投与が主流となっている.しかし,その優越性と安全性は明らかではなく,現在,日本臨床腫瘍研究グループにおいて,両者のランダム化比較第Ⅲ相試験が行われている.ただし,本試験は全周性の病変は対象としておらず,全周性ESDでは,他の治療法を併用するなど新たな予防策が必要と思われる.また,ポリグルコール酸シートなどの組織遮蔽法や再生医療としての自己口腔粘膜上皮シート移植の新たな展開と普及にも期待をしたい.

Ⅰ 緒  言

表在型食道癌に対する治療法として,リンパ節転移リスクが低い粘膜内病変では内視鏡的切除術(endoscopic resection:ER)が標準治療となっている.ERの手技として,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)が普及してきたが,切除できる病変の大きさに制限があり,分割切除となった場合の遺残再発の問題があった 1.そこで,その問題を解決するために,内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)が開発された.表在型食道癌に対するESDは,技術的な難易度こそ高いが,広範な病変でも確実な一括切除が可能であり,良好な予後が報告されている 2)~6.また,切除標本の詳細な病理学的検索が可能である点でも優れている.

一方,食道は狭い管腔臓器であることから,広範なESDを施行した後の狭窄が問題視されることになった 7)~10,(Figure 1).食道狭窄は,経口摂取量の低下や食事制限を必要とするため,患者に栄養障害や生活の質の低下を来たしてしまう.食道ESDの術後狭窄に対する治療法として,内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)が行われているが,穿孔や出血など重篤な有害事象を生じることがある 11),12.また,頻回かつ長期にわたるEBDは,患者に経済的かつ精神的な負担を強いることになる.したがって,ESD術前に術後狭窄のリスクを評価し,リスクが高い患者では狭窄予防を行うことが望ましい.

Figure 1 

食道癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後の狭窄症例.

a:胸部中部食道の約2/3周で長軸方向に5cm長の食道扁平上皮癌.

b,c:ESD6日後.一筋残しての切開を行ったが,結果的に一部で全周性の潰瘍面となっていた(長軸方向に6cm).クリップはESD時に筋層露出部を予防的縫縮したものである.スコープは通過可能であったが,18-20mmのバルーンを用いて,用手的に空気による予防的バルーン拡張術を行った.

d,e:ESD22日後.スコープは通過困難であり,12mmまでのバルーン拡張術を行った.約8カ月間で18回のバルーン拡張術を要した.

f:ESD5年2カ月後.狭窄は改善しており,以後食道癌の再発もなかった.

本稿では,本邦における食道癌の主な組織型である扁平上皮癌に対するESD後の狭窄予防法の現状(Table 1)と今後の展望に関して述べる.

Table 1 

食道癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術後の狭窄予防法.

Ⅱ 食道ESD後狭窄

1.狭窄のリスク因子

Katadaら 7は,食道EMR137例216病変において,狭窄率は粘膜欠損周在性が3/4周を超えた群で68.4%(13/19)であったと報告した(3/4周以下の群で0%).また,粘膜欠損周在性が3/4周を越えた19例のうち,粘膜欠損の長軸径別の狭窄率は,30mmを超える群(100%:10/10)が30mm以下の群(33.3%:3/9)より有意に高く,狭窄後のEBD回数も多かった.Onoら 8は,食道ESD65例で,狭窄率は粘膜欠損周在性3/4周以上(83.3%:5/6)が3/4周未満(10.2%:6/59)より高かったと報告した.また,粘膜欠損の平均長軸径は狭窄例(45.0mm)が非狭窄例(31.5mm)より有意に長かった.Shiら 9は,食道ESD362例で,狭窄率は粘膜欠損周在性が3/4周を超えた群(94.1%:32/34)で,3/4周以下の群(3.0%)より有意に高かったと報告した.また,粘膜欠損部の平均長軸径は狭窄例(42.0mm)が非狭窄例(35.5mm)より有意に長かった.Mizutaら 10は,食道ESD42例で,腫瘍周在性59%以上(感度85.7%,特異度97.1%)と長軸径32mm以上(感度71.4%,特異度94.3%),粘膜欠損周在性71%以上(感度100%,特異度97.1%)と長軸径33mm以上(感度85.7%,特異度71.4%)が狭窄のリスク因子であると報告した.

本邦の食道癌診療ガイドライン第4版(2017年版) 13では,Katada論文 7,Ono論文 8,Shi論文 9の3論文のメタ解析の結果,「周在性が3/4周を超える症例に対して内視鏡治療をした場合の狭窄をきたす危険性は3/4周以下症例と比較して,リスク比30.93であった」として,「壁深達度が内視鏡治療適応と考えられる食道癌に対しては,治療前に周在性の評価を行うことを強く推奨する(エビデンスの強さA)」と結論づけている.ただし,この場合の食道ESD後狭窄リスク群は,「周在性が3/4周を超える」とするよりも「切除後の粘膜欠損の周在性が3/4周を超える」と表現した方が適切であるように思える.また,「切除後の粘膜欠損の周在性が3/4周を超える」病変は,腫瘍径が1/2周を超える病変が多いことが分かっている 14

実際,粘膜欠損周在性3/4周以上を食道ESD後狭窄のリスク群とした予防治療法の報告でも,予防治療を施行しなかった場合には66-100% 15)~17の頻度で狭窄を生じていた.

2.ESD後狭窄の機序と予防戦略

ESD後の潰瘍の創傷治癒は,外科的開放創における創傷治癒過程と同様に,開放創のまま肉芽増殖と上皮化によって瘢痕化される治癒であり,肉芽形成および線維化,上皮化,収縮の過程を経由する.とくにESDでは,潰瘍の上皮化は,潰瘍周囲の上皮細胞が分裂・遊走し,上皮が潰瘍内に進展して潰瘍面が覆われることで終了する 18.したがって,ESD後狭窄を予防するためには,線維化と収縮を抑制しながら,上皮化を促進する方法が望ましい.

本邦の食道癌診療ガイドライン第4版(2017年版) 13では,食道ESD後狭窄リスクの症例に対し,「狭窄症状が現れてから食道拡張を行うよりも,狭窄予防を行う方が患者に対する益は大きいと考えられる」として,「食道癌の内視鏡治療後の狭窄予防として,予防的バルーン拡張術,ステロイド局注,ステロイド内服のいずれかを行うことを強く推奨する(エビデンスの強さA)」と述べられている.

Ⅲ 食道ESD後狭窄の予防法

1.予防的EBD

予防的EBDは,ESD後に狭窄が始まる前の時期から計画的にEBDを行う方法である.週に数回のEBDをESD後の粘膜欠損が上皮化されるまで繰り返す.

井上ら 19は,全周性の食道ESD後に,術後1-3日目から(はじめの1週間はほぼ毎日),18-20mm径のバルーンを用いて,用手的に空気を注入する予防的EBDを6例で行った.EBD回数は中央値35.5回(17-43回),期間は中央値100日(54-153日)であった.Ezoeら 20は,ESD/EMR後の粘膜欠損周在性が3/4周以上の41例のうち,狭窄率は予防的EBD群が59%(29例:ESD 5例,EMR 24例)で,過去の無治療群12例(すべてEMR)の92%よりも有意に低く,狭窄解除までに要する日数も少なかった(29日 vs 78日)と報告した.予防的EBDは,ESD/EMRの1週以内で18-20mmの径から開始され,粘膜欠損が上皮化するまで週1回施行された.有害事象として,EBDで1例穿孔を認められた.Wangら 21は,無治療のEMR/ESD(ESD13例)18例中5例(27.8%)で狭窄を生じたが,予防的EBDの12例(ESD9例)では狭窄を生じなかったと報告している.しかし,この報告では,腫瘍周在性などの患者背景が明確にされていない.Yamaguchiら 22は,粘膜欠損周在性3/4周以上の症例において,ESD3日後から予防的EBD(1週間に2回,8週間)を行った22例を,後述するステロイド経口投与群19例との後ろ向き比較試験を行った.しかし,狭窄率は,予防的EBD群(31.8%:7/22)よりステロイド経口投与群(5.3%:1/19)で低い結果であった.なお,予防的EBD群の粘膜欠損周在性別の狭窄率は,3/4周以上から全周未満で21.1%(4/19),全周で100%(3/3)であった.

以上の報告から,予防的EBDはESD後の狭窄率低下や狭窄解除時間短縮にある程度の効果はあると思われる.しかし,予防的EBDは,複数回のEBDが必要である上に,穿孔リスクも伴う.したがって,後述するステロイド治療と比較すると,予防的EBDは単独で有効な狭窄予防法であるとは言えない 23

2.ステロイド治療

1)ステロイド局注療法

ステロイドの炎症と線維化を抑制する作用を利用し,食道ESD後狭窄予防に様々な方法で臨床応用され始めている.ブタモデルを用いた研究 24でも,局所ステロイド注射による食道ESD後の狭窄抑制効果が病理組織学的に証明されている.

ステロイド局注療法は,ESD後の潰瘍底や辺縁に,トリアムシノロンなどのステロイドを注入する方法である(Figure 2).Hashimotoら 15は,粘膜欠損周在性が3/4周を超えた21例(全周性を除外)に対して,10mg/mLのトリアムシノロンを,0.2mLずつ1cm間隔でESD後の潰瘍底に局注をした.ESD後3,7,10日目の合計3回(計18-62mg)局注した結果,狭窄率は19%(4/21)であり,無治療群75%(15/20)と比較して有意に低かったと報告した.狭窄後のEBD回数もステロイド局注群で少なく(1.7回 vs 6.6回),重篤な有害事象もなかった.ただし,Hashimotoらの方法を採用したFunakawaら 25の報告では,狭窄率は粘膜欠損周在性が3/4周以上全周未満ではステロイド局注群34.8%(8/23),無治療群40%(4/10)と差がなく,全周性ではステロイド局注群の83.3%(10/12)(無治療群は該当なし)で狭窄を生じた.

Figure 2 

ステロイド局注療法有効例.

a:胸部中部食道の約3/4周で長軸方向に3cm長の食道扁平上皮癌.

b:内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で一括切除を行った.

c:ESD直後.トリアムシノロンを5mg/mLに希釈をして,1.8mm長の局注針で,切除面の辺縁をねらって1mLずつ合計100mgを局注した.

d:トリアムシノロン局注直後.局注部は粘膜下層が白濁している.9/10周性の長軸方向に7cmの粘膜欠損となった.筋層露出はなかった.

e:ESD1年後.深達度はpT1a-MMでリンパ管侵襲陽性であったため,化学放射線治療を追加で施行した(放射線50Gy照射).狭窄をきたすことなく,上皮化をしていた.

一方,Hanaokaら 16は,粘膜欠損周在性が3/4周を超えた30例(全周性を除外)で,ステロイド局注療法の有用性と安全性を前向きに評価した.5mg/mLに希釈したトリアムシノロンを,ESD直後の1回のみ,粘膜欠損辺縁から欠損部に0.5-1.0mLずつ局注(計100mg)することにより,狭窄率は10%(3/30)であり,無治療の66%(19/29)より有意に高かった.EBD回数(中央値)もステロイド局注群で少なく(0回 vs 2回),重篤な有害事象もなかった.その後,Hanaokaら 26は,ステロイド局注療法抵抗例を詳細に検討し,腫瘍周在性3/4周以上が独立した治療抵抗因子であると報告した.

Hashimotoらの方法 15はESD後3回,Hanaokaらの方法 16はESD直後1回のみであったが,Wakaharaら 27はトリアムシノロン局注療法の最適な間隔に関して,週1回の群と隔週に1回の群でランダム化比較試験を行った.治療期間(中央値)は週1回群が37.0日,隔週群が34.2日で差がなかったが,粘膜欠損が50mmを超える症例では,隔週群(29.0日)が週1回群(42.5日)より有意に短かった.Takahashiら 17は,腫瘍周在性が2/3以上の症例が粘膜欠損周在性3/4周以上になると推定し,トリアムシノロン局注療法群と無治療群のランダム化比較試験を32例で行った.狭窄率は,局注群62.5%(10/16),無治療群87.5%(14/16)で差がなかったが,症例数が少ないことと,それぞれの対象に全周性病変が5例ずつ含まれていた影響が大きいと思われた.Kadotaら 28は,粘膜欠損周在性ごとにトリアムシノロン局注療法の効果を検証し,狭窄率は粘膜欠損周在性3/4以上7/8未満群で14%(3/22:無治療群で39%),粘膜欠損周在性7/8以上全周未満群で56%(14/25:無治療群で100%),全周群で100%(6/6:無治療群で100%)であった.

これらの報告で用いられているトリアムシノロンは,水性懸濁液注射製剤が本邦で用いられている.極めて難溶性で,投与部位から少量ずつ放出される性質があり,筋注により14-21日間は有効血中濃度を保つことが知られている.トリアムシノロン以外のステロイドとして,デキサメサゾン 29やべタメサゾン 30),31が報告されているが,これらは水溶性で血中移行性が良好であり吸収が速い.したがって,局所での効果の維持には,週2回程度で数週間にわたる局注が必要である点 29),30でトリアムシノロンに劣る.また,Moriら 32は,ステロイド局注療法と予防的EBDとの併用療法を報告している.

ステロイド局注療法は,ESD後狭窄予防法として最も普及していると思われるが,これまでの報告をみると,全周性病変に対してはステロイド局注療法単独で狭窄を予防することは難しいようである.また,筋層への局注になった場合には穿孔の可能性があり 33,筋層局注を防ぐために突出長1.8mmの局注針が開発されている 34.しかし,局注する部位(粘膜欠損部の辺縁か欠損部全体なのか,欠損部辺縁の健常上皮なのか)や使用するステロイドの用量や濃度も統一されていない点が今後の課題である.

2)ステロイド経口投与

ステロイドを経口投与する方法(Figure 3)が,Yamaguchiら 22により,先述した予防的EBDとの比較試験として報告された.ステロイド経口群は,ESD後3日目にプレドニゾロン30mg/日を経口投与し,毎週5mg/日ずつ漸減し,8週間後に中止する方法で行われた.全周性を含む粘膜欠損周在性3/4以上において,狭窄率は予防的EBD群で31.8%(7/22)だったのに対し,ステロイド経口群では5.3%(1/19)と有意に低かった.必要としたEBD回数も,予防的EBD群の15.7回に対してステロイド経口群1.7回と有意に少なかった.また,ステロイド経口投与群の3例が全周性病変であったが狭窄をきたしておらず,重篤な有害事象も認めなかった.ステロイド経口投与は,局注療法のような特別な技術や設備を必要とせず,術者間でのばらつきがない点で優れていると思われる.

Figure 3 

ステロイド経口投与有効例.

a:胸部中部食道の約1/2周で長軸方向に3cm長の食道扁平上皮癌.

b:内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で一括切除を行った.

c:ESD直後.約3/4周性の長軸方向に7cmの粘膜欠損となった.筋層露出はなかった.そこで,ESD2日後からプレドニゾロン30mg/日を経口投与し,漸減して8週間で中止した.

d:ESD3カ月後.狭窄をきたすことなく,上皮化をしていた.

全周性病変に対する予防的ステロイド経口投与の報告として,Yamaguchiと同施設のIsomotoらの報告 35では,全周性病変4例中2例で狭窄をきたさず,狭窄例2例のEBD回数は2回と11回であった.また,Tangら 36は,全周性18例を含む腫瘍周在性3/4周以上の食道ESD40例で,Yamaguchiらの方法に準じてステロイド経口投与を行い,狭窄率は45%(18/40)であったと報告した.なお,山口ら 34は,ステロイド経口投与に対する抵抗因子を検討し,全周性でない病変でも,粘膜欠損周在性9/10周以上,切除長軸径50mm以上,頸部食道,化学放射線治療歴がステロイド経口投与に対する抵抗因子であると述べている.

ステロイド経口投与に他の方法との併用が検討され始めており,Kadotaら 28は,全周性病変において,狭窄率がステロイド局注療法で100%(6/6),ステロイド局注療法と経口投与の併用群で71%(10/14)であったと報告した.Satoら 37は,予防的EBD群に比較して,予防的EBDとステロイド経口投与の併用群で,必要としたEBD回数が少なく(予防的EBD群33.5回 vs 併用群13.8回),EBD期間も短かった(14.2カ月 vs 4.8カ月)と報告した.山口ら 34は,全周性病変では,プレドニゾロン投与期間を8週間から18週間へ延長したが,それでも33.3%(8/24)で狭窄を来したことから,ステロイド経口投与にも限界があり,ステロイド経口投与に局注療法(トリアムシノロン200mg局注)を併用することが望ましいと述べている.

ステロイド経口投与で用いられているプレドニゾロンは,疾患によって投与量や漸減方法は異なるが,30-60mg/日から開始し,5-10mg/1-2週で漸減することが多い.したがって,投与期間が長く,累積投与量が多いため,続発性副腎皮質機能低下,高血圧,糖尿病の悪化,感染症など全身性疾患への影響が懸念されており,Ishidaら 38により,播種性ノカルジア症の1例が報告されている.なお,これらのステロイド長期投与の問題点を解決すべく,Kataokaら 39は,プレドニゾロンを30mg/日から,1週間ずつで減量して3週間のみの投与とした報告をしている.腫瘍周在性3/4周以上の33例において,この短期間経口ステロイド投与17例(全周性3例を含む)の狭窄率は17.6%(3/17)であり,無治療の68.7%(11/16)より有意に低かった.

3)その他のステロイド投与法

Moriら 32は,局注による出血や穿孔を回避する目的で,トリアムシノロンを内視鏡用のジェルと混合させて粘膜欠損部に投与し,拡張用バルーンでEBDを行いながらトリアムシノロンを欠損部に付着させる工夫を報告している.しかし,60日後の狭窄率は81%と十分な結果ではなかった.

Shibagakiら 40は,粘膜欠損周在性3/4周以上の22例(全周性7例を含む)で,トリアムシノロン40mgを生食に溶解した4mLの溶液を,左側臥位の状態で内視鏡下に注入するトリアムシノロン充満法(TA-filling法)を,ESDの翌日と7日後に行い,粘膜欠損部が上皮化するまで2週間ごとの内視鏡検査を行う検討を行った.内視鏡が通過しない狭窄の場合にはEBDの上でTA-filling法を行い,狭窄を来たしていないがスコープがやっと通過する程度の場合にもTA-filling法を行った.最終的な狭窄率は4.5%(1/22)であり,狭窄の1例も2回のEBDのみであった.全周性病変の7例では,6例(85.7%)で追加のTA-filling法(中央値8.5回,3-13回)を行っているが,狭窄は生じなかった.大変興味深い報告であるが,手技がやや煩雑であり,狭窄と定義されていない症例でも多数回のTA-filling法を施行されていることから,今後の検証が必要であると考える.

Nakamuraら 41は,ステロイドの全身投与法として,経口投与ではなく,メチルプレドニゾロン500mg/日静脈投与を3日間施行するステロイドパルス療法の成績を報告した(Figure 4).短期間の治療法ではあるが,線維芽細胞の遊走が生じることを初期の段階で完全に抑制する概念である.狭窄率は54.5%(6/11)であったが,3病変を同一切片で切除した粘膜欠損7/8周以上の切除長径111mmの症例でも狭窄をきたさなかった.また,狭窄症例のEBD回数は中央値2.5回(1-6回)であり,有害事象も認められなかった.

Figure 4 

ステロイドパルス療法有効例(文献41から許可を得て引用).

a:胸部中部食道の約3/4周で長軸方向に4cm長の食道扁平上皮癌.

b,c:内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で一括切除を施行した.約7/8周性の長軸方向に5cmの粘膜欠損となった.筋層露出はなかった.

d:ESD14日後.まだ完全に上皮化をしておらず,スコープの通過も可能であった.

e:ESD56日後.切除部は完全に上皮化をしており,スコープの通過も可能であった.

f:ESD7カ月後.狭窄はきたさなかった.

4)ステロイド治療のまとめと今後の展望

Wangら 42は,ステロイド治療に関する12論文のメタ解析を行い,局注療法と経口投与は同等の狭窄予防効果を有するが,EBDの減少効果において局注療法が経口投与より優れていると結論付けた.しかし,ステロイド投与には様々な方法と用量があり,一律に比較をできないと思われる.これまでの食道ESD後狭窄予防の比較試験のまとめを,Abeらのレビュー 23を参考にTable 2に記載する.

Table 2 

食道扁平上皮癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術後のステロイドによる予防治療の比較研究.

なお,日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Study Group:JCOG)の中の消化器内視鏡グループ(代表者:武藤学,研究事務局:滝沢耕平)では,食道ESD後狭窄に対する予防治療法として,ステロイド局注療法をコミュニティースタンダード(みなし標準治療)として,プロトコール治療をステロイド経口投与とした,狭窄予防効果と安全性の優越性を検証するランダム化比較第Ⅲ相試験JCOG1217(研究代表者:小野裕之,研究事務局:田中雅樹)を開始した 14.研究対象は,術前診断で,腫瘍周在性が1/2周以上全周未満である腫瘍長軸径が50mm以下の病変である.腫瘍周在性が1/2周以上と定めたのは,1/2周以上の腫瘍をESDで切除した場合に,粘膜欠損周在性が3/4周以上になると判断されるためである.ステロイド局注療法はHanaokaらの方法 16を採用し,ステロイド経口投与はYamaguchiらの方法 22を採用している.本試験のprimary endpointは「無狭窄生存期間」であり,狭窄の定義は「Dysphagia score≧2かつ径9.6-10.4mmの内視鏡が通過しない状態」としている.また,secondary endpointsは「ESD実施後12週までに要した内視鏡的拡張術の回数」「ESD実施後12週時点のDysphagia score≦1の割合」「有害事象発生割合」「重篤な有害事象発生割合」である.ランダム化の割付因子として「腫瘍周在性(3/4周未満 vs 3/4周以上」「長軸方向の腫瘍径(30mm未満 vs 30mm以上)」をあげており,今後の症例の集積が期待される.

3.ステロイド以外の薬物投与

1)ボツリヌス毒素局注療法

ボツリヌス毒素タイプAは,筋肉注射によって,筋収縮を減少させる効果があり,本邦では眼瞼痙攣や痙縮などで保険収載されている.また,筋収縮減少効果に加えて,膠原線維の沈着や線維状結合組織の形成を抑制する効果も有する 23

Wenら 43は,腫瘍周在性1/2周以上の67例(全周性6例を含む)をボツリヌス群(33例)と無治療群(34例)にランダム化して比較検討した.ボツリヌス群では,100単位のボツリヌス5mLを生理食塩水で希釈して20単位/mLとして,ESD直後に粘膜欠損の辺縁に沿って,筋層に達する局注を0.5mLずつ10カ所に施行した.狭窄率は,ボツリヌス群6.1%(2/33),無治療群32.4%(11/34)と,ボツリヌス群で有意に低かった.また,ボツリヌス群では,全周性症例(2例)でも狭窄をきたしておらず,腫瘍周在性3/4周以上全周未満の症例で6例中2例に狭窄が生じたのみであった.EBD回数も,ボツリヌス群(平均1.5回)が無治療(平均2.8回)より有意に少なく,重篤な有害事象もみられなかった.興味深い報告であるが,筋層局注の手技を含め,さらなる検証が必要である 23),44

2)トラニラスト経口投与

トラニラストは,炎症細胞および線維芽細胞からの化学メディエーターの放出を阻害したり,膠原線維の合成を直接抑制したりする作用を有し,臨床的には抗アレルギー薬やケロイドの治療薬として使用されている.Unoら 45は,腫瘍周在性3/4周以上の31名に対して,予防的EBDに対するトラニラストの併用効果を検証した.トラニラスト併用群(15例:全周3例)と予防的EBD単独群(16例:全周2例)での比較検討である.EBDはESD数日後から15-18mmバルーンで週2回を4週間継続し,トラニラストは300mg/日を8週間投与した.狭窄率は,トラニラスト併用群33.3%(5/15),予防的EBD単独群68.8%(11/16)であり,トラニラスト併用群で有意に低かった.また,追加EBDの回数もトラニラスト併用群で有意に少なかった(トラニラスト併用群:0回,予防的EBD単独群:4回).同じ経口投与でも,長期使用の安全性はステロイドよりもトラニラストが高い.しかし,本研究は予防的EBDを併用した検討であり,トラニラスト単独での前向き研究が望まれる.

4.組織遮蔽法

1)ポリグルコール酸シート

生分解性縫合補強材であるポリグルコール酸(Polyglycolic acid:PGA)シートは,フィブリン糊と組み合わせて創傷部を被覆する目的で使用されている.この機序を応用して,最近ではESDの遅発性出血や穿孔の予防法 46),47として注目されている上に,食道ESD後の狭窄予防にも使用され始めている.

Iizukaら 48は,腫瘍周在性1/2周以上の15例(全周性は除外)に対して,ESD直後の粘膜欠損部に,15×7mmの大きさに細かく切ったPGAシートを複数個貼り付け,さらにフィブリン糊スプレーで接着させることによる狭窄予防の成績を報告した.6週間後の狭窄率は,追加外科手術となった2例を除く13例で7.7%(1/13)であった.また,PGAシートの残存率は,1週間後で86.7%(13/15),2週間後で40%(6/15)であった.しかし,PGAシートの貼り付け手技は煩雑であり,平均10個のPGAシートを貼るのに平均14分(10-20分)を要した.Onoら 49),50は,PGAシートを細かく切らずに,1枚のままで食道粘膜にクリップで固定する「Clip and pull法」を考案した(Figure 5).生検鉗子でPGAシートを把持したままスコープに巻き付け,そのままESD後の粘膜欠損部に運び,包まれたPGAシートを解放した後,クリップで固定する方法である.同じ施設のSakaguchiら 51は,「Clip and pull法」を粘膜欠損周在性3/4以上の9例で施行し,ステロイドを併用した1例を除く8例において,狭窄率は37.5%(3/8)であり,狭窄例の平均EBDは1.8回であったと報告した.さらに,Sakaguchiら 52は,PGAシートにトリアムシノロン局注を併用した方法を腫瘍周在性1/2周以上(粘膜欠損周在性3/4周以上と推測)の15例で施行した.追加手術4例を除く11例(全周性2例を含む)の狭窄率は18.2%(2/11)であり,EBDは中央値0回(0-29回)であった.

Figure 5 

ポリグルコール酸(PGA)シート有効例(東京大学,小野敏嗣先生から資料提供).

a:胸部中部食道の1/2周超の食道扁平上皮癌.

b:内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)直後.約5/6周性の粘膜欠損.

c:Clip and pull法でPGAシートを粘膜欠損部に被覆した.

d:ESD6カ月後.完全に潰瘍底が上皮化し,狭窄も生じなかった.

2)カルボキシメチルセルロースシート

カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose:CMC)は,胃のESD時の局注剤としての有用性が報告されている 53),54.Luaら 55は,頸部食道,腫瘍周在性1/2以上(粘膜欠損周在性3/4周以上),腫瘍長軸長40mmを超える,の3項目のうち1項目以上をみたす7例で,CMCによる食道ESD後粘膜欠損部の被覆を行った.CMCシートは,10×20mm大に切ったものを生検鉗子で把持して透明キャップ内に引き込んだ状態で,8-10個のシートを平均12.6分で粘膜欠損部に貼り付けた.狭窄率は57%(4/7)であり,狭窄例におけるEBDは平均2.8回であった.

以上が食道ESD後狭窄予防のシートによる組織遮蔽法の報告であるが,PGAシートもCMCシートも少数例かつ単アームの検討のみで,狭窄抑制効果のエビデンスは十分とは言えず,今後は前向きの比較試験が必要である 23

5.再生医療

近年,再生医療を応用した食道EMRやESD後の狭窄予防法が脚光を浴び,世界的に研究されている.動物モデルで,粘膜欠損部に角化細胞56や脂肪組織由来幹細胞 57),58を注入したり,スカルフォールド(細胞の足場となる材料)を貼り付けたりする手法 59)~63,間葉系幹細胞の培養液を経口投与する方法 64などが研究されている.これらの再生医療の狭窄抑制機序は,繊維化を抑制しつつ上皮化を促進することであるが,実際に臨床応用されたものは少ない.臨床応用された方法として,胃粘膜を食道ESD後の粘膜欠損部に移植した報告 65があるが,現在最も開発が進んでいるのが口腔粘膜上皮細胞シートの移植である.

Ohkiら 66は,食道粘膜上皮細胞の代用として,同じ扁平上皮である口腔粘膜上皮細胞に注目し,まずイヌモデルで報告した.粘膜欠損周在性1/2周の5cm長のESDを行い,口腔粘膜上皮細胞シートを内視鏡的に移植した.移植された口腔粘膜上皮細胞シートは,粘膜欠損部に付着することに成功し,創傷治癒を促進し,食道狭窄を予防することができた.また,治癒部の炎症細胞数も,細胞シート移植をしなかった群と比較して有意に少なかった.その後,同じ施設のKanaiら 67は,ブタで全周性の4cm長のESDを行い,口腔粘膜上皮細胞シート移植で狭窄を予防できたこと,組織学的に早期の上皮化と筋層の線維化が軽度であったことを証明した.その後,OhkiやKanaiの共同研究者であるMurakamiら 68やTakagiら 69),70は,動物由来ではなく,ヒト由来の新しい組織工学的細胞シートを開発した.事前に採取した患者自身の口腔粘膜上皮細胞シート(自己口腔粘膜上皮細胞シート)を培養し,ESD後粘膜欠損部に内視鏡的に移植するという手法であり,Ohkiら 71),72が臨床応用に成功した(Figure 6).ESDの粘膜欠損周在性1/2周以上の10例(1例はEMR:3/4周以上が4例)を対象に,約6mm径の自己口腔粘膜上皮細胞シートを切除面の大きさに応じて1-8個移植した結果,中央値3週間で完全な上皮化が起こった.狭窄率は10%(1/10)であり,有害事象はみられなかった.現在,口腔粘膜上皮細胞を採取した場所から遠隔地に輸送して培養を行い,さらに培養された口腔粘膜上皮細胞をもとの採取場所に輸送して内視鏡的移植を行う方法にも成功している 73.1枚の細胞シートの移植に少なくとも10分かかるとされているが,最近では細胞シート移植のための新しいデバイスが開発されている 74),75

Figure 6 

口腔粘膜シート移植有効例(文献71から許可を得て引用).

a:胸部中部食道の扁平上皮癌.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で約2/3周の粘膜欠損となり,2枚の口腔粘膜シートの移植を行った.

b:ESD1週後.切除面に上皮化がみられた.

c:ESD3週後.ほとんど上皮化をしていた.

d:ESD4週後.完全に上皮化し,狭窄も生じなかった.

この自己口腔粘膜上皮細胞シートは,開発当初から大きな期待がかけられてきた.製造コストが高価である上に,手技もどこの施設でも容易に施行できる方法ではないが,臨床試験が継続されており,今後の普及に期待したい.

6.ステント留置

本邦では悪性食道狭窄に対する治療としてのみ保険収載されている自己拡張型内視鏡金属ステントは,欧米では難治性良性食道狭窄でも臨床応用されており,本邦でもEMRやESD後狭窄に用いた少数例の報告 76),77がある.しかし,狭窄予防に用いた報告は少ない.

Wenら 78は,粘膜欠損周在性3/4以上の22例を,ステント群11例,非ステント群11例に振り分け,8週後でステント(フルカバー)を抜去し,12週後の狭窄を検討した.狭窄率はステント群(18.2%:2/12)で非ステント群(72.7%:8/11)より有意に低く,EBD回数もステント群で有意に少なかった(0.45回 vs 3.9回).しかし,ステント群で狭窄を来した2例では,ステントの位置ずれを生じていた.手技はシンプルであるため大変興味深い方法であるが,早期にステントを留置することによる穿孔も懸念される.今後は,適切なステントの留置時期と抜去時期,安全性に関する検証が必要である.

また,近年,生分解性食道ステントが開発され,難治性の良性食道狭窄の治療に使用されている.本邦では,Saitoら 79やYanoら 80が食道ESDの狭窄後で少数例の報告をしているが,狭窄予防で施行した報告はない.

Ⅳ おわりに

表在型食道癌に対するESD後の狭窄予防法を文献的レビューとして述べた.表在型食道癌の治療法として,外科手術は侵襲度が高く,化学放射線療法や放射線療法には晩期合併症や病期の評価をできないという問題がある.したがって,低侵襲でかつ詳細な病理学的評価も可能であるESDが,今後も発展し普及していくことは間違いない.しかし,低侵襲であることはいえ,ESD術後に狭窄を来した場合には,患者の生活の質を大きく低下させる可能性がある.したがって,ESD後狭窄リスクである粘膜欠損周在性3/4周以上の症例では,筋層露出 81や過度な凝固に留意した繊細な手技でESDを施行した上で,狭窄予防策が重要となってくる.

現在の狭窄予防の中心となっているのはステロイド治療であるが,局注療法と経口投与のどちらが有効であるかは明らかではなく,JCOG1217試験の症例の集積と数年後の解析が待たれる.また,組織遮蔽法や再生医療としての自己口腔粘膜上皮シート移植の新たな展開と普及にも期待をしたい.

謝 辞

本稿を終えるにあたり,貴重な資料のご提供ならびにご助言をいただきました阿部清一郎先生(国立がん研究センター中央病院),杉本光繁先生(滋賀医科大学),小野敏嗣先生と藤城光弘先生(東京大学),大木岳志先生(東京女子医科大学),森田圭紀先生(神戸大学),滝沢耕平先生(静岡県立静岡がんセンター)の諸先生方に深謝申し上げたい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:小原勝敏(一般財団法人脳神経疾患研究所総合南東北病院)

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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