日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
保存的治療で軽快した胃ESD後の胃蜂窩織炎と考えられた1例
高柳 大輔 澁川 悟朗牧 匠荒川 典之五十嵐 亮山部 茜子藤澤 真理子佐藤 愛入澤 篤志
著者情報
キーワード: 胃ESD, 胃蜂窩織炎, 偶発症
ジャーナル フリー HTML

2018 年 60 巻 10 号 p. 2284-2289

詳細
要旨

症例は91歳女性.早期胃癌に対してESDを施行し,翌朝より上腹部痛,発熱を認め,血液生化学検査で炎症反応の上昇を認めた.CTで肺炎像,free airはなく,胃壁の著明な肥厚を認め,上部消化管内視鏡検査では胃体部粘膜のびまん性の浮腫状変化と発赤を認めた.急性胃蜂窩織炎と診断し,直ちにTazobactom/Piperacillinの投与を開始し,速やかに改善した.胃ESD後の胃蜂窩織炎は稀ではあるが重篤な偶発症あり,画像検査で早期に診断し,適切で十分量な抗菌薬を投与する必要がある.

Ⅰ 緒  言

胃蜂窩織炎は胃壁のびまん性あるいは限局性の,主に粘膜下層を中心に全層に広がる非特異性化膿性炎症疾患で,広義には胃膿瘍を含み発症は稀である 1

かつては保存治療では予後不良と考えられていた 2

胃の内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection,ESD)後に発症した胃蜂窩織炎では本邦報告例5例中4例で手術治療を行っている 3)〜6.手術を行った4例ともびまん性胃蜂窩織炎であった.

今回われわれは胃ESD後に発症し保存的治療にて軽快したびまん性胃蜂窩織炎の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:91歳,女性.

主訴:特になし.

生活歴:飲酒なし,喫煙なし.

既往歴:高血圧.

内服薬:ランソプラゾール,カンデサルタン.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2016年8月に近医で上部消化管内視鏡検査を施行したところ,前庭部小彎に0-Ⅱa病変を認めた.生検でGroup5(高分化型腺癌)と診断され,加療目的に当院紹介となった.

来院時血液検査所見:血算・生化学検査に異常を認めなかった.

上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy:EGD):前庭部小彎に10mm大の0-Ⅱaを認めた(Figure 1-a).Narrow band imaging(NBI)では隆起部に一致して不整な腺管構造を認め,demarcation line(DL)は全周で追視可能であった.またその後壁側に5mm大0-Ⅱcを認め(Figure 1-a),陥凹部に一致して不整な腺管構造と不整血管を認めDLも全周に認識可能であった.2病変ともESD適応の早期胃癌と考え,ESDの方針となった.

Figure 1 

a:前庭部小彎に10mm大の0-Ⅱa(black arrow)とその後壁側に5mm大0-Ⅱc(white arrow)を認めた.

b:ESD直後の潰瘍底.

ESD:2016年10月に2病変に対しESDを施行した.局注にはインジゴカルミン入り生理食塩水を用いた.ERBE VIO300TM(Amco社)を使用し,設定はEndocut I mode(effect 1,cut duration 2,cut interval 2),forced coagulation(effect 3,output MAX40W)で行った.DualKnifeTM(Olympus社)を用いて周囲切開及び粘膜下層剥離を行った.剥離面の残存血管を止血鉗子(コアグラスパーTM,Olympus社)で焼灼し,剥離面にアルギン酸ナトリウムを撒布し終了した(Figure 1-b).ESD施行中,十二指腸からの逆流した胆汁がESD創部に付着するのを認めていた.

切除時間:17分.

切除標本:30×11mm.

組織学的検査所見:Type0-Ⅱa,7×6mm,tub1>tub2,pT1a,UL(-),ly(-),v(-),pHM0,pVM0.Type0-Ⅱc,2×1mm,tub1,pT1a,UL(-),ly(-),v(-),pHM0,pVM0.

ESD後経過:ESD当日及び第1病日は絶食とし水分摂取のみ可としていた.第1病日朝に腹部の違和感は認めるものの腹痛は認めなかったが,38.1度の発熱と血液生化学検査所見で白血球22,700/μl,CRP 2.55mg/dlと炎症反応の亢進を認めた.尿一般検査は尿沈渣で白血球1-4個/HPF,計算盤法で白血球3.3/μLと膿尿はなく,尿路感染は否定的であった.緊急で単純CTを施行したところ,両肺野には異常陰影を認めず,胃壁の著明な肥厚と壁内のair bubbleを認めたがfree airは認めなかった(Figure 2-a).EGDではESD後潰瘍には出血や穿孔などの異常所見を認めなかったが(Figure 2-b),胃体部粘膜のびまん性の浮腫状変化と発赤を認めた(Figure 2-c).急性胃蜂窩織炎と診断し,絶食・補液とTazobactom/Piperacillin(TAZ/PIPC)13.5g/日の投与を開始した.第2病日には解熱し,第5病日の血液検査所見で白血球4,700/μl,CRP 1.47mg/dlと改善し腹部の違和感も消失したため,同日より流動食を開始した.第7病日の単純CTでは胃壁肥厚は残存するが軽減しており(Figure 3-a),またEGDでもESD後潰瘍面には異常を認めず(Figure 3-b),浮腫状変化や発赤は軽減していた(Figure 3-c).その後経過良好で第9病日に退院となった.退院後も再燃は認めていない.

Figure 2 

a:第1病日の腹部CT.前庭部〜胃体上部にかけてびまん性の胃壁肥厚と,壁内にair bubble(arrow)を認めた.

b:第1病日,ESD潰瘍に出血,穿孔なし.

c:第1病日,胃体部粘膜のびまん性浮腫状変化と発赤.

Figure 3 

a:第7病日の腹部CT.胃壁肥厚は軽減していた.

b:第7病日,ESD潰瘍は広く白苔に覆われていた.

c:第7病日,胃体部粘膜の発赤・浮腫は軽減していた.

Ⅲ 考  察

胃ESDの代表的な偶発症として後出血や穿孔があり,その頻度はそれぞれ0.3%〜15.6% 7),8,1.2%〜5.2% 8),9と報告されている.その他,頻度は低いが狭窄,肺炎,空気塞栓などの報告もある 10.ESD後の偶発症として胃蜂窩織炎が発症した報告は医学中央雑誌およびPub Medで‘胃蜂窩織炎,胃壁膿瘍またはphlegmonous gastritis,gastric wall abcess’と‘endoscopic submucosal dissection’をキーワードに1980年から2017年の間で検索した限りでは,本邦からの4例のみ 3)〜6であった.

胃蜂窩織炎は胃壁のびまん性あるいは限局性の,主に粘膜下層を中心に全層に広がる非特異性化膿性炎症疾患であり,1820年のCruveilheierらの剖検例が最初と報告されている 11.Konjetznyは本症の原因を原発性(胃癌・胃潰瘍・胃炎・異物などにより生じた粘膜損傷部から細菌が直接侵入するもの),続発性(他部位の感染巣から血行性感染したり,膵炎・胆囊炎などの他臓器から直接的に波及したりするもの),特発性(原因が特定できないもの)の3つに分類している 12.自験例はESD翌日より発熱を認め,腹痛は軽度であったが炎症反応の上昇,CTで胃壁の全周性肥厚を認めており,ESD後の粘膜欠損部より細菌が侵入して発症した急性型原発性胃蜂窩織炎と考えられた.

本症の誘因としては,加齢・過労・アルコールの常用・糖尿病・栄養不良・免疫抑制剤など薬剤などが考えられている 13),14.また,本症の多くは低酸であると報告されており 11,胃液の殺菌力の低下および胃粘膜再成能の低下した胃内環境,胃液のpH上昇が胃蜂窩織炎の発症環境と考えられる.自験例は91歳と高齢で,背景粘膜は萎縮しており,さらに術前よりproton pump inhibitorを内服しており,胃内は低酸状態となっていた.低酸による殺菌力が低下していたことと,さらに自験例は胃内への胆汁逆流が多く,pHの高い胆汁暴露も胃液のpH上昇の一助を担った可能性もある.

胃蜂窩織炎の診断は臨床的には難しく,画像診断を用いて総合的に診断されることが多い.特にCTが有用で,胃壁の全周性びまん性肥厚を認め,急激な臨床経過や高度の炎症反応を伴った場合には胃蜂窩織炎が疑われる 15.また胃壁内にair bubbleや膿瘍を示唆する低吸収域は,蜂窩織炎を強く疑う所見である.自験例はCTにおいて胃壁のびまん性肥厚所見に加えair bubbleも認めており本症に矛盾しない所見であった.EGDは特徴的な所見に乏しく,胃粘膜のびまん性の浮腫状の変化,発赤,びらんや白苔の付着した潰瘍,出血などを認め,生検部位からの膿汁排出を認めることで診断することもある 16.自験例では治療時に認めていなかった発赤浮腫状変化が,翌日には胃体部にびまん性に認め本症に矛盾しない所見であった.しかし生検,培養は行っておらず,確定診断には至らなかった.超音波内視鏡所見では胃壁内部の低エコー領域つまり膿瘍形成を伴う第3層の肥厚所見は本症に特徴的であり,診断の根拠になるとされている 17.自験例の超音波検査では膿瘍形成は認めなかった.また自験例を含むESD後胃蜂窩織炎の症例(Table 1)では全例CTを行っている.臨床所見に加え,画像診断としてはCTを行い,CTだけでは診断に苦慮する場合は全身の状態を考慮して追加で腹部超音波,内視鏡検査などの他のモダリティでの検査を検討する必要がある.本症は診断後可及的速やかに治療を開始する必要があり,治療法としては抗菌薬投与,切開排膿,ドレナージ,胃切除などがある.碓氷ら 2は急性型胃蜂窩織炎の治療法別治癒率を胃切除術91.4%,保存治療33.3%,切開排膿57.1%と手術例の成績が良かったと報告した.内視鏡的に胃粘膜を切開し排膿を試みた症例も報告されている 18.選択抗菌薬に関しては自験例を含めた5報告6症例の抗菌薬は,TAZ/PIPC 1例,Cefazolin 1例,Cefotiam 1例,Flomoxef 2例,Cefozopran 1例で,自験例を含め2例のみ保存的に軽快している(Table 1).起因菌としてStreptococcus spp.が70%を占め,他にEnterobacter spp.やE coliProteus spp.が多いと報告がされている 1113.手術となった4症例(Table 1)の選択抗菌薬のスペクトルを考えれば,起因菌のカバーはできていると考えるがその効果は乏しく手術を必要とした.手術検体の病理組織学的所見ではいずれの症例も膿瘍を形成していたことから,嫌気性菌などの複合感染を起こしていた可能性が高い.嫌気性菌もカバーする広域スペクトラムの抗菌薬を早期から高用量で投与した自験例は保存的加療にて軽快し得た.

Table 1 

胃ESD後に発症した急性胃蜂窩織炎の本邦報告例.

Ⅳ 結  語

胃ESD後に胃蜂窩織炎を発症し抗菌薬投与で軽快した1例を経験した.胃ESDの偶発症として胃蜂窩織炎があることを認識し,高齢者など高リスク患者の発熱,腹痛を認めた場合は速やかにCTなどの画像検査で早期に診断し,広域スペクトラムの抗菌薬を十分量投与する必要があると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top