2018 年 60 巻 10 号 p. 2290-2296
症例は78歳,女性,近医にて小腸腸閉塞と診断され,保存的加療を行うも腹部症状改善しないため当科転院となった.小腸造影では上部空腸に全周性狭窄を認め,経口的ダブルバルーン小腸内視鏡にて同部位に全周性潰瘍性病変を認めた.生検では特異的な所見は得られなかった.病歴からアスピリン起因性潰瘍と診断し,内視鏡的バルーン拡張術を計4回施行した.症状改善後,退院し経過観察していたが,退院2カ月後に再度腸閉塞を発症したため,再入院し外科手術を施行した.手術所見では狭窄部位は索状物により後腹膜に固定されており,バンドの切離と空腸部分切除を施行した.腹部手術歴のない腹腔内索状物を原因とした二次性潰瘍と小腸狭窄をきたした症例であった.
小腸腸閉塞の多くは過去の開腹歴を有する癒着性腸閉塞である 1).開腹歴のない小腸腸閉塞の原因疾患として,小腸捻転,腸回転異常,内ヘルニア,腸重積などがあげられるが,これらは各々特徴的な画像所見により診断が可能である 2).一方,開腹歴のない,腹腔内癒着が原因による小腸腸閉塞は診断が困難なことが多い.今回われわれは,開腹歴のない腹腔内索状物を原因とした二次性潰瘍・狭窄による小腸腸閉塞の1例を経験したので報告する.
患者:78歳,女性.
主訴:腹痛,嘔吐.
家族歴:特記事項なし.
既往歴:ラクナ梗塞に対して低用量アスピリン(low dose aspirin:LDA)内服中.高血圧,発作性心房細動,末梢神経障害,不眠症に対して加療中であった.腹部手術歴や,腹部外傷歴はなし.
内服薬:アスピリン100mg(当院転院時に中止),シベンゾリン450mg,シルニジピン20mg,メコバラミン1.5mg,アルプラゾラム0.4mg.
現病歴:2015年12月末から腹痛,嘔吐を認め,前医にて小腸腸閉塞と診断された.保存的加療にて症状改善しないため,2016年1月中旬に精査加療目的で当科転院となった.
初回入院時現症:身長 148cm,体重 51kg,BMI 23.3,体温 36.1度,血圧 126/72mmHg,脈拍64回/分,整,呼吸数18回/分.腹部は平坦,軟,上腹部に軽度圧痛を認めた.
初回入院時血液検査所見:WBC 4,700/μl,RBC 475×104/μl,Hgb 13.5g/dl,Plt 23.3×104/μl,T-bil 0.5mg/dl,AST 20U/L,ALT 16U/L,ALP 160U/L,LDH 210U/L,Na 141mEq/l,K 4.5mEq/l,Cl 107mEq/l,TP 7.1g/dl,Alb 3.8g/dl,BUN 17.2mg/dl,Cre 0.66mg/dl,CRP 0.06mg/dl,CEA 2.3ng/ml,CA19-9 0.07U/ml,T-SPOT 陰性,PR3-ANCA<1.0IU/ml,MPO-ANCA<1.0IU/ml.
腹部単純CT検査(初回入院時):胃〜十二指腸,上部空腸は拡張し,上部小腸に小腸壁肥厚を認めた(Figure 1-a).

腹部CT検査と小腸造影検査.
a:腹部CT検査.上部空腸に全周性の壁肥厚を認め(白矢印),それより口側空腸の拡張を認めた.
b:小腸造影検査.上部空腸に口側腸管の拡張を伴った全周性の狭窄を認めた(赤矢印).造影剤の通過は可能であった.
小腸造影:ガストログラフィン造影では,腹部CT検査で指摘された上部小腸に一致して狭窄長5mmの全周性狭窄と口側腸管の拡張を認めた(Figure 1-b).
経口的ダブルバルーン小腸内視鏡(double balloon enteroscopy:DBE):トライツ靭帯より約15cmの上部空腸に全周性潰瘍を認め,狭窄部より肛門側へのスコープ通過は不可能であった(Figure 2-a).潰瘍部からの生検では,毛細血管増生と肉芽形成を認めたが,アポトーシス小体は認めなかった.抗酸菌培養陰性,生検培養で特異的な細菌検出を認めなかった.

double balloon enteroscopy所見.
a:初回入院時double balloon enteroscopy(DBE)所見.上部空腸に全周性潰瘍と狭窄を認めた.
b:再入院時DBE所見.前回の潰瘍は一部を残してほぼ瘢痕化し,狭窄は増悪していた.
入院後経過:生検でアポトーシス小体を認めなかったが,LDA内服の既往,DBE所見からLDA起因性潰瘍による小腸狭窄と診断した.瘢痕による完全狭窄予防目的に入院7日目にDBE下にendoscopic nasobiliary drainage(ENBD)チューブを狭窄部に留置した.その後計4回内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)を施行した.狭窄解除が得られたため食事摂取開始し,症状の再燃がないことを確認し入院60日目に退院となった.
退院後経過:退院後は症状再燃なく経過観察していたが,退院54日後より腹部異和感と食欲不振が出現したため当科受診した.再受診時の腹部CT検査では,前回指摘された部位に壁肥厚を認め,口側空腸の拡張を認めた.再入院の上,DBEにて前回と同様の上部空腸に狭窄を認め,潰瘍はほぼ瘢痕化をきたしていた(Figure 2-b).ガストログラフィンによる造影では,狭窄部から肛門側への流出を認めなかった.再度EBDを検討したが,患者および患者家族と相談の上,外科手術の方針とした.
手術所見:上腹部正中切開で開腹すると,トライツ靭帯から約15cmの空腸に狭窄部位を認めた.同部は索状物により後腹膜に固定されていた.癒着バンド様の外観で,肉眼的に明らかな虚血性変化はなく,首輪がつけられたように腸管の可動性や拡張性は妨げられていた(Figure 3).他の腹腔内に癒着はなく,その他の小腸に異常所見は認めなかった.バンドを切離したのち,狭窄部前後の約2cmの空腸を切除し手術を終了した.

術中所見.
a:トライツ靭帯から約15cmの空腸に狭窄を認め,同部位は索状物(黒矢印)により後腹膜に固定されていた.
b:索状物を切離するが,腸管には肉眼的に虚血性変化は認めなかった.
切除標本病理肉眼所見:潰瘍により粘膜層は欠損し,潰瘍は粘膜下層まで達していた(Figure 4-a).

切除標本.
a:固定後切除標本.
b:ルーペ像.
c:中拡大像.瘢痕による線維化は筋層まで達していた.
切除標本病理組織所見:瘢痕に伴う線維化が筋層にまで達し(UL-Ⅲ),慢性炎症細胞の浸潤を認めた(Figure 4-b,c).以上より非特異性の小腸潰瘍と診断した.
術後経過:術後経過は良好で,術後10日目に退院した.退院後は症状再燃なく,術後4カ月後に施行したカプセル内視鏡検査では小腸内に特記所見を認めなかった.
開腹既往歴がない小腸腸閉塞症例において,大腿ヘルニアや鼠径ヘルニアなどの体表面に確認できる腸閉塞嵌頓が存在しない場合には原因検索が困難であることが多い.高橋ら 3)は開腹歴のない小腸腸閉塞36例の検討にて,成因として索状物が12例(33.3%)と最も多く,次いで閉鎖孔ヘルニア10例,内ヘルニア5例と報告している.開腹歴のない小腸腸閉塞で索状物発生の成因として,①腹部鈍的外傷で腹膜や腸間膜・大網が一部損傷し,治癒過程において周囲組織と癒着する,②大網が正常解剖の間に一時圧排されて虚血となり,虚血解除後の治癒過程において周囲組織と癒着する,③微小血栓が原因で大網が虚血となり,瘢痕化する際に周囲組織と癒着する,④結腸憩室炎や女性では婦人科疾患による骨盤内炎症性症候群などで腹腔内に炎症が波及し,その後の治癒過程において,大網が周囲臓器と癒着するといったことが推測されている 4).本症例においては,腹部外傷を示唆するエピソードもなく,LDA内服中ではあったが組織学的に血栓形成による虚血を示唆する所見も認めなかったため,何らかの腹腔内炎症の治癒過程において索状物が形成され,それにより腸管の可動性,拡張性が妨げられ,腸閉塞を生じた可能性が考えられた.また,組織学的には虚血性変化は明らかではなかったが,索状物によりかなり強固に後腹膜に固定されており,血流障害により潰瘍形成が惹起された可能性も否定できなかった.
本症例は当初LDA起因性小腸潰瘍を鑑別疾患として考えていたが,LDAを含む非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)起因性小腸粘膜傷害の特徴的所見として膜様狭窄があげられる 5).本病変は中部小腸に多発し,2-4mm程度の薄い横隔膜状の中隔を形成し,内腔がピンホール状となり腸閉塞を呈し,膜様狭窄部の病理所見として,狭窄部で著明な線維筋症を伴う潰瘍瘢痕と再生上皮にアポトーシス小体を認める頻度が高いことが特徴である.これまでわれわれはLDA起因性小腸粘膜傷害の臨床的特徴として非LDAのNSAIDs内服群と比較して,潰瘍は有意に少なく,CEスコアが有意に低値であることを報告しているが 6),7),実際,NSAIDs起因性小腸粘膜傷害による潰瘍は粘膜下層までにとどまる浅い潰瘍である場合が多く,EBDの良い適応である 8)~10).
医学中央雑誌で「開腹歴なし」「索状物」「腸閉塞」「イレウス」をキーワードに検索すると,13例の索状物による小腸腸閉塞の報告を認めた.本症例を含めた13例の一覧をTable 1に示す 11)~23).12例のうち10例で絞扼性腸閉塞をきたし,緊急手術が行われていた.本症例同様に保存的加療を行ったにもかかわらず,腸閉塞症状を繰り返すため,外科手術例も2例報告されているが,最終的には全例外科手術が施行されていた.以上,索状物に起因する腸閉塞は絞扼を引き起こす可能性が高く,原則外科手術が必要と考えられた.一般に開腹歴のない症例において,腹腔内索状物を術前に画像検査で診断することは困難と考えられる.しかし,本例のようにDBEで直接閉塞起点を観察し,各種画像所見から除外診断を含めて総合的に腹腔内索状物による狭窄と診断できる可能性はある.ただし,これまで術前に狭窄起点を直接内視鏡で観察した症例はなく,腹腔内索状物による小腸腸閉塞に関する術前診断に関しては,さらなる症例の集積による検討が必要と考えられた.

開腹歴のない索状物による腸閉塞の報告例.
腸閉塞で発症した腹腔内索状物による空腸潰瘍の1例を報告した.開腹歴のない腸閉塞症例では,索状物による成因も鑑別の一つに考慮すべきと考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし