日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
手技の解説
膵癌術前胆道ドレナージにおける内視鏡的Covered Metallic stent留置の注意点
井上 宏之 山田 玲子堀木 紀行竹井 謙之
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 60 巻 10 号 p. 2310-2316

詳細
要旨

本邦では膵癌術前に内視鏡的ドレナージが一般的に施行される.近年では膵癌治療において術前治療(化学療法,放射線化学療法)によって根治切除率の向上が報告されており,予後を改善する可能性が示唆されている.術前治療例では手術までの期間が3カ月以上になることが多いため,待機期間中の胆管炎の危惧から金属ステントを留置される症例が増加している.本稿では術前治療例を含めたCovered Metallic stent留置の適応,手技の実際について概説する.

Ⅰ 緒  言

膵頭部癌では胆管浸潤から閉塞性黄疸を来している症例が多く,本邦では術前のマネージメントとして胆道ドレナージ(Preoperative biliary drainage:PBD)が施行される.

従来は術前症例ではプラスチックステント(PS)が一般的に使用されてきたが,近年では膵癌治療において根治切除率および予後の向上を目的に術前治療(化学療法,放射線化学療法:neoadjuvant chemo/chemoradiotherapy:NAC)の重要性が示唆されており,手術までの経過期間が長くなるため金属ステントを留置される症例が増加している.

本稿では膵癌術前胆道ドレナージにおける内視鏡的Covered Metallic stent留置のコツ,注意点を概説する.

Ⅱ 術前胆道ドレナージについて

本邦では術前の待機期間が諸外国に比較し長く,術前の病理診断として経乳頭的細胞診,組織診断として内視鏡的逆行性膵胆管造影(endoscopicretrogradecholangio-pancreatography:ERCP)が施行されることが多いという特徴がある.その際に黄疸の進行,胆管炎の発症を懸念し一般的にPBDが施行されている.一方,以前より欧米からは閉塞性黄疸を伴う切除可能膵癌に対してのPBDの是非についての議論がなされてきた.2010年にvan der GaagらによってNew England Journal of Medicineで報告された無作為化比較試験 1では術前に4-6週の術前ドレナージ施行群とドレナージ施行せず早期に手術を受ける群を比較した.手術関連合併症,死亡率,入院期間に有意な差がない一方で,ドレナージ手技に関連したものも含め合併症が術前ドレナージ施行群で有意に高いという結果であった.このRCTでは高度な黄疸症例が除外されていることや胆道ドレナージや手術関連合併症の発生率が高いことが指摘されている.同様に,いくつかのメタアナリシスでもPBD施行群において非施行群と比べて死亡率に大きな差はなく,創部感染含めた合併症が多いという報告がされている 2)~4

一方でStrasbergら 5は400例の膵頭部癌の切除症例において,データベースを使用して生存リスクを評価すると黄疸はリスク因子でありPBD施行はリスクを下げることを報告している.またMooleら 6はメタアナリシスでPBD群で有意に有害事象が少なく術前ドレナージを支持する結果を示している.本邦では術後の合併症,術関連死率も低率であり,閉塞性黄疸,胆管炎による周術期症例における合併症の懸念から,PBDが通常の臨床治療手技として定着している.前述のように創部感染のリスク,合併症について注意し,ステントの種類,狭窄部位,術前治療の有無含め,現状ではPBDの検討が不十分であることを認識する必要がある.

Ⅲ 胆管ステントの選択

非切除の遠位悪性胆道狭窄に対するドレナージについてはPSに比較してself-expandable metallic stent(SEMS)の開存期間が長いという報告があり,SEMSが一般的に使用されてきた 7),8.膵癌の術前ドレナージ症例についてもPSとFully-covered SEMS(FCSEMS)を比較した臨床試験が行われ,胆道ドレナージに関連した合併症がPS群で46%,SEMS群で24%でありFCSEMSの使用が望ましいと結論づけられている 9.近年では膵癌治療において根治切除率および予後の向上を目的に術前治療(化学療法,放射線化学療法)が行われることが多い.米国の膵癌診療ガイドライン(NCCN) 10では主幹動脈,門脈などへの浸潤の程度によりResectable,Borderline resectable,Unresectableを規定している.Borderline resectable症例では術前治療(化学療法,放射線化学療法)を推奨している.本邦の膵癌診療ガイドライン 11でも同様に切除可能性分類としてResectable(R),Borderline resectable(BR),Locally advanced(LA),metastatic(Meta)に分けられており,本邦からもBR,LA症例に対しての術前治療での根治術の改善が報告されている 12)~14.NACなどの術前治療症例では,手術までの期間が3カ月程度延長するため,そのまま手術に移行する症例に比べてステント閉塞,胆管炎のリスクに留意する必要がある.術前治療症例でもPSに比較してSEMSを使用することで,ステント閉塞率が低く長期間の開存が期待でき,安全に治療を完遂できると報告されている 15)~17.報告例の大半ではFCSEMSが使用されているがuncovered SEMSを使用した症例も散見される.

本邦ではcovered SEMSはuncovered SEMSに比較して開存期間が長いとの報告があり 7),8,covered SEMSが第一選択となってきた.しかし,海外での非切除例の検討 18)~21ではcovered SEMSあるいはuncovered SEMSの開存期間,合併症については相反する結果が報告されており優劣の結論は出ていない.術前治療(化学療法,放射線化学療法)では最終的に手術が不可になる症例もあり長期の治療期間になることも多い.FCSEMSではステント閉塞時に抜去し交換可能であるメリットが大きい(Figure 1).胆管狭窄の位置あるいは長さによってはFCSEMSの留置が困難な症例も稀にあり,Partially-covered stentも選択肢となる.当科でも術前治療の待機期間中にPSでのドレナージ群で35%,FCSEMSでのドレナージ群で8%とPS群で有意にステント閉塞を認めた.また術前放射線化学療法施行症例でcovered SEMSあるいはuncovered SEMSの使用経験があるが,covered SEMSでは逸脱や胆嚢炎の発症が,uncovered SEMSではtumor ingrowthによるステント閉塞が問題となる(Figure 24).抜去が出来ないuncovered SEMS挿入例では膵頭部癌での十二指腸狭窄を伴いre-interventionに苦慮することも多い(Figure 5).現状では膵癌術前胆道ドレナージの第一選択はFCSEMSと思われる.

Figure 1 

当科で主に使用するSEMS.

a:WallFlex( bradided-type FCSEMS: Boston-Scientific社).

b:X-SuitNIR(Olympus社).

Figure 2 

FCSEMS留置後胆嚢炎発症例.

a:胆嚢管分岐部に腫瘍浸潤を認めた.

b:10mm6cm FCSEMS留置した.

c:留置後29日に急性胆嚢炎を発症した.

d:PTGBDが施行された.

Figure 3 

右後区域枝をSEMSで閉塞した症例.

a:下部胆管狭窄に対して10mm6cmFCSEMS留置した.

b:留置後.

c:後日施行したCTで右後区域枝の閉塞,胆管炎を認めた.右後区域枝は早期分岐の南周り胆管であった.

Figure 4 

FCSEMSの逸脱.

術前放射線化学療法施行症例:SEMS留置後術前治療施行,経過観察のCTでSEMSの大腸への逸脱認めた(白矢印).

Figure 5 

Uncoverd SEMSでのre-intervention.

a:Laser-cut typeのUncovered SEMS挿入症例でのステント閉塞症例:十二指腸狭窄伴い処置困難であった.

b:APCでトリミング後にFCSEMSを追加留置した.

術前治療の中でも放射線化学療法症例ではSEMS併用の安全性に対する懸念がある.これまでも切除不能局所進行膵癌において5FUあるいはゲムシタビンを併用した総線量60Gy程度までの放射線化学療法が施行されてきた 22)~24.術前放射線化学療法では総線量50.4Gy程度の照射を施行されることが多く,これまでの報告でもSEMSと放射線療法併用に関連した重篤な有害事象は認めていない.しかし一般的にSEMS留置では胆管穿孔,十二指腸穿孔,動脈瘤形成などの合併症の可能性があり,有害事象の軽減のために3次元的治療計画を行い多門照射を用いることが望ましい.またSEMS留置では線維性肥厚を来すため放射線科医,外科医と十分な連携を取り治療計画を立てる必要がある.

Ⅳ 当科での手技の実際

1.胆道ドレナージ前の準備

ERCPでのステント留置前にThin-sliceの膵のダイナミックCTを施行し膵癌の進展度,胆管狭窄の部位,長さ,肝門部の位置,胆嚢管の分岐部などを把握する.右後区域枝胆管の早期分岐(南周り胆管)の症例にも注意が必要である.

狭窄の部位が肝門部に近い場合,あるいは体格が小さく胆管長が短い場合など必要に応じてPartially-covered stentやPSなど症例に応じたステントの選択を考慮する.

当科では著明な黄疸や胆管炎がない場合にはEUS-FNAを先行して病理診断を施行している.ERCPによるステント留置をEUS-FNA前に施行する症例ではステント留置時に経乳頭的ブラシ細胞診や生検を施行する.

2.FCSEMS

SEMSについては当科ではステント閉塞時に抜去し交換可能であるFCSEMSを選択し,主にbraided typeであるWallFlex(Boston-Scientific社)を使用している.CSEMSについてはlaser-cut typeのFCSEMSも市販されておりshortening(短縮化)がほとんどなく留置の位置合わせが容易である.しかしbraided typeはステントトラブル時にはステント全体が筒状に伸びやすく抜去が容易であり,治療期間が長期になる可能性がある術前治療例に適していると考えている.

ステント径は10mmあるいは8mmを使用している.FCSEMS留置の経過で胆嚢炎の併発を経験することがある.当科では比較的axial force(直線化)が強いFCSEMSを使用しているため術前放射線化学療法施行予定症例ではaxial force軽減のため8mmを選択している.

3.留置手順

①ERCP施行し胆管造影で狭窄の位置,長さを把握する.特に肝門部,胆嚢管との位置関係に注意する.

②次に内視鏡的乳頭切開術を施行する.切開範囲については小切開としている.

③EUS-FNA未施行例などは狭窄部のブラシ細胞診や生検を施行する.

④CSEMS留置する際にはステント上端が肝門部にかからないように注意する.当科ではほとんどの症例で6cm長のCSEMSを選択している.

braided typeのCSEMSを使用しているためshorteningを考慮し,狭窄部を十分にカバーし乳頭部は10-15mm程度出るように留置する.狭窄の位置や長さによっては乳頭出しせず,胆管内留置を施行している.

4.Re-intervention

ステント閉塞,逸脱などの場合にはCSEMSをスネアを使用し抜去し,新しいCSEMSを挿入している.braided type のFCSESMでは通常交換は容易である.明らかな閉塞,逸脱がない場合には砕石用のバルーンを使用しステント内の洗浄を施行している(Figure 5).

Ⅴ 結  語

膵癌の術前胆道ドレナージにおいてCSEMS留置は胆管炎等を防ぎ,安全に手術までの期間を橋渡しする有効な治療法と考えられる.

現状では交換容易なFCSESMが第一選択と考えられるが,胆嚢炎,逸脱等の問題もあり前向き比較試験でのステントの種類の検討が待たれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top