日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
肝前区域切除後の胆汁瘻内でのランデブー法により内瘻化しえた1例
今井 祐輔廣岡 昌史 黒田 太良大野 芳敬小泉 光仁小泉 洋平熊木 天児藤山 泰二高田 泰次日浅 陽一
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キーワード: PTBD, ランデブー法, 胆汁瘻
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2018 年 60 巻 11 号 p. 2401-2406

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要旨

症例は49歳,女性.直腸癌肝転移に対し前区域切除術を施行.術後後区域と総胆管の間に良性狭窄をきたし胆汁瘻も見られた.胆汁瘻の経皮的ドレナージで一旦は改善したものの再燃.後区域枝と総胆管のbridgingが必要と思われたため,内視鏡的胆管ステント留置術(EBS)を試みたが,後区域枝と総胆管は断裂し,断裂部位に胆汁瘻が形成されており,断裂部位より末梢側胆管へのガイドワイヤーの誘導は困難であった.そこで,後区域枝の胆管より経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)を行い,PTBDチューブよりガイドワイヤーを胆汁瘻内まで進め,経乳頭的に胆汁瘻まで挿入したスネアで把持し十二指腸内に誘導した.後日内瘻化に成功した.胆汁瘻を伴う肝外科手術後胆道合併症に対するEBSは技術的に困難な症例が多い.PTBDを併用した胆汁瘻内でのランデブー法によりガイドワイヤー操作が安定し内瘻化が可能であった.

Ⅰ 緒  言

術後の難治性胆汁瘻症例に対して胆道ドレナージが必要な場合,内視鏡的胆管ステンティング(EBS:Endoscopic biliary stenting)が第1選択となる.しかし,胆汁瘻を有する症例では,経乳頭的な処置が困難な場合がある.今回EBSにより内瘻化ができず,非拡張胆管に経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD:percutaneous transhepatic biliary drainage)を行い,胆汁瘻内でPTBDから挿入したガイドワイヤーを把持することによるランデブー法にて内瘻化しえた症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:49歳,女性.

主訴:発熱,肝胆道系酵素上昇.

既往歴:直腸癌で低位前方切除術(44歳),直腸癌肺転移で右肺上葉切除(46歳),直腸癌肝転移で肝外側区域切除(47歳),肝持続動注カテーテル留置(47歳),直腸癌肝転移で肝前区域切除(49歳).

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:飲酒・喫煙歴なし.

現病歴:平成19年8月に直腸癌を発症し,肝転移病変に対して2度の肝切除術が行われた.平成24年6月に肝前区域切除術を施行された.術後胆汁瘻が見られ感染を併発したため経皮経肝的に膿瘍ドレナージを行い改善が見られ退院した.退院後発熱が再燃し肝胆道系酵素の上昇が見られるため平成24年11月に入院した.

入院時検査所見:CRP2.56mg/dlと上昇が見られた.トランスアミナーゼがAST81U/I,ALT71U/Iと上昇し,胆道系酵素もALP3,513U/I,γ-GTP702U/Lと上昇があり胆管炎が示唆された(Table 1).

Table 1 

Laboratory data in case 1.

PTBD前画像検査:CTにて術後胆汁瘻の残存が見られた.内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)では胆汁瘻が造影されるものの,右葉後区域の末梢胆管は造影されず,後区域枝―総胆管間の完全胆管狭窄もしくは胆管断裂が考えられた(Figure 1).

Figure 1 

経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)前画像.

a:CTにて術後胆汁瘻の残存がみられた(黒矢頭).

b:内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)では胆汁瘻が造影されたが,右葉後区域の末梢胆管は造影されなかった(白矢頭).また,動注カテーテル(黒矢印),胆汁瘻に対する経皮ドレナージチューブ(白矢印)が留置されている.

入院後経過:胆汁瘻の経皮的ドレナージで一旦は改善したものの胆汁瘻,胆管炎が再燃したため,後区域枝胆管の修復のために,断裂部位を超えて同胆管までステント留置を行うことが必要であると考えられた.そのため,内視鏡的逆行性胆道造影より経乳頭的に後区域胆管の選択を試みたが胆汁瘻から後区域への選択は不可能であった.EBS不能例と判断しPTBDを施行した.one-step法にてB7に19ゲージ針を穿刺した.造影により後区域枝から胆汁瘻が造影され,胆汁瘻を介して総胆管が造影された(Figure 2).7Fr. PTBDチューブを後区域胆管に留置し外瘻化した.PTBD施行2週間後に内瘻化を試みた.PTBDチューブよりガイドワイヤーを挿入したが胆汁瘻内までしか進まず,総胆管への選択はできなかった.そこでPTBD施行1カ月後にランデブー法にて内外瘻化を行った.JF-260V(オリンパスメディカルシステムズ株式会社,東京,日本)を乳頭部まで到達させ,PTBDチューブより胆汁瘻内まで0.025インチVisiglideTM(オリンパスメディカルシステムズ株式会社,東京,日本)を進めた.その後内視鏡的にスネアを胆汁瘻内まで進めた(Figure 3-a).PTBDチューブから胆汁瘻内に進めた0.025インチVisiglideTMをスネアで把持し総胆管内を経由し十二指腸内までガイドワイヤーを引き出した.このガイドワイヤーに沿わせて5Fr. PTBDチューブを留置した(Figure 3-b).瘻孔形成後に内瘻化を行い外瘻チューブを抜去することを目標としていたが,この時点では胆汁瘻内でPTBDチューブがループを形成しており外瘻チューブ抜去が困難であることが予想された.そのため後日再度チューブ内にガイドワイヤーを挿入し,経皮側と内視鏡側両方から軽くガイドワイヤーを引くことで直線化し,さらにPTBDチューブを5Frから7Frにサイズアップし内外瘻化を行った(Figure 3-c).本症例はドレナージが手技的に,高難度で,再度同様の処置を行うには非常な困難を伴うことが予想された.さらに胆汁瘻の再発症例でもあり,外瘻チューブをクランプし,内瘻のみで再発しないことを厳重に確認した.2カ月後に再燃がないことを確認した後,内瘻化を試みた.PTBDチューブを介してガイドワイヤーを十二指腸内まで進め,スネアで把持し鉗子口まで引き上げた.体表から内視鏡側までガイドワイヤーを保持した状態でPTBDチューブを抜去した.内瘻化操作の際,不慮の事故で経皮ガイドワイヤーが迷入しないように,内瘻化ステント挿入用に別にカテーテルを使用することとした.COOKサイトマックスⅡダブルルーメン胆管用生検ブラシ(Cook Japan株式会社,東京,日本)を内視鏡側よりガイドワイヤーに沿わせて経乳頭的に挿入.ダブルルーメンカテーテルよりもう1本ガイドワイヤーを後区域内へ進め7Fr. 12cmのフレキシマ®胆管ドレナージカテーテル(ボストン・サイエンテフィックジャパン株式会社,東京,日本)を留置した.留置後胆管炎は著明に改善した.本症例では右葉後区域枝の術後良性胆管狭窄が改善せず,胆管炎の再発が懸念されるため,現在外来にて胆管プラスチックステントを数カ月ごとに交換しながら経過を観察している.

Figure 2 

経皮胆管造影.

a:右葉後区域枝(B7)より穿刺を行った.

b:造影により後区域枝から胆汁瘻(黒矢頭)を介して総胆管が造影された.

Figure 3 

ランデブー法による内外瘻化.

a:PTBDチューブより胆汁瘻内まで挿入したガイドワイヤーを,経乳頭的に胆汁瘻内まで挿入したスネアを用い把持した.

b:スネアにて十二指腸内まで引き出したガイドワイヤーに沿ってガイドワイヤーに沿わせて5Fr. PTBDチューブを留置した.

c:胆汁瘻内でPTBDチューブがループを形成したため,ガイドワイヤーを両端から引いてテンションをかけることで直線化し,内外瘻化した.

Ⅲ 考  察

肝切除後の胆汁瘻は肝外科手術後の患者の2~25%に報告される 1.治療としてEBSも選択肢に上がるが,約1割が不成功となり比較的難度が高い 1

今回報告した症例は,経皮的アプローチと内視鏡的アプローチ両方を合わせて行う,いわゆるランデブー法を,胆汁瘻内で行ったことが治療成功の鍵になったと考えられる 2

ランデブーテクニックは経十二指腸的に胆管内へのカニュレーションが困難な症例に対して,胆管アクセスのためのサルベージ法としての有用性が報告されている.通常はPTBDから挿入したガイドワイヤーを経乳頭的に十二指腸に到達させ,十二指腸内でスネアにて把持する.しかし,胆汁瘻を有する症例では,PTBDから挿入したガイドワイヤーも胆汁瘻でトラップされ,総胆管まで到達しない場合がある.本症例でも胆汁瘻からガイドワイヤーを進めることができなかった.本症例では,胆汁瘻までは経乳頭的にアプローチすることができたため,胆汁瘻までスネアを進め,そこでガイドワイヤーを把持することで内瘻化を行うことができた.内瘻化後のステント留置期間は,胆汁瘻と術後胆管狭窄が合併した症例では約4カ月との報告がある.しかし,約3割が2カ月で再燃するとされている 3.本症例では内瘻化ステントを抜去した場合,再挿入に非常な困難が予測されるため,留置を継続している.

胆汁瘻でガイドワイヤーが先進しない症例では,本症例のような胆汁瘻内ランデブー法も,内瘻化を行う上で一つの有効な選択肢になりうると思われる.

Ⅳ 結  語

胆汁瘻を伴う外科手術後の胆管損傷症例に対しPTBDを施行し,その後胆汁瘻内でのランデブー法にて内瘻化しえた症例を経験した.内視鏡単独による内瘻化が困難な胆管損傷症例では,胆汁瘻内でのランデブー法も有用であると考えられた.

謝 辞

本症例において手術を施行していただきました愛媛大学大学院肝胆膵・乳腺外科学 小林加奈先生,中村太郎先生,高井昭洋先生に心より御礼申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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