日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
急性胆嚢炎に対する内視鏡的胆嚢ドレナージの工夫
横田 智行 武智 俊治上甲 康二
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2018 年 60 巻 3 号 p. 253-259

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要旨

急性胆嚢炎に対するドレナージの第一選択は経皮的処置であるが,抗凝固剤内服中や腹水の存在,全身状態不良などの理由により経皮処置が困難な場合には経乳頭的ドレナージが検討される.その難易度は胆嚢管の分岐形態によって異なるものの,成功率は未だ低いと言わざるを得ない.しかしながら今後挿入手技の工夫や処置具の使い分けによって成功率をあげられる可能性がある.経乳頭的ドレナージは一度挿入できればその後の経過は良好でありステント交換も比較的容易に行えることから,症例を選べば今後治療選択肢の一つとなり得る.

Ⅰ はじめに

急性胆嚢炎は主に胆石によって引き起こされる胆嚢の急性炎症である.2013年の急性胆管炎・胆嚢炎ガイドライン(Tokyo guideline)では発症から72時間以内の軽症~中等症例に対しては早期手術が推奨されている.しかしながら,72時間以上経過した例や中等症で初期治療に反応しない例および重症例では胆嚢ドレナージが必要とされている 1.その際には経皮胆嚢ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage;PTGBD)が安全性と有用性の点から第一選択となる 2が,抗凝固剤内服例や腹水貯留例など経皮処置が困難な例に遭遇することも多い.また,高齢者では留置したドレナージチューブを自己抜去してしまう可能性もある.そのような症例に対しては次の手段として経乳頭的ドレナージ術が検討される.

Ⅱ 適  応

前述の如くドレナージが必要な症例で経皮処置の適応外となるものが適応となる.

①抗凝固薬や抗血小板薬を内服中の症例 ②腹水貯留例 ③DICなど出血傾向の症例 ④高齢・認知症症例 ⑤担癌状態などの全身状態不良症例などが主な適応として考えられる.まだ手技的に確立されたものではないため,現時点ではあまり適応を広げすぎない方が良いと思われる.

Ⅲ 胆管造影

可能であれば処置前にMagnetic Resonance cholangiopancreatography(MRCP)を撮影しておくと良い.それによって胆管の走行や胆嚢管分岐部の位置を確認しておくことが有用な場合がある.当科ではスコープはOlympus社製の後方斜視鏡(JF260V)を使用している.造影カニューレは主にMTW社製のもの(Figure 1)を使用しておりすべての症例でguide wire(以下GW)を併用しているが,これはパピロトームを使用していないためwire-guided cannulation(WGC)法ではなく所謂wire-loaded ERCP 3に位置づけられる.同法は胆管へのアプローチが容易であるのに加えて胆嚢管を探るのにGWは必要不可欠であるため,造影剤のみのスタンダード法と比較して検査途中であらためてGWを挿入する手間が省けるメリットがある.GWは第一選択として0.025inchのVisiglide2(Olympus)(Figure 2)やPathcourse(Boston)(Figure 3)を使用することが多いが,いずれも先端のアングル形状と優れたトルク伝達性能により胆管への挿入から胆嚢管の選択まで1本でこなせる場合が多い.また,胆嚢管に挿入可能となった場合にもそのコシの強さからGWを変更することなくステントが留置可能である.胆管造影自体は通常のERCPと同様のため詳細については割愛するが,造影が不成功となる場合には①スコープと乳頭との距離②開口部の位置確認③カニューレと胆管軸の向きのいずれかに問題がある場合が多い.簡潔に述べれば,スコープを乳頭が正面視できる位置の中間距離に保持し(術後症例でなければスコープには無理な力がかからずフリーに近い状態となる),乳頭開口部の形状を確認,その上で胆管との軸を合わせて挿入する.その際乳頭の形や憩室の有無などから胆管の奥行(十二指腸壁に対する垂直方向の走行)も考慮する必要がある.やみくもに何度も乳頭を刺激することはかえって乳頭浮腫を起こして胆管挿入を困難としてしまうため,ベストなポジションが取れるまではむしろカニュレーションを見合わせた方が結果的に早く胆管挿入でき成功率も上がる.

Figure 1 

MTW cannula.

Figure 2 

Visiglide2 GW.

Figure 3 

Pathcourse GW.

Ⅳ 胆嚢管選択

造影により胆嚢管が容易に描出される場合は良いが,胆嚢管に結石が嵌頓している場合や嵌頓はなくとも胆嚢管がなかなか造影されない場合がある.そのような際に無理に造影剤を圧入すると胆管炎のリスクが高くなるため注意する必要がある.しばらく時間を置いたり体位を少し変えることで胆嚢管が描出されてくる事があるため,過度な造影は慎むべきである.しかしながら,どうしても胆嚢管が描出されない場合にはGWで分岐部を探らざるを得ない.MRCPの情報がない場合でもCTの冠状断像や多断面再構成画像(MPR)によりある程度胆嚢管分岐部の情報が得られる可能性があるため,処置前に必ずチェックしておく必要がある.おおよその位置にあたりをつけてGWを回転させながら出し入れを行い胆嚢管の分岐部を探る.カニューレを総胆管内に深く挿入してしまうとGW先端の自由度が下がるため,なかなか入らないようであればカニューレ先端を遠位側胆管の浅い位置まで戻してトライする.また,GWの回転が不十分な場合には付属しているトルクデバイスを使用すると良い.GWが胆管壁にあたっている場合には出し入れの抵抗がなくスムーズだが,胆嚢管に先端が入ってひっかかるとあたかも総胆管にGWが刺さったような画像となる.そのままGWを押しこもうとするとGWが跳ねてしまうことが多いため,その状態をキープしてカニューレ先端をまずは胆嚢管分岐部に少しでも良いから入れてしまうことが重要である.その際にはGWの位置が変わらないように術者と介助者で呼吸を合わせてカニューレを挿入しなくてはならない(Figure 4).

Figure 4 

胆嚢管GW留置法.

a:胆嚢管分岐部にGW先端が挿入される.

b:カニューレを胆嚢管に挿入.

c:造影にて胆嚢管の方向を確認.

d:GWとカニューレの協調操作により胆嚢内に挿入.

胆嚢管のらせん構造を突破するには手元でGWに回転運動を加えながら緩徐に進める必要がある.この時に大事なことはカニューレとGWとの連携である.カニューレを胆嚢管の深部まで挿入してしまうと,前述した総胆管内と同様にGW先端の自由度が低下するため却って胆嚢管を探りにくくなることがある.そのような場合にはやはり一度カニューレ先端を少し引くことによってGWの選択性を向上させることができる.前述したGWはいずれも先端でループを作りやすいため,わざとループを作って鈍的に胆嚢管内を進んでいくのも有効な方法である.カニューレ先端が胆嚢管に押しつけられたような状態でGWを操作することは,親水性の軟らかいGW先端であっても胆嚢管を損傷する危険性があるため慎むべきである.

第一選択のGWで胆嚢管を超えることができなかった場合には,胆嚢管内にカニューレを留置した状態で先端親水部が非常に軟らかいRadifocus(TERUMO)や先端が最初からループを形成しているJ型Revowave(Piolax)にGWを変更することによって成功する場合がある.ただしいずれのGWもコシは弱いため,そのままドレナージチューブを留置しようとすると乳頭部や胆嚢管分岐部付近でGWがはねてしまう可能性がある.よって,その際にはカニューレを一度胆嚢内に留置した状態でコシの強いGWに入れ替えてからドレナージチューブを留置した方が良い.特にRadifocusは手元が濡れた状態で操作すると滑りやすく,慣れない術者が介助すると抜けてしまうこともあるためスコープ操作者もしっかりとGWを手元で保持することを意識する必要がある.

糸井らは胆嚢管の分岐パターンが大きく右方頭側分岐型,右方足側分岐型,左方分岐型の3つに分かれることを報告している 4.通常のカニューレを使用した場合には右方頭側分岐型には入りやすいが,右方足側分岐型や左方分岐型はカニューレの形状から胆嚢管への挿入が困難であり,GWが胆嚢管に一部挿入できたとしてもカニューレが追従し難い事が多い.そのような場合にはSwing Tip cannula(Olympus)(Figure 5)が有効である.同カニューレは手元のハンドル操作により85度up,30度downまで角度を変更することが可能である.実際には総胆管の中でハンドルを目一杯引くと先端を下向きにすることが可能となるため足側分岐型にも有効である.またdownアングルが利用できるため左方分岐型にも対応可能である.注意点としては同カニューレの最先端部は4.5Frと細いが湾曲部は7Frの太さがあるため,細い胆嚢管の場合にはGWが入ったとしてもあまり深部挿入しない方が良い.そのような症例ではやや手間はかかるがGWがある程度挿入された時点で通常カニューレに交換して胆嚢への深部挿入を試みるべきである.

Figure 5 

Swingtip cannula.

どうしても造影およびカニューレとGW操作で胆嚢管分岐部を確認できない場合には,胆管内超音波検査(Intraductal ultrasonography;IDUS)による確認が有効な場合がある.IDUSを胆嚢管分岐部で保持して透視でその位置を確認すれば分岐部の高さが分かる.また,IDUSと胆管壁との位置関係により前述した右方頭側分岐型,右方足型分岐型,左方分岐型のいずれのパターンかも推測する事が可能となる.あてのないままに長時間カニューレとGWで胆嚢管を探すくらいであれば多少挿入の手間はあるがIDUSを用いて探した方が効率的であると思われる.

Ⅴ ドレナージチューブ留置

GWが胆嚢内に留置できたとしても,胆嚢管らせん部であまり屈曲が強いようであればドレナージチューブの留置が困難となるため直線化する必要がある.カニューレをGWに沿って胆嚢内まで挿入する事でカニューレ自体のコシによって直線化する場合が多いが(Figure 6),不成功の場合にはカニューレを前後に出し入れしたり,少し引っ張ってテンションをかける事で直線化できることがある.このあたりの感覚は大腸スコープ操作におけるjigglingやright turn shorteningに通じるものがある.その後GWを安定させる目的で胆嚢内で1-2周ほど巻いておいてからドレナージチューブを留置する.

Figure 6 

GW直線化.

a:胆嚢管でGWがループを形成.

b:押し込むことによってループを解消してGWを直線化.

ドレナージには経鼻チューブによる外瘻法(endosopic naso-gallbladder drainage;ENGBD) 5とチューブステントによる内瘻法(endoscopic gallbladder stenting;EGBS) 6がある.経鼻チューブは胆汁の流出が確認できる点や内視鏡を用いずに抜去できるメリットがある.また食事再開後も食物残渣によるチューブ閉塞を気にする必要がない.しかしながらチューブ留置に伴う不快感や自己抜去のリスクなどの問題点もある.当院では胆嚢摘出術の適応とならない全身状態不良な高齢患者に対する処置が多いことや入院期間の短縮を目的として内瘻法を選択することがほとんどである.

内瘻化チューブステントには主にストレート型と両端ピッグテール型があるが,自然脱落の予防や胆嚢内粘膜へのステント接触を考慮して両端ピッグテール型を用いることが多い.通常ステントの太さは胆嚢管への挿入し易さを考慮して5Fr~7Frを用いるが,われわれの施設ではほとんどの症例で5Frを使用している.5Frステントを挿入できた症例ではおよそ98%にその後の胆嚢炎の改善がみられたが,これはステント挿入により結石嵌頓が解除されたことと胆嚢管が直線化することによって胆汁流出が改善したことによると思われる.特に近年ではガデリウスメディカル(旧カテックス)と共同開発した胆嚢内への留置を目的とした専用ステント(CX-T stent)(Figure 7)を用いることが多い.このステントの太さは5Frであるが,最大の特徴は様々な形態の胆嚢に対応することを目標として30cmの長いステントの先端を30個のサイドホールを有する3cm径で2周する大きなピッグテール状にしたことである.胆嚢の形態にはバリエーションが多く分岐部の位置も多様であることから,以前は造影で胆嚢の形態を確認した後にそれぞれの症例に合わせてステントを選択していた.しかしながら胆嚢の形態によってはドレナージ効果が不十分な症例もあった.本ステントでは1本で様々な形態の胆嚢に対応する事が可能でありチューブ選択に頭を悩ませる必要がないというメリットがある(Figure 8).上述の如く筆者らの施設では5Frのステントを留置することが多いため内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPD)などの処置は基本的には行っていないが,総胆管結石併存症例でEGBSと内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD)を併用する場合などでは乳頭への負荷を考慮して可能であればESTもしくはEPDを行っている.

Figure 7 

EGBS専用ステント(Cx-t stent;ガデリウスメディカル).

Figure 8 

留置後写真.

様々な形の胆嚢にも対応可能(矢印は結石).

Ⅵ 留置後のフォロー

本来であればドレナージはあくまで急性胆嚢炎に対する一時的な処置であり,その後腹腔鏡下胆嚢摘出術などの根治術を追加すべきである 7.しかしながら,高齢,寝たきり状態,重篤な他疾患合併などの理由により手術不可能な症例もあり必ずしも理想通りにはいかない.そのような症例ではやむを得ず留置継続せざるを得ないため,数カ月おきのステント交換が必要となる.前述の如く胆嚢管へのカニュレーションが困難な症例があるが,すでにステントを留置された状態では状況が変わってくる.ステント交換時には,まずはステントを留置したまま胆管造影を行うことで総胆管とステントの位置関係により胆嚢管がどの位置からどの方向に向かっているのかが容易に把握できる.また胆嚢管はチューブ留置によりらせん構造が直線化されているため,胆嚢管初回挿入時に比較してGWの挿入が非常に容易となる.よってステントの横から新しいGWを胆嚢内に留置し保持,その後古いステントをスネアで抜去した後に保持したGWを用いて新しいステントを再留置することで容易に交換可能となる.当科では上記の方法で必要な症例に対して定期交換を行っているが,処置時間も短く簡単である(Figure 9).このように胆嚢管とステントの隙間から新しいGWを挿入し易いことも5Frステントを使用するメリットとなる.

Figure 9 

EGBS入れ替え法.

a:既に挿入済のステントの横を通してカニューレを挿入.

b:カニューレを通してGWを留置.

c:古いステントを抜去.

d:新しいステントを再留置.

Ⅶ おわりに

内視鏡的胆嚢ドレナージは手技的にやや困難であり通常の胆道ドレナージと比較すると成功率も低い 8ため現時点では急性胆嚢炎に対するドレナージの第一選択とはならないが,経皮処置が不能かつ緊急ドレナージが必要な症例においては試みる価値があるものと思われる.更に今後はspy glass(Boston)などの胆道鏡を用いることで更に胆嚢管への挿入率が上がる可能性がある.また現在ではEUSガイド下の胆嚢ドレナージ手技 9も発達してきており今後は症例に応じてドレナージ方法を使い分けていく必要があると思われる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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