日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
胆管内腫瘍焼却術におけるデジタル型胆道内視鏡を用いた安全性の評価(動画付き)
小倉 健恩田 紗織里佐野 志達都木 航奥田 篤宮野 亮西岡 伸今西 みゆき天野 美緒増田 大介樋口 和秀
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電子付録

2018 年 60 巻 3 号 p. 270-276

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要旨

【背景・目的】内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)下ラジオ波焼却術(RFA)の有用性が報告されているが,重篤な偶発症もまた報告されている.腫瘍が胆管内に露出していない場合,穿孔や出血といった重篤な偶発症が生じうる.また,胆管造影所見のみでは,真のRFA効果が得られているかは不明である.本研究では,RFA前後に経口胆道内視鏡(POCS)を行うことでRFAの真の安全性と有効性を検証することを目的とした.

【方法】対象は,2016年7月から9月までで,悪性胆道閉塞に対しRFAを行い,POCSにて評価を行った症例.主要評価項目は手技成功率,副次評価項目は偶発症の頻度・種類とした.

【結果】計12例の症例が集積された.うち6例でRFA前にUncovered self-expandable metal stent(SEMS)が留置されていた.全例で胆管内への腫瘍の浸潤がPOCS所見上確認され,RFA施行可能であった.Zウェン例で臨床的有効が得られた.偶発症は胆管炎を1例に認めた.ステント開存期間中央値は154日であった.

【結論】さらなる症例の蓄積,前向き試験による検証が必要ではあるが,悪性胆道閉塞に対するERCP下RFAは安全に施行可能であった.

Ⅰ 緒  言

切除不能進行悪性腫瘍による閉塞性黄疸では,内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)による自己拡張型金属ステント(Self-expandable metallic stent:SEMS)留置が広く行われているが,継続的な化学療法を行うためには,ステントの長期開存が強く望まれる.近年,悪性胆管閉塞に対するERCP下ラジオ波焼却術(radiofrequency ablation:RFA)が,ステントの開存期間,あるいは生存期間の延長に寄与する可能性があると報告されている 1)~9.一方で,偶発症の頻度は0~62%と幅広く報告されている 10.中には出血による手技関連死亡 11や胆管穿孔 12といった重篤な偶発症も報告されている.胆管内に腫瘍が露出していない場合は,胆管穿孔を生じる可能性があるため,胆管造影所見のみでの判断では不十分である可能性が考えられる.そこでわれわれは,近年使用可能となったデジタル型胆道内視鏡を用い,RFA前後で胆管内を評価し,真のERCP下RFAの安全性と有効性を検証した.

Ⅱ 対象と方法

1)対象

対象は2016年7月から9月までで,病理学的に確定診断がなされた切除不能悪性胆道閉塞症例.ERCP下RFA前後で,胆管内腫瘤の露出の有無,RFA効果の確認のため,経口胆道内視鏡(peroral cholangioscopy:POCS)を行った.

2)使用器具

全長1.8m,8.6FrのEMcision社製RFAプローベ(Habib EndoHPB)を用いた(Figure 1-a).先端5mmは非通電部となっており,8mm間隔で通電部と非通電部が存在し,RFA効果は,計25mm幅に渡って得ることが可能である.ジェネレーターはERBE社製VIO200Dを用いた.RFAは,既報のごとく,350kHz(effect 8)で,RFA部位が肝門部では7W,総胆管では10Wで,各々90秒間行った 1),8),13.なお,本研究前に生体外にて,鳥の摘出肝臓を用いてRFA効果を確認した(Figure 1-b,c電子動画1:肝臓に対し,10W 90秒でラジオ波焼却術を施行).最後に,胆道内視鏡は,Boston社製のデジタル型胆道内視鏡(SPY-DS, SPYGlass Direct Visualization System)を用いた.

Figure 1

a:ラジオ波焼却術用プローベ(Habib EndoHPB;EMcision Ltd, London, UK).

b:ラジオ波焼却術前の肝臓.

c:10W,90秒ラジオ波焼却術後の肝臓.

電子動画1

3)RFA手技の実際(電子動画2

電子動画2

十二指腸内視鏡(JF260V, Olympus Optical, Tokyo, Japan)を乳頭まで挿入後,ERCPカテーテル(MTW, Endoscopie, Dusseldorf, Germany)にて胆管深部挿管を行った.0.025インチガイドワイヤー(VisiGlide;Olypmus Medical Systems, Tokyo, Japan)を胆管内に留置したのち,造影剤を注入し,胆管狭窄部を評価した(Figure 2-a).次いでSPY-DSをガイドワイヤー誘導下に胆管内へ挿入し,狭窄部に腫瘍の露出があるか否かを評価した(Figure 2-b).その後,SPY-DSを抜去し,RFAプローベを狭窄部まで挿入した.RFA後,再度SPY-DSを狭窄部まで挿入し,RFA効果が得られているか否かの評価を行った.効果判定後,狭窄部位に応じてCovered SEMSもしくはUncovered SEMSの留置を行った(電子動画2:胆管内に腫瘍の浸潤を認める.ラジオ波焼却術後には,腫瘍の消失が得られた).POCS時は,胆管炎のリスクを回避するべく頻回に送水と吸引を行った.なお,全例で抗生剤投与を行い,適切な沈静化で手技を行った.

Figure 2

a:肝門部に胆管狭窄を認める.

b:胆道内視鏡所見では,胆管内に腫瘍の露出を認める.

c:右肝内胆管内にラジオ波焼却用プローベを挿入し,ラジオ波焼却術を施行.

d:左肝内胆管内にラジオ波焼却用プローベを挿入し,ラジオ波焼却術を施行.

e:胆管径の増大を認める.

 f:胆道内視鏡所見では,腫瘍の焼却が得られている.

4)定義・統計学的事項

RFAプローベを狭窄部まで挿入し,90秒間RFAを施行し得た場合を手技成功とし,POCS所見上,RFA効果が得られている場合を臨床的有効と定義した.主要評価項目は,手技成功率,副次評価項目は偶発症の頻度および種類とした.ステント機能不全は,CTおよび血液検査所見から判断した.ステント開存期間は,ステント留置後から機能不全あるいは最終観察日までとし,Kaplan-Meierの生存曲線を用いて算出した.連続変数は,中央値あるいは平均値を適切に用いて示した.最後に偶発症の重症度は米国内視鏡学会の診断基準に従って分類した 14

Ⅲ 結  果

12症例が,後ろ向きに本研究に集積された.平均年齢は77歳(58歳~92歳),男性7例,女性が5例であった(Table 1).原疾患は,膵癌3例,胆管癌9例で,狭窄部位は肝門部が8例,総胆管が4例であった.うち6例は,すでにRFA前にUncovered SEMSが留置されていた.また,RFA前のPOCS所見では,全例で胆管内に腫瘍の露出が確認された.RFA手技は全例で成功し,POCS所見上,RFA効果は全例で確認できた.観察期間中央値は107日(38日~161日)であった.

Table 1 

患者背景.

経過観察期間中,偶発症は1例に認められた.本症例は胆管癌の診断で,すでにUncovered SEMSが留置されている症例であった.SEMS内への腫瘍浸潤のため,SEMS閉塞をきたしたため,RFAが施行された.RFA効果は十分であったものの,軽症の胆管炎を合併した.本偶発症は,POCS手技に伴う影響が疑われたが,RFA手技関連偶発症は完全に否定できなかった.

ステント機能不全は3例に認められ,開存期間はそれぞれ42日,68日,82日であった.機能不全の内訳は,腫瘍のSME内浸潤が2例,胆管炎が1例であった.これらの症例は,全例RFA前にSEMS留置が行われていた症例であった.腫瘍浸潤を認めた2例には再度SEMS留置を行い,胆管炎をきたした1例は保存的に軽快した.Figure 3に症例を提示する.RFA効果は十分に得られたが(Figure 3-a,b),68日後にステント閉塞を認めた.POCS所見では,SEMS内に腫瘍の浸潤を認めたため(Figure 3-c,d),再度ステント留置を行った(Figure 3-e).ステント開存期間中央値は154日であった(95% CI 49.2-258.8日).

Figure 3

a:ステント内への腫瘍浸潤に対し,ラジオ波焼却術を施行.

b:胆道内視鏡所見では,胆管内の腫瘍の焼却が得られている.

c:68日後に再度ステント閉塞を認める.

d:胆道内視鏡所見では,腫瘍のステント内への浸潤を認める.

e:閉塞部に対しステント留置を施行.

Ⅳ 考  察

ERCP下RFAは,悪性胆道閉塞に対する治療の選択肢の一つとして,韓国や欧米を中心に行われている.胆管内に露出した腫瘍を直接焼却できるため,腫瘍浸潤を防止し,ステントの長期開存が得られる可能性がある.Wangらは 5,12例の悪性胆道閉塞に対するERCP下RFAの成績を報告している.彼らは30日以内の偶発症およびRFA後の狭窄径,ステント開存期間,生存期間を評価している.これによると,狭窄径は,RFA前後で有意に増加し(5.3mm vs 12.6mm,P<0.001),ステント開存期間中央値は125日,生存期間中央値は232日であったとし,ERCP下RFAは,切除不能悪性胆道閉塞に対し,安全で有用な治療戦略となりうると結論づけている.Sharaihaらは 6,SEMS留置に関して,RFAのありなしでその臨床的有効性を評価している.特筆すべきことに,Cox回帰分析を用いた多変量解析の結果,RFA施行の有無(HR 0.29[0.11-0.76],P=0.012)は,化学療法の有無(HR 0.26[0.10-0.70],P=0.007)と同様,独立した因子として検出されている.治療の選択肢の一つであるERCP下光線力療法(PDT;photodynamic therapy)と比較すると,RFAは同様の恩恵があることがStrandら 7より報告されている.彼らは,ERCP下RFAとPDTを施行した悪性胆道閉塞症例の全生存期間を比較し,両者に統計学的有意差を認めなかったとしている(9.6カ月 vs 7.5カ月,P=0.799).最も規模の大きい臨床研究として,Dolakらは 8,ERCP下RFAを行った連続する84例の検討を報告している.この研究では,ステント開存期間中央値は,170日(95% CI 63-277日)であり(SEMS vs plastic stent;218日 vs 115日),既報に比し,SEMSおよびplastic stentの開存期間は良好であったと報告している.診断時の生存期間は17.9カ月(95% CI 10.3-25.6カ月)で,RFA後の生存期間は14.4カ月(95% CI 6.9-14.4カ月)であったとし,生存期間に関しても既報に比し良好であったとしている.以上から,RFAの有無による無作為比較試験による検証が必要ではあるものの,RFAはステント開存期間のみならず生存期間延長にも寄与する可能性があると結論づけている.

一方で,ERCP下RFAの偶発症頻度は決して低くはない.重篤な偶発症として,胆管穿孔が報告されている 12.経皮的アプローチでの報告ではあるが,手技的にERCP下RFAと類似するため,本偶発症はERCP下RFAでも生じうると考えられる.加えて,Talらは 11,3例の胆道出血症例を報告している.これらのうち,2症例は出血性ショックにて死亡している.胆管内に腫瘍が露出していない場合にRFAを行うと胆管穿孔をきたす可能性があり,また,胆管周囲の血管損傷から出血をきたす可能性が考えられる.

われわれの研究では,これらの偶発症を回避すべく,RFA前にPOCSを行うことで,胆管内に腫瘍の露出があるかを確認し,加えてRFA効果が得られているかを確認した.それゆえ,われわれの研究はRFAの真の安全性と有効性を反映しているものと考えられる.しかし,幾つかのlimitationもある.第一に,肝内胆管末梢病変,多領域にまたがる病変,乳頭近傍の病変,あるいは狭窄の長い病変に関しては,SPY-DSを用いても評価困難である.それゆえ,観察不十分な部位では,壁外圧排による胆管狭窄であることは完全に否定できない.また,POCSによる評価は,術者による主観的な評価になるため,客観的評価が不能であることが挙げられる.第二に,RFA効果は熱凝固壊死による病変の変性まで,一定の時間が必要であり,直後のPOCSによる評価のみでは不十分である可能性が挙げられる.しかしながら,われわれの手法は,直後のRFA効果が不十分な症例を除外でき,不十分な場合は再度RFAを行うことが可能である.一方で,吸引を頻回に行ったとしても,POCSによる胆管炎の頻度は増える可能性がある.

われわれの研究では,比較的ステント開存期間の短い症例が3例見られた(42,68,82日).これら3例は,RFA前にすでにUncovered SEMSが留置されていた.これを説明する考察の一つとして,Yoonらの報告がある 15.3例の生体豚の胆管にUncovered SEMSを留置し,RFAを行ったのちに組織学的変化を検討し,Uncovered SEMSを埋蔵したポリエチレンジェルファントムモデルを用いて,RFAを行いその効果を検討している.これによると,Uncovered SEMS自体に影響はないものの,RFA効果の減弱が見られたとしている.われわれの結果は,さらなる症例の蓄積,比較試験が必要であるものの,この基礎実験を支持するものであり,Uncovered SEMS留置後の腫瘍浸潤症例にはRFAの適応を考慮する必要があるかもしれない.

Ⅴ 結  論

少数例,後ろ向き,非無作為試験,短期の経過観察期間であるものの,悪性胆道閉塞に対するERCP下RFAは,安全に施行可能であった.さらなる症例の蓄積,前向き試験による検証が必要である.

 

本論文内容に関する著者の利益相反:なし

文 献
 
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