日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
十二指腸潰瘍が無症候性肝嚢胞に穿通した1例
井上 賢之 金丸 理人横田 真一郎森嶋 計石黒 保直小泉 大笹沼 英紀佐田 尚宏
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キーワード: 十二指腸潰瘍, 肝嚢胞, 穿通
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2018 年 60 巻 4 号 p. 997-1002

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要旨

症例は79歳,女性.主訴は食欲不振,上腹部違和感,嘔気.腹部CTにて十二指腸肝嚢胞瘻が疑われ,上部消化管内視鏡で,球部前壁に径6mmの瘻孔を認めた.瘻孔造影により肝嚢胞が描出されるも,腹腔内への造影剤漏出はなかった.急性汎発性腹膜炎症状がないため保存的加療を選択し,瘻孔は縮小したが,瘻孔開口部より膿汁の流出を認め,小開腹肝嚢胞ドレナージを施行した.その後,瘻孔は閉鎖,肝嚢胞は胆道系との交通を認めたが自然に縮小が得られた.十二指腸潰瘍肝嚢胞瘻では肝嚢胞の外ドレナージを併用することにより急性期の外科治療侵襲を回避して瘻孔閉鎖が期待できる例もあり,治療法の選択肢になりうる.

Ⅰ 緒  言

十二指腸潰瘍穿孔・穿通は上腹部痛を主訴とする急性腹症の代表的疾患であるが,プロトンポンプ阻害薬(Proton-pump inhibitor:PPI)による消化性潰瘍の治療が確立され,早期診断に至れば,保存的治療によって治癒が期待できるようになった 1.今回,十二指腸潰瘍が無症候性肝嚢胞に穿通したが,急性汎発性腹膜炎症状を認めず,PPI投与と待機的肝嚢胞ドレナージ術を施行し治癒が得られた症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:79歳,女性.

主訴:下痢,嘔吐,黒色便.

既往歴:65歳,右腎細胞癌,胆石症のため右腎臓摘出術,胆嚢摘出術施行.72歳,急性大動脈解離のため上行大動脈置換術施行.以後,片腎,慢性腎臓病のため当院腎臓内科通院中であった.半年前に撮影された当院の腹部CTで直径17cmの無症候性肝嚢胞を指摘されていた(Figure 1-a).

Figure 1

a:腹部単純CTで無症候性肝嚢胞を認めた(潰瘍穿通前).

b:入院時CTで肝嚢胞の緊満感消失,液面形成を認めた.

c:十二指腸球部と肝嚢胞との間に瘻孔を認めた(矢印).

d:内視鏡時の消化管造影で瘻孔と嚢胞内への造影剤流入が描出された(矢印:瘻孔,矢頭:嚢胞).

現病歴:10日前から下痢,嘔吐が続いており,外来にて補液・内服治療を受けていたが改善が得られなかった.前日より黒色便を認めるようになり,食事もとれないため救急要請となり,当院へ救急搬送となった.

現症:身長155cm,体重50kg,体温37.1℃,血圧83/58,脈拍94回/分,酸素飽和度98%.初診時,腹部圧痛,筋性防御,反跳痛は認めなかった.

血液検査所見:白血球数15,610/μl,好中球89.8%,CRP 18.94mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.尿素窒素68.3mg/dl,クレアチニン2.01mg/dlと腎機能障害を呈し,凝固系はAPTT 41.3秒と軽度延長していた.ヘモグロビンは9.2g/dlと貧血を認めた.また総蛋白質4.0g/dl,アルブミン1.4g/dl,コリンエステラーゼ69IU/lであり低栄養状態と考えられた.抗ヘリコバクターピロリIgG抗体は抗体価3未満と陰性であった.(測定方法:enzyme immunoassay法,基準値10未満(U/mL))

腹部CT:肝臓表面に腹水を認め,十二指腸球部壁は肥厚していた.加えて内部にair fluid levelを形成し,多量の食物残渣が貯留する肝嚢胞を認めた(Figure 1-b).嚢胞はS4~S5/8に位置し,直径も約10cmに縮小していた.肝嚢胞と十二指腸との間には,径6mmの瘻孔が描出されたことから,十二指腸潰瘍肝嚢胞瘻と診断した(Figure 1-c).

上部消化管内視鏡:瘻孔部の確認と,食物残渣の除去を目的とし,入院2病日目に上部消化管内視鏡を施行した.萎縮性胃炎を背景とし,幽門前庭部から十二指腸へと続く潰瘍が多発していたが,幽門部で造影剤を注入すると停滞なく十二指腸下行脚に流れていった.それと同時に球部から肝臓側へと向かう瘻孔と肝嚢胞が描出された(Figure 1-d).球部に内視鏡を進めると,球部前壁大彎側に瘻孔が確認された(Figure 2-a).十二指腸粘膜は発赤浮腫状を呈していたが,瘻孔壁は平滑・退色調の固い線維性組織に覆われ,絨毛は消失していた.

Figure 2

a:入院時の上部消化管内視鏡で直径6mmの瘻孔を認めた.

b:嚢胞内の食物残渣・腸液の貯留,嚢胞壁内の黒色変性を認めた.

c:入院11病日の内視鏡では瘻孔の著明な縮小を認めた.

極細径内視鏡(FUJIFILM EG580NW)が通過できるほどの瘻孔径であったため,内視鏡を肝嚢胞内部にまで進めると胆汁色の内容液と多量の食物残渣を認めた(Figure 2-b).可及的に嚢胞内の食物残渣を吸引・除去し,内腔を洗浄した.嚢胞内は局所的に黒色を呈し壊死性変化を認めるも出血はなかった.嚢胞内,瘻孔内で造影剤を注入したが,腹腔内への漏出は認められなかった.

入院後経過:腹水を認める状態であったが腹膜刺激症状もないため,遷延する炎症と低栄養に起因する反応性腹水と考えられた.現状での外科的介入は不要と判断し,まず栄養状態の改善と十二指腸潰瘍の治療を行う方針とした.ドリペネムとオメプラゾールによる治療を開始し,入院11病日の上部消化管内視鏡再検時には,幽門前庭部の潰瘍は治癒傾向を示していた.前回極細径内視鏡が通過するほどであった瘻孔は縮小し,周囲の十二指腸粘膜も少しずつ再生してきていた(Figure 2-c).この際に12Fr経管栄養チューブを瘻孔の遠位十二指腸まで内視鏡下に誘導し,経腸栄養も開始した.

保存的加療により十二指腸潰瘍の改善が得られ,瘻孔の完全閉鎖が期待される状況となった.しかし肝嚢胞が閉鎖空間となり肝膿瘍と同様の状態となってしまう危険があったため,十分なドレナージを目的とし小開腹での肝嚢胞ドレナージの方針とした.入院23病日に肝嚢胞ドレナージ術(バルーンカテーテルを留置)を施行した.入院27病日より食事摂取を開始し,入院35病日に施行した肝嚢胞内ドレーン造影では,嚢胞の著明な縮小に加え,胆管が造影され,胆道系との交通が認められた(Figure 3).しかし入院39病日に施行した上部消化管内視鏡では,幽門前庭部から十二指腸にかけて存在していた潰瘍は治癒過程期(H2ステージ)であったが,球部前壁の瘻孔はすでに潰瘍瘢痕(S1ステージ)を認めるのみとなっていた.混濁した胆汁様排液の流出が続いたため,バルーンカテーテルを留置したまま入院46病日に退院となった.その後は外来で経過を観察し,入院日より3カ月後に施行したカテーテル造影では胆管も描出されず,経過良好にて抜去となった.

Figure 3

入院35病日の肝嚢胞内ドレーン造影で,嚢胞の著明な縮小に加え,胆道系との交通が描出された.

Ⅲ 考  察

急性腹症の中で十二指腸潰瘍の頻度は2%と報告されている 2.その原因は,胃酸過多,Helicobacter pylori感染,非ステロイド性抗炎症薬などによる粘膜傷害と考えられているが,重症例では穿孔,他臓器への穿通をきたすこともある 3.穿通臓器としては,膵臓,小腸,胆道,大腸,大網などがあり,膵臓が50%と最も多く,十二指腸潰瘍が肝嚢胞に穿通するのは非常にまれである 3

消化管と肝嚢胞との瘻孔が形成される原因として,まず十二指腸潰瘍からの嚢胞側への穿通を念頭に置き治療を開始した.しかし術後のドレーン造影からは胆道系が描出され,嚢胞と胆道系との微小な交通が確認されている.胆汁貯留による嚢胞の増大,加えて胆道系との交通による嚢胞内感染も影響し,接する十二指腸壁が機械的に圧排され,十二指腸壁の壊死を来した可能性も考えられる.本症例では,血清ピロリ抗体のみが検査されており,便中ピロリ菌抗原,尿素呼気試験を施行しておらず,上記3つの検査が陰性であれば,嚢胞による十二指腸壁圧排という病態をより強く疑う所見と考えられる.しかし医学中央雑誌(1977年から2017年6月)で「十二指腸」,「肝嚢胞」,「穿通」もしくは「瘻孔」を,PubMedで「duodenum」,「liver cyst」,「fistula」もしくは「penetration」をキーワードとして検索したが,単純性肝嚢胞側から消化管への穿通に関する報告を見つけることはできなかった.また十二指腸潰瘍の原因としては,ピロリ菌の関与を完全には否定できておらず,その他外用鎮痛消炎剤の使用歴も影響を及ぼした可能性がある.

「十二指腸」,「肝嚢胞」,「穿通」もしくは「瘻孔」をキーワードとして,医学中央雑誌で,1977年から2017年6月までの期間を対象とし検索すると,症例報告1症例と会議録8症例の報告がなされていた 4)~12.ほとんどの報告が会議録のみであり,詳細な検討は困難だったが,抄録から得られる情報を抽出し,本症例を含め10例の検討を行った(Table 1).

Table 1 

十二指腸潰瘍肝嚢胞瘻の報告例.

平均年齢は75歳,男女比は4:6.記載のあるものでは,肝嚢胞の局在は肝左葉内側区域が5症例,外側区域が1症例であり,全症例十二指腸の球部もしくは球部前壁に瘻孔を形成していた.十二指腸潰瘍の好発部位と肝嚢胞との位置関係が瘻孔形成に重要であると考えられた.

治療については,2例で緊急手術を施行していた.そのうち1例は穿通した嚢胞の破裂による急性汎発性腹膜炎を呈していた.初期治療として保存的加療を選択したのは8例であった.そのうち保存的加療のみが2例,待機的根治手術となったのが5例,待機的にドレナージのみ追加したのは本症例のみであった.有症状の肝嚢胞に対する治療は,一期的な手術として肝切除術,肝嚢胞開窓・壁焼灼術が施行され,加えて,十二指腸との瘻孔には瘻孔部切離・閉鎖,瘻孔内大網充填術を付加する手技が行われている 4)~8),11)~13.本症例では高度な炎症と低栄養状態にもあり肝切除の選択は難しいが,腹腔鏡手技も含めた肝嚢胞開窓・瘻孔部閉鎖術はよい適応であり,在院日数の短縮につながった可能性もある.また当初から開腹もしくは経皮経肝的嚢胞ドレナージを行う方法も,肝嚢胞と瘻孔の早期閉鎖に有益な方法と思われる.本症例では経腸栄養を併用し,炎症反応の鎮静化を待っての待機的ドレナージを施行したが,緊急ドレナージを付加しなくともPPI治療による瘻孔縮小が確認できた例であった.本症例のように,比較的高齢患者,さらには食欲不振・炎症による低栄養状態を伴うようなケースでは,全身状態を考慮し,急性期の外科治療侵襲を回避する方法も選択肢の1つと考えられる.

十二指腸潰瘍は良性疾患であり,PPIで改善することが十分期待できるが,そのために肝嚢胞からのドレナージ経路となっている瘻孔が縮小・閉鎖してしまうこととなる.食物残渣や腸液などの汚染内容物が肝嚢胞内に貯留すれば,嚢胞内の炎症は遷延し,肝膿瘍と同様の状態となりうる.本症例でも,入院11病日の上部消化管内視鏡再検時には,瘻孔の縮小と膿汁の流出を認めた.嚢胞の縮小よりも瘻孔の閉鎖速度のほうが早く,感染嚢胞となってしまう可能性があったため,嚢胞ドレナージを追加施行した.嚢胞内に食物残渣が貯留していた場合には,肝嚢胞開窓術などの待機的根治手術が必要となっていた可能性もあるが,十分に洗浄処置・ドレナージができたため良好な嚢胞の縮小が得られた.本症例では瘻孔から内視鏡を挿入し,嚢胞内容物を吸引することができたが,胆嚢摘出術後の癒着のために内視鏡時の穿孔が回避された可能性がある.一般的に瘻孔形成後早期に瘻孔を介して内容物を吸引・除去することは穿孔を助長する可能性が高く,すべての症例で推奨される方法ではないことは留意すべき点である.

十二指腸潰瘍肝嚢胞瘻に対する肝嚢胞外ドレナージ術は,低侵襲な瘻孔閉鎖が期待できる選択肢の1つと考えられた.

Ⅳ 結  語

十二指腸潰瘍肝嚢胞瘻に対し,PPIによる瘻孔閉鎖を目指して,待機的肝嚢胞ドレナージ術を施行し良好な結果が得られた1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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