要旨
早期胃癌ESD/EMR後に胃癌治療ガイドラインにおける内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)と判定された際には,リンパ節転移のリスクから全例で追加外科切除が推奨されている.しかし,実際には29-70%が無治療経過観察となっている.早期胃癌内視鏡的根治度C-2の際のリンパ節転移率は4-11%とされており,その最も強い独立危険因子はリンパ管侵襲と報告されている.また,他にも静脈侵襲などの独立危険因子があり,これらを組み合わせた早期胃癌内視鏡的根治度C-2病変のリンパ節転移を予測する簡便なスコアリングシステム(eCura system)を報告した.同システムは胃癌死を予測する臨床的に有用な指標となると思われる.一方,わが国では人口の高齢化とともに胃癌患者の高齢化も進んでおり,高齢早期胃癌ESD/EMR根治度C-2患者に対して非胃癌死も含んだ生命予後全体を予測可能なシステムの確立が望まれる.
Ⅰ 緒 言
胃癌は現在でも世界で4番目に多い癌で,癌死の第2位となっている
1).本邦では,内視鏡機器・診断の進歩や検診プログラムにより早期での発見が増加してきており
2),胃癌の半数以上が早期癌で発見されている
3)~7).早期胃癌のうちリンパ節転移のリスクが限りなく低い患者に対しては内視鏡切除が行われるが,その手法として以前は内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)が主流だったものの,現在では内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)が第一選択として広く行われている.
Gotodaら
8),Hirasawaら
9)の報告に基づいて,改訂前の胃癌治療ガイドラインやESD/EMRガイドライン
2)では早期胃癌は治療前には絶対適応病変,適応拡大病変,適応外病変に分類されており,内視鏡切除後にはそれぞれ治癒切除,適応拡大治癒切除,非治癒切除に分類されていた.一方,2018年1月に胃癌治療ガイドラインが改訂され,改定後の胃癌治療ガイドライン第5版
10)では,多施設前向き試験(JCOG0607)の結果
11)も踏まえて分化型癌の適応拡大病変が「ESD適応病変」に,そして適応外病変の呼称が「相対適応病変」に変更となった.また,内視鏡切除後の根治度評価・呼称も変更となり,「治癒切除」は「内視鏡的根治度A(eCuraA)」,「適応拡大治癒切除」は「内視鏡的根治度B(eCuraB)」,「非治癒切除」は,分化型癌一括切除で側方断端陽性または分割切除のみが「非治癒因子」の「内視鏡的根治度C-1(eCuraC-1)」とそれ以外で追加外科切除が標準治療とされる「内視鏡的根治度C-2(eCuraC-2)」に分類された(Figure 1).内視鏡的根治度A(eCuraA)(治癒切除)は,腫瘍が一括切除され,(1)2cm以下,分化型,pT1a(M),潰瘍(瘢痕)(UL)(-),脈管侵襲陰性,切除断端陰性を満たすもの,(2)2cm以上,分化型,pT1a(M),UL(-),(3)3cm以下,分化型,pT1a(M),UL(+),とされており,内視鏡的根治度B(eCuraB)(適応拡大治癒切除)は,腫瘍が一括切除され,①2cm以下,未分化型,pT1a(M),UL(-),②3cm以下,分化型,pT1b(SM1)のいずれかで,脈管侵襲陰性,切除断端陰性の場合,とされている.さらに,②でSM浸潤部に未分化成分を有する際にも,新たに内視鏡的根治度C-2(eCuraC-2)(非治癒切除)とすることとなった.尚,胃癌治療ガイドライン第5版
10)における内視鏡的根治度評価としての「eCura」と後述する内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)に対するリスクスコアリングシステム「eCura system」
12)(Figure 2,文献12)より改変引用)は全く別物であり,「eCura system」の用語が先行して使用されていた.このため,混乱を避けるためにも本稿の以下における内視鏡的根治度評価では「eCura」の用語を用いないこととする.

内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)に関しては,ここ数年で長期予後などに関する報告が増えてきている.また,最近では多施設共同後方視的研究(EAST study)にて約2,000例の早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)病変が解析され,長期予後,リンパ節転移リスクなど様々な知見が明らかとなった
12)~21).本項では,これらを含めて早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)病変の現状と今後の展望について述べていく.
Ⅱ 早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)病変に対する対応の実際
早期胃癌に対してESD/EMRを行った際,17-29%で内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)となると報告されているが
23)~28),内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)となった場合には,リンパ節転移のリスクがあることから原則としてリンパ節郭清を伴う追加外科切除が推奨されている
2),10).しかし,実臨床では高齢・基礎疾患・患者の追加治療拒否など様々な理由から無治療経過観察が選択されることも多い
23),26),29)~31).これまでの後方視的研究では,早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)後に経過観察が選択されたのは29-70%と報告によってばらつきがあるが
13),25),26),28),32)~38),1,969例を解析した筆者らの報告では46%が経過観察となっていた
13).さらに,高齢者では53-88%が内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後経過観察
24),29),39),85歳以上では36例全例において内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後無治療経過観察されていた
40),との報告もあり,特に高齢者ではガイドラインの推奨とはかけ離れた結果となっている.一方で,JCOG0607では,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)となった患者のうち無治療経過観察が選択されたのはわずか10%(15/146)であり
11),これまでの報告に比しても内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後経過観察率が極めて低く,逆にガイドラインの推奨に近い結果であった.JCOG0607は75歳以下の早期胃癌患者のうち当時の分化型内視鏡治療適応拡大病変(現在はESD絶対適応病変)を対象とした多施設共同前向き研究であることから,これまでの報告との早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後無治療経過観察率の差異には,対象年齢,対象病変および研究デザインの違いが影響している可能性がある.
Ⅲ 早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)病変の研究における問題点:2つの選択バイアス
早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)病変に関する研究結果を解釈するにあたっては,早期胃癌研究における問題点を理解する必要がある.初期治療として外科切除あるいはESD/EMRの選択,そしてESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)となった際の追加外科切除あるいは無治療経過観察の選択である(Figure 3).これらの選択は臨床病理学的診断,患者背景,患者の希望などから決定される.選択バイアスを解決する手段としてはランダム化比較試験があるが,早期胃癌に対する外科切除・ESD/EMRの治療選択肢の間には侵襲に大きな違いがあり現実的には倫理的問題よりランダム化比較試験を行うことは困難である.したがって,早期胃癌研究において選択バイアスを排除することは困難である.よって,早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)症例に関する研究では上記の2つの選択バイアスを考慮する必要がある
41).ただし,このようにランダム化比較試験が倫理的に困難な場合に選択バイアスを軽減させる統計学的手法として,傾向スコア(propensity score:PS)があり
42),PSを用いた早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)病変に関する研究も行われてきている
15).
Ⅳ 早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)病変のリンパ節転移率
早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)となり追加外科手術を行った際のリンパ節転移率は4-11%と報告されている
12),22),26),28),34)~38),43)~46).一方,早期胃癌に対して初期治療として外科切除を行った際のリンパ節転移率は,M癌では3.3%,SM癌では19.6%と報告されている
47).Itoらは,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後追加外科切除症例のうちのSM癌890例におけるリンパ節転移は9.4%と報告しており
14),初期治療外科手術でのリンパ節転移率に比して少ない.この差異には初期治療の選択バイアスが関係していると考えられ,未分化優位型癌や比較的術前にM/SM1癌と鑑別しやすいSM2深部浸潤癌の多くにおいて初期治療として外科切除が選択されていることが大きく関わっているものと思われる.
Ⅴ 早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)後の追加外科切除,経過観察を選択した際の生存率
これまでに,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後の追加外科切除患者,経過観察患者の生存率を検討した報告は多く認められるが,その多くの検討で全生存率(overall survival:OS)では追加外科切除患者に比し経過観察患者の方が有意に低いことが明らかとなっている
13),22),28),35),37),48)(Figure 4-a,文献13)より改変引用).だが,癌特異的生存率(cancer-specific survival:CSS)についてはほとんどの検討にて統計学的に有意差を認めていない
25),28),35),37),48).また,唯一有意差を認めたEAST studyでも追加外科切除群,経過観察群の5年CSSはそれぞれ98.8%,97.5%とともに高く
13)(Figure 4-b,文献13)より改変引用),症例数の多さから統計学的には有意差を認めたものと思われる.したがって,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後の追加外科切除患者と経過観察患者の間のOSの差異は,主に非胃癌死が原因である.追加外科切除群の方が経過観察群に比して有意に年齢が高いと報告されており
13),年齢の差異がOSの差異に影響を与えている可能性がある.それ以外にも,基礎疾患などの患者背景の違いが関わっている可能性も考えられる.一方,前述のようにCSSは外科手術,経過観察患者の間には多くの研究で有意差がないが,CSSの結果の解釈において注意を要するのは,これらの結果はあくまで単変量解析結果であり,追加外科切除群と経過観察群の間には選択バイアス
41)による大きな臨床病理学的背景の差異を認めることである.実際に,多くの検討では脈管侵襲,深達度などの病理学的背景について,追加外科切除患者と経過観察患者との間に有意差を認めている
13),
25),28),37).唯一,Suzukiらは傾向スコア(propensity score:PS)matchingにより選択バイアスを軽減させて早期胃癌ESD後追加外科切除患者と経過観察患者を比較しているが,その結果,追加外科切除は経過観察に比し胃癌死のリスクを1/3程度に減らすことが報告されている(ハザード比(95%信頼区間)=0.33(0.12-0.79))
15).したがって,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後に追加外科切除,経過観察のいずれを選択した際にも高いCSSは得られるものの,追加外科切除により胃癌死のリスクを1/3に減らすことが可能である.

Ⅵ 早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)で経過観察した際の転移再発様式と経過観察間隔
早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)の際に経過観察をした場合にも高いCSSが得られることは前項で述べたが,経過観察をして転移再発をした場合に救命が可能かどうかは非常に重要な問題である.これまでに多数例の報告はほとんどないため,確立した見解はないが,筆者らは,経過観察をして転移再発した場合に,CT上所属リンパ節転移再発で発見されたのは約21.4%であり,約78.6%の患者では遠隔転移再発にて発見されたことを報告している
13).さらに,滝沢らはCT上所属リンパ節転移再発した患者も含めて転移再発患者27名のうち救済手術が可能でその後長期生存が得られたのはわずか1名のみであったことを報告した
20).したがって,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)となり経過観察されて転移再発を来した場合には,ほぼ救命は不可能と思われ,もし内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後無治療経過観察を選択する際には「転移再発した場合には救命はほぼ不可能」であることを患者に十分に説明する必要がある.ただし,同研究では経過観察間隔が統一されていないことがlimitationであり,今後は経過観察間隔を統一しての同様の検討が必要と思われる.また,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)となり経過観察された場合の推奨経過観察間隔は現在のところないが,現段階では少なくとも6カ月ごとにはCT,上部消化管内視鏡にて経過観察をする必要があると思われる
16).
Ⅶ 早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)後追加外科切除例のリンパ節転移危険因子と経過観察例の転移再発危険因子
早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)後のリンパ節転移リスクについては,多変量解析を行った報告をTable 1に示す.これらのうち症例数が100例以上での検討は3つあり,Sunagawaらはリンパ管侵襲(同14.2),静脈侵襲(同4.00),平坦/隆起型(同4.63)と報告している
36).また,Suzukiらは追加外科手術例でのリンパ節転移危険因子としてSM浸潤で垂直断端陽性(VM(+))(オッズ比:3.6),脈管侵襲(同3.5)と述べている
37).筆者らは,1,101例の解析よりリンパ管侵襲(同3.99),静脈侵襲(同1.65),腫瘍径>30mm(同2.03),VM(+)(同1.81)がリンパ節転移の独立危険因子であり,SM2(同1.68)がリンパ節転移に関連する傾向を認めたことを報告した
12).報告によってオッズ比や独立危険因子に若干の差異があるが,これは評価因子や症例数の差異が影響しているものと思われる.
一方,早期胃癌ESD根治度C-2(非治癒切除)後の経過観察症例における転移再発危険因子の多変量解析での報告は2つのみであり,Suzukiらは脈管侵襲陽性(ハザード比:6.6)のみ
37),筆者らはリンパ管侵襲陽性(同5.23)のみが独立危険因子であったと報告した(Table 2)
13).
これらの結果から,脈管侵襲陽性がリンパ節転移や転移再発に最も強く関わっていることが明らかとなったが,それとともに脈管侵襲の中でもリンパ管侵襲と静脈侵襲では転移リスクが大きく異なり,リンパ管侵襲が圧倒的なリンパ節転移の危険因子となることが判明した.また,VM(+)となるようなSM深部浸潤もリンパ節転移のリスクとなる.ただし,いずれの検討も後方視的研究であり,さらに脈管侵襲の評価に免疫染色を必ずしも用いていない,あるいはこれについて言及されておらず,これらがlimitationとして挙げられる.前向き研究という点では現在多施設前向き研究(J-WEB/EGC)が行われており
49),その結果が期待される.
Ⅷ 早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)病変のリスクスコアリングシステム(eCura system)
12)
上述のように,早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)後の追加外科切除症例ではリンパ節転移を4-11%で認めるが
12),22),26),28),34)~38),43)~46),術前CTではリンパ節転移の90%を発見できなかったとの報告もある
28).したがって,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)となった際のCT所見はあくまで参考程度であることが言えるだろう.このため,早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)となった際には,主に過去のデータからリンパ節転移のリスクを判断していくことなるが,これまでは「内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)」としてリンパ節転移リスクが一括りにされてきた.そこで,筆者らは早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)病変のリンパ節転移リスクをさらに層別化するため,簡便なスコアリングシステム(eCura system)を作成した.eCura systemの作成にあたっては,早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後追加外科切除患者のリンパ節転移リスク因子に対してβ回帰係数の比較より点数の重みづけを行った(3点:リンパ管侵襲,1点:腫瘍径 >30mm・VM(+)・SM2・静脈侵襲,0点:未分化型・UL(+)).続いて,計7点のうち,0-1点を低リスク,2-4点を中リスク,5-7点を高リスクと定義し(eCura system)(Figure 2,文献12)より改変引用),追加外科切除患者における低・中・高リスク群のリンパ節転移率がそれぞれ2.5%,6.7%,22.7%であることを明らかにした
12).
リンパ節転移は早期胃癌における最も強い予後規定因子・転移再発危険因子であるため
50)~53),続いて早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後の経過観察患者に eCura systemを当てはめ,各リスク群における胃癌死リスク,転移再発リスクを検討することでeCura systemを検証した.その結果,低・中・高リスク群の5年CSSはそれぞれ99.6%,96.0%,90.1%,5年転移再発率はそれぞれ0.7%,6.1%,11.7%であり(Figure 2,文献12)より改変引用),低から高リスクになるにつれて胃癌死リスク,転移再発リスクが高くなることが明らかとなり,eCura systemの妥当性が検証された
12).
さらに,eCura systemを用いて早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後の追加外科切除症例と経過観察症例の予後を比較したところ,低リスク群ではほとんど差がなく(5年CSS:99.7% vs 99.6%),高リスク群では無治療経過観察することで有意に転移再発のリスクが高くなることが明らかとなった
16).
eCura systemは,特に今後超高齢化社会を迎える本邦において早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)の際の患者説明のみならず治療方針決定に有用な指標となると思われる.だが,いくつか注意すべき点もある.eCura systemは早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)病変の検討から作成されたシステムであり,初期治療の選択バイアス(indication issue)
41)の影響を排除することはできない.このため,術前に外科切除に回りやすい未分化型癌では選択バイアスの影響を受けやすく,eCura systemでは0点となっているものの過小評価されている可能性がある
16).したがって,現段階ではeCura systemは分化型癌を中心に用いることが望ましいと思われる.また,eCura systemは作成したコホート(追加外科切除患者)とは異なるコホート(無治療経過観察患者)で妥当性の検証が行われたが,あくまで同時期のコホート内における内的検証(internal validation)である
12).よって,今後eCura systemの妥当性をさらに検証するためには,前向き研究あるいは他のコホートでの外的検証(external validation)が必要だろう.
Ⅸ 早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)病変を有する高齢者における胃癌死リスク以外の評価の必要性
前述のように,実臨床では早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後の追加外科切除と経過観察患者の間にはCSSではその差異は小さいものの,OSでは大きな差異を認め,追加外科切除患者は経過観察患者に比しOSが高いことが報告されている
13).したがって,OSの差異には非胃癌死の差異も大きく関わっている.ガイドラインでは早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)後に原則として追加外科切除を推奨しているものの
2),10),患者によっては胃癌以外の生命予後も考慮しながら治療方針を決定する必要性が生じ,このOSの差異は臨床現場にて胃癌以外の生命予後を加味した治療選択がある程度行われていることを表している.この治療方針選択には年齢も関わっていると考えられるが
17),実際に,特に後期高齢者では個々人によって非胃癌死あるいは生活の質(quality of life:QOL)を考慮した治療が必要となることがある.その理由としては,後期高齢者は若年者に比し全身状態の個人差が大きく,同じ治療法であっても個人によっては過剰医療となることや逆に不十分な医療となることもありうるためである
54),55).本邦では,急速な高齢化とともに胃癌患者の年齢ピークも1990年の60-64歳から2012年には75-79歳と上昇しており
56),今後さらに胃癌患者が高齢化することが予測されている.したがって,後期高齢者の胃癌患者への対応の重要性が増してきている.
早期胃癌患者における高齢者の予後や治療選択の最適な指標を検索するために,これまでに米国麻酔学会の術前全身状態分類であるAmerican Society of Anesthesiologists’ Physical Status(ASA-PS)
57),58),基礎疾患の評価方法であるCharlson comorbidity index(CCI)
59),栄養指標のprognostic nutritional index(PNI)
60),末梢血中の好中球数とリンパ球数で算出される免疫状態の指標であるneutrophil to lymphocyte ratio(NLR)
61),62),CRPとアルブミン値を組み合わせたmodified Glasgow prognostic score(mGPS)
63),64)など様々なシステムが評価されてきた
29),40),65).だが,この中ではPNIがOSの独立した予後予測因子との報告
40)以外に有用な指標は報告されていない.また,最近では高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)も注目されている.スクリーニングツール(詳細なCGAが必要か否かを判別する比較的簡便なツール)としてはG8(Geriatric 8)
66)が最も感受性が高く
67),G8で「fit」と判定されたらCGAを行うは必要ない,との報告
67)や,G8を含む評価で「fit」「vulnerable」「frail」に分類して前立腺癌患者の治療方針を決定する,との報告
68)がある.また,CGAとしては癌患者を対象としたCancer-Specific Geriatric Assessment(CSGA)
69)などもあるが,複雑ですべて記載するのに時間と労力を要するところが難点である.このように様々な報告はあるものの,早期癌患者の治療選択の指標となるような生命予後を包括的に評価するシステムは未だ確立しているとは言えず,今後更なる検討が必要である.
一方,後期高齢者の早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)患者においては,追加外科切除を施行することによってのQOL低下の評価,合併症や死亡のリスクを評価することも重要である.早期胃癌内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)後の治療法選択におけるメリット,デメリットをTable 3にまとめた
70)~75).ESDと外科切除を比較した報告では,ESDでは胃が温存され生理運動が保たれることから良好なQOLが保たれることが示されている
71).胃切除に伴う手術関連死については,本邦の全国調査にて胃全摘術に伴う手術死亡率が2.3%と報告されており
74),オランダからはD2郭清,D1郭清での胃切除術ではそれぞれ手術死亡率が10%,4%であったと報告されている
75).また,全国調査データベースを用いたstage ⅠもしくはⅡ胃癌に対しての幽門側胃切除術の検討では,入院中死亡が腹腔鏡下手術,開腹手術でそれぞれ0.36%,0.59%,術後合併症がそれぞれ11.9%,15.6%であった,と報告されている(ともにその後PS matchingにて比較検討し,有意差なし)
72).一方で,外科切除を行わないことでの癌再発の不安を患者が常に持ち続けること
70)も治療選択する際には加味する必要がある.したがって,今後は胃癌死以外にも身体機能評価,認知機能評価,併存疾患評価,栄養評価,患者の死生観も含めた総合的評価から,早期胃癌患者における生命予後予測システム,さらにはQOL低下との関連を評価するスコアリングシステムを構築していく必要がある.
Ⅹ おわりに
本項では,早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)に関する最新の知見と今後の展望について述べた.最近の研究からは,ガイドラインによる早期胃癌ESD/EMR根治度C-2(非治癒切除)後の追加外科切除の推奨にも関わらず半数近くの患者が経過観察を選択していることが明らかとなり,このような病変に対するリスク層別化システムが確立された.胃癌患者の超高齢化が目前に迫っているわが国では個人差を考慮した個別化医療の確立が必要である.したがって,病変側の因子のみならず患者側因子も加味した生命予後全体を予測するシステムの確立が必要であり,今後の更なる研究が待たれる.
謝辞
本総説で記載した結果に多大なるご貢献を頂きましたEAST study groupの先生方(小野裕之先生・滝沢耕平先生・川田登先生(静岡県立静岡がんセンター),高橋亜紀子先生(佐久総合病院佐久医療センター),吉福良公先生(広島大学病院),布袋屋修先生(虎の門病院),中川昌浩先生・宮原孝治先生・中村耕樹先生(広島市立広島市民病院),平野正明先生(新潟県立中央病院),江崎充先生(北九州市立医療センター),松田充先生(富山県立中央病院),大仁田賢先生(長崎大学),下田良先生・山内康平先生(佐賀大学医学部附属病院),美登路昭先生・吉田太之先生(奈良県立医科大学),土肥統先生(京都府立医科大学),髙田淳先生(岐阜大学),田中景子先生(信州大学医学部附属病院),山田真也先生(京都第一赤十字病院),辻剛俊先生(市立秋田総合病院),伊藤博敬先生(大崎市民病院),青柳裕之先生・林宣明先生(福井県立病院),鈴木翔先生(日本大学))にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:後藤田卓志(由利本荘市,にかほ市)
文 献
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