日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
超音波内視鏡下穿刺吸引組織診が診断に有用であった腸間膜原発と考えられた神経内分泌腫瘍の1例
石井 清文 大部 誠道叶川 直哉三根 毅士藤本 竜也吉田 有駒 嘉宏藤森 基次畦元 亮作井上 泰
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2018 年 60 巻 7 号 p. 1323-1330

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要旨

症例は61歳男性.高血圧,痛風,糖尿病で代謝内科に通院治療中,膵嚢胞性病変の評価目的に当科へ紹介となった.精査のために行った造影CT検査で偶発的に下腹部の腸間膜に45mmの境界明瞭な充実性腫瘤と腹部大動脈脇に多発するリンパ節腫大を認めた.FDG-PET/CTでは同腫瘤とリンパ節及び,左大腿骨と第3腰椎に異常集積を認めた.組織学的診断のため腹腔内腫瘤に対して超音波内視鏡下穿刺吸引組織診を施行し,病理診断の結果から神経内分泌腫瘍と診断された.ソマトスタチン受容体シンチグラフィーを施行し他臓器に原発病変は認めなかった.腸間膜原発神経内分泌腫瘍は稀であり,その診断に超音波内視鏡下穿刺吸引組織診が有用であったため報告する.

Ⅰ 緒  言

神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)の好発部位は,消化器原発が約70%と最も多く,次いで肺・気管支20%,胸腺・縦隔6%,卵巣2%の順 1であり,腸間膜原発NETは極めて稀である.今回,われわれは超音波内視鏡下穿刺吸引組織診(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration:EUS-FNA)が診断に有用であった腸間膜原発と考えられたNETの1例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:61歳,男性.

主訴:なし.

既往歴:高血圧,痛風,糖尿病で代謝内科に通院治療中.悪性疾患の既往なし.

家族歴:姉:肝臓癌 母:膵臓癌.

飲酒歴:20歳から現在まで日本酒3合/日.

喫煙歴:20歳から58歳まで20本/日.

内服薬:テルミサルタン40mg アロプリノール100mg シタグリプチン50mg.

現病歴:高血圧,痛風,糖尿病で糖尿病・内分泌・代謝内科に通院治療中.2年前にスクリーニングで施行した腹部超音波検査で膵体部に10mm大の膵嚢胞性病変を指摘されていた.今回,糖尿病・内分泌・代謝内科より膵嚢胞性病変の評価目的に当科へ紹介され受診した.

現症:身長169cm,体重60kg,体温36.3℃,血圧143/87mmHg,脈拍62/min,漏斗胸あり.腹部に圧痛を認めず,腫瘤は触知しなかった.

臨床検査成績:Cre 1.18mg,HbA1c 6.6%と軽度上昇を認めた.CEA 1.8ng/ml,CA19-9 5.2U/ml,可溶性IL-2レセプター639U/ml.その他,特記すべき異常は認めなかった.

腹部超音波検査所見:膵臓に10mm大の嚢胞性病変を複数と左水腎症を認めた.

造影CT検査所見:膵実質は全体に萎縮し,小石灰化巣が膵頭部から尾部まで散在していた.膵頭部から尾部にかけて小嚢胞を多数認め,最大のものは膵鉤部の20mmであった.左尿管に9mm大の石灰化結石を認め同部より上流の尿管と腎盂の拡張を認めた.総腸骨動脈分岐部腹側に,内部に点状石灰化を伴う45mmの分葉状の腫瘤を認めた(Figure 1).腫瘤は周囲の小腸とは連続性を認めなかった.また,腹部大動脈周囲に腫大したリンパ節を多数認めた(Figure 2).他の臓器に明らかな腫瘤像は認めなかった.

Figure 1 

造影CT検査(a 冠状断,b 水平断):下腹部の小腸間膜内に造影効果のある45mmの分葉状の腫瘤を認めた(矢印).周囲小腸との連続性は認めなかった.膵鉤部に嚢胞性病変を認めた(矢頭).

Figure 2 

造影CT検査(水平断):腹部大動脈周囲に腫大したリンパ節を複数認めた(矢頭).膵鉤部に嚢胞性病変を認めた(矢印).

以上から,膵嚢胞,左尿管結石による水腎症と診断し,さらに膵嚢胞はIPMNまたは慢性膵炎に伴う貯留性嚢胞を鑑別に挙げた.一方,偶然発見された腹腔内腫瘤と多発リンパ節腫大は,転移性または原発性腫瘍を考慮し,内視鏡検査とFDG-PET/CT検査を追加する方針とした.その結果,上・下部消化管内視鏡検査では,明らかな腫瘍性病変は認めなかった.FDG-PET/CTで下腹部の腸間膜に45mmほどの境界明瞭でFDG集積(SUVmax=3.697)を伴う充実性腫瘤を認めた.また,上腸間膜動脈根部右側および腹部傍大動脈領域に集積を伴うリンパ節腫大が散在していた.左大腿骨骨幹部と第3腰椎椎体にも異常集積を認めた.

以上から,腹部腫瘤の原因として悪性リンパ腫,間葉系腫瘍やデスモイド,キャッスルマン病などが鑑別に挙がった.病理組織学的な確定診断を得るため,EUS-FNAを施行した.

超音波内視鏡検査所見:下十二指腸角から腫瘤は描出可能であった.腫瘤は境界明瞭な45mm大の低エコー腫瘤で内部に点状の石灰化を伴う病変として描出された.同病変に対してEcho Tip Ultra 19G針(Cook Japan社)でEUS-FNAを施行した(Figure 3).

Figure 3 

EUS-FNA所見:腹腔内腫瘤はEUSで低エコー腫瘤として描出された.同腫瘤に対して19G針で経十二指腸的にEUS-FNAを施行した.

病理組織学的所見(Figure 4):線維性間質を背景に異型細胞が索状・リボン状・小胞巣状に増殖していた.免疫染色の結果,Synaptophysin陽性,Chromogranin A陽性,CD56陽性,Ki-67 labeling index=5%であり病理学的にNET G2と診断された.

Figure 4 

EUS-FNA検体の病理組織所見.

a :HE染色:線維性間質を背景に異型細胞が索状・リボン状・小胞巣状に増殖していた.

b :免疫染色:Synaptophysin陽性.

c :免疫染色:Ki-67 labeling index 5%.

病理学的診断後にソマトスタチン受容体シンチグラフィー(somatostatin receptor scintigraphy:SRS)とカプセル内視鏡検査を施行した.

SRS所見(Figure 5):FDG-PET/CTで集積を認めた腸間膜腫瘤及び腹部大動脈周囲リンパ節,大腿骨及び腰椎椎体に加えて,その他に上腕骨や頭蓋底などに多発性の異常集積を認めた.

Figure5 

ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SPECT/CT,24時間後).

a:冠状断:腸間膜腫瘤に異常集積を認めた(矢印).

b:冠状断:左大腿骨(矢頭)及び第3腰椎(矢印)に異常集積を認めた.

カプセル内視鏡検査所見:小腸内に原発巣を示唆する粘膜下腫瘍は認めなかった.

以上の結果より腸間膜原発の神経内分泌腫瘍とリンパ節転移,骨転移と診断しSRSで集積を認めたことから,治療はソマトスタチンアナログを選択し,現在生存中である.

Ⅲ 考  察

腸間膜は発生学的には後腹膜と同一の中胚葉の体腔上皮から発生したものであり組織学的には様々な腫瘍が発生する.腸間膜に発生する腫瘍は原発性と,他臓器からの転移による続発性に大別されるが,その多くは転移性とされる.過去の報告では原発性腸間膜腫瘍は稀な疾患とされ,開腹手術に占める割合は後腹膜腫瘍と合わせて下山ら 2は0.8% ,松下ら 3は0.1%と報告している.原発性腸間膜腫瘍について文献的に本邦167例と諸外国265例を検討した山本ら 4の報告では良性例と悪性例が約半分ずつであり,良性腫瘍では線維腫,脂肪腫,リンパ管腫,血管腫の順に多く,悪性腫瘍では9割を肉腫が占めていた.

文献的には腸間膜原発のNETの報告例は少なく,医学中央雑誌で会議録を除き1971年から2017年まで検索(key word:「神経内分泌腫瘍」「カルチノイド」「腸間膜」)またはPubMedで検索(key word:「primary」「mesentery」「neuroendocrine tumor」「carcinoid」)した範囲ではこれまで15例が報告 5)~19されていた(Table 1).経皮的超音波ガイド下生検やCTガイド下生検にて術前に診断された報告例は認めたが,これまでEUS-FNAにより診断された例はなかった.術前診断は困難であり診断がつかぬまま外科切除が行われることが多く,術前後の諸検査や術中の小腸触診所見などから除外診断で腸間膜原発と診断されていた.

Table 1 

腸間膜原発神経内分泌腫瘍の報告例.

腸間膜にNETを認めた場合は小腸からの転移性病変である可能性を疑い小腸病変の有無を検索することが重要である.小腸NETは原発巣の腫瘍径が小さい場合でもリンパ節転移を起こすリスクが高いことが知られており,Sogaら 20の報告によると粘膜下層までの浸潤にとどまる94例の小腸カルチノイドのうち37.2%に転移を伴っており,腫瘍径5mm以下で17.2%,10mm以下で30.2%,20mm以下で34.2%,20mmより大きいものでは53.3%が転移を有していた.また,腫瘍径は原発巣よりもリンパ節転移巣が大きい場合もあり,転移リンパ節が腹腔内腫瘤として発見され小腸NETの診断の契機となった例 21も散見される.各種診断法のうち, NETは粘膜下層に浸潤増殖するため内視鏡下に生検をしても確定診断が得られない場合もあり,特に小腸では内視鏡検査が困難であったことから過去の報告では小腸NETの術前正診率は4.8%と非常に低い 1.近年ではカプセル内視鏡やバルーン内視鏡が小腸疾患の診断に用いられるようになったが,NET診断の有用性に関する報告は少ない.過去の報告では小腸NET症例におけるカプセル内視鏡の診断率は45~72%,ダブルバルーン内視鏡の診断率は33~80%とされ,どちらの検査もほぼ同等の診断能を有すると考えられている 22.感度や特異度を含めた成績に関する報告は極めて少ないが,Furnariら 23は肝転移を有する原発不明NET症例を対象に,全例で開腹手術所見をgold standardとしてカプセル内視鏡検査の術前診断能を検討し,感度75%,特異度37.5%,陽性的中率55%,陰性的中率60%と報告した.高い偽陽性率の一因として,被検者の病歴を読影者に盲検化しなかったことが小腸の収縮や壁外性圧排像を陽性所見と誤認させる結果につながったと推測されている.一方,1cm未満の病変,小腸の通過が速い,カメラの向きが対象病変に向いていないなどが主な偽陰性となった理由とされる.診断能は期待される程に高くはなくルーチンで行う必要性は低いが,他の検査で原発巣が判明しない場合はカプセル内視鏡を行うことで追加情報が得られる場合がある.European NET Society(ENETS)のガイドドライン 24は原発巣不明の転移性NETに対してカプセル内視鏡を行うことを提案している.一方で,カプセル内視鏡の限界としては生検やマーキングなどの処置が行えない点,粘膜表面に異常所見を認めない隆起は写真のみで粘膜下腫瘍との鑑別は困難である点,小腸に腫瘍が存在する場合はカプセル滞留の危険性が高い点などが挙げられる.今回,自験例ではCT画像で小腸に腫瘍や狭窄を示唆する所見はなくパテンシーカプセルは使用しなかった.

欧米ではNETの局在診断にSRSが広く用いられており,小腸NETの検出率は75%以上といわれている 25.SRSは局在診断だけでなくソマトスタチン製剤に対する治療反応性の予測因子ともなる有用な検査であり,本邦でも2016年1月よりインジウム111標識ペンテトレオチドを用いたSRSが保険適応となった.海外ではさらに感度・特異度に優れるソマトスタチン受容体PET/CTである68Ga-DOTATOC PET/CTが行われている.

切除不能NETの薬物治療は病理組織学的分類に基づき治療が異なるためその方針決定には組織採取が不可欠である.自験例では発見時に遠隔転移を認め根治的切除の対象とならない腹腔内腫瘍であったが,経十二指腸的なEUS-FNAにより組織採取を行うことで開腹生検を避け低侵襲に診断可能であった.EUS-FNAの可否の目安として総腸骨動脈分岐部までの病変は上部消化管ルートから穿刺可能とされる 26.また,一般的に穿刺針が太いほど採取できる検体量は多くなり免疫染色を含めた組織診断が可能となる.自験例では悪性リンパ腫を鑑別疾患に挙げていたため19G針を使用した.

本症例ではすでに骨転移を認めていたことから根治切除不能であり,本人の検査希望がなかったため小腸バルーン内視鏡検査は施行していないが,カプセル内視鏡では小腸内に腫瘍性病変を認めなかった.またFDG-PET/CTとSRSで腸間膜腫瘤やリンパ節,骨には異常集積を認めたが小腸内を含めて他臓器に異常集積を認めなかった.診断後20カ月間が経過したが現在まで小腸を含めて消化管内に病変の出現を認めていない.以上の結果は本症例が腸間膜原発の神経内分泌腫瘍と考えることに矛盾はない.根治的切除不能である腸間膜原発NETの治療方針は定まっていないが,SRSで異常集積を認めたことから治療は消化管NET G2に準じてオクトレオチドを選択した.

Ⅳ 結  語

非常に稀な腸間膜原発の神経内分泌腫瘍の1例を経験した.腹腔内腫瘤を認めた場合,神経内分泌腫瘍も鑑別疾患として考慮する必要があり,EUS-FNAを行うことで低侵襲に組織学的診断が可能であった.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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