2018 年 60 巻 7 号 p. 1346-1352
大腸カプセル内視鏡が臨床現場に登場して4年が経過した.精度の高い検査であることは多くの研究で実証されているが,解決すべき諸課題もいくつか残っており,下剤の服用方法をはじめとして,各施設がより良い方法に向けて模索している段階である.本稿ではまず,大腸カプセル内視鏡の準備について述べ,次にその腸管前処置とブースターについて当院の工夫を紹介する.最後に3ステップ方式の読影方法(プレビュー・レビュー・レポート)について私たちが行っている方法を紹介する.
大腸カプセル内視鏡が臨床現場に登場して4年が経過した.精度の高い検査であることは多くの研究で実証 1)~4)されているが,解決すべき諸課題もいくつか残っており,下剤の服用方法 5)をはじめとして,各施設がより良い方法に向けて模索している段階である.本項では下剤の服用方法を含めた大腸カプセル内視鏡の様々な手技について,当院で実践している工夫や取り組みについて紹介する.
PillCamTM COLON 2の患者情報登録は専用ワークステーション:RAPID 8で行う.患者氏名,ID番号,性別,生年月日,検査理由などの諸情報を入力する.
(2)センサーアレイの貼付大腸カプセル内視鏡服用前にFigure 1のようにセンサーアレイを腹部に8カ所貼付する.センサーアレイのBとEは貼付部位が小腸カプセルと異なる.Bは右臀筋上部中央に,Eは恥骨上部に図のようにそれぞれ貼付する.また,コードがループ状になったアンテナをFigure 1のように左肩にかける.その後,データレコーダーDR3に接続する.
センサーアレイ貼付部位(コビディエン株式会社よる提供).
センサーアレイを腹部に8カ所貼付する.BとEの貼付部位が小腸カプセルと異なる.Bは右臀筋上部中央に,Eは恥骨上部にそれぞれ図のように貼付する.また,コードがループ状になったアンテナを図のように左肩にかける.
大腸カプセル内視鏡を保護ケースから取り出す.取り出すと自動的に点滅し,このカプセル内視鏡をデータレコーダーDR3に認識させる(ペアリング).認識させると液晶モニターの右上に表示されるクリップの絵が赤色から緑色に変わり撮影が開始される.クリップの絵が赤色から緑色に変化したことを確認し大腸カプセル内視鏡を嚥下させる.私たちはリアルタイムビューアーで画像を見ながらカプセルを服用させている.咽頭部から食道を通過し胃に到達する一連の流れを見ることで,きちんと嚥下出来たことが確認できる.
大腸カプセル内視鏡の際には下剤の服用が欠かせない.その下剤には次の2つが必要である.1つ目は大腸カプセル内視鏡服用前にその画像視認性を高めるために行う腸管洗浄としての下剤,2つ目は大腸カプセル内視鏡服用後の後押し(ブースター)として用いる下剤である.便汁で混濁した腸液で満たされる腸管内では,たとえそこに病変があったとしても画像でそれをとらえることは出来ない.また,途中でバッテリーが終了した場合には,そこから肛門側は観察できない.大腸カプセル内視鏡服用前の下剤で良好な腸管洗浄度を確保し,かつ大腸カプセル内視鏡服用後の下剤でバッテリー時間内にカプセルを体外に排出させることが重要となってくる.
現在,多くの施設で良好な腸管洗浄度と高い排出率が確保できる前提での,下剤服用量の減量に向けた様々な取り組みがなされている.以下,私たちの下剤服用方法の取り組みを紹介する.
(1)腸管前処置検査前日は低残渣食あるいは検査食(コロミル®(堀井薬品工業株式会社))を勧めている.夕食2時間程度経過後からクエン酸マグネシウム(マグコロール®P)高張液50g/180mlを服用してもらい,就寝時にはセンノシド(プルセニド®)2錠を服用してもらう(Table 1).そのほか,私たちが実践している工夫や取り組みを,吹き出しのコメントとして書き加えた(Table 2,3).
当施設で行っている腸管前処置とブースター.
検査前日の腸管前処置についての私たちの工夫.
検査当日の腸管前処置とブースターについての私たちの工夫.
検査当日は禁食とし,早朝に起床していただき,自宅でアスコルビン酸配合ポリエチレングリコール含有電解質溶液(モビプレップ®配合内用剤)1Lを服用していただく+水分0.5L以上の飲水).あらかた排便がなくなったら,残りのモビプレップを持参のうえ来院していただく.受診者は排便状況を内視鏡専属看護師にチェックしてもらい,大腸カプセル内視鏡検査を開始する.もし,排便状況が良好でなければ下剤を追加し,排便状況が完全にクリアーな状態になったのを確認後にカプセル内視鏡検査を開始する.
(2)ブースター大腸カプセル内視鏡は大腸を観察するためのカプセルである.そのため,服用したカプセル内視鏡をバッテリー時間内に,大腸に到達させて,大腸内を進ませ,大腸から体外に排出させる必要がある.そのため,カプセル服用後に,そのカプセル内視鏡を後押ししてやるための下剤としてブースターが必要となる.このブースターがバッテリー時間内のカプセル排出に大きく影響する.このバッテリー時間内の排出率が大腸がん発見に大きく影響することが証明されており 6),今後の取り組みに期待がかかるところである.
これまでブースターは1と2に分けて行うことが一般的であった.しかし,当施設では一括で服用する方がより相乗効果が期待出来ると考え,Table 1のように行っている.服用量のスピードが排出率に影響する,との報告 7)もなされている.
細かい工夫として消泡剤としてのジメチコン(ガスコン®)の使用や検査前の粘液除去剤としてのプロナーゼ®水服用なども洗浄度を良好にさせる.さらに,モサプリド(ガスモチン®)はカプセルが消化管をスムーズに進む重要な役目を果たしてくれる.
歩行や運動も重要である.小腸カプセル内視鏡でも運動や歩行を組み込んだ方がカプセルは速く進む.私たちは大腸カプセル内視鏡に際し適宜歩行することでバッテリー時間内排出率が60%(31/52)から88%(7/8)に向上することを明らかにした 8).受診者の負担にならない範囲内で取り入れるべきであろう.その他の詳細についてはTable 3を参照されたい.
さらに,近年,ヒマシ油を用いることで排出率が向上することが報告された.Hottaは 9)ブースター等にヒマシ油を混ぜることでバッテリー時間内排出率が63%(46/73)から100%(20/20)に向上したことを報告した.当施設も導入を予定している.また,Nakamuraらは腹部用手圧迫を加えることで排出率が65%(13/20)から87%(36/41)に向上することを示した 10).実臨床に取り入れたい手技である.
大腸は小腸に比べ管腔が広く,ひだの丈が高い.大腸カプセルはその両端にカメラを備えることで,ひだ裏の死角を避ける工夫がなされている.この技術により大腸カプセルの病変発見率は実際に大きく向上している 11).一方,両方の画像を読まなくてはならないため,読影の負担は小腸カプセルに比べ大きい.
大腸カプセル内視鏡で推奨されている読影方法は,プレビュー・レビュー・レポートの3ステップ方式である(Figure 2).以下,順に説明する.
大腸カプセル内視鏡で推奨されている読影方法:大腸カプセル内視鏡で推奨されている読影方法,プレビュー・レビュー・レポートの3ステップ方式で読影を行っていく.
最初に4つのランドマーク(最初の盲腸画像,肝彎曲部の画像,脾彎曲部の画像,最後の直腸画像)を特定し位置決めを行う.私たちは最初の盲腸画像と最後の直腸画像の入力後に,RAPIDソフトウエアの肝彎曲および脾彎曲の提案機能を活用している.この提案機能を活用することで一連の読影時間を短縮させることができる.私たちは,もし,(2)のレビューで,肝彎曲や脾彎曲の近傍で病変が発見された場合には,あらためて肝彎曲や脾彎曲の正確な場所決めを行うようにしている.
解剖学的ランドマークが特定できると,次に各区域の洗浄度を評価する(Table 4).洗浄度は得られた画像で6mm以上のポリープが見つけられるレベルか否かで,Adequate(十分にきれいな状態)かInadequate(十分にきれいとはいえない状態)に2分される.前者はさらにExcellent(ほんのわずかな量の便の付着しかない状態)あるいはGood(少量の便や濁った液体はあるが検査を妨げるほどではない状態)に,後者はFair(完全に信頼性のある検査の実施を妨げる量の便や濁った液体がある)あるいはPoor(大量の便がある)に分けられる.大腸の各部位で洗浄度を評価し,最後に大腸全体での洗浄度も総合的に評価する.
腸管洗浄度の評価基準:各部位(盲腸,上行結腸,横行結腸,下行~S状結腸,直腸)の洗浄度を評価し,次に全体評価を行う.
なお,私たちは解剖学的ランドマークの特定と腸管洗浄度の評価は,読影スピードを最速にして行っている.プレビューは出来るだけ短時間で済ませ,メインであるレビュー読影に時間をかけたい.
(2)レビュー本読影に相当する.ここで病変と思われる所見のサムネール付けを行っている.
前述の通り,大腸カプセル内視鏡はその両端にカメラを有しているため,それらの読影は別々に行っていかねばならない(Figure 3).まずは,グリーンヘッドのボタンを押し,こちらに記録されている最初の盲腸画像から最後の直腸画像まで丁寧に観察し,サムネール付けをしていく.次に,イエローヘッドのボタンを押し,同様に最初の盲腸画像から最後の直腸画像まで丁寧に観察し,サムネール付けをしていく.同一病変に対し複数のサムネール付けをするように心がける.
レビューの実際.
a:大腸カプセル内視鏡はその両端にカメラを有しているため,それらの読影は別々に行っていかねばならない.まずは,グリーンヘッドのボタンを押し,こちらに記録されている最初の盲腸画像から最後の直腸画像まで丁寧に観察し,サムネール付けをしていく.
b:次にイエローヘッドのボタンを押し,同様に最初の盲腸画像から最後の直腸画像まで丁寧に観察し,サムネール付けをしていく.
レビュー読影のスピードは8 frame per second(fps)を超えないように注意する.フレームレート調整機能は作動していても,描出される病変の画像枚数が少なくなることもあり,その場合は見逃しにつながるリスクが高くなるので注意が必要である 12).画像の展開スピードに応じて適宜読影スピードを落としたり,マウス中央のホイールを操作し手動で画面をスクロールさせたりしながら読影することが肝要となってくる.
(3)レポートここで最終的に読影レポートを完成させる.
カプセル内視鏡は大腸内で行ったり来たりすることがあるため,撮影された病変が同一のものか別のものかの判定が必要である.その指標として病変部位,病変サイズ,肉眼型などが参考となる.なお,病変サイズの測定にPSE(polyp size estimation)機能を活用できる.サイズの測定では1回のみで判断せず,サムネール付けした複数枚の画像で何度も計測し,最大径のものをその病変のサイズとして確定させる.
本項では下剤の服用方法を含めた大腸カプセル内視鏡の様々な手技について,当院で実践している工夫や取り組みについて紹介した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし