日本消化器内視鏡学会雑誌
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ガイドライン
消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン
岩切 龍一田中 聖人後藤田 卓志岡 志郎大塚 隆生坂田 資尚千葉 俊美樋口 和秀増山 仁徳野崎 良一松田 浩二下野 信行藤本 一眞田尻 久雄
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2018 年 60 巻 7 号 p. 1370-1396

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要旨

日本消化器内視鏡学会は,内視鏡診療ガイドライン作成作業の一環として,消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドラインを作成した.本邦と欧米先進国では消化器内視鏡医療の環境が異なる.欧米先進国では消化器内視鏡の施行は,ほぼ専門施設に限られ,厳格な洗浄・消毒の既定が遵守されている.本邦では小規模クリニックでも消化器内視鏡が行われ,年間に行われる消化器内視鏡数は膨大な数になる.内視鏡の洗浄・消毒法も医療機関によって差が認められるのも事実である.洗浄・消毒に関しての根拠は,エビデンスが乏しいのも事実であるが,内視鏡医療の発展のためにも消化器内視鏡の洗浄・消毒の標準化が必要である.

[1]序

消化器医療の中でも消化器内視鏡診療は飛躍的に発展し重要性を増している.当初,診断のみに使用されていたが,近年は様々な治療にも応用され,国民が内視鏡診療を受ける機会は非常に多くなっている.欧米では,消化器内視鏡・治療を行う施設は,ほぼ中規模以上の専門施設に限られており,本邦に比べ施行数は著しく少ない.しかしながら欧米では1970年代から消化器内視鏡を介した感染事故が報告されている 1),2.感染危険の認識の高まりにより1980年代から洗浄・消毒ガイドラインが策定されてきた 3),4.最近では,米国,欧州ともに内視鏡洗浄・消毒や内視鏡培養検査・消毒薬・機器の培養検査等に関してさらに詳細かつ厳格なガイドラインが策定され,遵守しなかった場合の罰則規定も設けられている 5)~8.このように厳しいガイドラインの下での診療であるにも関わらず,内視鏡後の感染事故は完全には防げていないのも事実である 9

本邦でも1980年代になり消化器内視鏡後のB型肝炎感染や急性胃粘膜病変(AGML)発症が報告された 10),11.消化器内視鏡後AGMLに関しては,その後Helicobacter pyloriH. pylori)感染が原因と特定されている 12.本邦では欧米先進国と消化器内視鏡医療の環境が異なり,小規模クリニックでも約3万施設(病院30%,クリニック70%)で消化器内視鏡・治療が行われており,年間に行われる件数は約1,700万件にも達する 13.しかし,2015年9月時点で病院機能評価認定病院は8%,日本消化器内視鏡学会認定内視鏡技師勤務施設は7%にすぎない.これまで「消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン」などの制定に加え 14,日本消化器内視鏡技師会やメーカー主催の内視鏡機器取扱い講習が全国各地で開催されてきたが,結果的にこれらの啓発が行き届いていない施設も多いと推定される.啓発が行き届かない施設では,適切ではない洗浄・消毒方法での運用や,単回使用医療機器を再使用する事例が報告されている.2015年8月には,厚生労働省医政局より『単回使用医療機器(医療用具)の取り扱い等の再周知について』の通知が出され,米国での内視鏡感染事故が報道されるなど,感染管理に関する関心は高まっている 9),15.幸い,本邦では,欧米ほど耐性菌が市中に広まっていないが,いずれ状況は変化すると思われるので,内視鏡洗浄・消毒のさらなる厳格化は必要である.一方で,感染管理は,安全と効率のバランスを保ちながら質を向上させていく必要がある.欧米に準じた理想的な洗浄・消毒をただちに本邦の内視鏡施行施設に課すことは困難であるが,日本の感染管理レベルの正確な把握,他国ガイドラインとの比較,エビデンス作り,洗浄・消毒の保険点数化など,世の中のニーズと施設義務のバランスを考慮し,他機関と連携しながら,段階的に改定していく必要がある.本ガイドラインでは,本邦の現状を踏まえつつ,専門医療施設だけでなく,その他多くを占める一般のクリニックでも最低限遵守すべき消化器内視鏡の洗浄・消毒について記載した.今後,本ガイドラインを基に本邦の実情に則して改訂されていくことを期待する.

[2]ガイドライン作成の経過

本ガイドラインでは,欧米および過去の本邦のガイドラインを参考にして,患者,医療従事者に内視鏡診療による感染事故や薬剤曝露被害を防ぐための必須事項として,1.医療器具分類・医療器具管理の原則を取り上げた.さらに内視鏡洗浄・消毒に関して,2.日本の現状と世界との比較をした.本邦の現状に照らし,実際の内視鏡洗浄・消毒の具体的指針として,3.用手洗浄の重要性と達成のコツ,4.洗浄消毒機の重要性と使用方法・各消毒薬の特徴,5.処置具の再生処理とディスポーザブル製品の推奨,を取り上げた.それぞれの項目について必要なCQを作成し,ステートメントを作成委員が作成し,評価委員により合意が得られたステートメントが採用された.ステートメントを分かりやすくするため,消化器内視鏡再処理の簡潔な流れとステートメントとの対応をFigure 1のフローチャートに示した.

Figure 1 

内視鏡再処理のフローチャート(ステートメント1-1,1-4).

[3]ガイドラインの評価

今回,提唱したステートメントに対しては,Table 1に示す作成委員,評価委員により,修正Delphi法による投票を行った 1)~3.Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,とした.投票は2017年7月17日(月)に日本消化器内視鏡学会の事務局でコンセンサス会議を開催して行った.コンセンサス会議では予め作成されていたステートメントを最終的に確認修正し,予備投票を行った.十分に議論した後にDelphi法にて合意の水準に達したものを最終ステートメントとして本ガイドラインに記載した.いずれのステートメントも感染防止の観点から重要であるが,既にルールとなっているためにRCTを行わない項目が多く,エビデンスレベルとしては低いものがほとんどであるため,今回のガイドラインではエビデンスレベルの記載は行わなかった.推奨度の評価は強く推奨する(推奨度:1),弱く推奨する(提案する)(推奨度:2)か,明確な推奨ができない,もしくは推奨の強さを決められない(推奨度:3)かに関して作成委員と評価委員の合計12名による投票で判定し,その結果を本ガイドラインに記載した.完成したガイドライン案は学会会員に公開され,パブリックコメントを求めたうえで,その結果に関する議論を経て本ガイドラインは完成した.

Table 1 

消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン作成委員会構成メンバー.

[4]消化器内視鏡洗浄・消毒にかかるコスト

ここまで,消化器内視鏡に関する洗浄・消毒についてガイドライン作成の意義を述べたが,安全にはコストが発生することも事実である.世界の標準では消化器内視鏡施行時の洗浄・消毒は高水準消毒が推奨されている.そのためには,ベッドサイド洗浄・用手洗浄時の酵素系洗剤の使用,自動洗浄における高水準消毒薬として過酢酸消毒薬もしくはフタラールかグルタラールが必要である.酵素系洗剤の定価は10,500円,機器内で使用するアルカリ洗浄薬は2,500円,過酢酸消毒薬は13,000円(それぞれ消費税別)であり,約30件の洗浄・消毒が可能とすると消化器内視鏡1回(1本)当たり約900円となる.フタラール,グルタラール洗浄でも同等の費用が必要である.さらに,実際に運用するには,内視鏡自動洗浄機の購入費用とメンテナンス費用,内視鏡チャンネル用のブラシ,洗浄・消毒に携わる者の防護品としてガウン,グローブなどの消耗品費用,洗浄・消毒に携わる専門職員の人件費が必要である.これらすべてを含めると消化器内視鏡1回に約2,800円のコストが掛かることが試算されている.

ところが本邦では,上記の安全に関するコストは上部消化器内視鏡の診療報酬(1,140点),下部消化器内視鏡の診療報酬(1,550点)に含まれ施設の負担となっている.米国でも,患者に対して適切かつ安全な医療機器を使用する義務はすべて施設にあり,安全に関する費用の請求は患者にはできないことになっている.しかし,消化器内視鏡1回当たりの費用がhospital feeとdoctor’s feeを合わせて日本の数十倍であることを考えると,hospital feeに安全対策費用が包括されているといえる.最近,消化器内視鏡1回当たりの費用が低額な韓国では,内視鏡の再処理に対して国から12~13米ドルの支払いが行われるようになった.

一方で,広く普及している酸性電解水による消毒は高水準消毒と比較して極めて低コストであるが,日本独自の基準によって使用されている.診療報酬算定(平成28年4月)の内視鏡検査に関わる共通事項に留意事項として「関係する学会の消化器内視鏡に関するガイドラインを参考に消化器内視鏡の洗浄・消毒を実施していることが望ましい.」と記載されている.胃がん検診に消化器内視鏡が導入され健常者に対する検査が普及していく今こそ,患者の安全性を考慮した感染対策のために費用の負担を誰がどの程度するかを真摯に検討することは喫緊の課題である.

[5]ステートメント

1.医療器具分類・医療器具管理の原則

ステートメント1-1

軟性内視鏡の消毒レベルは,Spauldingの医療器具分類に従って,処理することが合理的である 1)~3.軟性内視鏡はsemi-critical器具に分類され,滅菌または高水準消毒が推奨されている.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

適正な再生処理の機器分類に関しては,滅菌・消毒においてSpaulding分類が広く用いられている 1)~3.これはSpaulding分類が合理的で分かりやすいため,提案した米国だけでなく,本邦や欧州でも感染管理の基本的な考え方になっている.

消化器内視鏡すなわち軟性内視鏡においてもSpaulding分類に準じて洗浄・消毒を行うべきである.

無菌の組織や血管に挿入するものとして,手術用器具,循環器または尿路カテーテル,移植埋め込み器具,針などはcriticalに分類され,滅菌が必要とされている.一方,軟性内視鏡は,粘膜または健常でない皮膚に接触するものとして呼吸器系療法の器具や麻酔器具,喉頭鏡,気管内挿管チューブと同様にsemi-criticalに分類され,芽胞以外の病原体の殺滅を目的として,滅菌または高水準消毒が推奨されている.

ステートメント1-2

局注針や生検鉗子など無菌の組織や血管内に使用するものは,critical器具に分類され 1)~3,感染リスクとしては高リスクに分類されるため,滅菌またはディスポーザブル製品の使用が必要である.

Delphi法による評価 中央値:9  最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

Spaulding分類では,血液に触れる可能性のあるものは,芽胞を含む病原体の殺滅効果を得る必要があるとされている 1)~3

無菌組織内に直接進入する生検鉗子,細胞診用ブラシ,ポリペクトミースネア,消化管治療用ナイフ,ERCP用カテーテル,十二指腸乳頭処置用ナイフ,穿刺針などは感染の危険性が高いと認識して,ディスポーザブル製品を使用すべきである.

再使用可能製品を使用する場合は,再使用可能製品メーカーの取扱い説明書に従った十分な洗浄・滅菌が必要である.

ステートメント1-3

本邦で用いられる滅菌の方法には,高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌),酸化エチレンガス滅菌(EOG滅菌),過酸化水素ガスプラズマ滅菌,過酸化水素ガス低温滅菌や低温蒸気ホルマリン滅菌がある 1)~4

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:3

解説:

従来から用いられてきた高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌),エチレンオキサイドガス滅菌(EOG滅菌),過酸化水素ガスプラズマ滅菌に加え,近年新しい滅菌方法として,過酸化水素ガス低温滅菌や低温蒸気ホルマリン滅菌が承認され,使用されるようになってきた 1)~4.使用にあたっては,各滅菌法の特徴を理解したうえ,内視鏡機器と適合が確認されている方法で行うことが重要である.

耐熱性のある再生機器はエチレンオキサイドガスでも滅菌は可能であるが,滅菌に要する時間が長く毒性があり,所要コストが高い.また,機器が管腔構造を有する場合は,残留水分にエチレンオキサイドガスが吸着し,滅菌の保証ができない.したがって管腔構造を有するものにおいては,水分を十分に取り除いてから高圧蒸気滅菌を行うのが望ましい.

ステートメント1-4

軟性内視鏡の洗浄・消毒には,医療用の中性または弱アルカリ性の酵素洗浄薬を用いた用手洗浄のあとに,滅菌もしくは高水準消毒を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨度:1

解説:

消化器内視鏡すなわち軟性内視鏡においてもSpaulding分類に準じて洗浄・消毒を行うべきである 1)~3

粘膜に触れるものとして軟性内視鏡はsemi-criticalに分類され,芽胞以外の病原体の殺滅を目的として,滅菌または高水準消毒が推奨されている.しかしながら,耐熱性がなく高圧蒸気滅菌などでの処理が不可能であるため,高水準消毒薬による再処理を行う.高水準消毒は芽胞が多数存在する場合を除き,すべての微生物を死滅させることが求められる.消毒薬としてグルタラールが推奨されてきたが,次世代の高水準消毒薬としてフタラールと過酢酸が市販され,グルタラールに比べ後者2剤は抗酸菌(結核菌,非結核性抗酸菌)に対して有意に高い殺菌力を示し,また過酢酸は芽胞菌に対しても強い殺菌力を持ち,抗酸菌に対してはフタラールよりさらに短時間で菌の陰性化が認められると報告されている 4),5.過酢酸も専用の自動洗浄消毒機が必要となるため,装置と消毒薬の組み合わせについてはメーカーに確認する必要がある.本邦では,強酸性電解水をはじめとする機能水を使用した内視鏡洗浄消毒機が医療機器として認可され市販されている.

ステートメント1-5

Non-criticalに属する器具は,創のない正常皮膚に接するもの(便器・ベッドの枠等)や皮膚に触れないもの(病室や手術室の床)があるが,内視鏡観察装置やモニターなどもnon-critical器具に分類される 1)~3.これらは中・低水準消毒や清拭を推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

Spauldingの分類に従い処理を行うことが必要である.Non-criticalに属するものに対しては中・低水準消毒を行うが,中水準消毒とは結核菌,栄養型細菌,ほとんどのウイルス,ほとんどの真菌を殺滅するが,必ずしも芽胞を殺滅しないものとされ,次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノール,ポピドンヨードを用いて行う.低水準消毒はほとんどの栄養型細菌,ある種のウイルス,ある種の真菌を殺滅するものと定義され,第4級アンモニウムやグルコン酸クロルヘキシジン,両性界面活性剤を用いる.

ステートメント1-6

内視鏡観察装置やモニターは,患者が直接触れることのないnon-critical器具になる 1)~3.しかし糞便などによって汚染されることもあるため,適宜中・低水準消毒を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値: 9  最低値: 8  最高値: 9

推奨度: 1

解説:

基本的にはSpaulding分類に従い,処理を行うことになる 1)~3.Non-criticalといっても,下部消化器内視鏡などでは糞便などが付着することもあり,清拭だけでなく消毒が必要な場合がある.米国ではClostridioides difficileの問題もあり,消毒が求められている 3

ステートメント1-7

送水タンクは,消毒あるいは滅菌による管理を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

一般に,水道水の細菌汚染度合は低く,また検査中送水ボトルが汚染されることは少ないと考えられる.しかし,送水ボトルは水に由来するPseudomonas属をはじめとした細菌が増殖し感染源になることが報告されている.送水ボトルは使用後に洗浄と乾燥を毎日行い,送水ボトルの接続チューブ部分は送水ボトルと同様に処理したのち,送気を行って乾燥させる 1)~4.また,送水ボトルは感染経路の遮断を目的として少なくとも週1回滅菌することが望ましい.

送水ボトルの滅菌ができない場合は,次亜塩素酸ナトリウム液による消毒を毎日行う.次亜塩素酸ナトリウムは,細菌に対し即効的に作用し,かつタンパクと反応すると食塩に変化するため残留性が低い 5

ステートメント1-8

保管前のスコープは,消毒後アルコールフラッシュを行い管路内の乾燥を促し,付属品を外し清潔な乾燥した保管庫に保管することが必要である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

洗浄・消毒後のスコープのすべての管路には,すすぎ水が残存している可能性がある.管路内の水分は保管中の細菌増殖の原因となるため,アルコールでフラッシュを行い,さらに,送気や吸引を行ってすべての管路を乾燥させる必要がある.乾燥によって,微生物が残留する危険性を減少させるだけではなく,微生物による再汚染の危険性を減少することができる 1),2.保管時には十分に乾燥を行うためにも送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓などを装着せずにハンガーなどに掛け,清潔な保管庫に保管する必要がある 3),4

ステートメント 1-9

スタンダードプリコーションの概念に基づき,検査医および介助者は体液の曝露から自身を守るため,個人用防護具(personal protective equipment:PPE)を身に着け,手袋の交換と手指衛生を適切に行うことが望ましい.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨度:2

解説:

標準予防策の概念に基づくと,すべての体液は感染源となりうる.検査中に体液や胃液に曝露されやすい検査医には,H. pylori感染率が高いとする報告 1),2や,感染者の血液や体液が医療従事者の皮膚・粘膜へ曝露したためと考えられるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染も報告されている 3.このような感染から自身を守るためには,手袋,マスク,ガウンを身に着けることが推奨される.また眼を十分に覆えるゴーグルやフェイスシールド等を着用することが望ましい 4),5

ステートメント1-10

軟性内視鏡と洗浄消毒機の組み合わせ適用に関しては,内視鏡・洗浄消毒機メーカーともにその組み合わせで洗浄・消毒できるかのバリデーションデータを確認することが必要である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

軟性内視鏡と洗浄消毒機の組み合わせ使用に関し,メーカーが保証しているものは限られている.洗浄チューブ端のカプラーや金具の付け替えは,洗浄消毒機メーカーでも内視鏡メーカーでも保証を行っていない場合は,施設の責任下で行う必要がある.またそれが同一メーカー同士だったとしても,軟性内視鏡が適切に再生処理できているかの確認は,洗浄消毒機の使用法に則って,各施設が責任をもって行うべきである.今後は,内視鏡メーカーと洗浄消毒機メーカーが協力して相互検証する仕組が望まれる.

ステートメント1-11

洗浄・消毒の履歴管理を行うことを推奨する 1)~6

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

感染事故などが起きた際に対応するため,洗浄・消毒の履歴管理を行うことが望ましい.

少なくとも,①年月日,時刻,②患者氏名,ID,③内視鏡番号,④洗浄担当者,⑤洗浄消毒機番号,⑥消毒薬濃度を記録する.

2.日本の現状と世界との比較

ステートメント2-1

本邦における消化器内視鏡施行時の洗浄・消毒の位置付けは罰則のない努力目標である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:3

解説:

診療報酬算定(平成28年4月)の消化器内視鏡に関わる共通事項に留意事項として「関係する学会の消化器内視鏡に関するガイドラインを参考に消化器内視鏡の洗浄・消毒を実施していることが望ましい.」とある 1.しかし,本事項を実践したかどうかの確認を行う手段は明記されておらず,実施しなかった場合の罰則規定もない.よって,本邦における消化器内視鏡施行時の洗浄・消毒の位置付けは,現状ではガイドラインも存在せず,関係学会のガイドあるいはマニュアルのレベルの記載でしかない 2.また,厚生労働省からも複数回の通知が出されているが,再度「単回使用医療機器の取扱い等の再周知について」(平成27年8月27日付薬食安発0827第1号厚生労働省医薬食品安全対策課長通知)が出されている 3.しかし,こちらも医療機器の添付文書の記載の遵守の周知であって,罰則規定はない.

ステートメント2-2

海外では地域・国ごとに消化器内視鏡施行時の洗浄・消毒に関して詳細なガイドラインが策定されている.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:3

解説:

本邦では,「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」(日本環境感染学会,他)を中心に啓発されているが,海外のガイドラインと比べて簡便な記述に留まっている 1.日本の洗浄・消毒に関する記述は,欧米の最近のガイドラインに準拠しており,記載内容はほぼ同じである 2)~4.欧米では,1980年代から内視鏡を介した感染の危険が認識され,内視鏡機器の洗浄・消毒に関する罰則も伴うガイドラインが策定されるなど記述はより詳細である 5),6.特にヨーロッパでは,定期的な消化器内視鏡機器の細菌検査や,その日の最初の患者の検査直前にも内視鏡の消毒を行うことが勧告されている 7.すべての施設においてプロトコールを作成し定期的な細菌培養検査が行われている.規定を超える細菌数を認めた場合は,内視鏡スコープを再消毒することになっている.内視鏡室では,スコープが規定の細菌数以下にならない限り検査に使用できないなど罰則規定を設けている地域もある.

ステートメント2-3

消化器内視鏡を施行するにあたっては洗浄・消毒に関する責任者をおき,検証可能な体制を整えることを推奨する.日本消化器内視鏡学会指導施設においては申請時の代表者を管理責任者とする.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

本邦の「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」および「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル 2015年度版」のいずれにおいても,消化器内視鏡における洗浄・消毒に関する責任者についての記載はない 1),2.欧米のガイドラインでは,院内感染対策委員会による定期的なサンプリング検査の施行が勧告され,消化器内視鏡機器の洗浄・消毒に関する履歴および追跡を可能とする書類は内視鏡施設管理責任者あるいは院内感染対策委員会(通常は施設長が兼務)が認証を行わなくてはならない 3.ただし,日本の消化器内視鏡施行時の洗浄・消毒に関する「責任者」が誰なのかは明確ではないが,現状では日本消化器内視鏡学会の指導施設においては申請時の代表者を管理責任者とする.

ステートメント2-4

消化器内視鏡施行時の適切な洗浄・消毒により患者および医療従事者への感染を予防できる.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

消化器内視鏡における院内感染の経路には,内因性と外因性がある.内因性とは患者の微生物であり,検査を行う体腔(例えば消化器系),あるいは内視鏡を介した経路(上気道など)に由来する.その存在は予想できるが,避けられない 1.そのため,使用する内視鏡関連機器は患者ごとに洗浄・消毒を行わなければならない.一方,機器と人間に由来する外因性の微生物が存在することは異常な状況であり,内視鏡の設計上の問題,不適切な処理,あるいは処理用の装置または流体(製品,洗浄水)の汚染等が該当する 2.よって,洗浄・消毒作業はその従事者によって手技にばらつきがあるため,定期的に培養検査などの清浄度評価を実施し,その質を管理することが望ましい 3.なお,日本消化器内視鏡技師会は内視鏡の定期培養プロトコールを策定,定期的に清浄度評価することを推奨している 4.具体的な培養手順については内視鏡定期培養プロトコールを参照されたい 5

ステートメント2-5

消化器内視鏡施行時に,内視鏡を媒体とした交差感染が発生した場合は管理責任を問われる.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:3

解説:

本邦では,内視鏡を媒体とした交差感染が発生した場合は管理責任者が管理責任を問われるが,独自の罰則規定はない.英国では,内視鏡機器の定期的なサンプリング検査を含めて洗浄・消毒基準はすべてJAG(The Joint Advisory Group on Gastrointestinal Endoscopy)によって監視されている 1.施設基準がJAG承認より低い場合は,NHS(National Health Service)はその施設の消化器内視鏡費用を5%減じる権利がある.米国では,すべての施設で内視鏡スコープの再処理プロトコールを有している.プロトコール違反が発覚した場合は,その担当者は逸脱の程度や過去の履歴から懲戒対象となる.最低でも,「警告(warning)」となり業務履歴に登録される.そして,再処理に関しての再教育プログラムを受講し,2~3日間の給与支払い停止状態での勤務となる.改善がみられない場合や過去の義務違反の履歴次第では解雇となる.また,単回使用医療用具を複数回使用する場合は,機器メーカーと同様と判断されFDA(Food and Drug Administration)の承認が必要な対象医療機器の扱いとなる.

3.用手洗浄の重要性と達成のコツ

ステートメント3-1

スコープのベッドサイド洗浄は必要である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

スコープを適切なタンパク除去剤等を用いてベッドサイド洗浄することにより,汚染度を減らしてから次工程に移すことができる.スコープの材質に影響を与えない中性または弱アルカリ性の酵素洗浄薬を使用する 1),2.また,吸引チャンネルの洗浄には200 mL以上の洗浄薬の吸引を行う 1)~4

ステートメント3-2

洗浄消毒機による洗浄前にスコープの用手洗浄は必要である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

用手による洗浄工程は,スポンジや洗浄ブラシを用いた機械的洗浄と洗浄薬を用いた化学的洗浄の併用により汚染度を減らす.この工程を省くと,その後の洗浄消毒機での工程で菌やウイルスを殺滅しきれない可能性がある.洗浄ブラシは毛束が十分にあり,曲がりのないものを使用する.洗浄薬には,血液や体液の除去に適している中性または弱アルカリ性の専用の医療用酵素洗浄薬を使用する.pH10を超えるアルカリ洗浄薬も市販されているが,これは長時間の浸漬によりスコープが損傷する懸念があるため,各施設の責任において慎重かつ適切に使用されるべきである.酵素洗浄薬の温度は洗浄度に影響するため,適温に調整することが望ましい 1)~3.一般的には,温度が高いほうが酵素活性が高いため約40℃の水の使用を推奨するが,適切な温度は洗浄薬により異なるので確認する.

ステートメント3-3

ベッドサイド洗浄後に漏水テストを行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

検査終了時に漏水テストを行うことを推奨する.漏水テストによる故障の発見率は0.14~0.16%と低いが 1,スコープ内への水侵入による故障,高額修理を回避するためには毎回のテストによる早期の故障発見が重要である 2),3

ステートメント3-4

送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓は毎回スコープから外して洗浄することが必要である.単回使用の製品に関しては,検査後に廃棄して,新しい製品を装着する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

送気・送水ボタン,吸引ボタンは構造が複雑であるため,使用後には取り外してくぼみや穴をブラッシングにより洗浄する必要がある 1

ステートメント3-5

吸引・送水シリンダー洗浄ブラシはディスポーザブル製品を用いることを提案する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨度:2

解説:

エビデンスはないものの,洗浄用ブラシの不十分な滅菌による感染や再利用に伴うシリンダーの削れによる機器故障と処置具の機能不全の可能性があるため,洗浄ブラシはディスポーザブル製品を用いることが望ましい.一方,現状ではコストの観点や,適切な使用法を遵守すれば単回使用と複数回使用の洗浄効果に違いはない 1との報告もあり,複数回使用を採用している施設が多いと考えられ,今後の課題である.

ステートメント3-6

十二指腸内視鏡は先端キャップを外して洗浄・消毒する必要がある.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

30年以上前からERCP後の多剤耐性腸内細菌のoutbreakの報告があったが 1)~3,最近になり十二指腸内視鏡が持つ起立鉗子などの複雑な先端構造に起因することが指摘され 4,FDAが2015年に十二指腸内視鏡に関する安全情報を報告した 5.その中で通常の洗浄法では十二指腸内視鏡の先端部の洗浄・消毒が不十分であることから,鉗子起立装置やその周辺はブラシで用手洗浄を行うよう求めている.一方,十二指腸内視鏡の構造的な違いとして,海外では十二指腸内視鏡の先端部が外れないのに対し,日本で流通しているものは先端部のキャップが外れるようになっており,洗浄・消毒に関して有利である.FDAの報告を受け本邦でも,十二指腸内視鏡洗浄・消毒に際しては先端キャップを取り外し,専用のブラシを用いて丁寧に洗浄するよう厚生労働省から注意喚起が行われている 6.また「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」 7),8でも十二指腸内視鏡の洗浄に際しては先端キャップを外した洗浄を強く推奨している(推奨度Ⅰ;必須の要件).また,洗浄機で洗浄を行う際にも起立鉗子が洗浄薬に十分に浸されるように半起上状態とすることで,より消毒能を向上させることが期待できる.副送水管は用手洗浄ができない部位で,十二指腸内視鏡においては鉗子起立機構につながる経路でもあるため,酵素洗浄薬を使用する十分な洗浄が強く望まれる.取扱い説明書ではベッドサイド洗浄の送液を推奨している.最近では内視鏡的粘膜下層剥離術の発達に伴い,通常の内視鏡にも副送水管を装備したものが増えてきており,自動洗浄機にも副送水管洗浄用の器具を備えたものも増えてきている.

4.洗浄消毒機の重要性と使用方法・各消毒薬の特徴

ステートメント4-1

内視鏡の適切な洗浄・消毒工程には,内視鏡自動洗浄消毒機を用いる必要がある.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

消毒薬の効果は有効成分の濃度,接触時間,温度の三要素によって大きく影響を受ける.規定濃度への希釈,規定温度,規定時間での適切な消毒工程のためには,内視鏡自動洗浄消毒機を用いる必要がある.不適切な洗浄,消毒による感染事例が報告 1されており,WGO(World Gastroenterology Organisation)は内視鏡自動洗浄消毒機の使用を推奨している 2.利点として,①洗浄・消毒ステップの自動化,標準化,②不可欠なステップが省略される可能性が減る,③内視鏡の消毒およびすすぎが確実に安定的に行われる,④すべてのチャンネルに適切に注水される,⑤洗浄薬・すすぎ液の単回使用,消毒薬の適切な使用により,他の内視鏡への交差感染を回避できる,⑥消毒薬の眼,皮膚,気道への曝露が減少する.洗浄・消毒の均一化,人体への消毒薬曝露防止,作業量の軽減などの観点から,内視鏡自動洗浄消毒機を用いるべきである 3),4

グルタラール,フタラール,過酢酸を用いた消毒後のすすぎが不十分な場合,残留したこれらの高水準消毒薬によって有害作用が生じる.フタラールについては,関連性が否定できない重篤な症例が報告されている.フタラールにて消毒を行った膀胱鏡を繰り返し使用した患者に,アナフィラキシー様症状が現れたとの報告 5や,フタラールで消毒した経食道心エコープローブ等の医療器具を使用した患者に,口唇・口腔・食道・胃等に着色,粘膜損傷,化学熱傷等の症状が現れたとの報告 6がある.また,グルタラール消毒後の内視鏡を用いた下部消化器内視鏡後に直腸結腸炎を生じ,チャンネル内にグルタラールが残留していた例などが報告 7されている.同様に残留した過酢酸が原因と考えられる大腸炎の報告 8もある.したがって,高水準消毒薬の使用後は十分なすすぎが必須である.また,フタラールは有機物と強固に結合する性質を持つため,洗浄が不十分なスコープをフタラールで消毒すると,すすぎを行っても消毒薬がスコープに残留する危険性がある.内視鏡自動洗浄消毒機を用いない場合は,洗浄・消毒後,スコープ外表面,チャンネル内のすすぎを十分に行う必要がある.また,十分なすすぎに加え,過敏症の既往がある者にはその消毒薬で消毒した医療器具を使用しないように注意する.

医療機器の適正な使用,機能の維持は施設に責任がある.機器の日常点検および自己消毒(管路内消毒)を行うべきである.内視鏡自動洗浄消毒機の欠陥による感染のアウトブレイクが報告されている 9),10.適切なメンテナンスがされなかった場合,感染や機器の破損につながるおそれがあるだけではなく,機能の確保ができない.使用する機器の『取扱い説明書』に記載された点検項目を定期的に点検し,消耗品(接続チューブ,フィルターなど)を適切に交換することが必要である.各メーカーで機器の耐用期間が設けられているが,使用頻度などの諸条件により異なってくるため,業者による定期保守点検を必ず受ける必要がある.装置内部・管路を清潔に保つため,給水管路の消毒および水フィルター交換を定期的に行うことが推奨される.

ステートメント4-2

高水準消毒薬には,過酢酸,グルタラール,フタラールの3種類が適合し,各々の特性を十分理解して濃度管理と曝露に注意する必要がある.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

内視鏡に関連する微生物として,H. pyloriSalmonella spp.,Pseudomonas aeruginosaによる感染例やB型肝炎,C型肝炎ウイルスの感染が報告されている.グルタラールはアルデヒド系消毒薬でアルデヒド基が菌体成分のSH基またはNH2基と反応し,また,微生物のタンパク合成・DNA合成を阻害することにより殺菌効果を示す.芽胞形成菌を含むすべての微生物に有効である 1)~4.有機物存在下でも不活性化されにくく,材質を傷めにくいという利点を持つ.枯草菌に対する殺芽胞効果は,60分以内に生存芽胞を著しく減少させる.フタラールはグルタラールと同じアルデヒド系消毒薬である 5.物質適合性に優れるが,有機物の付着があるとタンパク質を凝固させ黒く変色させる.枯草菌の芽胞の殺滅に48~96時間が必要になるため,本薬の芽胞形成菌に対する使用は勧められない 6),7.過酢酸は最も強力な抗菌効果を示す消毒薬である.すべての微生物に有効であり,ウイルスや結核菌を5分間,枯草菌の芽胞を10分間以内という短時間で殺滅できる.ヒドロキシルラジカルの生成による細胞のタンパク変性と輸送の阻害,代謝の必須酵素の不活化,細胞膜とその透過性の破壊,核酸の変性・破壊などにより殺菌効果を示す 8.グルタラールやフタラールと異なりタンパク質を凝固させないため,バイオフィルムの形成は生じないが,強力な酸化剤であるため金属腐食性が高い.そのため内視鏡と適合性が確認されている過酢酸製剤を使用する必要がある.

高水準消毒薬には刺激性や毒性が高いものがあるため,付着や蒸気曝露に注意する 9)~12.過酢酸,グルタラールおよびフタラールが皮膚に付着すると,皮膚炎や化学熱傷が生じる.また,これらの消毒薬の蒸気は,眼,鼻,咽頭の粘膜を刺激して,結膜炎や鼻炎などの原因になる.換気のよい場所で,手袋とガウン,マスクを着用して取り扱う必要がある.また,強い眼毒性を示すため,眼への飛入に対しても十分注意し保護メガネの着用が必要である.内視鏡自動洗浄消毒機を用いても,消毒薬の蒸気曝露を避けることはできないため,換気対策が必要である.特に,グルタラール使用の際は,曝露限界値0.05ppmを超えないような作業環境曝露対策が必要である.フタラールが皮膚に付着すると皮膚表面のタンパクと反応し皮膚着色が生じる.また,マウスの皮膚に適用した非臨床試験において,過酢酸は弱い完全発がん物質であるとの報告がある 13.フタラールはグルタラールに比べて蒸発しにくく,刺激臭が少ないという利点がある.過酢酸溶液は酢酸様の強い刺激臭を有する.なお,いずれの薬剤も蒸気での比重はグルタラール3.4,フタラール4.6,過酢酸2.5と空気より重いため,強制排気口の設置は,低い位置が望ましい 14

高水準消毒薬は使用期限と保管温度を守り,実用下限濃度以上で使用する.たとえ高水準消毒薬であっても,温度,濃度,時間が満たされていなければ十分な消毒効果は期待できないため,適切な管理と運用をすること.使用する消毒薬に対応するテストストリップ等を用いて使用前に消毒薬濃度を確認し,最低使用濃度を下回っている場合には速やかに交換する必要がある.グルタラールは2%以上の濃度で使用し,10分以上浸漬する.フタラールは0.3%以上の濃度で使用し,10分以上浸漬する.フタラール,グルタラールの消毒時間は添付文書のそれとは異なっているが,英米での現状を勘案した消毒時間が示されている 15),16.過酢酸は20℃に加温してから0.2%以上の濃度で使用し,5分以上浸漬する.緩衝化剤を添加したグルタラールは経時的に失活するため,内視鏡自動洗浄消毒機で3.5%製品を用いる場合は28日間もしくは50回が使用の目安となる.フタラールは緩衝化剤の添加が不要であるため,グルタラールのような経時的分解は生じない.そのため,水による希釈(使用回数)のみを考慮すればよく,内視鏡自動洗浄消毒機では30~40回を使用の目安とする.緩衝化剤を添加した過酢酸は経時的に分解するため,内視鏡自動洗浄消毒機では,使用日数と水による希釈(使用回数)とを考慮して,7~9日間もしくは25回を使用の目安とする 17Table 2).

Table 2 

高水準消毒薬の特徴.

ステートメント4-3

機能水(強酸性電解水・オゾン水)による内視鏡洗浄・消毒に関しては,その特性や欠点を十分理解したうえで,各施設の責任において使用することが望ましい.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨度:3

解説:

機能水とは『人為的な処理によって再現性のある有用な機能を付与された水溶液の中で,処理と機能に関して科学的根拠が明らかにされたもの(及び明らかにされようとしているもの)』と定義されている 1.強酸性電解水は,水道水に塩化ナトリウムを0.2%以下の濃度で添加し,電気分解することによって生成される殺菌活性の高い強酸性の水溶液である.次亜塩素酸や過酸化水素から細胞の内外で生じるヒドロキシラジカルが細胞膜や核酸,タンパク質に作用し損傷分解を引き起こす 2),3.オゾン水は,酸素分子に高電圧などのエネルギーを加えることによって生成するオゾンを水に溶け込ませたものである.細胞壁や細胞膜を構成するタンパク質のS-S結合やSH基と反応し損傷を与え,細胞内で核酸のグアニン残基やチミン残基と反応し核酸も破壊する 4.いずれも,多様な細菌,真菌,ウイルスに対する消毒効果やウイルス不活化活性などが報告されている 5)~8.米国食品医薬品局(FDA)で高水準消毒薬として認可されている電解酸性水は,650ppm以上の塩素を含有するものであるが,世界消化器病学会および世界消化器内視鏡学会が共同で作成したガイドラインである“WGO-OMGE and OMED Practice Guideline”には「残留塩素濃度10±2ppmの酸性電解水が有芽胞菌にも効果がある」と記載されている 9.日本では機能水を使用した洗浄消毒機は既に多くの施設で使用されており,今日に至るまで大きな問題は報告されていない.一方で機能水を用いた内視鏡洗浄・消毒に関する科学的検証データは少なく,内視鏡機器メーカーからは,内視鏡洗浄・消毒における機能水の使用可否に関する見解は出されていない.現状では,機能水の特性と欠点を正しく理解し,各施設の責任において使用することが望まれる 10)~12

機能水(強酸性電解水・オゾン水)を用いて消化器内視鏡の洗浄・消毒を行う場合は,事前に洗浄作業で有機物を除去したうえで,医療機器として認可された内視鏡洗浄消毒機を使用する.機能水は高水準消毒薬に準ずる有効性を持つとされている一方で,有機物存在下では機能水の殺菌活性は容易に不活化され,その限界は0.1%濃度の有機物であることが示されている 13)~15.そのため,機能水による消毒効果を発揮させるためには,まず事前洗浄として内視鏡に付着している有機物をブラッシング洗浄などにより十分除去しなければならない.その後,医療機器として認可されている消毒機を使用することで,所定の殺菌効果,安全性を得ることができる.使用する消毒薬の性状として,強酸性電解水はpH2.2~2.7,有効塩素濃度20~60ppmで使用し,オゾン水は0.5ppm濃度以上に保ち,5分以上浸漬する.機能水による内視鏡機器の殺菌効果に関する検証として,『機能水による消化器内視鏡洗浄・消毒のあり方に関する調査研究委員会』や各医療機器メーカーによる洗浄後の内視鏡の清浄度調査や消毒後の内視鏡の微生物学的評価(消毒評価)がなされており,十分な消毒効果が示されている 1

5. 処置具の再生処理とディスポーザブル製品の推奨

ステートメント5-1

再使用可能な処置具の洗浄・滅菌・保管について正しく理解したうえで,再使用する必要がある.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨度:1

解説:

①洗浄:再使用可能な処置具の使用後は,ただちにタンパク分解能力のある中性または弱アルカリ性の酵素洗浄薬に浸漬することで汚染物質の乾燥を防ぐ.処置具は微細で精密な構造を有しており,用手洗浄のみでは洗浄処理は不十分であるため,超音波洗浄を用いて洗浄が困難な部位からの物質除去を行うことが必要である 1)~9.超音波洗浄の際にも用手洗浄と同様に非発泡性洗剤を用いる 10

②滅菌:耐熱性のある再使用可能な処置具の滅菌を行う場合は,管腔内の水分や潤滑剤を可能な限り取り除いてから滅菌バッグに入れ高圧蒸気滅菌を行う.高圧蒸気滅菌は細長い管腔を持つ処置具の滅菌に有効である 1)~3),5),6),8),10)~14.可動部のある再使用可能な処置具は,洗浄後に処置具専用の潤滑剤を塗布してから滅菌バッグに入れて滅菌する必要がある.潤滑剤を塗布することで,コイルシースとワイヤーの動きがスムーズになるほか,金属部の防錆効果も期待でき,製品寿命の延長も期待できる.また,潤滑剤は高圧蒸気滅菌を施行しても潤滑効果は維持される 1),8),9.さらに,再使用可能な処置具の洗浄,消毒あるいは滅菌など作業の開始と終了の日時をトレーサビリティー(履歴管理,行程管理)書類を作成し記録することで滅菌処理を証明することができる 15

③保管:再使用可能な処置具の保管は滅菌バッグに入れた状態で適切な温度および湿度の管理された清潔な棚などに保管し,その開封は使用直前に行うことが必要である 16.滅菌バッグが破損,汚染されたものは,内部も汚染されている可能性があるため,再滅菌をすることが必要である 1),6

④処置具ハンガー:内視鏡処置は数種類の処置具を使用するため,処置具ハンガーを使用することがある.処置具ハンガーのうち処置具挿入部を置く場所である一次保管袋は清潔な保管袋であり,症例ごとに取り替えることが必要である 1),6.処置具ハンガーのフック部やスタンド部は,患者の体液や血液が付着する可能性があるため,症例ごとに消毒用エタノールで清拭消毒する必要がある 1),6

ステートメント5-2

ディスポーザブル処置具の再使用は行わない.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨度:1

解説:

ディスポーザブル処置具は再使用を想定した設計はなされていないため,再使用すると機能不良による事故や不完全な滅菌による感染のおそれがある 1)~4.したがって,ディスポーザブル処置具の再使用は行わない.無菌組織に入る内視鏡処置具や,再使用により処置具の機能不全などを来す可能性の高い処置具で,製造販売元が再使用を禁じているすべての処置具の再使用は厳に禁じられているので,再使用は行わないことが必要である 1),2.特に,生検鉗子,局所注射針,スネア,ガイドワイヤーなどが挙げられる 3),4.また,鉗子栓は内側の構造が複雑で,生検鉗子,ガイドワイヤーまたはその他の付属品を挿通させた後には,汚れの除去が難しいことから単回使用とすることを推奨する 3

[6]本論文内容に関連する著者の利益相反

本ガイドライン作成委員,評価委員,査読委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.

本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:報酬(100万円以上),株式の利益(100万円以上,あるいは5%以上),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),研究とは直接無関係なものの提供(5万円以上)

後藤田卓志(EAファーマ,第一三共,武田薬品工業,由利本荘市・にかほ市),樋口和秀(武田薬品工業,大塚製薬,EAファーマ,アストラゼネカ,第一三共,エーザイ,アステラス製薬,大鵬薬品工業,メディコスヒラタ,小野薬品工業),藤本一眞(アストラゼネカ,第一三共,エーザイ,武田薬品工業,ツムラ,グレイ・ヘルスケア・ジャパン,メディカルレビュー社,富士フイルム,アステラス製薬,旭化成メディカル,EAファーマ,JIMRO)

[7]資金

本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものである.

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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