日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
H. pylori 陰性胃癌
藤崎 順子 堀内 裕介平澤 俊明山本 頼正五十嵐 正広
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2018 年 60 巻 8 号 p. 1450-1463

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要旨

Helicobacter pyloriHP)陰性胃癌とは,大きくわけて,未感染,除菌後,既感染の3種類に分けられる.今回はHP陰性胃癌のなかで未感染胃癌,除菌後胃癌の特徴について述べる.未感染癌は,HP感染とは全く別の理由で胃癌が発生している癌であり,未分化型癌,胃底腺型胃癌が代表的なものである.未分化型腺癌の多くは印環細胞癌で褪色調のⅡc,Ⅱb病変であることが特徴である.胃底腺型胃癌は体部腺領域に発生し,粘膜下腫瘍様の形態を呈する腫瘍である.また遺伝的な背景をもつもののなかに,遺伝性びまん胃癌,家族性大腸ポリポーシスに伴う胃癌がある.その他には自己免疫性胃炎に伴う胃癌,EBV関連胃癌があげられる.これらの特徴を知ることはHP未感染背景の胃粘膜に生じうる胃癌の発見に重要である.除菌後胃癌の多くは分化型癌であり,平坦陥凹型を呈することが報告されている.除菌後分化型癌では表層粘膜をnormal epithelim,もしくはepithelium with low grade atypia(ELA)が覆い,NBI拡大内視鏡で胃炎様の変化が癌部に現れる現象や,生検診断や,癌の範囲診断が難しい症例が報告されている.

Ⅰ はじめに

HP, Hepatitis B, C virus, Human papiloma virusは発癌に関する最もよく知られた病原体である.HPは1983年に発見され 1,1994年には胃癌のcarcinogenとして承認された 2.ほとんどの胃癌の原因はHPであることが報告されている 3.2013年には本邦でも慢性胃炎の除菌が保険適応となった.また一方で近年HP感染率の低下が目立っている.1998-2000年の無症状者のHP感染率は30代約30%,40代約40%,50代約60%,60代約70%程度と報告されている 4.今後は胃癌罹患率,死亡率が減少することが予想される一方で食事の欧米化,HP感染の減少で食道胃接合部癌の増加 5が予想される.食道胃接合部癌には噴門部胃癌とShort Segment Barrett’s Esophagus(SSBE)を背景とした食道腺癌が含まれる.また今後の発見される胃癌は除菌後胃癌もしくはHP未感染胃癌の頻度が相対的に高まる.

HP陰性胃癌とは①HP未感染者に発生する未感染胃癌と②除菌成功後に発見される除菌後胃癌,さらに③萎縮後胃炎の進展に伴ってHPが自然消失したのちに発見されるHP既感染胃癌が含まれる.一口に陰性胃癌といっても①から③の病態はかなり異なっている.今回はHP陰性胃癌として①HP未感染癌を中心に述べ,②除菌後胃癌についても後述する.

最近ではHP未感染胃に生じる胃癌が報告されている 6)~12HPが関与しない胃癌としては,A型胃炎に発生する胃癌 13),14,Epstein-Barr virus(EBV)関連胃癌 15),16,遺伝性びまん性胃癌(Hereditary diffuse gastric cancer) 17),18がよく知られている.HP未感染胃粘膜に発生した胃癌の代表格として未分化型腺癌 19,とUeyamaらにより報告された胃底腺型胃癌 20),21などがあげられる.HP未感染胃癌は胃癌全体の約1%程度といわれ 22,非常にまれである.HP感染と胃癌は深い関係があり,萎縮のある胃粘膜においては,胃癌の発生を念頭に上部消化管内視鏡検査を施行する.しかし最近では上部消化管内視鏡による検診例でも胃体下部にregular arrangement of collecting venules(RAC) 23が観察でき,萎縮のない胃粘膜に遭遇することが多い.これらの背景粘膜より発生する胃癌はHP未感染胃癌である.またもう一つの陰性胃癌として,HP除菌後粘膜に発生する除菌後胃癌がある.HP陰性胃癌の代表的な胃癌として未感染胃癌と除菌後胃癌について述べる.

Ⅱ HP未感染癌の定義と頻度

HP未感染の定義はいまのところ決められてはいない.上村らはHP感染判定法で陰性,かつ組織学的胃炎,萎縮性胃炎を認めないものを未感染と定義し,そこから発生する胃癌をHP未感染癌と定義した 22.未感染か否かは複数の検査による判定が必要であることが報告されている 24),25.未感染胃癌の報告は散見されるが,定義を厳しくすることで未感染胃癌の頻度は下がっている.現在のところ定義については決まったものはないが,複数検査での判定を行うことが報告されている.第一に感染診断としては,HP血清抗体陰性(E-プレート法,3以下)Rapid Urease Test(RUT),Urea Breath Test(UBT),便中ピロリ抗原,尿中ピロリ抗体,検鏡,培養があげられる.つぎに萎縮の診断についてはペプシノーゲン法,上部消化管内視鏡検査,組織像があげられる.少なくとも2種類以上の感染診断,内視鏡,組織が必要であろうと考えられる.多くの報告では複数検査で判定を行っている.Matsuoらは①2種類以上の感染診断陰性,②組織学的胃炎を認めない.③内視鏡的体部の萎縮なし(RAC陽性),の3項目を認めた症例としている 5.小野らも複数のHP感染診断法,除菌歴とともに組織学的萎縮,胃炎,内視鏡的胃炎の除外が重要としている 25.2種類以上の感染診断(血清抗体,便,尿中,UBT)を行い,組織学的,内視鏡的胃炎を加味した複数検査での定義が重要となってくる.検査法の違いによりHP未感染胃癌の頻度にも差がでてくる.

頻度はHP感染の有無を調べるための精度により異なる.Table 1は小野,加藤ら 25の表を一部改変した表である.Table 1にみられるように精度により頻度は異なっている.より精度を高くすることにより頻度は下がっている.Yoonら,Kimらの報告では頻度は4-5%が報告されており 9),12,この2報の特徴は内視鏡的萎縮の有無を判定していないところにある.

Table 1 

HP未感染癌の頻度と検査法.

Yagiらが報告したRACを内視鏡的に確認することで萎縮の有無をみることが重要である.

RACが体下部小彎に確認できれば95%以上の確率でHP未感染である 23HP未感染の判断は,一定の感染診断と,組織学的,内視鏡的萎縮の判定項目をいれることが重要であろう.

Ⅲ HP未感染胃癌

(1)未分化型腺癌

HP未感染胃癌に未分化型腺癌が多いことが報告されている 26)~28. われわれはHP未感染胃癌のうち未分化型腺癌36症例の検討で35症例が印環細胞癌であったことを報告した 19.それらはM領域20,L領域16例であり,平均径7.4mmと小さく,平均年齢は57.2歳であった.内視鏡的特徴は褪色調33(92%)を呈しており.肉眼型はⅡc 30例(83%),Ⅱb 6例(17%)の形態を呈していた.

症例:Figure 1に症例を提示する.典型的なHP未感染の背景に発生した印環細胞癌の白色光による内視鏡画像である(Figure 1-a).多くは褪色調の平坦陥凹性病変である.これらの病変は粘膜内にとどまる印環細胞癌で,特にFigure 1-bで示すように,粘膜の中層にとどまる印環細胞癌が多くみられた.組織学的には粘膜の中層から上層にとどまる病変が多いことが報告されている 19

Figure 1 

HP未感染印環細胞癌(pT1a).

a:これら9枚の写真はすべてHP未感染印環細胞癌の通常光内視鏡像である.萎縮のない背景のなかに褪色調の面(矢印)として認識される.

b:多くの症例の組織像は粘膜中層に限局する印環細胞癌である.

しかし粘膜下層以深の浸潤癌も認められている.HP未感染背景の粘膜下層に浸潤した印環細胞癌を提示する.胃角後壁のⅡc病変である(Figure 2).本症例の背景粘膜には胃底腺ポリープが見られ(Figure 2-a)萎縮はみられない(Figure 2-b).通常光では胃角後壁に褪色調のⅡb様部分とひだ集中のある陥凹性病変を認める(Figure 2-c).インジゴカルミン散布でひだの癒合,軽度の太まりがあり,内視鏡的にも粘膜下浸潤が疑われる(Figure 2-d).手術が施行され,マクロ図では赤線部分に癌があり,大きさ25×15mm,深達度SMの印環細胞癌であった(Figure 2-e).組織像では粘膜下層に癌の浸潤を認めた(Figure 2-f).こういった症例からもHP未感染印環細胞癌は必ずしも粘膜内にとどまるものばかりでなく,浸潤発育する症例があることがわかる.

Figure 2 

HP未感染印環細胞癌.

a:背景粘膜には胃底腺ポリープが見られる.

b:萎縮はみられない.

c:通常光では胃角後壁に褪色調のⅡb様部分とひだ集中のある陥凹性病変を認める.

d:インジゴカルミン散布でひだの癒合,軽度の太まりがあり,内視鏡的にもSM浸潤が疑われる.

e:手術が施行されたマクロ図では赤線部分に癌があり,大きさ25×15mm,深達度SMの印環細胞癌であった.

f:組織像では粘膜下層に癌の浸潤を認めた.

しかしこういった印環細胞癌がスキルス胃癌に成長するかについての検討はない.われわれの検討からは大きさ,深達度をそろえた印環細胞癌のMIB-1 indexによる細胞増殖能ではHP陽性に比べて陰性で増殖能は低かった 29.しかし一方で,HP陰性胃癌で予後が悪いという報告もある.MeimarakisらはHP陰性は独立した予後不良因子の一つであり,経過観察をするうえでも注意すべき因子の一つであることを報告した 30.またMarrelliらは血清抗体と組織中のVacuolating cytotoxin A(VacA)に対するPCRでHPを同定し,陰性を定義したが,HP陰性で予後が悪いことを報告した 31

(2)HP未感染分化型腺癌

八板らはHP陰性の分化型腺癌8例の検討で5例が胃底腺型胃癌,3例はMUC5AC,MUC6陽性の胃型性質をもつ胃癌であったことを報告している 32

HP未感染背景の粘膜に発生した分化型腺癌の代表格は2010年にUeyamaらにより報告された新しい組織型の胃癌,胃底腺型胃癌である.組織学的特徴は腫瘍細胞が粘膜深層にみられるため,内視鏡的には粘膜下腫瘍様の形態を示すことが多い.特徴的な内視鏡所見は胃上部,胃底腺領域に発生し,粘膜下腫瘍様の扁平隆起を呈し,褪色調,毛細血管の拡張所見が認められることが多いことが報告されている 20),21.組織学的には表面は非腫瘍性粘膜で覆われ,細胞質がやや淡明な灰青,好塩基性で主細胞に類似した細胞を主体とし,幽門腺細胞や壁細胞,Paneth 細胞に類似した細胞が混在する上皮性腫瘍で,粘膜深部主体に増殖するが,病変の中央部では粘膜のほぼ全層性に増殖する.小さいうちに粘膜下層に発育するが,N/C比は50%以下の低異型度であり,細胞増殖活性は低く,低悪性度で予後良好と報告された 20),21.免疫組織学的には胃底腺マーカー(主細胞:pepsinogen-Ⅰ,壁細胞 H/KATP ase)が陽性となる.pepsinogen-Ⅰが陽性となる主細胞型優位が多いとされている.胃底腺型胃癌の免疫組織学的特徴はpepsinogen-Ⅰ強陽性,MUC6弱陽性の主細胞優位型が多く,pepsinogen-Ⅰ弱陽性,MUC6強陽性の副細胞優位型,さらに腫瘍内に壁細胞の類似した細胞が出現しH+/K+ATP aseが陽性となり,壁細胞への分化が示唆される症例もある.胃底腺型胃癌の85.2%がHP感染と無関係であることが報告された.しかし最近では,胃底腺型胃癌のなかにより大きな病変が含まれていることがあり,高異型度癌へ進展し,脈管侵襲を示すものがあり,高悪性度の病変が存在することが分かった 33),34.このようなものは【胃底腺粘膜型】と呼ぶことがふさわしいとの報告もある.今後さらなる症例の集積と解析が必要である.またこれらの癌はWnt/βカテニンシグナル系やGNAS 遺伝子異常の関与が示唆されている 35),36.胃底腺型胃癌の内視鏡像を提示する(Figure 3).2007年に発見された体上部大彎のSMT様隆起性病変である.通常光観察では褪色調を呈したクローバー状のSMT様隆起である(Figure 3-a).インジゴカルミン色素散布では隆起が強調されている(Figure 3-b).この時点での生検では診断が付かなかった.2012年の内視鏡像である.こちらは2008年とほぼ同様のクローバー状の平坦は隆起であるが,表面の毛細血管拡張が観察できる(Figure 3-c 37.NBI拡大では明らかなdemarcation lineはなく,粘膜表層は胃底腺粘膜に覆われている.拡張した血管が確認される(Figure 3-d).ESDを施行し,赤のラインに胃底腺型胃癌が認められた(Figure 3-e).組織像HE染色ルーペ像を示す.深達度はSM600μmであった(Figure 3-f).強拡像では好塩基性の主細胞類似の細胞を主体とした腫瘍性病変であった(Figure 3-g).免疫染色では,pepsinogen-Ⅰ陽性(Figure 3-h),MUC6陽性(Figure 3-i)であり,H/K-ATPase陰性(Figure 3-j),MUC2陰性(Figure 3-k),MUC5AC陰性(Figure 3-l)であった.特徴はpepsinogen-Ⅰ,MUC6は陽性である.主細胞への分化を示すものはpepsinogen-Ⅰ陽性である.壁細胞への分化を示す場合はH/K-ATPaseは陽性のこともある.

Figure 3 

胃底腺型胃癌.

a:2007年の内視鏡像である通常光では褪色調のSMT様隆起を示す.粘膜表層に拡張血管が観察される.

b:インジゴカルミン散布でクローバー状の隆起部分が強調されている.

c:2012年の内視鏡像である.褪色調の軽度隆起性病変で2008年同様に表層に拡張血管がみられる.複数回の生検で中央が陥凹している.毎年生検を施行していたが2013年に胃底腺型胃癌の診断がついた.

d:NBI拡大ではdemarcation lineをはっきり追うことはできない.表層は胃底腺粘膜を表す,小型のwhite zoneがみられ,拡張血管が観察できる.

e:ESD検体の肉眼像.

Resected specimen:35mm×28mm,lesion size:18mm×15mm

0-Ⅱa, 胃底腺型胃癌,pT1b(600μm), UL(-), ly(-), v(-)pVMO pHMO.

f:深達度はSM600μmであった.

g:強拡像では好塩基性の主細胞類似の細胞を主体とした腫瘍性病変であった.

h:免疫染色では,pepsinogen-Ⅰ陽性.

i:MUC6陽性.

j:H/K-ATPase陰性.

k:MUC2陰性.

l:MUC5AC陰性.

そのほか報告されている分化型腺癌では胃型形質を示す胃型分化型腺癌がある 38)~41.これらの報告例はU領域に発生する境界明瞭な分化型腺癌で免疫染色ではMUC5AC陽性,MUC6陽性―弱陽性,MUC2陰性 CD10陰性の胃型形質をもった癌であることが報告されている.

(3)遺伝的背景に伴う胃癌

HPとは無関係に遺伝的な要素で胃癌が発生する疾患として,Li-Fraumeni syndrome 42. Lynch syndrome 43 Peutz-Jeghers syndrome 44),45. MUTYH-associated adenomatous polyposis(MAP 46),familial adenomatous polyposis(FAP 47),48),juvenile polyposis syndrome 49, Cowden病 50があげられる.

これらのなかでも胃癌の頻度が高い遺伝性胃癌とFAPに伴う胃癌についてのべる.

① 遺伝性びまん性胃癌(Hereditary diffuse gastric cancer:HDGC)

本邦ではまれだが欧米では比較的頻度は高い.萎縮のない胃底腺粘膜の腺頸部から発生する印環細胞癌が多発する.このような印環細胞癌の発生においてはE-cadherin(以下E-cad)をコードするCDH1 の遺伝子変異による不活化,あるいはプロモーターのメチル化による発現抑制の関与が知られている 51.この疾患では常染色体優性遺伝を示し,初期像としては粘膜内印環細胞癌の多発を認める.また乳腺小葉癌を高頻度に発症する.CDH1 変異のある症例では80歳までの胃癌発生のリスクは男性70%(95%CI,59-80%),女性56%(95%CI,44-69)乳腺小葉癌は42%(95%CI,23-68)といわれている 52.ヨーロッパのHDGCガイドラインではCDH1 mutationが認められた場合は予防的な胃全摘を行うことが推奨されている 18.様々な理由で予防的胃全摘ができない場合は年1回のEGDが推奨されている.HDGCは遺伝子異常による発癌であり,HPの感染とは無関係に生じる胃癌のひとつである.

HDGC症例を提示する(Figure 4).33歳女性,家族歴は母が56歳で胃癌で手術をうけた.胃体下部前壁に褪色調病変を指摘(Figure 4-a),NBIでも褪色を呈し(Figure 4-b),拡大内視鏡像では不規則な異常血管を呈している(Figure 4-c).生検で印環細胞癌を指摘された(Figure 4-d),免疫染色でE-cadherin陰性であった(Figure 4-e).本症例はCDH1 Exon5に変異があり,母親にも同様の変異が発見された.胃全摘術が施行されたが図のような多発粘膜内印環細胞癌が指摘された(Figure 4-f).組織像では粘膜の中層から上層部内の印環細胞癌を呈し(Figure 4-g),HDGCにみられる特徴的なPagetoid spread を呈している(Figure 4-h).

Figure 4 

遺伝性びまん性胃癌.

a:通常光観察で胃体下部前壁に褪色調病変を指摘された.

b:NBIでも褪色を呈している.

c:拡大内視鏡像では不規則な異常血管を呈している.

d:生検で印環細胞癌を指摘された.

e:免疫染色でE-cadherin陰性であった.本症例はCDH1,Exon5変異が確認され,母親にも同様の変異が確認された.

f:胃全摘術が施行され,図の部位に多発する粘膜内印環細胞癌が指摘された.

g:組織像では粘膜の中層から上層部内の印環細胞癌を呈している.

h:遺伝性びまん性胃癌にみられる特徴的なPagetoid spread を呈している.

② Familial adenomatous polyposis(FAP)に伴う腺窩上皮型胃癌

本邦ではFAPでは5-10%前後に胃癌が合併することが報告されている 53

FAP合併胃癌は前庭部に多発することが特徴である.

FAP患者では胃底腺ポリープが多発することが知られているが胃底腺ポリープとは異なり,高頻度に腺窩上皮の異型を示すことが知られており,FAP関連胃底腺ポリープではAPC遺伝子変異がみられることが報告された 54.腺窩上皮のdysplasiaはAPC変異を伴う胃底腺ポリープに特徴的な所見であることが報告されている 54),55.FAPに伴う胃癌の発癌メカニズムについては胃底腺ポリープにおけるAPC遺伝子の体細胞変異が原因と報告されている 56

FAPに合併した早期胃癌の症例である.体上部前壁に境界明瞭な褪色調のⅡa病変を認める(Figure 5-a).NBIでは大小不同の構造を示したwhite zoneが配列している(Figure 5-b).背景には多数の胃底腺ポリープを認める(Figure 5-c, d)ESDを施行した.組織像を提示する.HE染色では腺腫様でもあるが,核の大小不同,構造異型を認め,深達度Mの管状腺癌と診断され(Figure 5-e),MUC5AC陽性(Figure 5-f),MUC6陰性(Figure 5-g),CD10陰性(Figure 5-h),MUC2陰性(Figure 5-i)を示し,胃腺窩上皮型形質を持った早期胃癌であった.

Figure 5 

FAP症例に生じた胃癌症例である.

a:体上部前壁に境界明瞭な褪色調のⅡa病変を認める.

b:NBIでは大小不同の構造を示したwhite zoneが配列している.

c:背景粘膜は萎縮がなく胃体上部小彎に多数の胃底腺ポリープを認める.

d:胃体部大彎にも多数の胃底腺ポリープを認める.

e:ESDを施行した.組織像を提示する.HE染色では腺腫様でもあるが,核の大小不同,構造異型を認め,深達度Mの分化型腺癌と診断.

f:MUC5AC陽性.

g:MUC6陰性.

h:CD10陰性.

i:MUC2陰性.

Ⅳ 胃底腺ポリープの癌化

散発性胃底腺ポリープは癌化の危険がない病変と考えられてきた.しかし,散発性胃底腺ポリープのなかにもdysplasiaの併存が報告された 57.本邦でもHP陰性例に発症した胃底腺ポリープの腫瘍性病変併存報告例がある.胃底腺ポリープ表層部に高分化管状腺癌が認められた症例 58と,腺腫 59の腫瘍性病変の報告である.

Ⅴ 自己免疫性胃炎に伴う胃癌

自己免疫性胃癌は抗内因子抗体,抗胃壁抗体が陽性となる自己免疫疾患である.抗胃壁抗体によりガストリン分泌が亢進し,enterochromaffin like(ECL)cellが刺激され,ECL cellの過形成,腫瘍化にいたり,体部中心の萎縮性胃炎が生じる.その結果として萎縮性胃炎から胃癌が発生する.20年経過観察された悪性貧血症例では胃癌の合併が3倍上昇する 60.胃癌発生には高度な萎縮,腸上皮化成,病期の期間,50歳以上の年齢が大きなリスク因子である 61),62

本邦では悪性貧血の25%に胃癌が合併し,隆起型の早期胃癌が多く,幽門洞に多く発生していることが報告されている 63

Ⅵ Epstein-Barr virus (EBV)と胃癌

EBVと胃癌の関係については1990年Burkeらにより報告された 15.通常の胃癌でも10%程度にEBVが証明されている 64)~66.EBVが証明された胃癌においてもHPが重複感染している症例が多く,gastric carcinoma with lymphoid stroma では萎縮,リンパ球浸潤が強くHPよりEBVのほうが発癌に関係が深いことが報告されている 67),68.EBV関連胃癌は非前庭部に多く発生し,高度のリンパ球浸潤を伴う腫瘍であることが報告されている 69HP陽性の慢性萎縮性胃炎を背景とした前庭部主体の分化型腺癌と異なり,EBV関連胃癌は胃体部に存在するリンパ球浸潤に富む未分化型主体の腺癌である.そのためEBV関連胃癌は慢性萎縮性胃炎とは関係のない発癌経路を辿る癌のように見えた.しかし,近年,ピロリ菌CagA遺伝子からつくりだされるCagA蛋白質は胃上皮細胞に侵入後,チロシンリン酸化という修飾を受けることで発癌活性を発揮することが報告された.今回の研究ではCagA蛋白質を脱リン酸化する酵素として蛋白質チロシンフォスファターゼ(SHP1)が同定された.SHP1による脱リン酸化の結果,CagA蛋白質の発癌活性は中和されたことからSHP1は胃癌発症を抑制する因子と考えられる.これに対し,EBVが感染した胃の細胞内ではSHP1の発現が抑制され,その結果ピロリ菌CagA蛋白質の発癌活性はより増強することが明らかとなった 70.このことからHPの感染があってこそのEBV胃癌の発生であることが示唆された.

Ⅶ 除菌後胃癌

2013年にHP除菌が保険適応になり,除菌後の症例が増加し,除菌後胃癌が相対的に増加する可能性が非常に高い.除菌後胃癌の特徴については複数の報告があり 71)~79,表面陥凹型が多い,分化型腺癌が多く,非噴門腺領域,萎縮が強い症例に多いことが報告されている.酸分泌が回復した領域の粘膜からは胃癌の発生が少ないことも報告されている 80.除菌後胃癌の年発生率は0.2%とも報告されている 74.さらに除菌後10年以上経過しても胃癌が生じることが報告されており 81,10年以上,未満の比較では10年以上で20mm以下の比較的小さい病変が多く,2次癌の比率が有意に高率であったことが報告されている.除菌後胃癌の組織学的特徴として,胃型あるいは胃型優位の混合型が多く,Ki67 index scoreも有意に低かったことが報告された 82.除菌成功後発見された癌の表層に,正常非腫瘍上皮,もしくは軽度の異型性を示す上皮が出現する現象が報告された 83),84.またKobayashiら 85により除菌後発見胃癌のNBI拡大内視鏡観察で,癌の表層が非腫瘍上皮で被覆されることにより胃炎様変化が観察されることが報告された.除菌後では44%が出現していたのに対し,未除菌では5%程度の出現率であった.このことは除菌後胃癌で生検診断が付きにくい,範囲診断が読みにくいなどの現象が出現する可能性がある.除菌後では,組織学的に癌上皮と非癌上皮がモザイク状に出現することも報告されており 86,癌の領域が不明瞭になる症例も報告されている.除菌後の内視鏡観察のポイントとしては萎縮領域内の血管透見像不良,発赤,褪色などの胃粘膜色調変化,粘膜凹凸の発見で,胃癌発見のための基本に準じた内視鏡観察が重要であることが報告されている 87.除菌7年後に発見された症例の内視鏡像を提示する(Figure 6).体下部小彎の陥凹性病変で,通常光観察では発赤調で浅い陥凹を呈している(Figure 6-a).インジゴカルミン散布で陥凹内に粗造な面を認める(Figure 6-b)NBI像では境界は明瞭である(Figure 6-c).Figure 6-cの黄丸印内の拡大観察で病変内に胃炎様の整ったwhite zoneがnet workを呈する血管像のなかに観察できる(Figure 6-d).ESD後の組織像ではItoらが報告した 83,管状腺癌(高分化)の粘膜表層に正常腺窩上皮が覆っている様子がみられた(Figure 6-e).特徴的な除菌後胃癌の組織像である.

Figure 6 

除菌後胃癌0-Ⅱc.

a:体下部小彎の陥凹性病変である.通常光観察では淡発赤調で浅い陥凹(矢印)を呈している.

b:インジゴカルミン散布で陥凹内に粗造な面(矢印)を認める.

c:NBI観察弱拡大では境界は明瞭である.

d:cの黄丸印内の拡大観察で病変内に胃炎様の整ったwhite zoneがnetworkを呈する血管像のなかに観察できる.

e:ESD後の組織像ではIto 83らが報告した,管状腺癌(高分化)の粘膜表層に腺窩上皮が覆っている様子がみられた.特徴的な除菌後胃癌の組織像である.

Ⅷ まとめ

HP未感染胃にもまれではあるが胃癌が発生し,その胃癌には特徴があることを知っておけば比較的発見は容易と考えられる.今回はふれてはいないが,まず食道胃接合部の観察を行い,褪色を発見したら印環細胞癌を考慮する.また胃底腺領域に粘膜下腫瘍様の病変が発見され,かつ表層に拡張血管が観察されれば胃底腺型胃癌を疑う.そのほか,HPと関係なく生じる胃癌には遺伝性びまん性胃癌にみられる多発の印環細胞癌,FAPにみられる前庭部の陥凹性病変,胃底腺領域にみられる胃型形質を持った胃癌がある.またA型胃炎を長期経過観察している場合も癌の合併率が高いため注意が必要である.EBV関連胃癌は最近ではHPの感染が発癌に深く関与していることが報告され,純粋にEBVのみで胃癌が発生しているのではないようであるが,今後の検討が待たれる.除菌後胃癌の肉眼型は陥凹型で,組織像は分化型を呈することが多い.また非噴門腺領域に多く発生することが報告されている.組織学的に表層を非癌上皮が覆ったり,正常と癌がモザイク状に配列するなどの報告があり,範囲診断が難しい場合もあるが,発見に際してはやはり通常の胃癌を発見するときと同様,色調変化,凹凸に注意することが重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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