日本消化器内視鏡学会雑誌
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自己免疫性水疱症の上部消化管内視鏡所見
中村 理恵子大森 泰須田 康一和田 則仁川久保 博文竹内 裕也山上 淳天谷 雅行北川 雄光
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2018 年 60 巻 8 号 p. 1515-1526

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要旨

自己免疫性水疱症は自己抗体により細胞間接着が障害され,皮膚や重層扁平上皮に水疱が形成される疾患の総称である.多くは皮膚に水疱やびらんを形成するが,目,鼻,口腔粘膜,口唇,咽喉頭,食道などの重層扁平上皮にも水疱やびらんを形成することがある.しかし,咽喉頭および食道粘膜における病変の発生頻度や特徴についてはよく知られていない.この研究においては,自己免疫性水疱症における上部消化管内視鏡検査の重要性を評価することを目的とし,内視鏡的な咽喉頭食道病変の発生頻度をprimary endpoint,内視鏡的・臨床的特徴を見出すことをsecondary endpointとして評価を行った.口腔または咽喉頭病変を50.4%,咽喉頭病変を30.8%に認めた.通常観察で食道粘膜面に異常を認めなかった症例の40.6%において機械的刺激による表皮剥離または血疱形成(Nikolsky現象)を呈した.全体の16.8%に通常観察で食道病変を認め,56.0%がNikolsky現象陽性を呈した.皮膚病変を認めない29.2%の症例において,77.7%に口腔または咽喉頭病変,36.1%に食道病変,58.3%にNikolsky現象を認めた.上部消化管内視鏡所見より自己免疫性水疱症を疑うことは可能であり,その内視鏡的特徴および所見を理解しておくことは重要である.

I 定義・診断基準

自己免疫性水疱症は,自己抗体により細胞間接着が障害され,皮膚や重層扁平上皮粘膜に水疱が形成される疾患の総称である.自己免疫性水疱症は,自己抗体の発現箇所に応じて天疱瘡群と類天疱瘡群の2つの群に分けられる.天疱瘡群は表皮細胞間接着因子に対する自己抗体,類天疱瘡群は表皮基底膜部抗原に対する自己抗体により水疱を生じる疾患であり,さらに標的抗原によって複数の亜型に分けられる 1)~3.すべての自己免疫性水疱症は自己抗体を標的として引き起こされ,その診断は臨床的な徴候のみに基づくものではなく,表皮細胞膜表面もしくは表皮基底膜部に対する自己抗体が結合組織に沈着するあるいは循環血中に認められることを診断基準としている 4)~6

Ⅱ 目  的

自己免疫性水疱症において,粘膜病変は扁平上皮である口腔,咽喉頭,食道に発現する可能性がある.自己免疫性水疱症に特徴的な内視鏡所見に関してはよく知られていないことから,自己免疫性水疱症症例に上部消化管内視鏡検査を施行しその内視鏡所見に関して検討を行った.

Ⅲ 症  例

2011年7月から2015年6月の間に,慶應義塾大学医学部皮膚科にてすでに自己免疫性水疱症と診断されている123例を対象とし上部消化管内視鏡検査を施行した.123例の自己免疫性水疱症症例のうち,天疱瘡群が67例(54.4%),類天疱瘡群が56例(45.5%)であった.

Table 1は天疱瘡群である尋常性天疱瘡および落葉状天疱瘡,類天疱瘡群である水疱性類天疱瘡,粘膜類天疱瘡,後天性表皮水疱症,および線状IgA水疱性皮膚症の内訳である.

Table 1 

亜分類における症例数.

Ⅳ 方  法

この研究は倫理審査委員会の承認を受けた上で施行されており,慶應義塾大学医学部皮膚科受診時に研究同意を得た上で,一般・消化器外科にて上部消化管内視鏡検査を施行した.観察項目として口腔,咽喉頭,食道病変の存在の有無,病変存在位置および生検鉗子による機械的刺激に対して表皮剥離を認めるNickolsky現象の有無とした.Nickolsky現象に関しては,上部食道(切歯から約25cm)と下部食道(切歯から約35cm)の2箇所で行い,切歯から35cmの食道粘膜からの生検にて病理組織学的所見を確認した.

この研究におけるprimary endpointは,特に咽喉頭および食道粘膜病変の内視鏡的発生頻度,secondary endpointは臨床的および内視鏡的特徴である.内視鏡的所見に加えて,初発症状,自己免疫性水疱症の診断までの経過,上部消化管内視鏡検査歴および自己免疫性水疱症としての皮膚病変を含めた臨床所見を評価した.すべての症例の内視鏡所見は2人の内視鏡専門医によって見直され,総合評価としての所見とした.

V 結  果

既に自己免疫性水疱症と診断された123例(男性56例,女性67例,年齢24-88歳,平均年齢60.9歳)を対象とし,上部消化管内視鏡検査を施行した.123例中53例が自己免疫性水疱症の治療中であり,その平均罹患期間は26.1カ月(1-312カ月)であった.内視鏡所見は部位(口腔および咽喉頭,食道,胃,十二指腸)ごとに評価を行った.胃,十二指腸における腺上皮に水疱症に特有の粘膜所見は認められなかった.

1.口腔および咽喉頭病変

口腔および咽喉頭の内視鏡所見をTable 2に示す.全体として自己免疫性水疱症症例の50.4%(62例)に口腔または咽喉頭病変を認め,30.8%(38例)に咽喉頭病変を認めた.自己免疫性水疱症症例において口腔病変は粘膜病変として最もよく知られている病変であり,舌,歯肉,硬口蓋,および軟口蓋のびらんと潰瘍として認識される(Figure 1).咽喉頭病変も一般的によく見られる所見であり,口腔病変と同様にびらんや潰瘍として認識される(Figure 2).症例によっては,Figure 2-cおよびFigure 2-dに示すように,喉頭浮腫が観察されることもある.

Table 2 

口腔内・咽喉頭病変,食道病変.

Figure 1 

口腔内内視鏡所見.

a:舌の発赤びらん,尋常性天疱瘡.

b,c:硬口蓋の発赤びらん,潰瘍,尋常性天疱瘡.

Figure 2 

咽喉頭内視鏡所見.

a:下咽頭喉頭の発赤びらん,尋常性天疱瘡.

b:下咽頭の発赤びらん,上皮剥離,尋常性天疱瘡.

c:喉頭の浮腫,粘膜類天疱瘡.

d:喉頭の白苔付着,粘膜類天疱瘡.

2.食道病変

全症例の26.8%(33例)において食道病変が認められた.これらの食道病変の所見の詳細をTable 2に示す.自己免疫性水疱症に特徴的な食道粘膜病変はびらん,水疱,潰瘍および狭窄であり,全体の20.3%(25例)に認められた(Figure 34).びらんは12例に,潰瘍は9例において所見として認められた.狭窄は3例にのみ認められ,全例機械的拡張を施行することなく自己免疫性水疱症に対する治療によって改善治癒することができた.これらの特徴に加え内視鏡スコープと食道粘膜面が接触することによって誘発された血疱形成が自己免疫性水疱症に特徴的な所見として観察された(Figure 5).鉗子等による機械的刺激による表皮剥離または血疱形成,生検時の血疱形成はNikolsky現象とされ自己免疫性水疱症に特徴的な所見である.Nikolsky現象には一般的によく知られている機械的刺激による表皮剥離に加えて血疱形成も含まれる(Figure 6).通常観察にて食道病変を認めない自己免疫性水疱症症例の27.7%(25例)でNikolsky現象が認められた.通常観察にて食道病変を認めるもしくはNikolsky現象陽性となる症例は全体の40.6%(50例)となり,自己免疫性水疱症症例の約40%が食道において自己免疫性水疱症症例を疑わせる所見を認めたこととなる.

Figure 3 

食道内視鏡所見(発赤びらんと水疱).

a,b:発赤びらんと上皮剥離を伴う小陥凹病変,尋常性天疱瘡.

c:小水疱,尋常性天疱瘡.

Figure 4 

食道内視鏡所見(潰瘍,狭窄).

a,b:上皮剥離を伴う線状潰瘍,水疱性類天疱瘡.

c:潰瘍による狭窄,粘膜類天疱瘡.

d:上皮剥離を伴う狭窄,粘膜類天疱瘡.

Figure 5 

食道内視鏡所見(物理的刺激による変化).

a,b:内視鏡スコープ擦過による血疱形成,尋常性天疱瘡.

c:送気粘膜進展による上皮剥離,尋常性天疱瘡.

Figure 6 

ニコルスキー現象.

a,b:生検鉗子による擦過にて誘発された上皮剥離,尋常性天疱瘡.

c:生検鉗子による擦過にて誘発された上皮剥離,水疱性類天疱瘡.

d:生検鉗子による擦過にて誘発された血疱,水疱性類天疱瘡.

3.Nikolsky現象

前述したように,Nikolsky現象は自己免疫水疱症に特有の現象であり,この現象が認められた場合自己免疫性水疱症を疑うべきである所見である.自己免疫性水疱症症例においては,生検鉗子で食道粘膜を擦ることによって粘膜の表皮剥離または血疱形成を認める.この現象はすべての自己免疫性水疱症症例において認められるわけではない.Figure 6は特徴的なNikolsky現象の所見であり,機械的刺激もしくは生検にて生じた食道粘膜に表皮剥離,血疱形成が含められる.Table 3は,この研究における自己免疫性水疱症症例全症例のNikolsky現象の有無を示す.123例の自己免疫性水疱症症例のうち69例(56.0%)にNikolsky現象が認められた.上部,下部食道の2カ所で鉗子による擦過を行った結果,Nikolsky現象は上部食道に認められる傾向が強かった.

Table 3 

ニコルスキー現象.

4.病理組織学的所見

食道粘膜生検における病理組織学的診断では,炎症性細胞浸潤や肥厚性変化が認められることが多く,全例において悪性所見は認められなかった(Table 4).食道粘膜生検検体のヘマトキシリン・エオジン染色標本のみを使用して病理組織学的に自己免疫性水疱症と確定診断することは困難であった.また,全例において標準的なヘマトキシリン・エオジン染色に加えて蛍光抗体直接法も施行したが,検体が小さいため,IgG沈着に関しては沈着が疑われる程度の所見のみであった.IgG沈着が明らかに陽性であると診断することができたのは,全体の10%未満であった.

Table 4 

生検病理組織学的所見.

5.皮膚病変を認めない自己免疫性水疱症症例

一部の自己免疫性水疱症症例は皮膚病変を伴わない.これら皮膚病変を伴わない自己免疫水疱症の多くは粘膜病変(口腔,咽喉頭粘膜または肛門粘膜の病変)から診断される.眼球結膜や鼻粘膜病変も自己免疫性水疱症により誘発されうる.粘膜病変の特徴はよく知られておらず,皮膚病変のない自己免疫性水疱症症例は確定診断が困難なことがある.Table 5は,皮膚病変を伴わない自己免疫性水疱症症例の詳細を示す.Table 6は,皮膚病変を伴わない自己免疫性水疱症症例の主訴を示す.36例中35例(97.2%)が主訴として口腔・咽喉頭の不快感もしくは食事摂取困難感を訴えていた.Figure 7は,皮膚病変を伴わない自己免疫性水疱症症例を内視鏡所見上の口腔・咽喉頭病変,食道病変,Nickolsky現象の有無により分類したものである.この図より,皮膚病変を伴わない自己免疫性水疱症症例のうち77.7%(28例)が口腔または咽喉頭病変を有しており,これにNikolsky現象を示すものを合わせると88.8%(32例)が何らかの内視鏡所見を示している.この結果は,自己免疫性水疱症の診断に上部消化管内視鏡検査が重要であることを示唆している.さらに,当検討の症例の中で自己免疫性水疱症の診断直前に健康診断としての上部消化管内視鏡検査を施行されている症例が7例存在したが,すべての症例において内視鏡所見上自己免疫性水疱症は疑われなかった.自己免疫性水疱症と診断されたのちに施行した上部消化管内視鏡検査においてこのうち6例がNikolsky現象陽性であり,通常観察において6例に咽喉頭病変,6例に食道病変を認めた.

Table 5 

亜分類別の皮膚病変を伴わない症例数.

Table 6 

皮膚病変を伴わない症例における主訴.

Figure 7 

皮膚病変のない症例における自己免疫性水疱症症例の内視鏡所見の分類.

+:陽性症例,-:陰性症例,数字:症例数.

Ⅵ 考  察

自己免疫性水疱症は,表皮もしくは表皮基底部抗原に対する自己抗体により臨床的に表皮内または表皮下の水疱およびびらんを呈する疾患である.自己免疫性水疱症はそれほど罹患率として高い疾患でないため,自己免疫性水疱症を専門とする皮膚科医以外の医師にとってその診断は困難であることが多い.皮膚病変を伴う症例において自己免疫性水疱症を疑うことは比較的容易であるが,皮膚病変を全く伴わない症例がある一定の頻度で存在する.このような症例は口腔または咽頭の痛みや出血,吐血,食物の通過障害などの上部消化管症状を訴えることが多い.これらの主訴ゆえに皮膚科受診の前に消化器科を受診し消化管内視鏡検査を施行される可能性がある.しかしながら自己免疫性水疱症の内視鏡所見の特徴は明らかにはされておらず,内視鏡所見に関する報告も少ない.自己免疫性水疱症における食道病変の発生率に関しては,様々な発生率が報告されおり 7)~10,食道病変を伴う自己免疫性水疱症はほとんどが尋常性水疱症,粘膜類天疱瘡,水疱性類天疱瘡のいずれかに属すると報告されている.特に食道病変に関する報告においては,そのほとんどが尋常性水疱症症例におけるものであった.食道病変は,水疱,血疱,びらん,発赤,点状出血斑,潰瘍,潰瘍瘢痕,粘膜肥厚などが含まれ,食道上部1/3に所見が見られる傾向が高いが食道全長に影響を及ぼすものであるとされている 11.これらの所見は当研究においても同様であり,下部に比して上部食道にNickolsky現象が陽性となる頻度が高く,通常観察における病変に関しても上部食道に多く認められる傾向があった.この理由は不明であるが,食道よりさらに上方の口腔および咽喉頭領域にも病変が高い頻度で認められている.さらに皮膚病変を伴わない尋常性天疱瘡で食道病変が存在した報告も存在し 12),13,その症例はほとんどが中年女性で,嚥下困難感や咽頭不快感のために上部消化管内視鏡を施行されていた 12.また皮膚病変を伴わない症例の1例報告において,食道症状を有する尋常性天疱瘡症例に上部消化管内視鏡検査は必要であり,また安全に施行できることが述べられている 13.また食道症状を伴わず,内視鏡検査においても食道所見を認めないにも関わらず,食道粘膜生検において病理組織学的に尋常性天疱瘡の所見が疑われた症例が報告されている 14.多くの尋常性天疱瘡症例は嚥下障害,胸焼け,嚥下障害等の消化管症状を呈し食道病変を有することも多いため,食道病変は尋常性天疱瘡を疑う要素となり得る 15.食道症状の訴えがある口腔病変を伴う尋常性天疱瘡28例の報告にて,上部消化管内視鏡検査は有用で安全に施行でき,また口腔病変を伴う尋常性天疱瘡の57.1%に食道病変が存在したと報告されている 16.これらの結果より,口腔や咽喉頭を含む上部消化管症状のある症例において自己免疫水疱症も疑うべきであることが言える.対照的に類天疱瘡症例のほとんどの報告は症例報告であり,粘膜類天疱瘡が食道粘膜病変により急性上部消化管出血を引き起こす可能性があることが報告されている 17),18.197人の粘膜類天疱瘡症例に上部消化管造影検査を施行したコホート研究では,5%において狭窄や食道ウェブの所見が認められ,食道病変の存在が示唆されている 19.従ってある一定割合の粘膜類天疱瘡症例は食道病変を有すると推定される.粘膜類天疱瘡の内視鏡所見として潰瘍,ウェブ,および狭窄が報告されており 20,1例報告ではあるが,食道病変のみを示した報告も存在する 21.類天疱瘡に関して食道病変に関して述べている報告は少なくその症例数も少ない.

上部消化管内視鏡の施行においては,粘膜が脆弱である症例も存在するため,熟練した内視鏡医が施行するべきである 22)~24.自己免疫性水疱症の内視鏡施行を危険と考えている消化器科医もいるが,咽喉頭・食道の所見を認識し不適切な治療を回避するためにも上部消化管内視鏡は施行されるべきである.皮膚病変が全く認められない,もしくは目立たない症例が存在することは認識しておく必要がある.当研究において,皮膚病変を伴わない症例の88.8%に口腔・咽喉頭病変もしくはNikolsky現象を含む何らかの食道病変を認めた.これは皮膚病変を伴わない自己免疫性水疱症症例が皮膚科受診の前に,咽頭痛,狭窄症状,嚥下障害,嘔吐等の症状が故に上部消化管内視鏡を施行される可能性があり,その所見で自己免疫性水疱症を疑うことができることを示唆する.積極的に鉗子等により粘膜擦過を施行する必要性はなく,食道粘膜の脆弱性等の所見により自己免疫性水疱症を疑うことができる.消化器内視鏡医は,自己免疫性水疱症の内視鏡所見を理解し,所見によりその可能性を考慮できる必要性がある.また,上部消化管内視鏡所見のみで自己免疫性水疱症の確定診断はできないが,疑うことは十分に可能である.このことは自己免疫性水疱症症例の早期診断と治療につなげるために非常に重要である.

Ⅶ 結  語

自己免疫性水疱症症例に対する上部消化管内視鏡検査は合併症を発生することなく安全に施行することが可能である.口腔,咽喉頭,食道粘膜面所見を自覚症状と関連づけることができ,自己免疫性水疱症の病態を把握するためにも有用である.消化器内視鏡医は,自己免疫性水疱症の内視鏡所見の特徴を理解しておく必要性があると考えられる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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