日本消化器内視鏡学会雑誌
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Helicobacter pylori除菌の異時性胃癌発生予防効果
炭山 和毅
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2018 年 60 巻 8 号 p. 1533

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【背景】早期胃癌症例の多くは背景に粘膜萎縮を伴っており,異時性胃癌発生の高リスク症例である.早期胃癌内視鏡切除後の異時性胃癌発生リスクに対するHelicobacter pylori(以下,H. pylori)除菌の意義については,まず,Uemuraらによる非ランダム化比較試験の結果により,リスクが軽減されたと報告されている.しかし,その後実施された2つのopen labelランダム化比較試験では,胃癌発生予防効果は示唆されたが,一つの研究で統計学的有意差に至らなかった.また,例えH. pylori除菌に成功したとしても,高度な粘膜萎縮を伴う早期胃癌内視鏡切除後症例は,長期的にみると異時性胃癌発生の高リスク群であることに変わりはない.

【方法】本研究は,H. pylori除菌による粘膜萎縮の改善や,異時性胃癌発生予防効果の長期成績について検討した単施設プラセボ対象二重盲検比較試験である.本研究の対象は,2003年8月から2013年3月まで,the National Cancer Center in South Koreaにおいて,分化型癌もしくは高異型度腺腫の診断が生検で確認され,内視鏡的切除が予定された18歳から75歳の症例と設定された.結果的に,470例が1対1の割合で除菌群もしくはプラセボ群に治療前に割り付けられた.本研究の主要評価項目は,治療1年後以降に内視鏡的に発見された異時性胃癌の発生率と,治療3年後の胃体部小彎の腺萎縮の改善度であった.

【結果】内視鏡切除後に追加外科手術を実施した,あるいは,切除標本内に腫瘍が認められなかったなどの理由から,除菌群で42例,プラセボ群で32例がランダム化後に解析から除外された.最終的に,計396症例がthe modified intention-to-treat解析の対象となった(除菌群:194例,プラセボ群:202例).治療後観察期間の中央値は5.9年で,異時性胃癌は除菌群で14例(7.2%),プラセボ群で27例(13.4%)に認められた(除菌群のハザード比は0.50,95%信頼区間:0.26-0.94,P=0.03).治療3年後の生検で,胃体部小彎の萎縮が評価できた327例のサブグループ解析では,除菌群の48.8%,プラセボ群15.0%において萎縮の改善が認められた(P<0.001).両群において重篤な有害事象の発生はなく,軽微な有害事象については除菌群で多く認められた(42.0% vs. 10.2%,P<0.001).

【結語】プラセボ群に比べ,H. pylori除菌を実施した早期胃癌症例は,異時性胃癌発生率が低下し,胃体部萎縮の改善がより多くの症例で認められた(ClinicalTrials.gov number, NCT02407119.).

《解説》

H. pylori除菌による異時性胃癌発生の予防効果が,今回改めてプラセボ対象二重盲検比較試験により確認された.異時性胃癌発生リスクは除菌治療によって半分になるという結果であり,さらに除菌例に限れば,異時性胃癌発生のハザード比は0.32まで低下していた.またプラセボ群の異時性胃癌は,より若年で発症し,外科手術が必要となる確率が高かったと報告されている.本研究の特筆すべき点は,観察期間が,3年以下であった先行研究に比べ5.9年と長いこと.また,両群間のKaplan-Meier曲線の乖離が,3年後以降さらに広がる傾向であることを示したことである.さらに今回は治療から一年以内に発見された同時性癌も解析から除外されており,見落とし症例の影響は軽減されていると考えられる.一方,生存期間に関しては両群間で差を認めず,除菌群では胆管癌など他臓器癌が多く発症する傾向が示されたのは興味深い.今後,高度萎縮症例に対する発癌抑制効果や,萎縮改善と発癌抑制効果との関連,他臓器への負の影響などについて更なる検討が期待される.

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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