日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
EUSガイド下経直腸的ドレナージにより改善した骨盤内膿瘍の2例
金子 淳一 松下 雅広渡邉 晋也
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2018 年 60 巻 9 号 p. 1591-1597

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要旨

骨盤内膿瘍に対するEUSガイド下経直腸的ドレナージは欧米での有用性や安全性の報告は多いが,本邦からの報告は少ない.われわれは同手技にて治療した骨盤内膿瘍の2症例を経験したので報告する.症例1は42歳女性.壊疽性虫垂炎術後に骨盤内膿瘍に対し,ダグラス窩穿刺で改善なく,経直腸的ドレナージを施行した.直腸から超音波内視鏡ガイド下で膿瘍を穿刺し,外瘻チューブを留置し,膿瘍の改善を認めた.症例2は84歳女性.特発性直腸穿孔術後に骨盤内膿瘍に対し,症例1と同じ方法で膿瘍の改善を認めた.2症例共に外瘻チューブは1週間で抜去し,合併症や再燃はなかった.同手技が,骨盤内膿瘍の治療に有効である可能性が示唆された.

Ⅰ 緒  言

骨盤内膿瘍に対する超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography;以下EUS)ガイド下の経直腸的ドレナージ法は,2003年にGiovanniniらにより報告された手技であり 1,欧米からの報告例は複数認め,その有効性や安全性が確認されつつある.しかし,本邦からの報告は2例のみであり 2),3,一般的な治療法とはなっていない.今回われわれは骨盤内膿瘍に対してEUSガイド下に直腸より膿瘍を穿刺し,外瘻チューブを1週間留置するという方法で,合併症なく,膿瘍の改善を認めた2症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例1

患者:42歳,女性.

主訴:発熱,下腹部痛.

既往歴:なし.

現病歴:心窩部痛を自覚し,同日当院へ受診した.入院2日目に造影CTを施行し,急性虫垂炎の診断に至った.当院外科にて抗菌薬(メロペネム0.5g1日4回経静脈)が投与されたが,改善に乏しく,入院3日目に虫垂切除術を施行した.虫垂は黒色調で壊疽性虫垂炎の状態であった.穿孔所見は認めず,病理検査では悪性所見は認めなかった.術後に下腹部痛,37度台の発熱,炎症反応が高値を持続したため,入院11日目,造影CTを行い骨盤内に91mm×66mmの膿瘍形成が明らかとなった.抗菌薬(イミペネム・シラスタチン0.5g1日2回経静脈)の投与が開始となったが,改善は乏しかった.入院16日目に当院産婦人科にて経膣的膿瘍穿刺が行われたが,膿瘍内容物の吸引は不良であり,治療効果は得られなかった.入院18日目に骨盤内膿瘍に対して,EUSガイド下経直腸的ドレナージ目的で当院消化器内科へ紹介となった.

当科紹介時現症:163cm,体重62㎏,体温37.3℃(腋窩).脈拍72/分,整,血圧102/53mmHg,SpO2 98%,腹部平坦,軟,下腹部に限局する圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった.

臨床検査成績:血液検査はWBC17,100/μl,Hb12.7g/dl,Hct37.1%,Plt429万,AST19IU/l,ALT22IU/l,BUN8.1mg/dl,Cre0.57mg/dl,CRP7.6mg/dlであり,炎症反応の上昇を認めた.

腹部造影CT検査(Figure 1):ダグラス窩に直腸壁に接する壁の厚い91mm×66mmの低吸収域を認め,骨盤内膿瘍と考えた.

Figure 1 

症例1 腹部造影CT所見 入院11日目(虫垂切除術後8日目).

ダグラス窩に直腸壁に接する壁の厚い91mm×66mmの低吸収域を認め,骨盤内膿瘍と考えた.

EUSおよびドレナージ術所見(Figure 2):経口腸管洗浄薬にて洗腸を施行した後,肛門よりEUSスコープ(GF type UCT260,Olympus)を挿入した.直腸からのスキャンで直腸壁に接する60mm大の膿瘍を認めた.膿瘍内部に隔壁は認めなかった.19G EUS-FNA針(Expect,Boston Scientific)で穿刺し,ガイドワイヤー(0.035inch Jagwire,Boston Scientific)を膿瘍腔内に留置した.続いて,穿刺部の拡張をdilater(Soehendra biliary dilation catheter 4Fr-6Fr,Cook Japan)を用いて行い,外瘻目的に経鼻胆管ドレナージ(ENBD)チューブ(7Fr先端pig tail,CLINY)を膿瘍腔内に留置した.外瘻チューブより白色の膿瘍内容物を認めた.

Figure 2 

症例1 超音波内視鏡検査およびドレナージ術所見.

a:直腸からのスキャンで直腸壁に接する60mm大の膿瘍を認める.

b:外瘻チューブを膿瘍内に留置し,膿瘍腔の造影を施行した.

臨床経過:膿瘍内容物は外瘻チューブより自然流出を認めた.ドレナージ施行後2日目と3日目に生理食塩水で膿瘍腔の洗浄を施行した.ドレナージ2日目にCT検査で膿瘍が縮小していることを確認した(Figure 3).膿瘍内容物の細菌培養でBacteroides fragilisを検出した.抗菌薬(メトロニダゾール500mg1日2回経口)を7日間投与した.下腹部痛や炎症反応は速やかに改善を認め,ドレナージ施行後7日目にチューブ造影を行い,著明な膿瘍腔の縮小を認めたため外瘻チューブは抜去した.処置後は絶食とし,外瘻チューブの抜去後と同時に食事摂取を開始した.以降6カ月,再発を疑う所見は認めなかった.

Figure 3 

症例1 ドレナージ後経過.

ドレナージ後2日目に造影CTを施行し,膿瘍腔の著明な縮小を認めた.

症例2

患者:84歳,女性.

主訴:発熱.

既往歴:高血圧,高脂血症.

現病歴:排便後の持続的な腹痛を訴え当院へ受診した.CT検査にて骨盤内に遊離ガス像を認め,直腸穿孔の診断となり,当院外科にてハルトマン手術が施行された.術中,穿孔部位に腫瘍性病変は認めず,病理検査でも悪性所見は認めなかった.抗菌薬(メロペネム0.5g1日3回経静脈)の投与が入院10日目まで行われた.また,入院時の血液培養でPseudomonas aeruginosa,Escherichia coli,Bacteroides vulgatusを認めており,使用した抗菌薬に感受性を示していた.抗菌薬終了後より,発熱,炎症反応の再上昇を認めたため,入院15日より抗菌薬(レボフロキサシン500mg1日1回経口)の投与が行われたが,臨床所見の改善に乏しかった.入院18日目,造影CTを行い,骨盤内に66mm×55mmの膿瘍形成が明らかとなり,入院19日目にEUSガイド下経直腸的ドレナージ目的で当院消化器内科へ紹介となった.

当科紹介時現症:155cm,体重59㎏,体温37.8℃(腋窩).脈拍59/分,整,血圧115/62mmHg,SpO2 95%,腹部は平坦,軟,手術痕を認めた.下腹部に限局する圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった.

臨床検査成績:血液検査はWBC9,900/μl,Hb10.4g/dl,Hct32.5%,Plt650万,AST16IU/l,ALT24IU/l,BUN7.3mg/dl,Cre0.58mg/dl,Alb2.4g/dl,CRP5.0mg/dlであり,炎症反応の上昇を認めた.

腹部造影CT検査(Figure 4):ダグラス窩に壁の厚い66mm×55mmの低吸収域を認め,骨盤内膿瘍と考えた.

Figure 4 

症例2 腹部造影CT所見 入院18日目(ハルトマン手術後18日目).

ダグラス窩に直腸壁に接する壁の厚い66mm×55mmの低吸収域を認め,骨盤内膿瘍と考えた.膿瘍内部にairを認めた.

EUSおよびドレナージ術所見(Figure 5):人工肛門造設術後であり,洗腸は行わず,肛門より残直腸内へEUSスコープ(GF type UCT260, Olympus)を挿入した.残直腸は15cm程度であった.直腸からのスキャンで直腸壁に接し,厚い壁を有する65mm大の膿瘍を認めた.膿瘍内部に隔壁は認めなかった.19G EUS-FNA針(Expect,Boston Scientific)で穿刺し,ガイドワイヤー(0.035inch Jagwire,Boston Scientific)を膿瘍腔内に留置した.続いて,穿刺部の拡張をdilater(Soehendra biliary dilation catheter 4Fr-7Fr,Cook Japan)を用いて行い,外瘻目的に経鼻胆管ドレナージ(ENBD)チューブ(7Fr先端pig tail,CLINY)を膿瘍腔内に留置した.外瘻チューブより白色の膿瘍内容物を認めた.

Figure 5 

症例2 超音波内視鏡検査およびドレナージ術所見.

a:直腸からのスキャンで直腸壁に接する65mm大の膿瘍を認める.

b:外瘻チューブを膿瘍内に留置し,膿瘍腔の造影を施行した.

臨床経過:膿瘍内容物は外瘻チューブより自然流出を認めた.ドレナージ施行後2日目と3日目に生理食塩水で膿瘍腔の洗浄を施行した.ドレナージ施行後3日目にCT検査で膿瘍が著明に縮小していることを確認した(Figure 6).膿瘍内容物の細菌培養でBacteroides fragilisを検出した.抗菌薬(イミペネム・シラスタチン0.5g1日3回経静脈7日間,その後メトロニダゾール500mg1日2回経口7日間)の投与を行った.下腹部痛や炎症反応は速やかに改善を認め,ドレナージ施行後8日目にチューブ造影を行い,著明な膿瘍腔の縮小を認めたため外瘻チューブは抜去した.残直腸からの処置であったため,食事制限は行わなかった.以降3カ月,再発を疑う所見は認めなかった.

Figure 6 

症例2 ドレナージ後経過.

ドレナージ後3日目に単純CTを施行し,膿瘍腔の著明な縮小を認めた.

Ⅲ 考  察

骨盤内膿瘍は,腹部・骨盤内に対する手術後や,憩室炎,炎症性腸疾患,虚血性大腸炎,感染性腸炎,骨盤内感染症に続いて発生することが知られている.4cm以上の比較的大きな骨盤内膿瘍は抗菌薬の投与のみでは改善しないことが多く 4,ドレナージが必要であるが,骨盤内という解剖学的な条件により経皮的なドレナージが困難であることが多い.そこで,経皮的CT,USガイド下ドレナージの代替法として,EUSガイド下経直腸的骨盤内膿瘍ドレナージが考案され,2003年にGiovanniniらにより初めて報告された 1.その後,欧米を中心に有効性や安全性に関する多くの報告がなされている 4)~10.EUSガイド下の骨盤内膿瘍ドレナージという手法は大規模なコホート研究こそなされてはいないが,Mahadevらのreviewによると,手技成功率はほぼ100%,治療成功率は86%-100%とされており,合併症は約200例中2例の穿孔を認めるのみであったとされており,安全かつ有効な治療方法であると考えられている 4

しかしながら,同手技の本邦における報告は少ない.その理由としてInterventional EUSは欧米を中心に普及し,それに遅れて本邦では2000年ごろから徐々に普及してきたという経緯がある 11.このことが本邦と欧米の普及率の差になっていると考えられる.医学中央雑誌(1983年~2017年11月)において,「骨盤内膿瘍」,「ダグラス窩膿瘍」,「超音波内視鏡」などをキーワードに検索したところ,症例報告は,2014年の三長ら 2と,2017年の松本ら 3の2例のみであった.既報に自験例を加え4例をTable 1に示す.現在はまだ少数であるが,欧米での報告を受け,本邦においても骨盤内膿瘍に対するEUSガイド下ドレナージが普及する可能性があると考える.

Table 1 

骨盤内膿瘍に対するEUSガイド下経直腸的ドレナージの国内報告例.

医学中央雑誌(1983年~2017年11月)において,「骨盤内膿瘍」,「ダグラス窩膿瘍」,「超音波内視鏡」などをキーワードに検索した.自験例を合わせて4例の症例報告を認めた.

現在,ドレナージの方法として,①内瘻ステント,②外瘻チューブ,③lumen-apposing metal stent(LAMS),④穿刺吸引が存在する.既報の多くは①内瘻ステント(7-10Frの両端pig-tail型ステント)を使用している.その一方で,②外瘻チューブに関しては,8cm以上の膿瘍に対して内瘻ステントと共に10Frの外瘻チューブを使用したとの報告があり 9,壁が厚く,膿瘍内の洗浄が必要な場合に考慮されるとされている 4.③LAMSは2017年以降報告された新しいドレナージ方法で,治療成功率は高いが,出血などのリスクがあり,合併症やコストの面で課題が残る 10.④穿刺吸引は,ステント留置が望ましくないときに施行するとされており,具体的には,他臓器と瘻孔形成の場合,凝固機能の異常で穿刺部の拡張が困難である場合,悪性疾患が考慮される場合,ステントが留置できない程度の小さい膿瘍の場合,腸管より穿刺対象が2cm以上離れている場合などで選択され得るとされている 4

今回われわれは②外瘻チューブを選択した.われわれの考える外瘻チューブと内瘻ステントの利点・欠点をTable 2にまとめた.外瘻チューブの利点の一つに膿瘍腔を洗浄することが可能であることが挙げられる.自験例は2例ともに外瘻チューブ留置後に洗浄を行った.実際の洗浄方法としては,1回注入量は生理食塩水10~20mlとし1セッションで5~10回,1日2セッションを行った.外瘻チューブを留置し2~3日で自然排液が消失したため洗浄は終了とした.また,外瘻チューブの欠点としてチューブ留置による肛門部の不快感や行動の制限がある.自験例では1週間で外瘻チューブを抜去し,その後の再発を認めなかった.1週間という比較的短い留置期間であれば外瘻チューブの欠点に関しても容認できるのではないかと考えられる.

Table 2 

外瘻チューブと内瘻ステントの利点・欠点.

EUSガイド下の骨盤内膿瘍ドレナージにおける外瘻チューブと内瘻ステントの利点・欠点をまとめた.

抗菌薬に関して,自験例では膿瘍培養の前ではInfectious Diseases Society of America(IDSA)の腹腔内感染症ガイドラインに準じて広域抗菌薬を選択した 12.ドレナージ後は膿瘍培養から起因菌がBacteroides fragilisと同定され,抗菌薬を変更した.骨盤内膿瘍は嫌気性菌が関与することが多く,抗菌薬は嫌気性菌をカバーしたレジメがよいと考える.特に内服抗菌薬ではクリンダマイシンがBacteroides fragilis属の耐性を増強するとの理由で使用が推奨されておらず 12,自験例で使用したメトロニダゾールが適切でると考えられる.

本邦において現在は同手技の安全性や有効性の確立はされておらず,施行を考慮する場合は,症例の選択と,十分なインフォームドコンセントが必要であることは言うまでもない.しかし,われわれは骨盤内膿瘍に対して有効な治療法であると考えており,今後さらなる症例の蓄積および検討を行った上で,同手技の普及が待たれる.

Ⅳ 結  語

EUSガイド下経直腸的ドレナージにより改善した骨盤内膿瘍の2例を経験した.ドレナージ方法として,外瘻チューブの留置が有効である可能性が示唆された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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