日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
粘膜下腫瘍様の形態で特異なEUS像を呈した異所性胃腺由来胃癌の1例
浦上 聡 阿南 隆洋北村 泰明藤田 光一松井 佐織渡辺 明彦菅原 淳向井 秀一
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2019 年 61 巻 10 号 p. 2360-2365

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要旨

症例は72歳男性.食道癌ESD後の経過観察中に,穹窿部後壁に8mm大の扁平な粘膜隆起性病変を認め,生検ではGroup1であった.半年後の再検時には15mm大と増大し粘膜下腫瘍様の形態となり,生検で胃癌(pap)と診断した.EUSでは粘膜下層に点状の高エコー域があるため,胃癌の粘膜下層浸潤が疑われたが,反応性変化の可能性があることと,患者の希望を考慮してESDを施行した.病理組織で,異所性胃腺の腫瘍への移行像と腫瘍内に石灰化像がみられたため,石灰化を伴う異所性胃腺由来癌と考えた.粘膜下腫瘍様の形態で特異なEUS像を呈した異所性胃腺由来胃癌を経験したので報告する.

Ⅰ 緒  言

粘膜下腫瘍様の形態を呈する胃癌は比較的稀とされる.今回,粘膜下腫瘍の形態を呈し,点状の高エコー域を有する,異所性胃腺が発生母地と考えられた早期胃癌を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:72歳,男性.

既往歴:高血圧,糖尿病,尿路結石.

家族歴:特記事項なし.

生活歴:機会飲酒,40本/日×20年(52歳時より禁煙).

現病歴:20XX年,表在型食道癌に対してESDを施行した(Mt, Squamous cell carcinoma,12×12mm,Type0-Ⅱa,pT1a-EP,Ly0,V0,pHM0 pVM0).Helicobacter pyloriの除菌を行い,年に1回の定期検査を行っていた.術後9年目の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy:EGD)で胃体中部小彎に早期胃癌を認め,ESDを施行した(M, Less,35×26mm,Type0-Ⅱa,12×6mm,tub1,pT1a,pUL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0).同時に穹窿部後壁に8mmの扁平な粘膜隆起性病変も認めていた(Figure 1)が,生検ではGroup1であり経過観察としていた.しかし半年後のEGDで,15mmの粘膜下腫瘍様の形態を呈していた(Figure 2).頂部は不整な陥凹と異常血管を認め,同部からの生検で胃癌(pap)と診断されたため,精査加療目的に当科を受診した.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

通常観察の白色光観察.穹窿部後壁に8mmの扁平な粘膜隆起性病変を認める.表面はやや光沢を有する粘膜に覆われ,血管拡張が目立っている.

Figure 2 

上部消化管内視鏡検査.

a:白色光観察.穹窿部後壁に発赤調の15mmのなだらかな立ち上がりを有する隆起性病変を認める.病変は半年前と比較して緊満感があり,粘膜下腫瘍様の形態を呈している.

b:インジゴカルミン散布像.頂部は不整な浅い陥凹がみられる.

受診時現症:意識清明.身長162cm,体重46kg,体温36.2℃,血圧130/67mmHg,脈拍74回/分,整.腹部は平坦・軟で腫瘤は触知せず,反跳痛は認めなかった.

血液検査所見:腫瘍マーカーを含めて,特記事項なし.

腹部単純CT所見:リンパ節転移や胃癌内の石灰化は認めなかった.

通常内視鏡像:穹窿部後壁になだらかな立ち上がりを有する15mm大の発赤調隆起性病変を認めた.病変は半年前と比較して緊満感があり,粘膜下腫瘍様の形態を呈していた.頂部に不整な浅い陥凹を認めた.

拡大内視鏡像:陥凹部は腺窩辺縁上皮が一部視認されず,表面微細構造が消失していた.また,不規則な走行を呈する微小血管も認め,demarcation line(DL)は不鮮明ながら確認できた(Figure 3).

Figure 3 

上部消化管内視鏡検査.

NBI拡大内視鏡像.陥凹部は腺窩辺縁上皮が一部視認されず,表面微細構造が消失していた.また,不規則な走行を呈する微小血管も認める.

EUS:第2層に主座を置く不整形の低エコー腫瘤を認め,内部には点状の高エコー域がみられた.第3層はこの病変で圧排されてみえるが,acoustic shadowもあり詳細な観察は困難であった.また,病変近傍の粘膜下層には無エコー嚢胞性病変を認めた(Figure 4).

Figure 4 

EUS像.

第2層に主座を置く不整形の低エコー腫瘤を認め,内部には点状の高エコー域がみられる.第3層はこの病変で圧排されてみえるが,acoustic shadowもあり詳細な観察は困難である.また,病変近傍の粘膜下層には無エコー嚢胞性病変を認める.

受診後経過:粘膜下腫瘍様形態を呈する胃癌で,異所性胃腺由来癌や内分泌細胞癌,EBV関連胃癌等が鑑別にあがるが,EUSでの点状の高エコー域が典型像とは異なっており,腫瘍内石灰化やLymphoid stroma等の高エコー像を呈する反応性変化が,早期胃癌に合併した可能性も考えられた.ESDの希望が強く,診断的治療の意味も込めてESDを施行する方針とした.粘膜下様の形態を呈しており,DLから十分なマージンをとってマーキングを行った.病変の陥凹部は血管が豊富であったが,線維化は軽度で一括切除が可能であった.術後経過は良好で第7病日に退院となった.

病理組織学的所見:腫瘍病変は粘膜下層に主座があり,粘膜下腫瘍の形態を呈していた.一部,腫瘍の表層への露出がみられ,腫瘍近傍には異所性胃腺を認め(Figure 5-a),腫瘍組織内には,暗赤色物質が点在しており石灰化像と考えた(Figure 5-b).また,腫瘍近傍に腫瘍細胞で構成された嚢胞性病変と異所性胃腺が混在しており,異所性胃腺が腫瘍へ移行している像と考えた(Figure 6).リンパ管,静脈とも腫瘍細胞の侵襲がみられた.

Figure 5 

病理組織像(弱拡大と強拡大).

a:腫瘍病変は粘膜下層に主座があり,腫瘍が露出部を認めるが,粘膜下腫瘍の形態を呈している.腫瘍近傍には異所性胃腺を認める(HE染色×20倍).

b:黒枠部分の強拡大.暗赤色物質が散見される(HE染色,×200倍).

Figure 6 

病理組織像.

腫瘍近傍に腫瘍細胞で構成された嚢胞性病変と異所性胃腺が混在してみられる(HE染色,×40倍).

術後経過:病理診断はU,post,48×38mm,Type 0-Ⅱa,14×11mm,tub2,pT1b2,pUL0,Ly1,V1,pHM0,pVM0.となり,追加手術の方針となった.術式は異所性胃腺から発生した胃癌で,多発胃癌を認めており再発のリスクが高いと考え,胃全摘術を施行した.胃の切除後標本は全割を行い,穹窿部以外に異所性胃腺はみられなかった.ESD瘢痕部直下の漿膜脂肪織内にリンパ節転移を認め(Figure 7),最終診断は,U,Post,Type 0-Ⅱa,48×38mm,tub2,pT1b(SM),Ly0,V0,pPM0,pDM0,pN1(1/11),癌取り扱い規約(第15版):pT1bN1M0,pStageⅠbであった.

Figure 7 

病理組織像.

ESD瘢痕部直下の漿膜の脂肪織内に,リンパ節への転移が認められる(HE染色,×40倍).

Ⅲ 考  察

粘膜下腫瘍の形態をとる成因として(1)粘膜下への癌浸潤,(2)粘膜下の異所性腺によるもの,(3)リンパ細網組織の増生によるものが考えられる 1.頻度は(1)の癌浸潤が最も多く,形態としては癌胞巣により粘膜が押し上げられたもの,癌の粘液貯留によるもの,間質成分の増生した癌によるものが考えられている 2.(3)は癌に対する反応性変化が隆起を形成するもので,高度なリンパ球浸潤によるlymphoid stromaを伴うものである 3.自験例では(2)の粘膜下層の異所性胃腺によるもので,そこから癌が発生して膨張性に発育し,一部は粘膜筋板を破壊して表層まで進展したと考える.

粘膜下異所腺は切除胃例の4.0〜5.6%にみられる比較的稀な疾患で,男女比は9:1で男性に多く,年齢別では60歳代が43%,50歳代が28%と中高齢者に多い 4.好発部位は胃穹窿部から胃体部で,胃底腺の幽門腺化生,腺萎縮,腸上皮化生が生じつつある領域の粘膜下層に多い 5.成因には先天性に腺組織が粘膜下に迷入する先天性迷入説と 6,粘膜がびらんと再生を繰り返すことで粘膜筋板に間隙や欠損孔が生じ,再生した腺がそこを通り粘膜下層に迷入する後天性炎症説があり,後天性炎症説が有力とされる 4),6),7.胃癌がなければ経過観察することも選択肢となる 8.しかし,びまん性に異所性胃腺が存在する場合は胃癌,特に多発胃癌がみられる可能性が高く 4),9,異所腺を有する場合には診断が困難な微小癌病変が存在する可能性があり,胃切除を推奨する意見もある 10.自験例では異所性胃腺由来癌と考えられ,多発胃癌を認めたため,患者の意向を考慮して残胃癌の再発のリスクが高いと判断して胃全摘術を施行した.

粘膜下腫瘍様の胃癌は,腫瘍成分が表層にない場合があり生検における正診率は60%と低いため,診断に難渋することが多いとされる 11),12.異所性胃腺は,胃壁第3層の肥厚と,第3層内の無エコー嚢胞性病変の多発が特徴とされ 13,EUSは同定に有用とされる.しかし,腫瘍・非腫瘍の判断はEUSのみでは不十分であり 14,組織診断が重要となる.自験例でも初回の生検ではGroup1で,半年後に腫瘍露出部である陥凹部を生検して診断に至った.表層に癌の露出がない場合はEUSでの精査を行い,疑わしい所見があれば,ボーリング生検や超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound-fine needle aspiration:EUS-FNA)を積極的に行うべきと考える.また,自験例は,腫瘍細胞で構成された嚢胞性病変と異所性胃腺が混在しており,異所性胃腺が腫瘍へ移行している像と考え,異所性胃腺由来癌と判断した 14),15

自験例でのEUSで腫瘍近傍の無エコー嚢胞性病変は異所性胃腺で,点状の高エコー域は,EUS像と病理像を対比させると腫瘍内の微小石灰化像と考えられる.胃癌の石灰化の頻度は胃癌剖検例で4.4〜10.2%に認められ,稀ではないとされる 16が,自験例のように微小な石灰像が集簇して観察されるのは稀である.石灰化の機序としては,①腫瘍内の組織変性・壊死で代謝が低下し炭酸ガスが産生され,組織がアルカリ性になりカルシウム塩が沈着するdystrophic calcification,②副甲状腺機能亢進症,Vitamin D過剰症等の高カルシウム血症で正常組織に石灰沈着が起こるmetastatic calcification,③腫瘍が産生するムチンが,カルシウムイオンとリン酸イオン結合を促進させ石灰化が起こるontogenic calcification,に分類される 16),17.自験例では甲状腺機能や血清Ca/P値は正常であり,病理所見で変性・壊死所見が乏しい点,腫瘍細胞のムチン内に微小な石灰化像を認めた点から,③の機序により今回のような像を呈したと考えられる.この場合は,自験例のように腫瘍内に微小集簇する石灰化像を呈するため,EUSでの進達度診断に注意が必要である.

医学中央雑誌,PubMedで期間は限定せず,それぞれ「胃粘膜下胃腺」,「胃癌」,「石灰化」と「heterotopic gastric mucosa」,「gastric cancer」,「calcification」をキーワードに検索したところ,症例報告はいずれも認めず,これらの条件が揃うことは非常に稀である.今回,粘膜下腫瘍様の形態で内視鏡診断が困難な上に,腫瘍による微小石灰化集簇による点状な高エコー域を認めたため診断に苦慮した症例を経験した.自験例のような所見を認めた場合は,ボーリング生検やEUS-FNAによる組織診断を積極的に行うべきと考える.

Ⅳ 結  語

粘膜下腫瘍様の形態で特異なEUS像を呈した異所性胃腺由来胃癌の1例を経験した.異所性胃腺由来癌は内視鏡診断が困難な上,腫瘍による微小石灰化を呈する場合があり,ボーリング生検やEUS-FNAを積極的に行うべきと考えられた.

謝 辞

症例報告にあたりご協力頂いた,宇治武田病院外科 薄井裕治先生に深謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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