日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
遺伝性胃癌の病態と内視鏡検査の役割
岩泉 守哉 椙村 春彦
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2019 年 61 巻 12 号 p. 2582-2589

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要旨

家族集積性胃癌は胃癌全体の10-20%,遺伝性腫瘍症候群としての胃癌は胃癌全体の1-3%と少数ではあるが,胃癌が関連する遺伝性腫瘍症候群は複数存在し,それぞれの遺伝表現型相関を理解することが診断には重要である.内視鏡検査は表現型の詳細な把握ツールとして有用であると推察されるが,遺伝性びまん性胃癌(Hereditary Diffuse Gastric Cancer;HDGC)を例に挙げると,内視鏡スクリーニング・サーベイランスの確立には発展の余地がありそうである.ただし,最近の本邦の報告によると,HDGCの早期胃病変は内視鏡的に多発の小褪色調病変として認められることが多く,同部の狙撃生検により印環細胞癌と病理診断され,遺伝医療につながる場面も見受けられる.HDGCをはじめとした遺伝性胃癌では,内視鏡診断プロセスの標準化の仕組みの構築が今後重要になり得るであろう.

Ⅰ 緒  言

日本は,東南アジア,中国などとともに世界でも非常に胃癌の罹患率が高い.胃癌のリスクとなる環境因子としてH. pylori感染をはじめタバコ,高塩分食品はよく知られており,家族構成員が同じ生活環境や習慣の下で暮らしている結果,家族集積性に胃癌が認められることもある 1),2.一方,遺伝要因からみると,胃癌のウルトラハイリスク群として代表される遺伝性びまん性胃癌(Hereditary Diffuse Gastric Cancer;HDGC)のほか,胃癌を発症する遺伝性腫瘍症候群は複数存在する 3.このような胃癌を発症する遺伝性腫瘍症候群を拾い上げるには本人のみならず家族歴の聴取などによる血縁家系員の表現型の把握が重要であり,機器と診断技術が急速に進歩している内視鏡検査は表現型の詳細な把握ツールとして有用であると推察される.また,上腹部症状などに対する精査目的で実施した内視鏡検査により意図もせず遺伝性腫瘍症候群の候補者が拾い上がる場合も出てくるであろう.いずれにせよ内視鏡検査は胃癌を発症するリスクが高いと考えられる遺伝性腫瘍症候群家系の早期発見や予防を推進し,がんによる死亡を防ぐきっかけになり得るであろうが,現状はどうであろうか.本稿ではまず,胃癌が関連する遺伝性腫瘍について説明後,HDGCにおける内視鏡検査の現状およびHDGCに関するごく最近のトピックスを紹介したい.

Ⅱ 遺伝性胃癌の病態

血縁家系員に胃癌の家族歴を持つ胃癌患者は胃癌患者全体の10-20%,遺伝性腫瘍症候群としての胃癌患者は胃癌患者全体の1-3%であるといわれている 4.これまでに報告されている複数の文献を総合すると,遺伝性胃癌および遺伝性と推察される家族性胃癌には①HDGC,②familial intestinal gastric cancer(FIGC),③消化管ポリポーシス症候群に伴う胃癌,および,④その他の遺伝性腫瘍症候群に伴う胃癌の4つに分類される 5),6.ここでは,主に臨床・分子遺伝学的病態に重点を置いてこれらの遺伝性腫瘍症候群について概説する(Table 1).

Table 1 

胃癌に関連する遺伝性腫瘍症候群(文献)を一部改変).

①遺伝性びまん性胃癌(Hereditary Diffuse Gastric Cancer:HDGC)

胃癌全体で腸型胃癌は半数をやや超える程度を占めるのに対し,びまん性胃癌(Diffuse Gastric Cancer:DGC)は3分の1程度である 7.腸型胃癌(IGC)は発生にH. pylori感染が密接に関連しているといわれている中,遺伝性胃癌が最初に発見されたのはDGC家系である.1994年,American Gastroenterological Association(AGA)のAnnual Meetingで,4世代にわたって8名の若年者に胃癌が認められた1家系が報告された 8.胃癌組織が得られたこの家系内の患者3名ではいずれも,胃粘膜内に多発した印環細胞癌の孤立巣を呈していたが,その時点では遺伝学的な原因は明らかではなかった.1998年にニュージーランドのマオリ族で,家系内に若年で発症するDGCが認められた3家系が報告され,そのうち1家系では小葉乳癌(lobular breast cancer:LBC)も複数の家系員で認められた.いずれの家系も家系図からは常染色体優性遺伝形式と推察され,遺伝学的解析ではそれぞれの家系でCDH1遺伝子のExon7におけるsplice consensus sequenceの変化による短縮型E-cadherinの産生,Exon15におけるframeshift variant,Exon13におけるnonsense variantと判明し,初めて遺伝学的にHDGCと診断された 9.その後1994年にAGA Annual Meetingで報告されたDGC家系もCDH1のgermline pathogenic variantが判明した 6.これらの家系のように典型的なHDGCは,CDH1のgermline pathogenic variantが原因で,常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性腫瘍症候群である.CDH1のgermline pathogenic variantを持つ者において,80歳までのDGC推定累積リスクは男性で70%,女性で56%であり,さらに女性ではLBCの累積罹患リスクも42%あるといわれている 10.組織学的にHDGCの進行胃癌病変は散発性のDGCと見た目変わらないが,in situ signet ring cellあるいはpagetoid signet ring cellsが認められるのがCDH1 germline pathogenic variant関連DGCに特異的である.また,早期HDGCは発育が非常に遅いのに対し,進行期HDCGになると癌の進展が急速であるのが特徴であり,その点からも家族歴聴取や以下に示すようなHDGC拾い上げ基準,CDH1遺伝学的検査適用基準を日常診療で意識し,内視鏡検査による早期発見が重要になると思われる 11

2015年のThe International Gastric Cancer Linkage Consortium(IGCLC)guidelinesにおいて,以下のうち1項目でも満たせばHDGCが疑われるとされている 4

1.第一度近親者あるいは第二度近親者に2人以上胃癌に罹患した方がいて,そのうち1人がDGCである場合.胃癌の発症年齢は問わない.

2.40歳未満でDGCと診断された場合.

3.DGCとLBCの両方を罹患した既往歴あるいは第一度近親者あるいは第二度近親者に家族歴を持ち,そのうちひとつの疾患が50歳未満で診断された場合.

また,同じく2015年のIGCLC guidelinesにおいて,以下のうち1項目でも満たす者がいればCDH1遺伝学的検査を考慮するとされる 4

1.第一度近親者,第二度近親者に50歳未満で両側LBCに罹患した方がいる場合,あるいは50歳未満でLBCに罹患した方が2人以上いる場合.

2.唇顎口蓋裂の既往歴を持つDGC患者,あるいは第一度近親者,第二度近親者に唇顎口蓋裂の家族歴を持つDGC患者の場合.

3.胃にin situ signet ring cell and/or pagetoid spread of signet ring cellsを認めた場合.

近年,新たなHDGCの原因としてCTNNA1 germline pathogenic variantが報告された 12CTNNA1がコードしているα-cateninはβ-cateninと複合体を形成し,この複合体がE-cadherinの細胞質ドメインと結合することで細胞接着に関与する 13.このことからもCTNNA1 germline pathogenic variantによるDGCがCDH1 germline pathogenic variantによるDGCと類似するのは容易に想像できる.しかしながら報告によると450以上の胃癌家系において,CTNNA1 germline pathogenic variantを持つのはわずか5家系と低頻度であること 14CTNNA1 germline pathogenic variant を持つ家系でLBCあるいは唇額口蓋裂の患者は今のところ報告がない点がCDH1 germline pathogenic variant関連DGCと異なるが,今後のさらなる報告の蓄積により病態がより明確になるであろう.

②Familial intestinal gastric cancer

IGCにおいても家族集積性が報告されFamilial intestinal gastric cancer(FIGC)と呼ばれている.しかしながら原因となる遺伝学的背景が解明されていないため,診断基準は胃癌罹患率に依存したものとなっており,FIGCに特異的とはいえないものとなっている.1999年のIGCLCで,日本やポルトガルといった胃癌の高罹患国では,Lynch症候群の臨床診断基準のひとつであるAmsterdam criteriaに類似した以下のようなFIGCの臨床診断基準がすべて満たす場合をFIGCと臨床診断すると提唱された 15

1.少なくとも3人の血縁家系員が腸型胃癌に罹患しており,そのうち1人が他の2人からみて第一度近親者であること.

2.少なくとも2代連続して腸型胃癌に罹患していること.

3.血縁家系員のうち1人は50歳未満で胃癌と診断されていること.

また,米国や英国など,胃癌の低罹患国では以下のうちひとつでも満たせばFIGCと診断するとされている.現在FIGCの診断基準といえばこちらのみ記載されている総説が多い 5),6),15

1.少なくとも2人の第一度近親者あるいは第二度近親者が腸型胃癌に罹患しており,そのうち1人は50歳未満に罹患していること.

2.3人以上の血縁家系員が腸型胃癌に罹患していこと.罹患年齢は問わない.

家系内に消化管ポリポーシスを伴わないIGC患者,上記基準を満たす場合には本疾患を念頭に置くべきかと思われる.

③消化管ポリポーシス症候群に伴う胃癌

家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis;FAP)

APCのgermline pathogenic variantが原因であり,常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性腫瘍症候群である.FAPの典型的な胃病変は胃底腺ポリポーシスであり,FAP罹患者のおよそ半数に認められる.そのため,上部消化管内視鏡による胃底腺ポリポーシスの発見を契機にFAPが疑われ,下部消化管内視鏡で臨床診断されることもある.次に多く認められる胃病変は通常前庭部に認められる腺腫様ポリープである.FAPにおける欧米での胃癌の報告はあるものの頻度は0.6%と低いと考えられているが 16日本や韓国のFAP罹患者の中での胃癌の発生頻度は2.1-4.2%と欧米と比較して高く,FAP罹患者の大腸外随伴病変に対するサーベイランスとして,年1回の上部消化管内視鏡検査が推奨される 17.FAPにおける胃癌は多くの場合腺腫様ポリープから発生するといわれているが,胃底腺ポリープからの発生も報告されている 18),19.われわれの報告では,H. pylori感染の有無に関係なくFAP患者に胃癌が発症するであろうと推察した 20

Gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach(GAPPS)

2012年に,常染色体優性遺伝形式の,主に前庭部に胃底腺ポリポーシスを認める3家系が報告された 21.胃底腺ポリポーシスを認めた家系員の何人かには胃癌を認めており,33歳でと若年で胃癌を認めた家系員もいる.興味深いことにこの家系で胃癌を認めた家系員には1人も大腸にポリポーシスを認めなかった.この疾患はGastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach(GAPPS)と呼ばれている.最近,GAPPSの表現型を呈する6家系が解析は報告された.解析された家系において,APCプロモーター1B領域のgermline pathogenic variantを保有する者は胃底腺ポリポーシスを認め,保有しないものは胃底腺ポリポーシスを認めないことから,APCプロモーター1B領域のgermline pathogenic variantが原因であると判断された 22.本疾患における胃癌の生涯累積リスクの詳細は今のところ明らかではないものの,ハイリスクであると考えられているため,今後本疾患の臨床・分子遺伝学的病態の解明に期待したい.

Peutz-Jeghers症候群

Peutz-Jeghers症候群(Peutz-Jeghers syndrome;PJS)は消化管ポリポーシスと粘膜皮膚色素沈着を呈し,過誤腫性ポリポーシスは小腸に好発(空腸,回腸,十二指腸の順に好発)する,常染色体優性遺伝の遺伝性腫瘍症候群である.原因はSTK11LKB1)のgermline pathogenic variantであると考えられている.胃癌に限った詳細な報告は数少ないが,van Lierらの報告によると,PJS cohortにおいて133例のPJS罹患者のうち,42人に49病変の癌が発生し,そのうち25病変が消化器癌であり,さらにそのうち,大腸癌(7病変),小腸癌(6病変)に続き胃癌は4病変認められており,癌全体からすると決して胃癌のリスクは低くはないと思われる 23

若年性ポリポーシス症候群

若年性ポリポーシス症候群(Juvenile Polyposis syndrome;JPS)は消化管に罹患する過誤腫性ポリープとして特徴づけられる,常染色体優性遺伝の遺伝性腫瘍症候群である.BMPR1ASMAD4の2遺伝子がJPSに関連する遺伝子として知られている.JPSの患者の多くは20歳までにポリープを発症しているが,生涯で少数のポリープにとどまる人もいれば100個以上認められる人もいる.ほとんどの若年性ポリープは良性であるが悪性化することもあり,JPS家系での消化器癌発症リスクは9-50%といわれている.中でも大腸癌の発症リスクが最も高いが,胃癌や,膵臓癌発症例も報告されている.JPS症例でかつ胃にポリープを多数認める症例における胃癌の発生頻度は21%であるとの報告もある 24

④その他の遺伝性腫瘍症候群に伴う胃癌

Lynch症候群

常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性大腸癌症候群である.DNAミスマッチ修復遺伝子のgermline pathogenic variantが原因であり,現象としてはMicrosatellite Instability,すなわちMicrosatellite領域長が同一個体内の腫瘍部と非腫瘍部で異なる現象を呈している.Lynch症候群における胃癌の生涯リスクは地域差があると考えられており,アジアでは高率であると考えられている.これまでの報告で,DNAミスマッチ修復遺伝子MLH1あるいはMSH2の病的変異を持つ者の胃癌のリスクは6-13%といわれており,MSH2の病的変異を持つ男性では特に高リスクである 25.病理組織学的にはintestinal typeのものが多く,HDGCに認められるdiffuse typeのものは20%程度である 26),27

Li-Fraumeni症候群

Li-Fraumeni症候群は軟部組織肉腫,骨肉腫,閉経前乳癌,脳腫瘍,副腎皮質癌,白血病に関連する遺伝性腫瘍症候群であり,診断は確立された臨床診断基準を満たすか,がんの家族歴にかかわらずTP53のgermline pathogenic variantが認められることである.胃癌の罹患リスクはLi-Fraumeni症候群でも高いと報告されている.Masciariらは,TP53 germline pathogenic variantを認めた62家系の中で悪性腫瘍に罹患した429人のうち,胃癌に罹患したのは14家系21人(4.9%)であり,胃癌平均発症年齢は43歳,中央値で36歳であったと報告しており,発症年齢が一般人口の胃癌発症年齢よりも低いことを明らかにしている.病理組織学的にはintestinal type,diffuse typeいずれも認められている 28

遺伝性乳がん卵巣がん症候群

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer;HBOC)はBRCA1またはBRCA2のgermline pathogenic variantが原因で,常染色体優性遺伝形式の遺伝性腫瘍症候群である.BRCA1 29またはBRCA2遺伝子の生殖細胞変異が胃癌のリスク上昇に関連があるとの報告がある.中でもBRCA2において6174delTを認める家系の5.7%で胃癌に罹患しているとの報告があるが 30一貫性がない.

Ⅲ 内視鏡検査によるHDGCのスクリーニング・サーベイランス

遺伝性腫瘍診療は表現型や家族歴を参考にして疾患を絞り込むのが一般的であるが,近年遺伝子パネル検査や全エクソームシークエンス・全ゲノムシークエンスが徐々に行われるようになり,遺伝性腫瘍に関連する家族歴がない場合でも発端者に遺伝性腫瘍のgermline pathogenic variantが同定される場合がみられるようになった 31.関連の家族歴がないという理由で当該遺伝性腫瘍を除外できるはずはなく,そうなると表現型から遺伝性腫瘍を疑うことがますます拾い上げに重要となってくると推察される.内視鏡検査はまさに表現型の評価ツールとして重要なものになり得るのであるが,HDGCを考えた場合,通常の消化器内視鏡診療でHDGCを疑うことがどの程度可能なのであろうか.

2015年のIGCLC guidelinesでは,内視鏡を受けた者自身がCDH1 germline pathogenic variantか否か判明していない場合には“スクリーニング”として,CDH1 germline pathogenic variantが判明されている場合には“サーベイランス”として内視鏡検査が位置付けられる 4.このガイドラインでは,CDH1 germline pathogenic variantが認められた場合予防的胃全摘術(prophylactic total gastrectomy;PTC)を考慮すると記されているが,実施のタイミングは当事者の希望,身体的あるいは精神的状況により様々である.PTCを実施する場合,術前スクリーニングとして肉眼的に同定され得る腫瘍の有無,切除範囲を左右し得るバレット食道の有無などを内視鏡検査で確認する 4.尚,様々な事情によりPTCをその時点では希望されない場合もあるかもしれない,その場合には上部消化管内視鏡検査での生検でmicroscopic foci of signet ring cellが同定され場合には,PTCを実施する際の意思決定の助けになる.

また,内視鏡検査によるHDGCのスクリーニング・サーベイランスのために実施する内視鏡検査では,必しも確実にsignet ring cell が同定されるとは限らない点をきちんと説明しておくことも大切であるとされており,このことは,確立された内視鏡サーベイランス・スクリーニングを構築させる困難さを物語っている 4.2008年にBarberらが,本来PTGを拒否したCDH1 germline pathogenic variantである家系員を対象に作成された方法をCambridge Protocolと称して記している 32.項目としては,①6-12カ月ごとに30分間内視鏡検査を行い,複数のランダム生検および関連病変か否か判断しがたい微妙な部位の生検の実施,②最も若くして癌と診断された方の診断時年齢より5-10年若い年齢からサーベイランスを開始する,となっている.しかしながら,Cambridge Protocolの有用性はこれまでの報告からみると疑問な部分もあり,内視鏡サーベイランスに消極的な意見が報告されている 33),34.その中で本邦の症例報告をみると,内視鏡検査所見をきっかけに家族歴や他の表現型を聴取することでHDGCが疑われ,遺伝カウンセリングおよびCDH1遺伝学的検査によりHDGCと診断が確定されたケースが散見されるようになっている.内視鏡的に早期胃病変は多発の小さな褪色調病変としてとらえられるとの報告が多く,病理組織学的には多発したmultiple foci of signet ring cellと報告されている(Figure 1 35)~37.もし,本邦においてHDGC症例の蓄積と情報共有が推進され,HDGCの内視鏡診断プロセスが標準化されるのであれば,狙撃生検で診断される機会が増すのではないかと思われる.

Figure 1 

HDGC患者の上部消化管内視鏡所見(A)および狙撃生検標本による病理所見(B).

30歳代男性.人間ドックの上部消化管内視鏡検査で胃角部前壁から大彎側後壁にかけ,多発した小褪色調病変が散在していた(矢頭).同部の狙撃生検による病理標本では,弱拡大でも認識できる印環細胞癌の集簇・散在が認められた(矢印).当院で遺伝カウンセリングの上CDH1遺伝学的検査を行い,HDGCと診断された.

Ⅳ おわりに(2019 IGCLC Hereditary Diffuse Gastric Cancer Consensus Clinical Guidelines Meetingの話題)

IGCLC Hereditary Diffuse Gastric Cancer Consensus Clinical Guidelines Meetingはほぼ3-4年に一度開催される,HDGCを専門とする遺伝学者,外科医,内科医,基礎研究者の集まりである.今回,2019年3月にニュージーランドの南島オークランドから2時間ほどのWanakaという山岳地域で開催され,日本から本稿共著者の椙村を含む5名,韓国から1名,英国,米国,オランダ,フランス,ポルトガル,カナダなどからの研究者が集まった.

日本のここ数年のデータによれば,2015年のガイドラインが厳格にあてはまった症例では30%ほどにCDH1 germline pathogenic variantが見つかっている.この割合は欧米と同程度であり,2015年のcriteriaでいわれる年齢の条件などははずしてもいいのではないかといった議論があった.日本のような胃癌の高罹患地域では年齢の条件は残ると思うが,杓子定規にあてはめるようなものではないだろう.また,今回はHDGCの表現型を有するもCDH1以外のgermline pathogenic variantが関係すると推察される家系,いわゆる“Beyond CDH1”の問題も挙げられ,次世代シークエンサー(NGS)を用いた検索についても話題となった.そうなると中核的研究拠点(Center of Excellence)を構えた取り組みが効率的であると考えられるのが自然であり 38,今回も米国シカゴ大学のSonia Kupfer博士が,中核的研究拠点(Center of Excellence)としてのHDGC診療の取り組みについて話題を取り挙げていた.今後NGSも含め徹底したomics studyと大規模なetiologyの検討が始まると思われる.次回IGCLC Hereditary Diffuse Gastric Cancer Consensus Clinical Guidelines Meetingは2023年3月にポルトガルのポルトでCarla Oliveira 博士の主催により開催予定である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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