日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
胃限局性サルコイドーシスの経過観察中に早期胃癌を合併した1例
田中 泰敬 藤井 茂彦日下 利広青木 謙太郎大岩 容子寺島 剛國立 裕之
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 61 巻 12 号 p. 2610-2616

詳細
要旨

症例は69歳男性.上部消化管内視鏡検査にて,胃体上部から体中部大彎に中心部に陥凹を伴い軽度に隆起する病変が散見された.病変からの生検で,粘膜固有層内に慢性炎症細胞浸潤に加えて非乾酪性肉芽腫を認められた.PAB抗体による免疫染色で,肉芽腫内は陽性所見を示し,さらに,胃に肉芽腫を発生し得るほかの疾患は除外されることから,胃限局性サルコイドーシスと診断された.7カ月後の経過観察目的の内視鏡検査で,肉芽腫性病変近傍に早期胃癌が発見され,内視鏡治療を実施された.肉芽腫性病変の内視鏡像は,多彩な形態を呈し,また,経時的に形態変化を示すことがあることが知られており,まれではあるが,胃癌の併存にも留意する必要がある.

Ⅰ 緒  言

胃の肉芽腫性疾患は非常にまれであり,胃の切除標本や生検において,肉芽腫を認めるのは0.27~0.35%と報告されている 1),2.上部消化管疾患において肉芽腫を認める原因は,結核,梅毒,真菌などによる感染,Crohn病やサルコイドーシス,血管炎などの全身性疾患,腫瘍に伴うサルコイド反応,異物による生体反応,特発性に大別される 2),3.サルコイドーシスは,非乾酪性肉芽腫が出現する原因不明の全身疾患のひとつで,診断には他の全身性疾患や感染症などの肉芽腫性疾患を除外することが必須である 2)~4.消化管に発生することはまれであるが,胃に病変が限局する胃限局性サルコイドーシスの報告も散見される 5),6.しかし,疾患概念が確立しておらず,特発性肉芽腫性胃炎とともに除外診断により診断されることから,胃限局性サルコイドーシスの一部が,特発性肉芽腫性胃炎として扱われるなどあいまいな点が残る 7.今回,われわれは,胃限局性サルコイドーシスの経過観察中に早期胃癌が発見され,内視鏡治療を実施された,まれな1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:69歳男性.

主訴:無症状.

家族歴:特記事項なし.

生活歴:飲酒歴なし,喫煙歴なし.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:2015年8月に他院でピロリ菌除菌を実施し成功した.経過観察目的に2016年8月に内視鏡検査を実施したところ,胃体上部から体中部大彎に多発する隆起性病変を認められた.2016年10月に隆起性病変の精査加療目的に当院に紹介となった.

現症:身長:170cm,体重:63kg,体温:36.6℃,血圧:140/74mmHg,脈拍:82回/分,整.腹部は平坦で疼痛・圧痛なし.肺音に特記所見なし.

臨床検査成績:末梢血一般,凝固系,生化学検査に特記所見なく,CEA,CA19-9,sIL-2Rは基準内,アンギオテンシン変換酵素活性も基準内であった.感染症検査としては,結核菌特異的インターフェロンγ遊離検査(QuantiFERON)陰性,ツベルクリン反応陰性,尿素呼気試験陰性,梅毒血清反応はTPH(haemagglutination test),RPR(rapid plasma reagin test)とも陰性であった.

大腸内視鏡検査:終末回腸を含めて異常は認めなかった.

胸腹部CT検査:腫瘍性所見や炎症所見は認めなかった.肺門リンパ節含め有意なリンパ節腫大は認めなかった.

上部消化管内視鏡検査 (2016年10月):胃体上部から体中部大彎に,中心部に黄白色調の陥凹を伴い軽度に隆起する病変が散見された.粘膜下腫瘍様に非腫瘍粘膜で立ち上がり,周囲にはわずかにひきつれを伴っていた(Figure 1-a,b).NBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡所見では,陥凹部で周囲の血管と比較し,拡張,蛇行した血管は認めるもののdemarcation lineは認めず,腫瘍性を示唆する所見は乏しかった(Figure 1-c).背景粘膜には萎縮性変化を認めた.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

a:胃体上部から体中部大彎に,中心部に黄白色調の陥凹を伴い軽度に隆起する病変が散見された(黒矢頭:体中部病変).

b:体上部大彎病変の近接像.中心部に黄白色調の陥凹を伴い軽度に隆起する病変であった.粘膜下腫瘍様に非腫瘍粘膜で立ち上がり,周囲にはわずかにひきつれを伴っていた.

c:NBI併用拡大内視鏡観察(Figure 1-b黒枠部).陥凹部で,周囲の血管と比較し,拡張,蛇行した血管が観察された.腫瘍性を示唆する所見は乏しかった.

生検標本:複数カ所の病変から生検を実施した.すべての生検標本から,粘膜固有層内に慢性炎症細胞浸潤に加えて非乾酪性肉芽腫を認めた(Figure 2-a).Grocott染色,Ziehl-Neelsen染色を実施したが,陽性となる微生物は検出されなかった.Propionibacterium acnesに特異的な単クローン抗体であるPAB抗体による免疫染色では,肉芽腫内でPAB抗体陽性の小型円形小体を伴うマクロファージが散見された(Figure 2-b).腫瘍性を示唆する所見は認められなかった.

Figure 2 

生検標本.

a:粘膜固有層内に慢性炎症細胞浸潤に加えて非乾酪性肉芽腫を認めた.

b:PAB抗体による免疫染色像(Figure 2-a黒枠内).肉芽腫内でPAB抗体陽性像を示した.

胃に肉芽腫を発生しうる全身性疾患や感染症は認められず,組織学的に肉芽腫内でPAB抗体陽性を呈することなどから,サルコイドーシスと診断した.眼病変なく,各種画像検査で他臓器にサルコイドーシスの所見を認めないことから,胃限局性サルコイドーシスと診断した.治療方針として確立したものはないが,自覚症状なく,内視鏡検査で潰瘍形成など活動性を示唆する所見は認めなかったため,経過観察とした.

上部消化管内視鏡検査(2017年5月):体上部大彎に存在する肉芽腫性病変は,2016年10月の内視鏡所見と比べ,著変はなかったが,体中部大彎に存在する肉芽腫性病変では,平坦化し,色調も褪色調となり,瘢痕様になっていた(Figure 1-a3-a).体中部大彎前壁よりの瘢痕様粘膜の前壁側には,強発赤調を呈する13mm大の不整形陥凹性病変を認めた.辺縁隆起を有し,脱気での変形は乏しかった(Figure 3-b).NBI併用拡大内視鏡観察では,陥凹内部は網状の不整血管と不整な粘膜模様を認識され,癌に矛盾しない所見であった.

Figure 3 

初回から7カ月後の上部消化管内視鏡検査.

a:体中部大彎に存在する肉芽腫性病変は,平坦化し,瘢痕様になっていた(黒矢印.番号で示された病変はFigure 1-aの病変と一致する).

b:体中部大彎前壁よりには,瘢痕様粘膜に近接して,強発赤調を呈する13mm大の不整形陥凹性病変を認めた.

陥凹部からの生検では,Suggestive of adenocarcinoma,Group4と診断された.超音波内視鏡検査では,病変は低エコー腫瘤として認識され,第3層上縁の凹凸を伴っていた.以上所見から,粘膜下層浅層までの早期胃癌0-Ⅱcと診断した.

粘膜下層深部浸潤を示唆する明らかな所見を認めなかったことから,内視鏡的粘膜下層剝離術(Endoscopic submucosal dissection:ESD)を実施した.粘膜下層の高度線維化により,手技が難渋し,2分割切除となった.

ESD標本:病変内に切れ込みを認めた.陥凹部に一致して高-中分化型腺癌が認められた.ほとんどの部分は粘膜内に限局していたが,一部で粘膜筋板が断裂し,粘膜下層に浸潤していた.粘膜筋板仮想線から350μmの浸潤を認めた.病変部の切れ込みにより断端の評価は不十分であったが,観察範囲では断端陽性となる所見は認めなかった.胃癌取扱い規約第14版に従った病理所見では 8,Early gastric cancer,Type 0-Ⅱc,15×8mm,tub1>tub2,pT1b1(350μm),ly0,v0,UL+,pHMX,pVMXと診断された.癌腺管の周囲にはリンパ球浸潤が目立った(Figure 4-a).EBER in situ hybridization法を用いた免疫染色では,腫瘍細胞は陽性を示し(Figure 4-b),Epstein-Barr virus(EBV)感染が関連するリンパ球浸潤癌と考えられた.また,胃癌と肉芽腫性病変が近接していたため,切除標本内に陳旧性の肉芽腫もみられた.その肉芽腫内では,PAB抗体の陽性所見は僅かに認めるのみで,組織学的に消退傾向を示していた.

Figure 4 

ESD標本.

a:陥凹部に一致して,高-中分化型腺癌が認められた.ほとんどが粘膜内に限局していたが,一部で粘膜下層に浸潤していた.癌腺管の周囲には高度のリンパ球浸潤を認めた.

b:EBER in situ hybridization法を用いた免疫染色では,腫瘍細胞は陽性を示した.

初回上部消化管内視鏡検査(2016年10月):早期胃癌が存在した部位を後方視的に見直した.肉芽腫性病変の前壁側近傍には平坦な発赤粘膜がみられた.しかし,腫瘍性を疑う所見を認識するのは困難であった(Figure 5).また,肉芽腫性病変の中心部から生検を実施され,非乾酪性肉芽腫の存在が証明されていた.

Figure 5 

初回の上部消化管内視鏡検査.

Figure 1-aの肉芽腫性病変①の近接像.肉芽腫性病変の前壁側には発赤粘膜がみられたが(黒矢印),腫瘍性を疑う所見は認識されなかった.

Ⅲ 考  察

胃限局性サルコイドーシスの経過観察中に早期胃癌が合併したまれな1例を経験した.医学中央雑誌で「胃癌」,「サルコイドーシス」をキーワードとして1983年1月から2017年12月まで検索した限り(会議録は除く),胃サルコイドーシスの経過観察中に早期胃癌が発見され,内視鏡治療を実施されたのは,本症例のみであった.また,EBV感染が関連するリンパ球浸潤癌を併発した胃サルコイドーシスも本症例のみであった.

胃サルコイドーシスの内視鏡的特徴は,①潰瘍形成や陥凹病変,②スキルス胃癌様の胃壁肥厚,③結節性隆起性病変,④顆粒状変化などが挙げられるが 5),9,その所見は多彩であり,好発部位も特にないため,内視鏡所見のみによる各種肉芽腫性疾患の鑑別は困難とされる 10.本症例では,中心部に陥凹を伴い軽度に隆起する多発病変で,経時的な形態変化も示していた.

サルコイドーシスは,他の肉芽腫性疾患の除外により診断される.サルコイドーシス以外で胃に肉芽腫形成を伴う疾患としては,結核,梅毒,真菌などの感染症,Crohn病,腫瘍に伴うサルコイド反応などがある.

Crohn病に関しては,自覚症状に乏しく,上部消化管内視鏡検査や大腸内視鏡検査でも特記所見は認めず,否定的と考えられた.感染症が肉芽腫形成の原因である場合は,起因菌が同定されることで確定診断が得られる.各種感染症検査を実施したが,結核や梅毒は否定的と考えられた.

近年,特発性肉芽腫性胃炎とHelicobacter pylori(以下H. pylori)との関連性が報告されている 1),2),5),11)~16.その臨床経過は,H. pylori の除菌によって肉芽腫性病変が消失したという症例がある 13),14,一方で,除菌治療しても肉芽腫性病変の改善を認めなかった症例もあり 5),13),15),16,肉芽腫性病変と除菌の関連性は知られていない.本症例においても,H. pylori感染に対して除菌を実施された経緯があるが,除菌後に肉芽腫性病変が出現したという点で,これまでの報告と臨床経過は異なっており,肉芽腫形成とH. pylori感染の関連は乏しいと考えられた.

Propionibacterium acnes(以下P. acnes)は,サルコイドーシスの病因のひとつとして認識されており,病変部からの培養やPCR法で検出される唯一の菌である 17),18P. acnesに特異的な単クローン抗体であるPAB抗体を用いた免疫染色では,罹患臓器を問わず,その74~100%のサルコイドーシス症例で肉芽腫内にP. acnesを検出される 19),20.また,Negiらは,胃癌の所属リンパ節などにみられるサルコイド反応の場合は,肉芽腫内はPAB抗体が陰性となることを報告している 21.胃限局性サルコイドーシスの概念は,未だに定着していないが,病因論から考えると,本症例でみられたPAB抗体の陽性所見は,胃限局性サルコイドーシスの存在を強く支持する所見と考えられた.

本症例は,サルコイドーシスと診断されてから7カ月後に早期胃癌が発見され,内視鏡治療を実施された.胃サルコイドーシスとEBV感染が関連するリンパ球浸潤癌が併発した症例はこれまで報告はないが,サルコイドーシスの病因論を考えると,その関連性は乏しいと考えられた.初回内視鏡検査を後方視的に見直すと,肉芽腫性病変の近傍に平坦な発赤粘膜が認識された.腫瘍の存在部位を考えると,その平坦な発赤粘膜が腫瘍性変化であったと推測された.初回内視鏡検査では,腫瘍性病変として認識することは困難であり,7カ月という短期間で平坦な発赤粘膜から境界明瞭な陥凹性病変に形態変化したと考えられた.また,肉芽腫性病変に関しても,無治療で改善傾向を示しており,経時的に形態変化を呈していた.胃サルコイドーシスの内視鏡像は,本症例のように,無治療でも消退傾向を示すなど 10,経時的に形態変化する場合があることが知られている.頻度はまれであるが,内視鏡検査で肉芽腫性病変をみれば,胃癌との鑑別や併存に留意することが肝要であり,定期的にフォローアップすることが重要である.

Ⅳ 結  語

胃限局性サルコイドーシスの経過観察中に早期胃癌が合併し,内視鏡治療を実施した1例を経験した.胃に限局するサルコイドーシスで診断に苦慮したが,PAB抗体を用いた免疫染色により最終診断とした.頻度はまれではあるが,胃癌の併存にも留意する必要がある.

謝 辞

本症例の病理診断に貴重なご教示をいただきました,当院病理診断科渋谷信介先生,東京医科歯科大学病理部教授江石義信先生に感謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top