日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
経験
Cold snare polypectomy症例の安全性と有効性に関する臨床病理学的検討
深野 雅彦 三島 孝洋高 蓮浩岡村 陽子中島 光一白倉 立也高橋 敬二野澤 博西野 晴夫
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 61 巻 2 号 p. 170-177

詳細
要旨

【目的】Cold snare polypectomy症例(以下CSP群)と従来から行われているpolypectomyおよびEMR症例のうち腫瘍径10mm未満のもの(以下HSP群)を後ろ向きに比較検討した.【対象と方法】2015年1月から2016年12月までに行われたCSP群3,448例,4,749病変とHSP群2,496例,3,891病変を臨床病理学的に比較検討した.【成績】担癌率はCSP群では1.2%,HSP群では4.5%であり,CSP群で有意に低かった.術後出血率はCSP群では0.3%,HSP群では0.9%と,CSP群で有意に少なかった.また,切除術から出血までの期間はCSP群では平均1.0日,HSP群では平均2.4日であった.【結論】術後出血はCSP群で有意に少なく,術後早期にのみ認められ,CSP群では術後QOLの向上が期待された.

Ⅰ 緒  言

大腸癌の発生においてadenoma-carcinoma sequenceが解明され,大腸癌の前駆病変と考えられている大腸腺腫を内視鏡的に摘除する事は大腸癌の発症率および癌死を抑制する事が知られている 1),2.欧米では簡便性と安全性の面から高周波電流を使用せずに切除するcold snare polypectomy(以下CSP)が小型ポリープの摘除法として広く行われている.近年,わが国でもCSPが行われてきているが,その有効性と安全性は十分に明らかにはなっていない.今回cold snare polypectomy症例(CSP群)と従来から行われているpolypectomyおよびEMR症例のうち腫瘍径10mm未満のもの(以下HSP群)を後ろ向きに比較検討し,CSPの安全性が期待されたので報告する.

Ⅱ 対象・方法

(1)対象

当院では2015年から腫瘍径10mm未満の有茎性あるいは陥凹型以外のポリープを適応としてCSPを行っている.有茎性のポリープはCSPにおいて絞扼による切除困難の可能性を考慮して除外した.陥凹型のものは癌の可能性が高い事から除外した.2015年1月から2016年12月までの2年間に当院で行った大腸内視鏡検査は46,769件あった.そのうちCSPを行った3,448例(7.4%),4,749病変をCSP群とした.同期間中に従来のポリペクトミーおよびEMRが行われた症例のうちCSP群の適応と同様なもの2,496例,3,891病変をHSP群として,両群を後ろ向きに比較検討した.HSP群の症例は,他に10mm以上のポリープが併存した症例で,それと同時に切除された病変であった.術者は大腸内視鏡検査の経験が5,000件以上の中上級者が行った.大腸内視鏡検査前にCSPに関してインフォームドコンセントを行い,文書による同意を得ている.また,従来のポリペクトミーおよびEMRに関しても,同様に文書による同意を得て行っている.また,CSP症例では,抗血栓薬内服中の症例の場合,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインの生検の適応に準じて行った 3.術後のサーベイランスは,病理検査結果が腺腫の症例では術後1年後に大腸内視鏡検査を行った.癌の症例では術後1年毎に5年間施行する方針で行った.特にCSP群においては癌の症例では初回の再検査は6カ月後に行う事とした.

(2)方法

内視鏡は260シリーズおよび290シリーズ(オリンパスメディカルシステムズ株式会社.東京)およびEC-L600ZW・LASEREOシステム(富士フイルム株式会社.東京)を使用した.CSP群のスネアはProfile(Boston Scientific-JAPAN株式会社.東京)を使用した.一方HCS群のスネアはSnare Master(オリンパスメディカルシステムズ株式会社.東京)を用いた.CSP群では通常光観察とNBIあるいはBLI観察を行い,腺腫と診断された病変に対して切除を行った(Figure 1).尚,当院では10mm未満の小ポリープに対して全例には拡大内視鏡は行ってはいない.

Figure 1 

CSP症例.

a:通常観察.

b:NBI観察.

c:インジゴカルミン色素観察.

d:切除後.

術後の合併症,特に出血に関してCSP群とHSP群を比較検討した.また,癌の症例についても併せて検討した.

統計的な有意差検定にはχ二乗検定およびt検定を用いた.

Ⅲ 結  果

(1)背景因子

背景因子は性別,年齢,病変の部位,腫瘍径にCSP群とHSP群で差はなかった.肉眼型ではCSP群でⅠs型が多く,HSP群でⅠsp型が多かった(Table 1).抗血栓薬を服用している症例はCSP群では217例(6.3%),290病変(6.1%)であった.HSP群では219例(8.8%),358病変(9.2%)であった.抗血栓服用患者に関しても両群間に差はなかった(Table 1).

Table 1 

患者背景.

(2)癌の症例

担癌率はCSP群では1.2%(56病変),HSP群では4.5%(176病変)であり,CSP群で有意に低かった.CSP群の癌の症例の壁深達度はすべてTisであった.また,組織学的に断端陰性の割合はCSP群で50%,HSP群65%であり,CSP群で有意に少なかった.組織学的に癌の症例のうち再検査を行った症例はCSP群42例(75%),HSP群140例(80%)で,再検査が行われた症例では両群共に癌の局所再発は認めなかった(Table 2).

Table 2 

癌の症例.

(3)術後出血

今回は内視鏡的大腸ポリープ切除術後に患者が出血を訴え,緊急大腸内視鏡検査を行い,実際に出血していた場合(Figure 2),あるいは病変部に凝血塊が付着しているか露出血管を認め,出血が疑われ止血処置を行ったものを出血例とした.

Figure 2 

CSPの出血例.

71歳男性,横行結腸,Ⅰsp型,5mm,術後1日目.

術後出血率はCSP群では0.3%(14病変),HSP群では0.9%(34病変)と,CSP群で有意に少なかった.出血の内視鏡所見はCSP群では実際に出血していたものが10病変(Figure 2),凝血塊が付着し出血が疑われたものが4病変あった.

HSP群では実際に出血していたものが17病変,凝血塊が付着していたものが12病変,そして露出血管を認め出血が疑われたものが5病変あった.また,切除術から出血までの期間はCSP群では平均1.0日(0~2日),HSP群では平均2.4日(1~7日)であり,CSP群で有意差は認められなかったが短い傾向にあると考えられ,術後出血はCSP群では早期にのみ認められる傾向にあった(Figure 3).また,術後出血例のうち抗血栓薬服用例はCSP群では1病変(7.0%)であり,出血率は0.3%であった,HSP群では3病変(8.8%)に認め,出血率は1.0%であった.術後出血例のうちの抗血栓薬服用患者の割合は両群間に差はなく,抗血栓薬内服の有無でも差は認めなかった.尚,術後の偶発症である穿孔は両群共に認めなかった(Table 3).

Figure 3 

出血までの期間.

Table 3 

術後出血.

Ⅳ 考  察

大腸癌の発生においてadenoma-carcinoma sequenceが解明され,大腸癌の前駆病変と考えられている大腸腺腫を内視鏡的に摘除する事は大腸癌の発症率および癌死を抑制する事が知られている 1),2.しかし,小型のポリープの癌化の頻度は低く,摘除すれば出血等の偶発症の危険性が少なからずあるため 4,「大腸ESD/EMRのガイドライン」では,腫瘍径6mm以上のポリープは基本的に摘除するが,腫瘍径5mm以下のポリープは,表面陥凹型を除いて必ずしも摘除を原則とはしない事となっている 5.近年,欧米では簡便性と安全性の観点からcold polypectomyが広く行われている.本邦でも急速に広まり,多数の報告がみられる 6)~14

術後出血に関しては,「大腸ESD/EMRガイドライン」と日本消化器病学会の「大腸ポリープ診療ガイドライン」では異なる定義がされている 5),15.当院では切除後に患者が出血を訴えて来院した場合,直腸鏡を行い,出血が疑われた場合には積極的に緊急大腸内視鏡検査を行っている.術後偶発症として,術後出血はCSPで少ないと多数報告されている(Table 4 6)~14.今回の報告でも,後ろ向きの検討である事,両群間の背景因子に差がある事,術者毎にバイアスがある事等のlimitationがあるとはいえ,CSP群で術後出血は有意に少なかった.松浦らはCSPによる遅発性出血は静脈性の出血であり,経過をみてから緊急内視鏡検査を行うのが妥当であると述べている 12.しかし,今回の報告では,CSP群の出血例の緊急内視鏡検査所見では,実際に出血していたものが10例と多数を占めており,術後早期の緊急内視鏡下の止血術は妥当であったと考えられた.また,出血までの期間をみると,術後出血はCSP群では術後早期にのみ認められる傾向にあり,CSP例では術後安静期間の短縮が期待された(Figure 3).

Table 4 

Cold snare polypectomyの術後出血率の報告.

遺残や再発について考えた時に,CSPでは従来の高周波装置を使用したpolypectomyと比較して,burning effectがない分危険であるという慎重な意見がある.また,CSPでは切除操作に伴う組織の変質や挫滅が認められず,視認性に優れた組織標本を得る事ができるが,同時に断端部の評価が困難になったと言われている 16.今回の報告でも癌の症例において,組織学的断端不明例が多く認められ,組織学的断端陰性の割合がCSP群で低かった.松浦らはCSP後の断端の評価とポリープの遺残の可能性は関連が薄いと報告している 12.また,北山らは切除断端陰性率にはlearning curveが存在し,十分なmarginを確保して切除する事で完全切除でき,病理学的評価に耐えうる切除標本の回収も可能と考えられるという 11.しかし,伊東らは大部分のCSP標本において深部断端には粘膜下層が含まれず,粘膜筋板レベルの浅い切除であり,内視鏡所見で癌を示唆する所見を認めた場合は,CSPを適応にすべきでないと言っている 17.今回の報告では,担癌率はCSP群では1.2%であったが,HSP群と比較して有意に低く,CSP群の癌症例ではすべて壁深達度はTisであり,癌の症例のうち再検査が行われたものでは局所再発は認めなかった事から,適応は許容できる範囲であると考えられた.しかし,今回の通常光観察とNBIあるいはBLI観察のみでは癌の症例が1.2%認められた事,粘膜筋板までの切除に留まるCSPでは切除瘢痕の確認がほぼ不可能である事や今回再検査が行われた症例の割合が75%であった事など問題も多く認められた.今後はフォローアップ方法の再考を含め更に厳重な経過観察を行うと共に,CSPの適応についても検討が必要であると考えられた.

欧米では大腸ポリープをすべて摘除する,所謂clean colonにより大腸癌の死亡率が低下する事が報告されている.本邦では「大腸ポリープ診療のガイドライン2014」において,5mm以下の微小腺腫を摘除すべきか否かに関して一定の見解は得られていない 15.大腸微小腺腫を摘除しない場合のサーベイランスに関する指針がない事や,今回の報告でも癌の症例の再検査受診率が75%程度であり,サーベイランスの内視鏡検査のコンプライアンスが高くない事が想定される事から,内視鏡で腺腫が発見された時にこれを摘除する事が望ましいと考えられる.従来の高周波電源装置を使用しないcold polypectomyは,術後出血が少なく有効な方法であると考えられた.更に,人口の高齢化に伴い,心血管系の疾患で抗血栓薬を服用中の患者が近年増えている.「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」によると従来の高周波電源装置を用いた場合には抗血栓薬は休薬やヘパリン置換が必要とされる 3.しかし,抗血栓薬を服用している患者の多くは高齢者のため,実際の臨床では休薬は煩雑であり,時に休薬を忘れ治療が延期される場合がある.一方,誤って長期間休薬するなどのトラブルに遭遇する事も少なくない.今回の報告でも従来の報告と同様に,CSPは抗血栓薬服用患者においても術後出血は少数であり,安全であると考えられた 18

標本の回収方法や病理評価方法の確立,遺残病変や再発の問題,更には医療経済的な問題など,CSPに関してはまだ課題が山積している.今後も症例数の集積を待って,エビデンスを構築される事が必要であろう.

Ⅴ 結  語

CSP群とHSP群を比較検討すると,CSP群で担癌率は低く,癌の切除後の局所再発は認めなかった.また,術後出血はCSP群で有意に少なく,術後早期にのみ認められた.CSP群では術後安静期間の短縮が可能であると考えられ,CSPの安全性と術後QOLの向上が期待された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top