日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
食道胃接合部癌の内視鏡診断
由雄 敏之 藤崎 順子
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2019 年 61 巻 3 号 p. 243-251

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要旨

食道胃接合部癌は食道と胃の接合部領域に腫瘍の中心を持ち,食道癌,胃癌が含まれる.欧米においてこの30年間に非常に増加し,本邦でも緩徐ではあるが増加傾向と報告される.Helicobacter pylori感染率の低下,食生活の欧米化による胃食道逆流症の増加もあり,食道胃接合部癌の更なる増加が予想される.

本邦のT1食道胃接合部癌を胃粘膜萎縮の有無によって2つに分けると胃粘膜萎縮のない症例では腫瘍はEGJ口側,右上方に局在し,粘膜萎縮のある症例ではEGJ肛門側に局在した.内視鏡的切除例の検討では一括切除率はどちらも100%であるが,治癒切除率は噴門部癌と比べ食道腺癌で明らかに低く,深達度診断の難しさなどが示唆された.

Barrett食道腺癌の拾い上げ診断には深吸気して,好発部位の前壁から右壁を観察する.酢酸による微細構造の強調,NBI併用拡大観察はdysplasiaの診断率を上げると報告されており診断の一助となる.

Ⅰ はじめに

食道胃接合部癌は文字通り食道胃接合部(esophagogastric junction: EGJ)領域に腫瘍の中心を持つ癌のことを示し,食道癌,胃癌が含まれている.欧米において非常に増加しており,本邦でも増加していると推測されていることから,注目を集めている.ただし,周知の通り様々な用語や分類が用いられているため,個々の定義をしっかりと確認する必要がある.また今回は主に腺癌を取り扱うこととする.

Ⅱ 食道胃接合部癌の推移

欧米では30年前より特に男性においてBarrett食道や食道腺癌を含めた食道胃接合部癌が急増している.米国ではNCI(National Cancer Institute) 1の報告によると1975年から2001年までの25年間で食道癌の内に腺癌が占める頻度が6.1倍に増加し,1996年に腺癌の頻度が扁平上皮癌のそれを上回り現在食道腺癌は6割を占めている 2.またEdgrenら 3は欧米,オーストラリアの16の国と地域における食道腺癌の発生率を比較報告しているが,いずれの国,地域でも男女ともに食道腺癌の発生頻度が上昇傾向であった.イングランドの男性が最も急激に増加しており40年間で約5倍に増えていた.また男性は女性の3-9倍を示した.

本邦における食道胃接合部癌についてKusanoらは胃癌全体における食道胃接合部癌の割合,Siewert Type Ⅱの割合が40年前に比較して増加していると報告している 4.食道腺癌としては日本食道学会の全国登録による治療成績が年次に報告されており1988-1994年の登録症例では腺癌は1.4%と報告され 52007年の5.4%まで徐々に増加しており 6増加傾向といえる.ただ,その後の数年間は5%前後で横ばいに推移しており,報告されている最新の2011年の登録例では5.3%であった 7.ただ日常診療でもHelicobacter pyloriH. pylori)感染率の低下と,食生活の欧米化も伴って胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease;GERD)の増加を実感しており,これからは更なる増加が予想される.

EGJの位置

食道癌取扱い規約第11版 8ではEGJは内視鏡,X線(上部消化管造影),病理を用いて総合的に判断するとされており,治療開始前に判断することが重要であるので内視鏡による診断を優先すると記載がある.内視鏡での基準は食道下部柵状血管の下端,柵状血管が判定できない場合は胃の縦走ひだの口側終末部である.X線では食道下端の内腔が最も狭小化している部位,食道裂孔ヘルニアやBarrett食道を合併する症例では胃の縦走ひだの口側終末部とする.病理では肉眼的判定と組織学的判定が挙げられている.肉眼的判定では管状の食道から嚢状の胃に周径の変わる部位となる.

一方,欧米では内視鏡における柵状血管の下端の認識は困難であるとされ,胃のひだの上端を基準としているが 9)~12,胃のひだの上端は胃粘膜萎縮を伴うと分かりにくいこと,蠕動や呼吸により変動し,胃内の空気量によっても変わりやすいので,本邦では認識可能であればより解剖学的な指標である柵状血管の下端が用いられる 8),13.Lower esophageal sphincter(LES)において,粘膜下層の血管が粘膜表層に向かって細く分枝し,粘膜固有層内を柵状に走行して血行障害を防止しており柵状血管の走行部位は噴門部の括約機構の場所と解剖学的にも機能的にも一致しており 14,EGJの位置としてふさわしいといえる.

食道胃接合部癌の局在に関する定義

食道接合部癌は本邦では食道癌取扱い規約第11版 8,胃癌取扱い規約第15版 13により,“病理組織型にかかわらず,EGJの上下2cmに癌腫の中心があるもの”と定義される(Figure 1-a).この記述は西分類 15に基づいて記載されている.欧米ではSiewertの分類 16が用いられ,腫瘍の中心がEGJ(胃粘膜ひだの上端)の上下5cmにある腺癌を対象として分類している.口側1-5cmにあるものをType Ⅰ:adenocarcinoma of the distal esophagus,口側1cmから肛門側2cmまでのものをType Ⅱ:true cardia cancer,肛門側2-5cmまでのものをType Ⅲ:subcardial cancerと分類している(Figure 1-b).いずれの分類も病因にかかわらず解剖学的位置によって定義されている.

Figure 1 

胃癌取扱い規約 第15版から引用.

a:食道癌取り扱い規約(西分類).

b:Siewertの分類.

Siewert分類は,組織学的な裏付けをもって定義されたものではなく,外科手術選択を目的として解剖学的に定義されたものであるが 17,Siewertらがtrue cardia cancer(真の噴門癌)としたType Ⅱの領域は組織学的に噴門腺が分布する領域であることを三隅らが切除標本の詳細な検討から示している 18),19

食道胃接合部癌と胃粘膜萎縮

欧米の報告では食道胃接合部癌には2つのtypeがあり,1つはH. pylori感染による萎縮性胃炎と関連する噴門部以外の胃癌と同様の性質の腺癌,もう1つは非萎縮胃粘膜や食道胃逆流症と関連してBarrett食道に発生するBarrett食道腺癌とされる 20.この報告では複数の胃生検やペプシノーゲン法を用いて胃粘膜萎縮の程度を評価している.

本邦では胃粘膜萎縮の程度は一般的に内視鏡像で評価されており,その程度は組織学的に評価された萎縮の程度 21),22やペプシノーゲン値と相関する 23.われわれは多施設後ろ向き研究で本邦のT1の食道胃接合部癌(Siewert type Ⅱ)229例について胃粘膜萎縮によって特徴づけられるかを検討した.内視鏡的胃粘膜的萎縮の有無で分けると胃粘膜萎縮のない症例では腫瘍はEGJより口側に,また右上方に局在するが,胃粘膜萎縮のある例ではEGJより肛門側に局在することが多くなった.胃粘膜萎縮のない症例ではH. pylori感染頻度が少なく,LSBEの頻度が高くなった 24.内視鏡で胃粘膜萎縮の有無を評価するだけでこれらの特徴を類推できることに加え,内視鏡で行う胃粘膜萎縮の評価はすぐに結果が分かり,手間もコストもかからず実臨床において有用である.

当院でSiewert type Ⅱの早期癌のESD症例をEGJより口側に局在し腫瘍周囲及び下部に組織学的にBarrett食道の所見を認めるBarrett食道腺癌85例と,その所見を認めずEGJより肛門側に局在する胃噴門部癌54例を比較したところ 25Barrett食道腺癌例の方が有意に若年者に発症しており,Barrett食道腺癌で胃噴門部癌と比べ内視鏡的粘膜萎縮なし例が多く,食道裂孔ヘルニアを多く認めたが,異時多発癌は少なかった.

一括切除率はともに100%であったが,治癒切除率はBarrett食道腺癌で有意に噴門部癌より悪かった(61.8% vs 81.6%:p<0.01).その理由としてはBarrett食道腺癌で噴門部癌と比べ深達度誤診例,脈管侵襲陽性例,先進部組織型が未分化型の例が有意に多かったことが影響した.この検討でもSiewert type Ⅱには病因の異なる2つの癌があることが分かり,腫瘍の局在でもそれらは特徴づけられた.

いずれの検討でもH. pylori感染,胃粘膜萎縮がなく,EGJより肛門側に局在する腺癌は非常に少ないことを考えると,本邦での食道胃接合部癌の増加はBarrett食道腺癌に代表される食道腺癌の増加によると考えられる.近年,H. pylori未感染で胃粘膜萎縮がないEGJの進行癌を多く見るが,早期に診断するとその大半はEGJより口側の食道腺癌として発生したのだろうと,これらの検討から類推される.

Barrett食道について

欧米のガイドラインでは胃粘膜ひだの上端から口側に1cm以上の円柱上皮の伸展があった際に診断するとしているが 26),27,American College of Gastroenterology(ACG)guidelineでは腸上皮化生を伴うものと定義している 26.British Society of Gastroenterology guidelineでは,1cm以上の円柱上皮の伸展のみで腸上皮化生の有無は問わない 27

それに対して日本のガイドラインでは円柱上皮伸展の長さを定義しておらず,腸上皮化成の有無も問わない 28.このため欧米の診断基準ではBarrett食道と診断されない1cm以下の腸上皮化生のない食道円柱上皮粘膜が,日本ではBarrett食道と診断されることになる.

Barrett食道の伸展の判断にPrague C&M criteria 29が用いられる.胃粘膜ひだ上端をEGJの基準線として,そこから連続して延びる円柱上皮粘膜の全周性に存在する最長の長さをC(Circumferential extent),舌状の伸び出しなどを含めて最長の長さをM(Maximum extent)で表す.円柱上皮粘膜が全周性に3cm以上伸びているC3以上のときにlong segment Barrett’s esophagus(LSBE),3cm未満のときにshort segment Barrett’s esophagus (SSBE)としている.LSBEが多い欧米と違い,日本でのBarrett食道はその大半がSSBEである.

Barrett食道腺癌の診断

Barrett食道癌の拾い上げについては欧米ではSeattle protocolに従って1-2cm毎に4点生検を行うランダム生検を行っている 29)~31.これは欧米におけるBarrett食道はLSBEが多く,LSBEにびまん性に発生する腫瘍性病変を正確に内視鏡診断することが困難であること,また欧米ではBarrett食道を診断するために腸上皮化生の存在が必要とされることが多いことが原因と考えられる.しかし,ランダム生検は時間がかかり,サンプリングエラーのリスクがあり,コンプライアンスが良くないことが問題とされている 32.それに対して,本邦では狭い範囲のSSBEに発生する癌が多いこともあり,胃癌診断で培った詳細な観察を行ってターゲット生検を施行している 33

Ⅲ Barrett食道腺癌の内視鏡診断

通常光観察

通常光観察は内視鏡診断の基本であり,胃癌の診断と同様に色調の違い,凹凸により発見し詳細な観察をすることで診断する.EGJは深吸気を促すと胸腔内圧が低下することで,食道内腔が広がり,観察しやすくなる.Barrett食道腺癌は前壁から右壁に多く,発赤調の色調,隆起型の形態を示すことが多い 24),25

色素内視鏡

メチレンブルーは腸上皮化生の杯細胞に吸収されることより,Barrett食道粘膜が染色されるのに対して,Barrett食道腺癌はメチレンブルーには染色されないと報告されている 34.しかしその後のメタ解析ではメチレンブルー染色を用いた内視鏡生検と従来のランダム生検を比べた場合,腸上皮化生及びdysplasiaの検出率に有意差を認めなかったこと 35,メチレンブルーによるDNA損傷のリスクが報告されたことから 36,現在はあまり用いられていない.

インジゴカルミン散布に拡大内視鏡を併用することでhigh grade dysplasia 37や特殊円柱上皮 38を拾い上げることが出来たと報告された.しかし,前向き比較試験ではインジゴカルミンと拡大内視鏡の併用は腫瘍性病変の拾い上げにおいて,通常光への上乗せ効果が示されなかった 39

クリスタルバイオレット染色を用いてBarrett食道を拡大内視鏡で観察しpit patternを評価した報告では腸上皮化生 40及びdysplasia 41に感度が高く,拾い上げ診断に有用であると報告されたが,その後は目立った報告はない.

酢酸法

酢酸散布によりBarrett食道粘膜が白色化し粘膜微細構造が強調されることが1998年にGuelrudらから報告された 42.白色化は可逆的な蛋白凝固が起こるためとされており,この鮮明になった微細構造を観察して診断する方法は酢酸エンハンス内視鏡と呼ばれている.酢酸散布と狙撃生検によるdysplasiaの検出率はランダム生検より有意に高く,生検個数も減らすことが出来たと報告されている 43.酢酸ダイナミックケミカル内視鏡は癌部の白色化が非癌部よりも早期に消失することを利用して診断する方法で,主に範囲診断に用いられる.酢酸散布後は直ちに粘膜が白色化し,癌部では10秒程度でそれが消失するが,非癌部では白色化が数分間継続するため,そのコントラストで範囲が明瞭になると報告される 44

画像強調観察

画像強調観察の有用性が他の消化管と同様にBarrett食道癌の検出においても報告されている 45.NBI(Narrow Band Imaging)は血液中のヘモグロビンに吸収されやすい狭帯域化された2つの波長の光で照らして観察することにより,粘膜表層の微小な血管構造が強調されることに合わせて,粘膜の微細構造も観察することが出来る.これを利用して,欧米からほぼ同時期に粘膜微細構造と微小血管構造を組み合わせて分類がいくつも報告されたが 46)~48分類はどれも複雑で,検査者間の一致率が低くあまり普及しなかった.日本からもGodaらが分類を提唱し診断率が高いことを報告したが,これも複雑な分類であった 49.その後,欧米から粘膜微細構造と微小血管構造をそれぞれregular,irregularにだけ大別した分類が提唱され検証されたが,拡大観察されていないこと,ハイビジョン画像でないことが関係するのか,診断率,検査者間一致率とも十分ではなかった 50),51

そこで,日米欧でハイビジョン画像とnear focusを備えたscope(GIF-HQ290:Olympus)で撮像した画像を用いて,臨床的に有用な簡便な分類を用いてdysplasiaとnon-dysplasiaを区別する検討がされたところ,診断率,検査者間一致率とも良好な結果であった 52.また日本食道学会においてフル拡大を併用したやはり複雑でなく簡便である日本食道学会分類も作成され,静止画像を用いた検証試験がされているが,診断率,検査者間一致率とも良好な成績が報告されている 53

深達度診断

食道胃接合部癌の深達度診断については病変の表現型が複合型(Ⅱa+Ⅱcなど)であることや病変径が大きいときはsm浸潤が多いと報告されている 54.食道癌におけるEUSの有用性については多くの報告があるが 55,食道腺癌については食道扁平上皮癌や胃癌など,他の消化管癌と比べてやや成績が劣る 56)~59.食道内でも近位側,中部の食道と比べて遠位側の食道では深達度の正診率が劣ると報告されている 60),61.EGJが十分な水で広がったままの形を維持することが難しいなど,解剖学的な理由があると考えられる.

Ⅳ 症例提示

症例は50歳代の男性,健診の内視鏡で異常を指摘され当院に紹介となった.当院の内視鏡ではEGJの右前壁に発赤調の陥凹性病変を認めた(Figure 2-a).後壁側にわずかなSSBEを認めていた.NBIでは周囲よりも少し濃い茶色を呈していた(Figure 2-b).腫瘍の中心は柵状血管の下端よりも口側にあり,食道腺癌と診断できる.脱気によりやや厚みがあるもののひだの変形に合わせて変形して硬さを認めず,内視鏡的切除適応と考えられた(Figure 2-c).内視鏡的胃粘膜萎縮を認めず,HpIgG陰性でもあり,H. pylori未感染と考えられた(Figure 2-d).ESDで切除すると病理評価13×10mm,DMM,tub1,脈管侵襲なし,断端陰性であった.

Figure 2

a:白色光観察で右前壁に発赤調の陥凹性病変を認めた.柵状血管の下端より口側に位置しており,食道病変と考えられた.

b:NBI非拡大観察では右側にSSBEを認めるが,周囲と比べると病変部はより濃い茶色領域として認識された.

c:脱気にてやや厚みを認めるが,壁硬化は認めない.

d:内視鏡的に胃粘膜萎縮を認めない.

Ⅴ おわりに

食道胃接合部癌は欧米ほどの急激な増加は認めないが,緩やかな増加を認めている.早期癌での検討からその多くはH. pylori未感染の胃粘膜萎縮を伴わない症例に発症するBarrett食道腺癌の増加によると思われる.サーベイランスにおいてBarrett食道腺癌は前壁から右壁に発赤調の隆起性病変が多いという特徴を持つことを知っておくことが重要であり,NBI併用拡大観察も診断の一助となる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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