日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
経胃瘻的ERCP(TG-ERCP)により治癒した急性胆管炎の1例
杉谷 義彦西山 順博島本 和巳大原 真理子小林 遊中村 文泰 佐々木 雅也安藤 朗
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 61 巻 3 号 p. 280-285

詳細
要旨

症例は86歳,男性.脳梗塞により,経口摂取は困難で,胃瘻造設(percutaneous endoscopic gastrostomy,PEG)状態であった.総胆管結石による胆管炎を発症したため,処置に伴う合併症を慎重に検討した上で,入院第13病日に経胃瘻的ERCP(TG-ERCP)を行った.胃瘻をダイレーターにより拡張後,Olympus GIF-XQ240を挿入した.乳頭の見上げが困難であり,パピロトミーナイフを使用して,胆管挿管し,乳頭切開の上,バルーンカテーテルにて結石除去を施行した.高齢の患者であったが,合併症なく治癒が得られた.最小限の瘻孔拡張(24Fr)で,GIF-XQ240により,パピロトミーナイフを併用することで,高齢のPEG留置患者であっても胆管結石治療が可能であり,有用な方法であると考えられた.

Ⅰ 緒  言

胃瘻を有する高齢患者が胆管炎を発症した場合,併存疾患を有することが多いことから,その治療適応については,慎重な検討が必要である.但し,絶食・抗生剤投与などの保存的治療では改善しない症例や,一旦は改善しても再発し,重症感染症や播種性血管内凝固症候群,敗血症性ショックが起こる場面にしばしば遭遇する.このため,超高齢者の胆管炎については,積極的な内視鏡治療を行うことが有効かつ安全であると報告されている 1)~3

経胃瘻的ERCP(transgastrostomal ERCP,以下TG-ERCPと略)は,背臥位のまま施行することが可能であり,咽頭麻酔や深い鎮静を必要とせず,誤嚥性肺炎のリスクを軽減するなどの利点がある 4.今回われわれは,GIF-XQ240を用いてTG-ERCPを施行し,合併症なく治癒が得られた症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:86歳,男性.

主訴:発熱,右側腹部痛.

既往歴:脳梗塞.

現病歴:以前より胆管炎を繰り返していたが,点滴抗生剤による保存的加療にて改善し,経過観察となっていた.2016年5月下旬に38℃台の発熱があり,当院を受診した.

入院時現症:発語はないが,意思疎通は可能,血圧129/73mmHg,脈拍 79bpm整,体温 38.1℃.腹部は平坦,軟で右季肋部に圧痛があり,反跳痛や筋性防御はなし.腸蠕動音は減弱亢進なし.

入院時血液検査所見:WBC 6,700/μl,CRP 7.78mg/dlと炎症反応があり,T-bil 0.5 mg/d,D-bil 0.2mg/dlとビリルビン上昇はなかったが,AST 276IU/l,ALT 417IU/l,ALP 320IU/l,γ-GTP 292IU/l,LDH 175IU/lと肝胆道系酵素の上昇を認めた.

腹部CT:総胆管結石,総胆管の拡張,胆嚢結石を認めた(Figure 1).

Figure 1 

腹部CT.

総胆管結石(矢印)及び総胆管の拡張,胆嚢結石を認めた.

入院後経過:血液生化学検査及び画像所見より,急性胆管炎と診断した.重症度は急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013で中等症であった 5.絶食と点滴補液,抗生剤投与(メロペネム水和物0.5g×2回/日)により,症状と炎症所見の改善がみられた.しかし,入院時の血液培養検査にてEscherichia coliの検出があり,菌血症を伴う重症感染症であったこと,胆管炎の再発を繰り返していることから,十分なインフォームド・コンセントの下,入院第13病日に内視鏡治療を行った.咽頭麻酔や鎮静は行わず,体位は処置中すべて仰臥位のままでTG-ERCPを施行した.ガイドワイヤを挿入し,カンガルーボタンⅡ 20Fr(COVIDIEN社製)を抜去した.その後,シース付き24Frダイレーター(Kimberly-Clark 社製)のアウターシースをクーパーにて縦に切離し(Figure 2-a),Olympus GIF-XQ240(外径9.0mm)が入るように同心円状に回し,瘻孔を保護しながらも十分に拡張した(Figure 2-b).アウターシースについては,本来の使用法と異なるが,患者・家族への説明を十分に行い,また院内にて安全性の検討を行った上で使用した.アウターシースを残しながら,Olympus GIF-XQ240を十二指腸乳頭部まで挿入した.通常の造影チューブ(MTW社製)を使用すると,視野方向が0°のため,乳頭観察が困難であり,見上げの視野を作ることが困難であった.そこで,Clever Cut3 V(Olympus社製),0.35inch Jagwire angle(Boston Scientific社製)を使用して,乳頭を見上げる角度を調節し,Wire guided cannulationで胆管挿管できた(Figure 3).胆管造影にて,6mm大の総胆管結石を確認した(Figure 4).乳頭切開(endoscopic sphincterotomy,EST)の上,15mmトリプルルーメンバルーンカテーテル(Olympus社製)にて結石除去を行い,7Fr 7cm プラスティックステントFlexima(Boston Scientific社製)を留置した.治療後,乳頭保護・早期経腸栄養開始のため,24Fr経胃瘻的空腸チューブPEG-J(Kimberly-Clark 社製)を留置した.処置中は,モニター管理下に,適宜吸痰なども行っていたが,血圧低下や呼吸状態の悪化などはみられず,安定した状態であった.処置後翌日から経腸栄養を開始した.結石除去8日後にPEG-Jから,イディアルボタン24Fr(Olympus社製)に交換した.瘻孔損傷は認められなかった.また,胆管ステントは自然脱落していた.経過良好であり,処置後13日で施設へ転院とした.

Figure 2 

Introducer Kit for Gastrostomy Feeding Tube(Kimberly-Clark社製)に含まれるシース付き24Frダイレーターのアウターシースをクーパーにて縦に切離し,Olympus GIF-XQ240(外径9.0mm)が入るように同心円状に回し,瘻孔を保護しながらも十分に拡張した.瘻孔拡張後,GIF-XQ240を挿入した.

Figure 3 

通常の造影チューブ(MTW社製)を使用すると,視野方向が0°のため,乳頭観察が困難であり,見上げの視野を作ることが困難であったが,Clever Cut3 V(Olympus社製),0.35inch Jagwire angle(Boston Scientific社製)を使用して,乳頭を見上げる角度を調節し,Wire guided cannulationで,胆管挿管に成功した.

屈曲径:内視鏡と十二指腸乳頭部の間において,内視鏡が反転した直線部分.

Figure 4 

胆管造影にて総胆管結石(矢印)を確認し,乳頭切開(EST)を行い,15mmトリプルルーメンバルーンカテーテル(Olympus社製)を使用し,結石除去を行った.

Ⅲ 考  察

総胆管結石を有する高齢者が胆管炎を発症した場合,様々な合併症を有することもあるため,治療適応について検討する必要がある.保存的に改善しても再燃する可能性が高く,更に重症化する恐れもあり,十分なインフォームド・コンセントの下で,積極的に内視鏡治療を施行すべきであるといわれている 1)~3.結石除去ができなくても,胆管ステントを留置することで,完全切石と変わらない長期予後が期待できるため,治療に難渋した際には迅速に処置を終えることを念頭に置いた対応が必要である 3

高齢者の総胆管結石を有する胆管炎に対する治療適応は,①本人または家族の同意が得られていること②保存的治療に反応が乏しいこと③ショック,意識障害,急性呼吸障害,急性腎障害,肝障害,DICのいずれかを認める.

①-③のすべてを満たす,またはそれに準じた状態において,適切な臓器サポートや呼吸循環管理とともに緊急に胆道ドレナージを行うべきである 5

TG-ERCPは,Table 1に示すように,背臥位のまま施行することが可能であり,咽頭麻酔や深い鎮静を必要とせず,誤嚥性肺炎のリスクも軽減できるなどの利点がある 1),4),6.TG-ERCPにおけるVater乳頭への到達と胆管挿管の難易度は,普段とは異なる視野とアングルのため,GrayらはTG-ERCPは通常のERCPより難しいと述べている 7.本症例においても,通常カテーテルでは困難であった.

Table 1 

PEG患者の通常ERCPとTG-ERCPの比較.

医学中央雑誌(1974~2018年)で,キーワード「胃瘻」「ERCP」「合併症」検索を施行したが,胃瘻患者の通常ERCPの偶発症に関する報告を認めなかった.当院において,2013年4月1日から2017年3月31日までERCPを施行した633例のうちPEG患者の通常ERCPは4例であった.その中で,2例に合併症があり,1例で徐脈・血圧低下を,1例で胃穿孔を経験した.前者は鎮静薬による影響と考えられ,鎮静中止後,速やかに改善がみられた.後者の胃穿孔は,側視鏡を十二指腸に挿入する際に胃がたわみ,胃壁固定の部分が引っ張られ,胃体下部に穿孔が生じたものであった.胃でスコープがたわむなど難渋する症例については,無理をせずTG-ERCPを考慮すべきと思われる.

TG-ERCPは,Schapiraらによって1975年に初めて報告されている 8.口腔癌に対する放射線治療後の食道狭窄に閉塞性黄疸を合併した患者に対して,胃瘻を12mm(36Fr)に拡張後,側視鏡Olympus JF-B2を使用し,胆管造影を行った症例である.本邦でも1996年に湯原らが食道癌合併総胆管結石症に対して,胃瘻を12mm(36Fr)に拡張後,側視鏡Olympus GIF-1T20で,経胃瘻内視鏡的乳頭切開術及び内視鏡的機械的結石破砕術に成功している 9.その後,2013年に遠藤らが,胃瘻より側視鏡Olympus JF-260Vを挿入し,胆管結石症5例の治療を行っている 4.いずれも胃瘻を12mm(36Fr)まで拡張した後に処置を施行したものであった.栄養の逆流・漏れ・瘻孔損傷・感染はなかったということであったが,拡張時の偶発症や拡張後の逆流や漏れなどを考慮すると可能な限り拡張径を小さく留めるべきである.Moriらは,2006年に細径経鼻内視鏡を用いて,TG-ERCPを行い,胆管ドレナージチューブを留置し,胆管炎を治療したと報告している.瘻孔拡張の必要がなく,有用な方法であるが,経鼻内視鏡では鉗子孔が小さく,処置具が入らないため,結石除去が困難である 10.本症例では,外径9.0mmのOlympus GIF-XQ240を使用し,パピロトミーナイフ及びバルーンカテーテルで,結石除去に成功した(Table 2).遠藤らの報告 4より,屈曲径を内視鏡と十二指腸乳頭部の間において,内視鏡が反転した直線部分と定義すると,Olympus GIF-XQ240でのカニュレーションでは,胃瘻から乳頭までの屈曲径が47.3mm(本症例の実測はFigure 3で示したように48mm)と大きく,Olympus JF-260Vでのそれが22.8mmであるのと比較し,乳頭の見上げの角度と,操作可能範囲の制限が生じ,乳頭へのアプローチに困難を要する.しかし,今回,パピロトミーナイフを使用することで,見上げの角度を調節し,GIF-XQ240においても,胆管挿管が可能であった.また,TG-ERCP後に24Frダイレーターシース(Kimberly-Clark社製)を使用し,PEG-Jカテーテル(Kimberly-Clark社製)を留置した.キットに含まれる処置具の無駄がないこと,乳頭処置後早期から経管栄養を行うことが可能であり有用と考えられる.

Table 2 

TG-ERCPにおける経鼻内視鏡(GIF-N260)/GIF-XQ240/JF-260Vの比較.

総胆管結石を有するPEG患者は本邦でも多く存在するが,保存的に経過をみられていることが少なくはない.今後,胆管炎の再燃を繰り返す胃瘻患者に対して,TG-ERCPによる治療が有益な選択肢の一つになることを期待する.

Ⅳ 結  語

総胆管結石を有する胃瘻患者に対して,GIF-XQ240を用いてTG-ERCPを施行した.経口アプローチより安全で,患者の負担が少なく,有用であると思われ報告した.

謝 辞

本症例に対応するにあたり,PEG・在宅医療研修会役員先生方に御世話になったことを感謝します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top