日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
バレット食道癌に対するESDのコツとポイント
高橋 亜紀子 小山 恒男
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2019 年 61 巻 3 号 p. 287-294

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要旨

バレット食道癌は,特にLong segment Barrett’s esophagus(LSBE)では0-Ⅱb進展が多いため側方進展範囲診断が難しい.このため,LSBEに発生した境界不明瞭なバレット食道癌では,胃の低分化腺癌同様に周囲からの生検で陰性を確認してから,内視鏡治療に臨む必要がある.またsquamocolumnar junction(SCJ)に接したバレット食道癌では,口側に扁平上皮下進展が存在する場合が多い.上皮下進展の内視鏡所見として粘膜の色調変化,異常血管の出現,小孔が挙げられる.扁平上皮下進展距離平均値はShort segment Barrett’s esophagus(SSBE)で4(1-12)mm,LSBEで5(1~20)mmであり,注意深く,口側切開線を決定する.SSBEでは10mm,LSBEでは20mmの余裕を確保して,口側切開線を決定する.

バレット食道癌では逆流性食道炎や潰瘍瘢痕を合併していることが多く,扁平上皮癌のESDに比して,ESDの難易度が高い.

バレット食道癌は異時多発癌が10.3~21.5%と高頻度のため,欧米ではvisible lesionに対して内視鏡的治療を行った後に,残バレット粘膜に対してRadiofrequency ablation(RFA)を行うことが推奨されている.しかしRFA後に粘膜深部にバレット粘膜が残り,表層のみが扁平上皮で覆われる(baried barrett)ことがあり,RFAで完全にバレット粘膜が撲滅できるわけではないことを知っておく必要がある.日本のガイドラインでは慎重な経過観察を薦めているが,異時多発癌予防のため,全周切除,二期的に分けた全周切除,の治療戦略をわれわれは実践している.

Ⅰ はじめに

食道扁平上皮癌(SCC)はヨード染色にて比較的容易に側方進展範囲を診断することができ,線維化も軽度のことが多い.一方,バレット食道癌は側方進展範囲診断が難しく,高度の線維化を伴うことがあり,SCCと比較するとESDの難易度が高い.本稿では,バレット食道癌に対する診断・ESD,残バレット粘膜の扱いについて解説する.

Ⅱ 診  断

1)側方進展範囲診断

バレット食道癌のうち,特にLong segment Barrett’s esophagus(LSBE)では側方進展範囲診断が難しい.小山らの検討 1では,White light image(WLI)での正診率はShort segment Barrett’s esophagus(SSBE)群で56%,LSBE群で7%と優位差を認めた.この原因として,主肉眼型が0-Ⅱbであった症例の割合がSSBE群では15%であったのに対して,LSBE群では40%と多かったこと,および0-Ⅱbまたは0-Ⅱbを合併した割合がSSBE群では51%であったのに対して,LSBE群では89%と,LSBE群では0-Ⅱb合併率がより高いことが挙げられた.一方,拡大内視鏡による側方進展範囲診断はSSBE群で96%,LSBEで100%と差はなく,拡大内視鏡検査の有用性が示唆された.しかし,拡大内視鏡を駆使しても範囲診断が困難で,想定した側方進展範囲の外側からも生検で癌が検出されたことから,外科治療を選択した症例もあった.この症例では最終的に4個の同時多発性表在癌を有していた 2.このため,LSBEに発生した境界不明瞭なバレット食道癌では,胃の低分化腺癌同様に周囲からの生検で陰性を確認してから,内視鏡治療に臨む必要がある.

2)扁平上皮下進展

squamocolumnar junction(SCJ)に接したバレット食道癌では扁平上皮下進展する場合があり,口側の切開ラインに注意を要する.

扁平上皮下に腺癌が進展すると,粘膜の色調が変化する,異常血管が出現するなど特徴的な内視鏡所見が観察される 1.また腺の開口部が小孔として観察される場合もある 3.筆者らは2000年11月~2014年2月までにESDを施行したSSBE癌36例を検討し,扁平上皮下進展距離は4(1-9)mmであり,21%は上記の内視鏡所見が陰性であったと報告した 4.このため,内視鏡的に診断した上皮下進展口側縁からさらに10mm口側にマーキングし,その口側(外側)を粘膜切開することを推奨している 5.また筆者らは2000年1月~2016年3月までにESDを施行したSSBE40例,LSBE9例を分けて検討した.扁平上皮下進展距離はSSBEで4(1-12)mm,LSBEで5(1~20)mmであり 1,LSBEではより注意深く切開線を決定することが必要である.

Ⅲ Hook KnifeによるESD

円柱上皮と扁平上皮では上皮の厚さが異なるため,マーキングと粘膜切開時に高周波装置の設定を変えている.このためバレット食道癌のESDでは,切除範囲の上皮の種類により高周波装置の設定が異なり,その詳細は以下に示す(Table 1).

Table 1 

 

またSSBE例で小さな病変であれば静脈麻酔下ESDでも良いが,半周以上の切除例やLSBE例の場合には治療に長時間を要するため,挿管全身麻酔下ESDが望ましい.

ESDのストラテジーは,SCJにかかる病変か否かにより異なる.SCJにかかる病変の場合,まず反転で肛門側の粘膜切開をし,深切りを十分に行う.反転でアプローチしにくい場合には,順方向に変え胃内の空気を少し抜くと近接しやすい.次に口側の粘膜切開を行い,深切りを行う.その後口側の粘膜下層に糸付きクリップを装着しトラクションをかけて剥離を完遂する.SCJにかからない病変の場合は,上記の過程を順方向のみで行う.

1)マーキング

円柱上皮と扁平上皮では上皮の厚さが異なるため,バレット食道癌のESDでは,切除範囲の上皮の種類により高周波装置の設定を変える必要がある(Table 1).

扁平上皮側では,soft coagulation,effect 4,20W(VIO300D,ERBE社,以下高周波設定は同様の機種),円柱上皮側では,forced coagulation,effect 2,40Wで病変境界より3mm程度離した外側にマーキングする(Figure 1).上記に示した通り,癌の口側が扁平上皮と接している場合には扁平上皮下進展の可能性があるため,内視鏡的に診断した上皮下進展口側縁からさらに1cm口側にマーキングする.

Figure 1 

マーキング.

2)粘膜切開

まずHook Knife J(Olympus社,KD-625LR)を6時方向にした後に収納し,凝固モード(spray coagulation,effect 2,60W)で一瞬通電し,Pre cutを置く(Figure 2-a).直後にHook Knife Jから送水すると,粘膜下層へ局注することができる(Figure 2-b:局注後).Pre cutの置き方は,扁平上皮側でも円柱上皮側でも同じである.Hook knife Jの送水による局注でリフティングが悪い場合には,局注針を用い局注する.

Figure 2 

粘膜切開.

粘膜切開は,円柱上皮側では,Endo cut,effect 3,duration 2,interval 1(Figure 2-c),扁平上皮側では,Aut cut,effect 5,60Wの設定で行う(Table 1).出血しやすい場合は粘膜を把持し,凝固モード(spray coagulation,effect 2,60W)で一瞬通電して,粘膜下層の血管を凝固処理した後にAut cutで切開し,出血を予防する(Figure 2-d).

3)粘膜下層剥離

扁平上皮側と円柱上皮側共に,spray coagulation,effect 2,60Wにて粘膜下層剥離を行う(Figure 3)(Table 1).

Figure 3 

粘膜下層剥離.

この際,粘膜下層側に糸付きクリップ 6),7を付け牽引すると,トラクションがかかり剥離がしやすくなる.①口側の粘膜下層を少し剥離した後(Figure 4-a),スコープをいったん抜去する.②鉗子孔よりアプリケーターを挿入し糸付きクリップを装着,そのままスコープを再挿入し(この時糸はスコープの外側にある),③クリップを粘膜下層側に付ける(Figure 4-b).④その後糸を引くと,トラクションがかかる(Figure 4-c).⑤切除後クリップを外す際標本を損傷する恐れがあるため,糸付きクリップは粘膜下層側に付けると良い.当院ではEZ Clip(Olympus社)に3-0絹糸を結び,糸付きクリップを作成し常備している 8.トラクションがかからなくなってきたら,追加の糸付きクリップにて牽引すると剥離効率が良い(Figure 5).

Figure 4 

糸付きクリップと粘膜下層剥離.

Figure 5 

切除標本.

LSBE症例の粘膜下層剥離を示す.口側では透明な粘膜下層であるが(Figure 6-a),下部食道から腹部食道では粘膜下層が白濁し血管も多い(Figure 6-b).ESD潰瘍底も口側では明らかに透明だが(Figure 6-c),肛門側では白濁した粘膜下層である(Figure 6-d).最近発売されたHook Knife J(Olympus社,KD-625LR)やDual Knife J(同社,KD-655L)では,局注した直後に剥離できるため,効率が良い.しかし線維化が高度で十分な膨隆が得られない場合は,ヒアルロン酸Naを局注し,線維化がない部分をまず剥離して中央に線維化部を残し,黄色線のように剥離ラインを想定して剥離を継続する(Figure 7),などの工夫を行う.

Figure 6 

LSBE症例の粘膜下層剥離.

Figure 7 

線維化部の剥離(黄色線:想定剥離ライン).

Ⅳ 残バレット粘膜の扱い

日本食道学会によるガイドライン 9によると,「わが国ではバレット食道癌を正確に診断して内視鏡治療を行う方針が広く浸透しており,治療後に残存したバレット食道については慎重な経過観察が行われている」とされている.一方欧米では,異時多発癌が10.3~21.5% 10)~12と高頻度のため,visible lesionに対して内視鏡的治療(endoscopic resection;ER)を行った後に,残バレット粘膜に対してRFA(radio frequency ablation)を行うこと(ER/RFA)が推奨されている 13),14

また二期的にEMRを施行するstepwise radial endoscopic resection(SRER)という方法も報告されており,Belghaziら 15はhigh-grade dysplasia/early cancerのSRER後,中央値76カ月の再発は1.4%と報告した.一方,van Vilsterenら 16はSRERとER/RFAをmulticenter randomised trialとして比較し,complete histological response for neoplasiaは100% vs. 96%,complete histological response for intestinal metaplasiaは92% vs. 96%で優位差は認めなかったが,狭窄率は88% vs.14%と優位差があり,ER/RFAを推奨している.

一方,RFA後に粘膜深部にバレット粘膜が残り,表層のみが扁平上皮で覆われることがある.Grayら 17はSystematic reviewにて18論文を集計し,この「baried barrett」の頻度は0.9%(9/1,004)と報告している.RFAで完全にバレット粘膜が撲滅できるわけではないことを知っておく必要がある.

RFAは本邦には導入されていないため,われわれは以下のように治療戦略を考えている.

①全周切除:まず第一に一期的に非腫瘍であるバレット粘膜も含め全周ESDを施行することである.この場合,術後狭窄予防の対策が必要であり 18,内視鏡的バルーン拡張術,ステロイド局注 19),20,ステロイド内服 21などの対応をする.

②二期的に分けた全周切除:LSBEでは一度の広範囲切除を避けるため,はじめに癌部に対しESDを施行し,ESD潰瘍の治癒後に残バレット粘膜に対しESDを施行する.この場合,術後狭窄は予防できるが,線維化により2回目のESD時の難易度が上がる.

二期的に全周切除した症例を呈示する.LSBE内のバレット食道癌,0-Ⅱa+Ⅱb,40mm,半周性に対するESDを施行した(Figure 8-a),11週後に上皮化を確認し(Figure 8-b),残ったバレット粘膜に対し,ESDを施行した(Figure 8-c).2回目のESDでは1回目のESDで生じた瘢痕部の切開・剥離が問題となるため,注意深く剥離した(Figure 8-d).2回目のESD後から4週後に,上皮化と狭窄がないことを確認した(Figure 8-e).

Figure 8 

二期的な全周切除例.

③経過観察:患者の希望や全身状態により全周ESDが難しい場合には,癌部に対しESDを施行し,残バレット粘膜は経過観察としている.

Ⅴ おわりに

バレット食道癌の診断・ESD,ESDの手技,残バレット粘膜の扱いについて解説した.特にLSBEに発生した癌に関しては,残バレット粘膜の扱いを慎重に検討する必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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