日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
最新文献紹介
ディープラーニングを用いた人工知能システムによるカプセル内視鏡画像におけるびらん・潰瘍所見の自動検出法
岡 志郎山田 篤生
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 61 巻 3 号 p. 330

詳細
 

【背景】現在,人工知能(AI)を活用したカプセル内視鏡診断支援システムは確立されていない.また,小腸カプセル内視鏡における異常所見の中で最も頻度が高いとされる薬剤や炎症に伴う粘膜傷害(びらん・潰瘍)は,周囲粘膜との色調変化に乏しいこともあり診断が難しいことも少なくない.

【目的】カプセル内視鏡画像の小腸びらん・潰瘍所見を自動検出するためのディープラーニングによるAIシステムを開発する.

【方法】カプセル内視鏡の小腸びらん・潰瘍画像5,360枚(115症例)を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)システムに学習させた.本CNNシステムに,学習画像とは独立した10,440枚(65症例)のカプセル内視鏡小腸画像(びらん・潰瘍440枚,正常小腸10,000枚)を読影させ,びらん・潰瘍の自動検出能を検証した.なお,検証用画像のびらん・潰瘍の患者病態は,NSAIDs起因性(36%),炎症性腸疾患(11%),吻合部潰瘍(4%),悪性腫瘍(4%)の内訳であった.画像単位で正否を判断し,ROC-AUC,感度,特異度,正確度で評価した.CNNシステムが算出した確度(びらん・潰瘍である確率)のカットオフ値の選定にYouden Indexを採用した.

【結果】学習したCNNは,10,440枚の検証用画像の読影に233秒を要した(44.8枚/秒).びらん・潰瘍検出のAUCは0.958(95%信頼区間 0.947-0.968)であった.確度のカットオフ値を0.481とした際の感度,特異度,正確度は各々88%,91%,91%であった.読影医が正常小腸と判断していた10,000画像のうち3画像に対してCNNが新規びらんを同定した.

【結語】カプセル内視鏡の小腸びらん・潰瘍所見を自動検出するAIシステムを作成し検証した.本システムは読影医の負担軽減や見逃しを減らすことに寄与すると考えられた.

《解説》

消化管内視鏡領域のAIによる自動拾い上げ診断に関して,食道・胃・大腸では既に報告されているが 2),3,小腸に関しては報告が少ない.カプセル内視鏡は,患者の苦痛を伴うことなく,これまで暗黒大陸と呼ばれ観察困難であった深部小腸の内視鏡検査を可能とした 4.しかし,カプセル内視鏡は1患者あたり約6万枚の内視鏡画像を撮像するため,その読影には30~120分程度を要し臨床現場では大きな負担となっている.また,大きな異常所見であってもたった1枚の画像にしか写っていないこともあり,特に経験の少ない読影者では病変の見逃しも危惧される.本研究グループは,最先端のAI技術であるニューラルネットワーク(人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し,数理モデル化したものの組み合わせ)を用いたディープラーニングを活用し,小腸粘膜傷害(びらん・潰瘍)の写った5,360枚のカプセル内視鏡画像をAIに学習させ病変検出力を検証し,高い精度でびらん・潰瘍を正診できることを証明した.また,画像の解析に要した時間はわずか233秒と解析速度は人間の能力をはるかに超える結果であり,熟練した内視鏡医が発見できなかった新規病変も発見したことから,病変見逃しの防止につながる可能性も示した.本CNNシステムは,さらに学習を繰り返すことで診断精度を向上させることが可能であり,近い将来,医療現場に実装することが期待される.現在,カプセル内視鏡画像の読影には熟練が必要なためカプセル内視鏡検査を導入できる施設は限られているが,AIを用いて読影負担や見逃しを減らせることができれば,専門医が少ない地域へのカプセル内視鏡のさらなる普及に繋がるであろう.

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top