日本消化器内視鏡学会雑誌
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早期胃癌に対する内視鏡的全層切除術における癌細胞腹膜播種の可能性
阿部 展次
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2019 年 61 巻 4 号 p. 433

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【背景と目的】早期胃癌に対する開放型内視鏡的全層切除術では癌細胞腹膜播種のリスクがあるとされ,その手技自体が許容されるか否かは議論がある.今回の検討では,癌腫表面を触れることによって癌細胞が剥離しえるのかを検討し,開放型内視鏡的全層切除術における腹膜播種の可能性を考察することを目的とした.

【方法】内視鏡的粘膜下層剥離術が施行された単発早期胃癌48例の切除標本を用い,癌腫表面と非癌部をスライドグラスに接触させ(スタンプ細胞診),パパニコロ染色をもって癌細胞(class IV/V)検出の有無を検討した.また,癌細胞が検出されたものに対しては,癌幹細胞のマーカーであるCD44v9の免疫組織化学的検討を行い,その発現陽性率を求めた.

【結果】癌細胞(class IV/V)の検出率は,癌部で27.5%(53/192スライドグラス),非癌部で0%(0/96スライドグラス)であった.癌細胞陽性であった53スライドグラスを用いたCD44v9免疫組織化学的検討では,その発現陽性率は34%(18/53)であった.

【結果と考察】本検討により,癌腫表面の接触により容易に癌細胞や癌幹細胞が剥離することが明らかとなった.早期胃癌に対する開放型内視鏡的全層切除術では,従来言われているように医原性の腹膜播種あるいは癌移植発生の可能性が否定しきれない.したがって,早期胃癌に対して内視鏡的全層切除術を行うのであれば,これらのリスクを回避するために非開放型の内視鏡的全層切除術行うことが勧められる.

《解説》

癌細胞は癌腫が存在する消化管管腔内に遊離している.胃癌でも管腔内遊離癌細胞は存在し,内視鏡を用いた洗浄操作のみでも高率に癌細胞が遊離しえる.癌腫が存在する管腔内に高率に遊離癌細胞が存在するなら,それらが腹腔内に開放され管腔内内容物が漏出した場合は腹膜播種につながる可能性が懸念される.このような状況は,胃癌に対する内視鏡的切除中の穿孔時という状況が想定される.実際,早期胃癌に対する内視鏡的切除時の穿孔症例で腹膜播種再発を来した症例が少なからず報告されている.また,胃癌に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術や,内視鏡的消化管全層切除など,胃内を腹腔内側へ開放する手技においては,胃内遊離癌細胞が腹腔内へ漏出し,ひいては腹膜播種につながる可能性が懸念される.

本論文は,胃癌腫表面の接触により容易に癌細胞や癌幹細胞が剥離することを明らかにしたものである.検討方法は実にシンプルでありながら,臨床に直結する重要な結果が判明した.早期胃癌に対する開放型(胃内開放で胃癌が腹腔内に露出する)内視鏡的全層切除術では,術中の不適切な操作(露出した癌腫を腹腔内組織に接触させるなど)が,医原性の腹膜播種あるいは癌細胞腹腔内移植を惹起する可能性があるという警笛を鳴らした重要な論文である.筆者はその上で,早期胃癌に対して内視鏡的全層切除術を行うのであれば,これらのリスクを回避するために,NEWS(non-exposed endoscopic wall-inversion surgery)などの非開放型内視鏡的全層切除術を行うことを推奨した.その一方で,本領域における今後の課題は,胃内に遊離した癌細胞や,癌腫接触により剥離した癌細胞に,腹膜播種・移植が成立するviabilityがあるか,などの検討を要することであろう.

文 献
 
© 2019 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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