【背景および目的】サルベージ内視鏡的切除(ER)は,食道扁平上皮癌(ESCC)に対する化学放射線療法(CRT)後に生じる表層性の局所遺残再発病変への根治的治療法の一つである.本研究は,サルベージER後の再発に関する危険因子を明らかにすることを目的とした.
【方法】本研究では,1998年から2013年にかけて,CRT後の局所遺残再発病変に対してサルベージERを実施した一連のESCC患者を登録した.サルベージER後の再発には,局所領域内再発および遠隔転移再発があった.サルベージER後の再発の危険因子を特定するため,臨床病理学的な項目を多変量解析した.
【結果】本試験に登録された72名の患者に対しCRT実施前に病期分類を行い,cT1/T2/T3/T4に該当した患者はそれぞれ37/8/23/4名であり,また,cN0/N1に該当した患者はそれぞれ44/28名であった.対象病変の状況は,CRT実施後の遺残病変が19名,再発病変が53名であった.切除標本を分類した結果,pT1a(M)が45名,pT1b(SM)が27名であった.サルベージER実施後の経過観察期間中(中央値:45カ月,範囲:3~175カ月)に,患者27名(38%)が再発しており,3年無再発生存率は48.9%(95%信頼区間(CI):36.5~60.3)であった.多変量解析により,CRT実施後の遺残病変(ハザード比(HR):2.55,95% CI:1.32~4.94),およびサルベージER実施前に粘膜下腫瘍(SMT)様の肉眼所見を有する病変(HR:2.08,95% CI:1.04~4.18)は,サルベージER実施後の再発と有意に関連することが示された.
【結論】臨床所見(例:CRT実施直後に見られた遺残腫瘍や,サルベージER実施前のSMT様の肉眼所見)は,サルベージER実施後の再発の顕著な危険因子であることが示された.
化学放射線療法(CRT)は,食道扁平上皮癌(ESCC)に対する根治的治療の選択肢の一つである.しかしながら,CRT後の遠隔転移を伴わない局所遺残再発は,長期生存の達成における重要な課題となっている.また,そのような患者群に行われているサルベージ食道切除術は,初回のまたは計画された食道切除術に比べより高い罹病率,および死亡率を伴う 1)~5).
現在,サルベージ内視鏡的切除(ER)は,ESCCへの根治的CRT後に局所遺残再発した表層性病変に対する治療法の一つになっている 6)~8).われわれは以前,サルベージ内視鏡的粘膜切除(EMR)により,重篤な合併症を伴うことなく高い長期生存率の達成が可能であることを明らかにした 9).しかしながら,サルベージER後の再発に関する臨床病理学的危険因子を調査した研究はほとんどない.初回病変に対しERを受けた患者では,再発の危険因子は,リンパ節転移率 10),11)またはER後の長期成績 12)~14)に従って,主に切除標本の病理学的評価に基づいて決定されている.他方では,サルベージERを受けた患者のCRT前後の臨床病理学的特徴は多様であり,サルベージER後の再発の危険因子は,切除標本の病理学的評価やベースラインの臨床病理学的特徴に基づいて評価されているわけではない.
従って本研究の目的は,ESCCに対するCRT後の局所遺残再発病変に対して,サルベージERを行った後の局所領域内再発や遠隔転移再発の危険因子を特定することである.
1998年4月より2013年3月までに,日本国内の柏市にある国立がん研究センター東病院において,計891名のESCC患者が,50Gy以上の体外照射とフッ化ピリミジン(場合により白金製剤を伴う)を用いた化学療法の併用から成る根治的CRTを受けた.
サルベージERの適用は,腫瘍に以下のような特徴がある患者である:(i)コンピューター断層撮影(CT)で検出されるリンパ節や遠隔転移がないこと,(ii)病変に深部潰瘍がないこと,(iii)通常の内視鏡および/または超音波内視鏡(EUS)の所見で腫瘍浸潤の深さが粘膜下層に限定されていること,および(iv)書面によるインフォームドコンセントが得られている患者であること.サルベージERは,病変が食道周径の4分の3以上に及んでいる場合,または,深部に至る潰瘍や高度の線維化が予測される場合には適用しなかった.
サルベージERは,本センターにおいて根治的CRTで治療した891名の患者のうち83名に適用された.また,患者4名が他院より紹介されてサルベージERを受けた.従って,CRT後の局所遺残再発を呈した計87名の患者にサルベージERによる治療を実施することになった.研究から除外された患者は15名であるが,これらの患者の切除標本には癌細胞が認められなかった.本研究のプロトコルは,2015年7月に国立がん研究センターの施設内倫理委員会により承認された.本研究はヘルシンキ宣言に従って実施された.
ESCCのCRT前の臨床病期分類とCRT後の転帰の評価ESCCは治療開始前にTNM分類に従い病期分類された 15).患者すべての臨床T分類は内視鏡,EUS,およびCTで評価し,また臨床NおよびM分類は主に頸部,胸部,および腹部のCTに基づいて評価した.一般的に,患者にリンパ節転移があると診断するのは,CT検査により直径10mm以上のリンパ節が指摘された場合である.CRT後,患者は完全奏効が確認されるまで内視鏡検査を毎月受け,さらにCT検査も3カ月毎に受けた.CRT後の原発部位における完全奏効は以下のように定義した.(i)腫瘍病変の消失,(ii)原発部位における潰瘍の消失,および(iii)生検標本に癌細胞を認めないこと 16).原発部位における完全奏効に加え,造影CT検査でリンパ節転移の完全消失が認められることも完全奏効と定義した.完全奏効が確認された後,経過観察のための内視鏡およびCT検査を,初めの2年間は3カ月毎に,その後は6カ月毎に実施した.放射線食道炎が6カ月以上持続した患者については遺残病変との区別が困難であったため,経過観察のための内視鏡検査を2カ月毎に実施した.
サルベージER前の局所遺残再発病変局所遺残再発と判断されるのは,原発部位の腫瘍に明らかな増大が認められた場合,または生検標本に癌細胞が検出された場合であった.また,遺残病変はCRT直後に完全奏効が達成されなかった病変と定義し,再発病変は完全奏効の達成後に再発した病変と定義した.
原発部位で,粘膜下腫瘍(SMT)様,もしくは表在型(軽度の陥凹,隆起したもの)の肉眼所見を認めれば,局所遺残再発の初期段階で得られる所見と考えられる(Figure 1).このことは,われわれの以前の報告 17)において,SMT様の肉眼所見はESCCに対する根治的CRT後に発生した局所遺残再発と密接に関連していること,および,SMT様の局所遺残再発病変は,非腫瘍性の扁平上皮に覆われた腫瘍細胞が上皮下で広がるという増殖のパターンを呈している,と実証されたことを踏まえたものである.局所遺残再発病変はすべて,腫瘍浸潤の深さを確認するために,20MHzの超音波プローブを用いたEUSにより再評価された.
サルベージER前の遺残再発病変の肉眼所見.
a:表在型(軽度の陥凹,隆起したもの).
b:表在型-ヨード染色.
c:粘膜下腫瘍(SMT)様.
d:粘膜下腫瘍(SMT)様-ヨード染色.
サルベージERは,EMRと内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で行われた.サルベージEMRはstrip biopsy法(2チャンネル内視鏡(2T240,オリンパス,東京)を用いてMommaら 18)が修正を行った手技)で行われた.技術的な理由により一括切除ができない病変については,ルゴール液を用いた色素内視鏡検査にて不染帯が見られなくなるまで追加で分割切除が施行された.
サルベージESDでは,ウォータージェットシステムを備えた単一チャンネル上部消化管内視鏡(GIF-H260Z,GIF-Q260J;オリンパス,東京,日本),および,自動制御システムを備えた高周波発生器(ICC 200,ERBE Elektromedizin GmbH,テュービンゲン,ドイツ)が使用された.高周波装置を,周囲の粘膜切開ではEndocut,120W,エフェクト2に,粘膜下層剥離ではForced凝固,50Wに設定した.切除ナイフは主にデュアルナイフ(KD-650L,オリンパス)を,粘膜下層に注入する局注液はヒアルロン酸と生理食塩水各50%の混合溶液を使用した.
サルベージERの実施により報告された有害事象はすべて,有害事象共通用語規準ver. 4.0(NCI-CTCAE)に従って再評価された.
切除標本の病理学的評価およびサルベージER後の経過観察ERにより切除された標本は2mm幅で切り出しされ,ヘマトキシリン・エオジン染色された後,経験豊富な病理医により評価された.
内視鏡検査およびCTは,サルベージER実施から3,6,12カ月後に行い,それ以降は6カ月毎に実施した.ER後の局所再発の定義は,サルベージER後の切除瘢痕から採取した生検標本に癌細胞が含まれることが組織学的に証明されることとした.リンパ節や他臓器への転移再発は,主にCT所見に基づいて診断した.転移を伴わない局所再発に対しては,ERや光線力学療法(PDT)などによるサルベージ内視鏡治療を追加で実施した.サルベージER後の再発は以下のように定義した(i)局所領域内再発:追加で繰り返し行ったサルベージ内視鏡治療によっても制御できない,および/または所属リンパ節への転移を伴う,(ii)遠隔転移再発:遠隔のリンパ節または臓器への転移がある.
統計解析患者は無再発生存率(RFS),全生存率(OS),および疾患特異的生存率(DSS)により評価された.生存曲線はカプラン・マイヤー法を用いて評価し,ログランク検定を用いて比較した.単変量および多変量Cox比例ハザードモデルを使用して,臨床病理学的項目がRFSに与える影響を検討した.単変量解析でP<0.10であった変数を,Cox回帰モデルによる多変量解析を用いて評価した.全統計解析はEZR(自治医科大学,埼玉医療センター)により実施したが,EZRとはR(R Foundation for Statistical Computing,ver. 2.13.0)のグラフィカルユーザーインターフェースのことである 19).P値はすべて両側検定で報告され,有意水準を0.05とした.
本試験では,1998年12月より2013年12月までにサルベージERを受けた一連の患者計72名を登録した.CRT前のベースラインの患者の臨床上および病変の特徴をTable 1に要約した.登録した患者の半数はCRTを受ける前にcT1と診断され,患者の約60%はcN0と診断された.患者6名はcM1癌(M1Lym)であり,cStage Ⅳに分類された.CRT後の局所再発病変が53名,他の19名はCRT後の局所遺残病変であった.サルベージER前における病変の肉眼所見の特徴は,57名で表在型,15名でSMT様であった.サルベージERを受けた患者の臨床的および病理学的特徴をTable 2に示した.
患者および病変のベースラインの特徴(n=72).
サルベージERが行われた病変の臨床病理学的特徴.
CRTを開始してからサルベージERを実施するまでの期間の中央値は8.3カ月(範囲:2.6~144.7カ月)であった.本試験ではEMRが主な治療法であった.一括切除が可能だったのは37名(51%)であり,残りの35名(49%)では分割切除となった.サルベージERを実施した72名の患者すべてにおいて,制御不能な出血,穿孔,または狭窄などの重篤な有害事象(NCI-CTCAEでグレード3以上)は発生しなかった.
サルベージERの病理結果Table 2にサルベージERの病理結果を示す.深達度は45名(63%)で粘膜内,27名(38%)で粘膜下層であることが示された.72病変のうち,11病変(15%)が水平切離断端陽性(pHM+)であり,9病変(13%)が垂直切離断端陽性(pVM+)であった.リンパ管侵襲が4病変(6%)に,静脈侵襲が8病変(11%)に確認されたが,リンパ管侵襲と静脈侵襲の併存は認められなかった(Table 2).
サルベージER後の臨床経過サルベージER実施後の経過観察期間の中央値は45カ月(範囲:3~175カ月)であった.再発がなかった患者は45名(63%)であり,研究終了時に生存していた患者は32名(44%)であった.さらに,32名のうち8名(全体の11%)はERやPDTなどのサルベージ内視鏡治療を繰り返し受け,臓器温存された状態で生存しており,他の24名は追加の治療を受けずに生存していた(Figure 2).サルベージER後に再発を伴わず完全奏効を達成した典型的な症例をFigure 3に示す.
対象患者72人の臨床経過-初回サルベージER後の3年間.
フォローアップ不十分:観察期間がサルベージER後3年以内.ET,内視鏡治療:切除±光線力学療法(PDT).
サルベージERを行った症例の内視鏡画像.
a:化学放射線療法後14カ月で,原発巣と同部位に局所再発を認める.
b:ヨード染色後の内視鏡像ではSMT様の再発形態を呈している.
c:strip biopsyにより遺残なく病変を摘除した.
d:サルベージERから3年後の時点で再発の所見なし.
再発はER実施後の患者27名(38%)に生じ,そのうち局所領域内再発が13名(18%),遠隔転移再発が14名(19%)であった.局所領域内再発を認めた患者のうち,7名がサルベージ食道切除術を受け,6名がESCCの進行のため死亡した.他の6名は緩和ケアを受けた.遠隔転移再発が見られた14名のうち,4名は孤立性転移病変に対する外科的切除を受け,1名を除く全患者がESCCのため死亡した.他の10名は緩和ケアを受けた.サルベージERの実施から局所領域内再発または遠隔転移再発までの期間の中央値は,それぞれ,4.6カ月(範囲:1~33カ月)および5.1カ月(範囲:1~76カ月)であった.
サルベージER後の生存転帰2015年9月7日の時点で生存転帰を評価したが,患者8名がこの時点で追跡調査不能となっていた.37名が死亡し,その他の27名が転帰を分析した時点で生存していた.サルベージERの開始から3年後におけるRFS,OS,およびDSSはそれぞれ,48.9%(95% CI,36.5~60.3),61.2%(95% CI,48.6~71.5),および72.9%(95% CI,59.9~82.2)であった(Figure 4).さらに,サルベージER後に再発を認めた患者および認めなかった患者の3年OSはそれぞれ,34.7%(95% CI,17.5~52.6)および77.0%(95% CI,61.4~86.9)であり(Figure 5-a),3年DSSはそれぞれ,36.2%(95% CI,18.3~54.5)および100.0%(95% CI,100.0~100.0)であった(Figure 5-b).
全72症例のサルベージER施行からの(a)無再発生存期間,(b)全生存期間,および,(c)疾患特異的生存期間.
サルベージER後の‘再発あり’(赤線)と‘再発なし’(黒線)症例,それぞれの(a)全生存期間(OS),および,(b)疾患特異的生存期間(DSS).
臨床病理学的項目に従ってRFSを比較した結果をTable 3に示した.単変量Cox回帰分析により,CRT前にcT1およびcN0であった病変,CRT後に局所再発した病変,サルベージER前に表在型の肉眼所見を呈していた病変は,RFSと有意な関連があった.多変量解析において,CRT後の局所遺残病変(HR:2.55,95% CI:1.32~4.94,P=0.005),およびサルベージER前にSMT様の肉眼所見を呈していた病変(HR:2.08,95% CI:1.04~4.18,P=0.039)は,RFSの短期化と有意に関連していた.
単変量および多変量Cox比例ハザードモデルを用いたRFSに与える影響の検討.
今回の研究では,CRT後の局所遺残再発病変に対しサルベージERを施行したESCC患者で良好な治療成績が得られ,これらの患者の長期生存率は,われわれが以前実施した小規模な研究 9)で報告した結果と類似することが明らかとなった.それにひきかえ,サルベージER後に局所領域内再発または遠隔転移が発現した患者の生存転帰は,それらが発現しなかった患者に比べ極めて不良であった.従って本研究では,サルベージER後の再発の有無が全生存率に関する優れた代理マーカーになり得ると考え,再発に関する危険因子を,単変量および多変量解析を用いて特定することを試みた.
注目すべきことは,サルベージER前のベースラインでの臨床的特徴が,サルベージERにより採取した標本に関する病理学的特徴に比べ,より重要だったことである.臨床的項目に従ってRFSを比較すると,CRT前にcT1またはcN0病変であった患者は,cT2,T3,およびT4病変,またはcN1病変を有していた患者に比べ,有意により良好な生存率を有した.これは,T1-T2およびN0という臨床的または病理学的評価が,生存率に関する予後因子になり得ることを示した先行研究の結果と一致する 2),4),20),21).さらに,同様の傾向を,根治的CRT後にサルベージPDTを実施したわれわれの過去の研究でも報告している 22)~24).またこの研究においても,CRT後の遺残病変はより不良なRFSと有意に関連することが示された.これらの結果が暗示することは,原発巣の粘膜下層やさらに深層,もしくはリンパ節内に微小な癌組織が残存していることであり,それをCRT直後やサルベージER前に行われる臨床検査で見落としている可能性である.
われわれは以前,SMT様の肉眼所見を呈する病変が,原発部位での局所遺残再発と密接に関連することを報告した 17).さらに今回の研究で,サルベージER前に得られたこの所見は,サルベージER後の再発に関する重要な危険因子であり,サルベージER後の組織標本から得られた粘膜下層への腫瘍浸潤や垂直切離断端陽性といった病理学的な所見とは独立した危険因子になる可能性があることが分かった.SMT様の病変は,顕微鏡で見れば,非腫瘍性の扁平上皮に覆われた腫瘍細胞が上皮下に広がるという増殖のパターンに特徴があり,表層の腫瘍細胞が粘膜下層に浸潤した病変に比べ,より大きな体積と高い腫瘍細胞密度を有しており,上皮下またはより深層における周辺組織との境界が明瞭である.このような特徴は,SMT様の病変の悪性度が高いことを示している.この点に関して以前われわれは,ERより深部に届くPDTが,粘膜下層もしくは固有筋層まで浸潤する局所遺残再発病変の治療法になり得ることを報告した 22)~24).従って,粘膜下層において体積がより大きく,腫瘍細胞密度がより高いSMT様病変の治療には,PDTが優先的に適用される可能性がある.
これまでに行われた研究により,初回病変に対しERを受けた患者では病理組織学的所見とその後のリンパ節転移は相関することが示されてきた 10),12),13),25).しかしながら本研究の単変量解析においては,初回病変ER後の再発に関する危険因子と特定されている病理学的所見は,サルベージER後の局所領域内再発や遠隔転移再発と相関しないことが示された.本研究では,病理組織学的に脈管侵襲または垂直切離断端陽性を認める患者は比較的少数であったが,そのような患者に追加でサルベージ手術を実施することは,その侵襲性の高さとリスク・利益プロファイルを考慮した結果,推奨されなかった.
本研究にはいくつかの限界がある.第一に,単一の施設で実施した後ろ向き研究であり,他のサルベージ治療と比較しなかったことである.第二に,サルベージER後の再発に関する危険因子のより正確な病理学的評価のためには,対象病変の一括切除が推奨される可能性があるが,ほとんどのサルベージERはEMRで実施され,また,放射線照射後の高度線維化により生理食塩水の粘膜下局注で病変を隆起させることが困難であったため,病変の約半数では一括切除ではなく分割切除の方法が取られたことである.最近になり,初回の表層型ESCCの治療にESDが用いられるようになった 14),26).さらにESDは,ESCCへの根治的CRT後の局所遺残再発病変に対しても実行可能で,有効かつ安全な手技として,サルベージERの切除方法としても行われるようになっている 8),27),28).サルベージESDがよく行われるようになっている現状において,サルベージER後の病理学的所見の解明がさらに進むことが望まれる.第三に,再発の危険因子は局所領域内再発と遠隔転移再発では異なるという仮説に基づき,本研究におけるサルベージER後の再発をそれら二つに分類したことであった.しかしながら,このような分析を行うにはサンプルサイズがあまりに小さかった.実際に,SMT様の再発病変がある患者15名のうち5名(33%)で,局所領域内再発と遠隔転移再発それぞれが発現していた.また,CRT後の遺残病変がある患者19名のうち,7名(37%)に局所領域内再発が,5名(26%)に遠隔転移再発が発現した.この仮説を検証するために,ESD実施後の標本を用いた,多施設参加型のより大規模なコホート研究を実施することがさらに求められる.
結論として,ERは,ESCCに対する根治的CRT後の局所遺残再発病変に対しては,表層型の病変が生じている患者を慎重に選ぶことにより,根治的で侵襲性の低い治療選択肢となる.われわれは,CRT後の経過観察時の内視鏡検査において,サルベージERで治療可能な初期の段階で局所遺残再発病変を発見できるように細心の注意を払う必要がある.さらに,臨床所見(例えば,CRT直後の遺残病変やサルベージER前にSMT様の肉眼所見を呈する病変)は,サルベージER後の再発に関する危険因子を決定する上で,切除標本の病理学的所見に比べより有用であることが明らかになった.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし